聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「なるほど、貴公は信用できそうだ」
そう言って右手を差し伸べたケノービはカヅノに心を許していた。
この男は気が合うかもしれない。カヅノも右手を差し出した。別荘の居間で談義が始まった。
ケノービは使用人と妾を呼び、ソファに座ったカヅノに茶を出すよう命じた。カヅノは側女を見て出来が安いな、と感じた。チュバッカやその娘達、犬とのセックスどころか内庭での野糞も見せてくれたコリアンナとしてだいぶ見劣りがした。産ませる為にだけ囲った女に思えた。
「早速話をしよう。この家の者達は口が堅い。気にするな」
まずは最終目的についてだ。ケノービがトーリの名を出した。カヅノはすぐに答えた。
「それをこの世から駆除する、という話をしに来たのですよ?」
「ふふふ。貴公は話が早いな。しかも人がいる前で堂々と言うとは、なかなかに豪胆だ」
ではどのような殺し方で行くか? ケノービはこうしたいと述べた。
「アスカウ公が王国の汚点とされる様に仕向けたい。もっとも、無理な話だろうが」
国王の愛妾の身で、誰彼構わず間男を引きずり込むのは汚点にはならない。美人が下賤の者とも交わるほどの好色は、むしろ美点であった。何故なら美貌や『愛』を分け隔てなく惜しみ与えるからだ。
値を吊り上げて高く売る、という事をトーリはしなかった。ある意味で慎ましやか、という評価が彼女にはあった。
「無理ではあっても少しぐらいは汚せるでしょう」
「乱交以外でやれそうなのは乱心、といったところだな。カヅノ殿。どんな策が考えられる?」
ケノービは策が思いつけなかった。国王と廷臣らはトーリに信頼を置いていたからだ。いにしえの美女らの様に、彼女は美術品や宝石などをねだらなかった。
「その為には、パラッツォ教徒をお使いなさるのがよろしいかと?」
「聖職者の君が教団を裏切るのか?」
「私はなりゆきで『枢機卿』というものになっただけです。他の面々は存じませんが、教主殿を信用しておりません」」
カヅノは言った。パラッツォ教徒の命など、大きな目的の前ではゴミである。教典も教団の名誉も。パラッツォ教が世界宗教として広まる為には、何をしてもよいスタンスだ。
「トーリ=カツランダルクはパラッツォ教団の宿敵となりうる異能者です。今は仲良くしているがどう転ぶかはわからない。場合によっては教主殿を篭絡し、教団を乗っ取るかもしれない。トーリとコーザが夫婦となったら、その時はどうなりますかな?」
「恐ろしいことになりそうだ。トーリもコーザも魔族の血が濃く流れていると聞く……2人が子を為せばエチウとキンキを統べる王となるだろう。でもそれは、カツランダルク庶流の我が一家にとって由々しきことだ……」
その時は容易に滅ぼされてしまうだろう。ケノービはソーロー家とスカルファッカー家を守るという意志があった。『ナントブルグの女王』を裏切った二家は今も目の仇にされている。家の存続の為には、是非ともトーリを滅ぼしたかった。
「で、そのパラッツォ教徒をどう利用する?」
「南の南天騎士団の4大公の領地とその周辺で、たびたび住民反乱が起きておりますね?」
「そうだ。トーリの阿呆な妹が言い出した、『えくすぷれす』の伸長による追加の課税が理由と聞いている」
その反乱は宿場町の住民や、用地の地主らによるものだった。国王とトーリに心服する大領主達から提示された価格が恐ろしく安値であったから火が付いた。対抗措置として彼等は土地の値を吊り上げ、強制執行しようとすると武器を持って暴れ回った。
「ただ、その反乱にはサカーイの商人らが手を貸しているようですね?」
「……エチウ人の君が、そんな話を何故知っている?」
「教団はそこまで調べて尽くしているのですよ。侮ってはなりません。となればイーガも当然、この秘密を知っているはず。そしてサカーイの商人らは、どうして彼等に手を貸す事になったのでしょう?」
問われたケノービは腕を組んだ。思い当たる節が無かったからだ。
「シマナミスタンやチンゼーから連れて来た奴隷が、パラッツォ教徒のせいで売れなくなったからですよ」
「奴隷……ちょっと言い方が悪いと思うが確かにそうだな!」
人買い商人に連れて来られた者達は、奴隷というか出稼ぎ労働者の様なものだった。王国法によって平民並みに待遇は保証されていた。守らぬ悪質な雇用主もある程度いたが。
彼等は土工や農家の小作人として数年から10年そこそこ働くと国に帰るのが多かった。中には働きぶりや頭の良さを買われて雇用主の嫁や婿となる者もいた。その時はマハラ教に改宗するという掟があったが、家でこっそり「二神に仕える」行為もできたから、そこまで厳格ではなかった。
「けれども、エチウのパラッツォ教徒が労働力として入り始めてから、奴隷貿易は大きく様変わりしましたな?」
「……売れなくなったそうだな、南方の労働力は」
「パラッツォ教徒は我慢強くて働き者ですからな。それも安価で雇える。しかしそうなると人身売買の商人らは儲けにくい。船での移送費や移住に伴う入用な金などは変わりませんし、ふっかけにくい」
その上、パラッツォ教団は南ホーデンエーネンで布教が許された。エチウ人とホーデンエーネン人のパラッツォ信徒は増えだしていた。
「これに、いちゃもんのごとき陰謀論を広めます」
「どういう悪評だ?」
