※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

360 / 767
84 トーリの帰趨は

「お久しゅう。カミラはん。と、そこにおんのは、ヤスミンカやな」

 

 偉い太ったなあ、とおちょくった。魔界にいた頃はすごく痩せていて、ガリガリ女を受胎させたい性癖を持つ男達にめっちゃ好かれていたのに。今はデブ専相手やでぇ。

 

「どうして、ここにいるのがわかってしまったのですか?」

 

 答えたのはカミラだった。彼女の声は震えきっていた。

 

「あんさんの魔力の波長を感じたさかい。昔っから魔力隠すの苦手でっしゃろ?アカサカチハヤで何度もぽーん、ぽーん、と飛ばれちゃ、すぐにばれまっせ?」

 

 やはりか。ヤスミンカはカミラの弱点を思い出した。転移魔法を使う時に制御ができず、隠せないのだ。中級のサキュバスとしては失格と言っていい癖である。その他は上級サキュバスに近い実力を持っていたが。

 

「久しく顔をあわせておらへんのに、コンゴウアミダラデンを素通りするんは、えらく薄情どすなあ」

 

 元は自分の部下だったのだから、顔を見せに来い。100年に1度ではなく1年に1回だ。魔竜はカミラと顔なじみである。だからこの世界に住んでいる限りは、頻繁に会って話がしたかった。

 

「あんさん、魔界の中央裁判所で勤めてた頃は、裁判官見習いだったあたしとよう話をしてくれてたんやのに。ほんま水臭いわあ」

 

 カミラは昔、裁判での記録係を務めていた。その知遇から、トーリの『ご先祖』に、ナントブルグの女王の補佐役としてカミラは推薦された。女王の腹心となったカミラは、数多くの賢臣や猛将を見出して国を興隆させたのだ。魔竜の見立ては悪くなかった。

 

「サイカノマゴイチ様。お会いできたことは光栄に存じます」

「なら、コンゴウアミダラデンで歓迎会を開くさかい。1か月ぐらい逗留してくれへんやろか?」

「できません。今のあるじ、初代様と同じ名を冠する当主様の為に、エチウに向かわねばならぬからです」

 

 のんびりしてはいられない。教主に話をつけ、戻って来たらトーリと共に迎えに行く。あの男を。イズヴァルトを。

 

「ふうん。そりゃ難儀どすなあ。けど、あんさんの今のボスは、もうそろそろ、いい加減にせんとあかんのとちゃいますか?」

「トーリ様がやり過ぎとでも? まだ志半ばですのよ?」

「そういう事やないで。ナントブルグにおるハーマイオニーから、ちらっと聞いたんよ。あの嬢ちゃん、完全に魔族になられはったんやろ?」

 

 カミラは声を漏らす。魔竜の部下に近づくな、『ひめさま』を容易にあの連中と会わせるなと口酸っぱく言ったはずなのに。その注意をしたかについては覚えていなかったが。

 

 しかしサキュバスアイスクリーム店にいるハーマイオニーやその他のサキュバスらは、カミラや他のサキュバスにとって元は顔なじみだった。だから心を割って話せることもできる。トーリの秘密もつい、べらべらと。

 

「わかっとるな。これまでは半人半魔の身やったから、あの嬢ちゃんは大目に見て負ったけど、魔族そのもんになったらそうはいかへん」

「なら……せめて、ジョーケイン様が王冠をいただく日まで、マイヤ様がヨーシデンの都を築き終えるまで!」

「あかんよ。この世界では魔族は、特に魔界の魔族ちゅっうもんは、この世界の王様になったらあかん。そういう決まり事をマハーヴァラはんと結んでおるんや。トーリの嬢ちゃんは『先祖返り』であないなってもうたから、もう天下取りゲームはおしまいやで」

 

 魔界に連れて帰らなければならない。戻れば大貴族の待遇を得られるだろう。しかも最高位の。それがホーデンエーネンの王権より、どれだけ偉大で壮大なのかをカミラは存じていた。けれども、トーリの夢は叶えさせてあげたい。

 

「ですが、トーリ様はこの世界で女王になりたいと!」

「まあなあ。それもようわかるねんけど、あかんのや。あんさん、知っておるやろ?」

 

 『先祖返り』の欠点。ただ単に優れた身体と魔力を与えられるわけではない。その準備期間というものが必要となる。

 

「えらい血筋の魔族やと、真っ当な『先祖返り』をしたら、しばらくよわよわになってしまうんよ。あの嬢ちゃん、魔王に連なる血筋やろ。そうなると100年はああなってしまうんよ。それまではあんさんより格下の魔族とおなじやでえ。どんなに魔力を蓄えても、これまで扱えた大技が使えへん。よっぽどの才能や運が無い限りは、なあ……」

