聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ホーデンエーネン王国暦355年7月。
サイゴーク大陸における戦争が、いよいよ佳境に入ったそうだ。聖騎士イズヴァルトは3年近く前からかの大陸に入り、反パラッツォ教団側に組し、数々の激戦で勝利を収めたという。
戦いはいよいよ大詰め。大陸北西部にあるヒッジランドと、そのもっと西に位置するイワッミーの境目あたりにある、ウラスコーを巡っての戦いなのだそうだ。
ここまでの戦いで、イズヴァルトは数多くの武功をあげた。ホーデンエーネンの武者達の間では、イズヴァルトよりも武功をあげて見せようとサイゴーク行きを申し出る者が続出していた。
(くそっ。イズヴァルトめ!)
ケノービ=ソーローは怒り狂っていた。
(こいつのせいで俺は、したくもない仕事に追われているんだ!)
机の前には、目の前の山の様に積まれた書類があった。この1年半もの間、彼は外務庁で働いていた。海外渡航に関する書類を作成する仕事だった。
サイゴークでイズヴァルトが活躍してくれたせいで、ホーデンエーネンでは彼の元にはせ参じようと望む民や貴族達が、義勇軍を結成して王国に渡航許可を求めていた。船を手配して勝手やればいい話なのだが、彼等はその為の費用をいくらか、負担してもらう心づもりがあった。
王国は立場上、そんなことはできない。パラッツォ教団と不戦条約を結んでいる。それから教団とサイゴークの各国とは、武器や嗜好品の輸出で通じている。どちらにも加担したくないし戦うつもりは無い。
ケノービの仕事は、各地の義勇軍からの要望などを調べ、相手が納得いく理由で「それはできない」と返書を作るというものだ。それと海外からの情報を収集し報告書としてあげる業務も。
(こんなもの、文官がやればよいのだ!)
自分は領主だ。近衛騎士団団員だ。そもそもは武官のはずだ。しかし悲しいかな、ケノービは剣を振るより机仕事に才があった。意外と文才と理屈をこねまわすスキルがあったので、不本意な仕事に従事させられていた。ホーデンエーネンは文官の成り手が少ないのだ。みんな剣を取りたがるからだ。
書類と格闘していると、使い走りが部屋に入って来た。新しい書類を抱えていた。
「ケノービ様。先ほどお送りした返書に対するお返事がきました」
はいどうぞ、と机の上に置かれる。ケノービは泣きたくなった。遠く離れたヨーシデンやアジールからもだ。北のオバーマゲルクからも。各地の義勇軍は、お抱えの通信魔道士を介し、王都にいる魔道士達の業者に代書させるのだ。
その業者というのが実に厄介なのだ。昔からいたが、マイア=テクニカが関わり、大きな会社となってしまった。通信魔法は習得が楽だ。しかし届く範囲が限られているから、中継の魔道士を用いたリレー方式でないと情報を遠くへ運べない。その中継をマイア=テクニカが受け持った。
マイア=テクニカお抱えの魔道士たちは様々だった。イーガやシマナミスタン、カントニアの木っ端魔道士や暇を持て余している亜人、膣仕事以外もやりたいサキュバスなど。彼等は『伝書鳩』と呼ばれ、それの考案に手を貸したマイヤは、このシステムを『パケット通信網』と名づけたそうだ。
「……くそっ。郵便屋が支配する世の中の方がまだよかった。余計なことをやりおって。マイヤ=カモセンブルグが!」
技術やシステムの進歩で喜ぶ者がいれば、嘆く者もいる。時代に追いついていけないのがいればケノービみたく、業務がより忙しくなったと実感する者も。
(くそ! アナキンはまだイーガから戻って来ないのか!)
