聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
朝起きてすぐのことだ。交代の者と代わって家に戻ったはずのサキュバスのリリカが、息を切らしてトーリの寝所に入って告げた。
「お、お、お……襲われました!」
何が。昨夜の為に5日間手淫もせずに我慢し、からんからんになるまで出し尽くしたデブで醜い下男がぐーすかと寝ている横で、トーリは大声でリリカに問いただした。
「どこが! 誰に!」
「誰とまではわかりません! でも、でも、みんなのおうちが、子供達が……」
トーリはリリカと共に急ぎ向かった。サキュバス達の隠れ家の床は、血に染まっていた。家の中で生きている者は誰もいなかった。
昨晩家にいて、子供達の世話をする役のサキュバスだった塵が舞っていた。彼女達の愛人だった男らはその塵まみれ担ってこと切れていた。
それだけではなかった。ベッド小さなあんよの形をしたいくつもの血痕。飛び散った脳漿や内臓のかけら。そして、まだ淫魔として完成していなかった、半魔の子供や赤ん坊達の、骸が。
「……!」
子供達の多くがルッソの子だった。トーリはこの子供達を我が子の様に可愛がっていた。この家にちょくちょく遊びに来て、大人の男のおちんちんに戯れる、将来が楽しみな女の子達の可愛い姿を見て毎日のやる気を引き出していたのに。
「誰が……誰がこんなことを!」
血にぬかるんだ床の上に、トーリは突っ伏した。蒼にも見える黒い髪に血が付着した。まだ乾いていなかった。あまりにも多くの血だったからだ。
「ルッソ! ルッソぉ! ごめんなさい! わたし、あなたの子供達を守れなかった!」
ヤスミンカやワンガリなど、ルッソの子を産んだ母親の名も叫ぶ。ルッソ以外の子の親達の名も。ただ、子供達の母親の中にはリリカもいた。
そのリリカは慟哭するのも抑え、知らせに来てくれた。そう思うと立ったまま自分を見守っている彼女に申し訳が立たなかった。ゆっくりと起き上がり、服と顔にべっとりと血をつけたトーリは、彼女にこう告げた。
「カミラには戻ってもらうしかないわ。ピックプリトにもこのことを教えましょう」
下手人を探す為の相談を行うのだ。トーリは激怒していた。白目と黒目が逆転していた。瞳には、3つ脚の鳥の紋様が浮かび上がっていた。魔王の一族のそれであった。
「……絶対に、逃さない!」
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犯人を必ずつかまえる。朝議で人員と予算のを要求し国で懸賞金をかけるようにさせたが、5日経っても目撃者の情報は入ってこなかった。
現場を魔力探知をしても、何も引っかからなかった。相手は魔法を使えぬ賊だったか。でもどうしてあの家を襲ったのだ? トーリは苛立ちを覚えていた。ピックプリトがなだめても声を荒げ、頭をかきむしって唸り続けた。
だが、良くないことが立て続けにやって来ていた。
まずは領地のオルガスムナとタカイチゲンシュタットで、パラッツォ教徒に改宗した家族が殺される事件が起きたのだ。6件も。起きたのはナントブルグでの事件の翌日。トーリのもとにあがったのは3日後の晩だった。
パラッツォ教団にもこの話は伝わっていた様だ。侍女がヨーシデンに滞在するタカミ=ジュンより通信魔法でのメッセージが届いたとトーリに告げた。
「タカミ=ジュン司祭より、このような事件が起きたのは遺憾の限り。ホーデンエーネンはいかがお動きなさるかお聞きしたい、とございました」
「尽力する、とつたえておきなさい!」
報告書を読み、朝議にはからなければならなかった。捜査の仕事も多くなりすぎて、トーリは夜遅くまで書類に目を通さなければならなかった。ピックプリトが自分に任せろと言っても彼女は拒んだ。サキュバスの子どもたちを守れなかった負い目を感じていたからだ。
そして、タカイチゲンシュタットでの殺人事件の7日後にそれは起こった。南天騎士団があるイコーマブルグ領のその小さな町で、住民達がパラッツォ教徒の居住地を襲ったのだ。
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イコーマブルグ領にあるタワラーグ、という名前の小さな町でその事件が起こったのは、ホーデンエーネン王国暦で356年の5月2日のことだ。