「パラッツォ教団の侵攻。但し、武力ではなく人心による篭絡によるものだと広めるのです。人心を掌握し、一大勢力を築けばホーデンエーネン王国は教団の意のままに操られるかもしれない、と
「それを手引きするきっかけを作ったのが、トーリ=カツランダルク、ということだな?」
ご名答。心の中で答えながらカヅノはうなずいた。パラッツォ教団との和平と国内への受け入れは、トーリが朝廷で論じ、心理操作の魔法で採決させたのだ。
南ホーデンエーネンのパラッツォ教団に不穏な動きあり、となれば、トーリは必ず動くだろう。しかしそれはパラッツォ教団に危害を加える連中に対してだ。サキュバスの魔法を使う。だがそれは、タカミ=ジュンがばらまいた魔道具により、その効果は大きく減じるはず。
「うまくいくだろうか?」
「ダメで元々でしょうが、やるしかありません。可能性はゼロに近いと思われますが、ゼロではありません。だからこそやるのです。トーリ=カツランダルクを討ち取るは至難の業。のるかそるかの大博打です。でも、やらなければ先へ進めません」
と、カヅノは言ったが前々から工作を施していた。サカーイの商人たちとやり取りをし、パラッツォ教徒を挑発するような作戦を進めさせていた。
それと、これは南天騎士団の面々が治める領地を回って知ったのだが、そこに住むパラッツォ教徒達も、最近は鼻息の荒い言動を繰り返していた。妙に血の気が濃くなっていた。
聞けばこんな噂を聞いたそうだ。ヨーシデンやナントブルグ近郊で、マハラ教の熱狂的な信者達が、パラッツォ教徒を襲って殺したり女を犯していたりしているらしい。自分達を動揺させない為にかん口令が敷かれ、その情報は流れ込んで来ない、と。
その噂だが、よりにもよってタカミ=ジュンが方々で語っているという。あくまで噂程度のはなしですがね、と前置きして。タカミも決して教団に誠実では無かった。パラッツォ教の布教を国王に認めさせた、トーリ=カツランダルクの立場を悪くさせようとしていたのだ。
(こちらはちゃんと勝つ為の準備を整えている。が、それをケノービに話すとよろしくない。油断するからな。)
「とりあえず、やってみよう」
ケノービは意を決した。
「イーガ国王に呼び掛ける為の段取りを整えておく。アナキンには文をしたためよう……兄としての手紙でな」
「よろしいかと存じます。そうなさいませ。イーガ国王にはくれぐれも、ご内密に……」
「そのつもりで言ったのだよ。これはイーガ王を騙す作戦となるだろう。あのお方はトーリにつくか、取り除くか、迷っていらっしゃるからな」
振り子の針みたく、あっちに行ったりこっちに来たりとはっきりしない。様子を見て熟慮の末に行動をするつもりの様だが、物事がはっきりとならない内に事を起こすのがよいだろう。
「それと、私にはとっておきの隠し玉がある。今はそれは言えないが、いずれカツランダルク分家にとって無くてはならない存在となるだろう。トーリを弑してマイヤを追い落とした暁に役立つものだ」
それが白日の下で姿を現わせば、イーガ国王はこちらにつくことだろう。ケノービは自信ありげに笑った。
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密約は成った。ケノービはカヅノ=セイジと手を組んだ。カヅノ=セイジはズルイルと連れて来た者達にこう告げた。
「俺はこれからナントブルグへ向かう。目的はトーリ=カツランダルクを大いに動揺させる為のひと仕事をする為にだ。しかし1人では何かと心細い。誰か、手伝ってくれないか?」
ズルイルが進み出た。
「どんなことをするんです?」
「街の害虫駆除だ」
「ふうん、害虫駆除。厄介なやつですかね?」
カヅノはうなずいた。厄介と言えば厄介。1匹とて逃がすことは絶対に許されない。夜陰に紛れて行う秘密の仕事だから、あまり大っぴらにすることもはばかられるものだ。
うち数名が名乗り出た。計6名。これなら十分な仕事ができると思ったカヅノは募集を打ち切った。
「それで、『標的』はどんなのです?」
「やって夢でうなされるなよ。そう言ってやりたい虫たちだ」
「……俺らは殺しも数えきれないほど経験しておりますが?」
ニンゲンに頼まれての嬰児殺しだってやったことがある。汚い仕事はうんざりするほどやり尽くした。だから今更、とズルイル達は言い放った。
「よろしい。ではひと休憩をしたら向かうぞ……現地だと午前0時ぐらいがいい。それまではここで飯を食って湯に浸かろう。サキュバスどもが汚したがな」
かくしてカヅノはズルイルらを連れて出発した。転移魔法でナントブルグの南門に到着すると、衛兵や巡回兵らの目をすり抜け、暗がりを選んで街中を進んだ。
そして色街。未だ灯りが消えないそこも音を殺して進む。狭い路地を通ると住宅街に入った。色街の女の家族が多く住む地区だ。
「今夜の仕事場はあの家になる」
カヅノが指を差す。彼はさっそく印を切り始めた。ズルイル達も剣や短刀を抜いて刃に術式を込めていた。
「かけおわった。絶対に取り逃がすなよ。情がわいて仕損じる、などと無様なことをするな。いいな?」
「わかってますよ……殺りゃあいいんでしょ? そんなダサい真似をしませんから。俺達は……」
カヅノとズルイル達が向かう先は、トーリの部下達が借りている家だった。サキュバスが産んだ子供らが集まって暮らす家。
つまりは、ルッソと殺されたヤスミンカの娘が住む家でもあった。ルッソと他のサキュバスとの間の子供達も、全員が。