 

 今のトーリは中の下のサキュバス程度だ。それでもすごいと言えるのだが、この状態があと100年も続く。命を狙われたらまずい。

 

 トーリは魔王の系譜に連なる者だ。魔界は彼女を重く見ている。殺されたら魔王家の権威に傷がつくし、そのエロさと天才ぶりで数多くの大貴族達を恐怖せしめた、『大淫婦』クラリスの様な下剋上者が、再び現れ出るかもしれない。

 

「でもどうしてもって言うなら、力づくで連れ戻すつもりやで。魔界にいる『兄ちゃん』は」

「そ、それは……」

「そうなったら、そこにおるヤギウセッシウサイだけではおまへん。魔界からあんさんらの魔法がまるで役に立たたん追手を、差し向けるつもりやで?」

「……誰を?」

「ワキノキヨマロや。こわーいこわーい、魔界きっての武闘派のおねえちゃんやで?」

 

 カミラの顔がますます引きつった。ワキノキヨマロ。ウサギ型の獣人の魔族だ。前のコンゴウアミダラデンのあるじであった。ホーデンエーネンの騎士や戦士達からは、『ハチマンウーサ』という名の戦神として崇められていた。

 

 その性質は、粘着質できわめて戦闘狂。強い敵と戦う事ばかりを好んでいる。魔王を倒しに魔界に入り込んできては、婦女暴行や無銭飲食をして荒らす異世界の『ゆうしゃ』達を完膚無きまでボコる、女戦士の教科書みたいな人物だった。

 

「全盛期のトーリはんなら互角に持ち込めそうやけど、果たして、今のじゃあ……」

「わかりました。向かいます。歓迎会をお願いします。1カ月だけじゃない。1年、2年ぐらいでも。その代わり、トーリ様の事は今しばらく見逃していただきたい」

 

 カミラは必死だった。初代女王の悲願が達成され、なおかつトーリは自分が望む国造りも行える様になっているのに。いろんなおちんちんを献上される、サキュバスおまんこ冥利に尽きる日々を送っているのに、今ここで終わるのは。

 

「わかった。ほな参りましょ……セッシウサイ。コンゴウアミダラデンに着いたら、この嬢ちゃんたちにたっぷり、あんさんのちんぽ汁をご馳走しなはれよ?」

「ぶひっ! そ、そんなことを?」

 

 フードをかぶったままのセッシウサイは逃げたかった。肝が縮み上がっている。彼等オーク族の精液は、サキュバスらにとってご馳走だ。おいしいハムの味がする絶品グルメだ。ヤスミンカは怯えながらも、セッシウサイの身体をじろじろと見てよだれを垂らしていた。オークのちんぽから出る飲み物……じゅるり♡

 

「……えらい気の乗らん返事どすなあ。あんさん、サキュバスの嬢ちゃんたちに搾り取られるの、毎日やっておるんやし、2人ぐらい増えても平気でっしゃろ?」

「し、しかしです。俺は魔竜様のお側を守る、大事な役目がございますし……」

「あほぬかせ。あんさんがおらんでも、うちに勝てる敵はそうそうおらへんわ。あのコーザぐらいやで、今んところは」

 

 大柄なオークの魔人は、震えながら肩をすくめる。そんなことをおっしゃっても自分はそういう事は不得手なので。今更何をゆうとるんや、あほ。潔斎を続ける清廉潔白な武人面というものは、魔族には似合わない。ちんぽをよしよしとされて、どぴゅどぴゅと放つ情けない姿を晒すしかないのだ。快楽は正義に勝つ、それが魔族だ。

 

「カミラはん。ヤスミンカはん。ほな、一緒に行きまひょか」

 

 魔竜が呼びかけ、進み出ようとする。しかし彼女はカミラの手を握る事ができなかった。右手を伸ばそうとした瞬間、カミラと自分との間で突如、爆発が起きたからだ。

 

(なんやて!)

 

 爆発は大きかった。魔竜とヤギウセッシウサイは壁を突き破って外を飛んでいた。ゴブリンの宿の上の階が、大きな炎をあげていた。

 

「セッシウサイ! 誰や! うち、気づかんかったわ!」

「ぶひいい……」

 

 セッシウサイは気づいていた。あれは魔族の魔法ではない。この世界の亜人や魔道士のものだ。自分はこの世界の荒くれ武者と何度も対決していたから、よくわかる。

 

(カミラ、誰かに助けられたようだな?)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。