この町にはパラッツォ教徒の労働者とその家族がよく出入りしていた。街の南側で進んでいた、『えくすぷれす』の建設工事に従事していたのだ。
その労働者たちは街ではなく、建設現場近くに建てられた小屋に住んでいた。おおよそ500名程だった。この町でパラッツォ教徒はあまり好まれていなかった。町の屈強な男達の収入源となる、土木工事の仕事を根こそぎ奪ってしまったからだ。
それと、子供の頃より性に親しみ、誰もがちょっとした技巧者でもあった彼等は、町の既婚者達の素晴らしい浮気相手になってしまっていた。
町の男達は昼間にその集落に入り、エチウの女達の白い肌と戯れた。女らは腰遣いや舐め方がこの街の男どもより巧い、と噂を聞きつけ、夫がいない真昼間に子供達を外に追い出し、相手の男と汗だくになった。当然、教徒と町の者との『あいのこ』も次々と生まれていった。
そうなると娼婦は商売あがったりである。それと、父親の違う子が生まれることが町の男達の尊厳というものを傷つけた。こうした出来事は風紀を乱すということで問題視されるようになった。
そのわだかまりにサカーイの商人達や反パラッツォの者達は付け入った。なんなら殺してしまえばいい。住民の中でパラッツォ教徒を嫌う様になった者や、荒っぽい小遣い稼ぎをやりたい貧民らが同調した。
そして事件は夜に起きた。集落の各小屋では、子供達が寝静まった後に信徒の男女は互いに肉を貪りあう頃にである。
どの小屋も、服を全て脱ぎ捨てた男女が暗闇の中で、敷いた藁の上で濃厚に絡み合っていた。互いの口を吸い、突き出た棒状の肉とねっとりと濡れた穴を合わせ、法悦のうめき声をあげ続けていた。
信徒は夫婦や恋人という決まった形で求めあうのがいれば、誰かの小屋に複数人で集まり、乱交を為す者もいた。濃密に重なり合い、神と語り合える為の法悦の極みを目指そうとして励んでいた。
パラッツォ教徒は争いを好まない。ゆえに警戒するという心がけがいささか減じているところがあった。
誰もが交合に熱中して集落の出入り口や高台に見張りを立てず、かがり火も起こさなかった。無防備きわまりなかった。ゆえに、集落のまわりを剣と弓矢を持ったタワラーグの市民たちが取り囲んでいるのにも気づかなかった。
それをうかがう者がいる。皆を先導する役を買って出た、流れ旅をする自由騎士だ。小屋から男女の気持ちよさげな声が漏れていると知らせを聞いてにやりと笑っていた。
「いつもの様にやっているな?」
横の従者に言った。従者もにんまりとしてうなずいた。
「本当にやってしまうんですか、ライラーグ様? あの村の中には、お殿様がご愛顧になされている娘たちもおりましょうに?」
「大義の為だ。致し方あるまい。そういうお前も入り浸っていたな?」
「あはは……それは言わない約束でございますよ」
ライラーグというその男はコーノフェルト領の騎士を親族に持つ人物だ。歴史書にはこの事件でのみ記された名前だが、彼はホーデンエーネンの数多くの合戦に従軍した手練れでもある。
「かかるのはいつに致しましょう?」
「準備が整っていると聞いている。もうやってしまう。知らせろ」
従者が火打石を持ち、足元に置いてあった松明に火をつけた。それを掲げると集落のまわりに、赤い火で連なって輪を作った。かかれの合図だった。
「ゆくぞ!」
ライラーグは剣を抜いて従者と共に進む。この計画に同調した市民らも彼に従った。一番近くの小屋まであと20歩ぐらいになると、剣を持った若い市民らがその中に入って行った。男女と、子供らの悲鳴があがり激しい断末魔の声があがった。
その音を聞くといかに性愛に淫しているパラッツォ教徒でも、性交の快楽から目覚めるしか無かった。
しかし彼等は殆どが全裸で武器になる様なものを持っていなかった。一方的な殺戮となった。家は火をつけられ、男も女も容赦なく斬られた。彼等の子供達もすぐに親の後を追わねばならなかった。
タワラーグの近郊に住んでいたパラッツォ教徒は、誰一人として助からなかった。根こそぎ刈り終わり、ライラーグが勝ち鬨の声をあげた朝、南天騎士団の別の町や村でも、パラッツォ教徒を攻撃する事件が勃発した。一日に何度もだ。
そしてこの2日後、タワラーグよりももっと大きな規模での騒動が勃発する。コーノフェルト領の本拠地で起こった、数千名もの犠牲者が出る、歴史書にも残る大事件となった。