こんなクソ仕事はアナキンが得意なはずだ。あの『優秀』な弟は剣の腕もさることながら、机仕事も得意だった。ケノービから見ればの話だ。
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その頃アナキンは、イーガにではなくカントニアの西にあるヒッターチ帝国にいた。マイア=テクニカの関係者とイーガの外交官の付き添いでだ。ピルリアは新しく産まれる子のお産があるので、イーガでお留守番だった。
イーガから船と陸路で3か月以上。遠く離れたヒッターチは何もかもが異質だった。草原、草原ばかりである。馬もたくさん。カントニア最大の騎馬軍団を有すると聞いた。
しかしその帝都たるオアラポリスと皇帝の住まい・アンコティノトンはイーガの都に負けぬ規模だった。特に城だ。支城も見てきたが大きくて堅固だ。特に皇帝の城は威圧感を覚えた。
途中に寄ったエドニアや、マリーヤ王国のシャクラの城市も負けていない。ツックバー神聖帝国のオダキソフィアは頑丈というより優美に見えたが。とにかく城壁が高くて攻めにくそうだ。
(カントニアの諸国はどこと戦っているんだろ……戦争は小競り合いぐらいしかないと聞いているんだけど……巨人でもいるのか?)
巨人相手ならまあわかる。鎧みたいに硬い巨人や大砲を背負う四つん這いの巨人、火を噴く超大型巨人と戦ってきたのだろう。エルフやゴブリンがいるのなら、巨人がいたっておかしくない。
このカントニアはきっと、巨人どもに進撃された過去があったのだろう。うん、そうだ。古代ムサシノ帝国時代にそんな出来事があって、こういう大きくて頑丈な城や街が出来たと考えた。そのことをマイア=テクニカ側の代表者、オットー=オーズローに話すと「馬鹿か?」と返された。
「ムサシノ帝国の名残だよ。それだけ古代のカントニアは技術がすごかったのだ。富もな」
「それほど豊かだったのですね……なるほど」
前世を、住んでいた日本を思い出した。地元の那覇はコンクリートで固められただけできったない町にしか思えなかったけれど、東京は何もかもが圧倒された。でかくてきたなくて、くさい。
思えばあの『魔都』と呼ばれる空気に触れて、狂ってしまったのではないだろうか。借金を作るほど博打と風俗通いに明け暮れ、婚活で四苦八苦する『受験戦争世代』を見て恋人を作ったが、ろくでもないモラハラ女だった。化粧がうまいだけで中身は醜悪きわまりなかった。東京のきれいな女は、そんなのばかりだ。
「……どうした? 遠い目をしていたが」
「思えば遠くへきたもんだ、と思っただけです。前世の記憶があると、いろんなことを考えるんですよ」
「何も転生人だからとは思わんが、まあいい」
彼等は謁見の間で立っていた。しばらくしてこの国の皇帝が数名の廷臣を伴って現れた。シゲニウス=アルゲアスだ。えらく若い。まだ21歳だという。15か16で父が死に、そのまま皇帝に就いたそうだ。アナキンはオットーらとともにその場で胡坐を組み、平伏した。
「
廷臣から言い渡された。皇帝は口元を微笑ませて語りかける。
「貴公らはこの度、こちらの大臣らの要望でイーガからはるばると来られたそうだが、ご苦労をかけてしまったな。我が国はイーガの魔法技術で沢山の利益を得ている。常々感謝しているよ……」
いや、カントニアの各国もだろうな。イーガの魔法道具が無ければ文明的な生活はできないだろう。
炎魔法が仕込まれたカマドに照明石、持ち運びが楽になる浮き板といった道具はカントニアでも必需品だ。とはいえ田舎では火打石と蝋燭である。枯草を使った日の起こし方や、薪を用いた暖の取り方を知らないと生きていけない。
「それも魔道の研究を続ける、イーガの魔道士たちのおかげだ。エルフ達はなんでもできるから、どうもサボりがちで頼りない」
イーガの代表がうなずいた。
「お褒めの言葉をいただき、光栄です、陛下。しかし我らの魔法道具も、元はと言えばカントニアのエルフの魔法と、古代ムサシノ帝国の技術が源。むしろイーガの魔道はカントニアによって産み出されたと言っても、差し支えはございません」
これはお世辞というものである。カントニアが無ければシマナミスタンの魔道を源流にしただろう。イーガの建国者は金色エルフだが、かの国の魔道の基礎理論は、むしろ魔族のそれに近い。その事はシゲニウスも聞いていた。
「過ぎた誉め言葉は不要だ。我が国に恩恵を与えているのは、今の君達の国の魔道だよ。さて、交渉事と行こうじゃないか」
それから皇帝は、イーガの使節達に呼び掛けた。
「そういうわけでこの度のマイア=テクニカの新製品をアピールしていただきたい。期待しているよ」