聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「よくわからん死に方をしたトーリの葬儀なんて後回しよ! それよりもイズヴァルトの返還の交渉よ! 絶対にさせるんだから!」
会議の場でマイヤは勇ましく発言してしまった。あの後すぐに、イズヴァルトの腹心としてイーガの元王太子妃がいると聞いたからだ。
「エレクトラさんはイーガに戻っておとなしくしてりゃいいのよっ! きいいいーっ!」
こうなったら軍事的行動も辞さないよ。イズヴァルトは私のものだからね。マイヤも頭の中が戦闘モードに入っていた。熱っぽかったから余計にそうなってしまったのだ
会議が終わると早速、彼女はオルガスムナ領にいるエウレカ=リットフェンテルトのところに訪れた。
「鉄砲の量産を倍にして? よろしく」
「どうしてですか?」
「エチウ島にカチコミに行く為にだよっ! 司祭騎士団長を連れ戻しに行くの!」
事情を呑み込めなかったエウレカはとりあえずうなずいたが、この依頼に対して素直にうなずけなかった。ナントブルグのアスカウ公の館からやって来ていたタルッホ=ユッキカルに事情を話した。
「マイヤ様がこういうことを話してたんだけど……」
「なるほど。ホーデンエーネンはエチウへの侵攻を。あまりいい話じゃないわね」
タルッホはマイヤのヨーシデン建設に関しての補佐の1人でもあった。あの頭脳を戦争なんかに使わせたくない。イーガではマイヤを『インテリアイドル』として崇める者が沢山いたが、それと同じぐらい彼女の知性と才能を危険視する者も多かった。
(国元に相談しなければ。そうすればイーガを通じて、エチウにいるエレクトラ様にも伝わるはず。)
早速オルガスムナに潜んでいるスパイに報告だ。4日でイーガからの返事が来た。工作はできている。こんなこともあろうかと、エレクトラが既に提案していた策が動くという。
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ホーデンエーネン王国暦356年の8月半ばの事だ。ナントブルグの宮廷で国王らを前に、2日で書き上げた兵站ルート確保計画書の概要を説明していたマイヤのところに、ヨーシデンからの早馬が届いた。
「マルティンくんがこっちに向かっているって! マレーネたんと!」
しかもだ。マルティンはホーデンエーネンがパラッツォ教団と戦端を開くのを止めに来たのだという。
「ばかなことを? 私の邪魔をしないでってマルティンくんに言って!」
「いいや、マイヤ」
たしなめたのは国王だった。
「話ぐらいは聞こうぜ。戦争の計画は一旦凍結にしよう」
「陛下! いまさら何を!」
「このことなんだが、カッとなっちまった俺や武将らがわりぃ。よくよく考えりゃ外交の使者を立てればいいだけの話なんだよな。こういうのって」
それにである。国庫には戦争の資金が足らなかった。反乱の鎮圧やその後の救民行動、それから、マイヤが別の議題で提案していた治水や街道の整備などの話を取り入れたせいで、引き出せなかったのだ。
「そうですか。私が提案しすぎましたね」
「わかるだろ、マイヤ。俺からはなかなかいう事を聞いてくれない武将どもに謝るから、マルティンらと相談して別の手を探してくれよ。なあ?」
マイヤは胃がとても重く、痛くなっていた。セインは昔の様に血気盛んではないようだ。歳を重ねてそれなりに分別がついてしまった。ジョーケイン以外の子が次々と亡くなったのも、そうさせたのだろう。
「わかりました。マルティンくんと相談をします。別の方法でイズヴァルトを取り戻せるかもしれない」
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マイヤとマルティンが会うのは、アスカウの村になった。マイヤは国賓の歓待者として向かうこととなった。
同行者はホーデンエーネンの貴婦人層の代表として、ソーロー家のチュバッカ=ソーローとナントブルグに遊びに来ていたコリアンナが。それと、父母を亡くして毎晩めそめそ泣いているオルフレッドとその妻のハンナ=アーレントらだ。
「父さん、母さん……」
馬車の中でオルフレッドはめそめそと泣いていた。気丈なコリアンナが「兄ちゃん、ハンナちゃんとマイヤちゃんの前でみっともない!」と叱り飛ばすが、鼻水をすすり、涙目だ。ハンナとチュバッカももらい泣きをしていた。
「マイヤおばちゃん、本当に父さんと母さんは死んだのかい?」
15になり、既に4人の娘の父親でもあるオルフレッドだが、いまだ事実を受け入れられなかった。なんでタンバレーネのうら寂しい街道に行って死んでしまったのかがわからない。
「ごめん……本当にわからないの」
何も知らない、知らされていない状態でマイヤは本当に申し訳なく思っていた。とはいえオルフレッドからこの質問がされたのは、これが3度目である。最初は城で再会してから。次に沐浴場で慰めのパイズリフェラを施してやっている最中にだ。あまりにもしょげて甘えて来るものだから、マイヤは実の甥にそんな慰め方をしてしまった。
「なんで、なんで……」
「うっさい! だまれ!」
コリアンナが一喝してオルフレッドを引っぱたいた。いつもならここで兄妹の殴り合いの喧嘩が起こるのだが、オルフレッドはやり返さなかった。めそめそのままだ。
「コリアンナちゃん……」
「マイヤちゃんにお風呂場でたっくさん気持ちよくしてもらったのに、にいちゃんは全然しょげたままじゃないか。マイヤちゃんのお口がくたびれ損だよっ!」
「……」
「マイヤちゃん。こいつどこかで置いて行こう? こんな姿でイーガの王子様に会わせたら、死んじゃったとうちゃんとかあちゃんに申し訳が立たないよ?」
コリアンナはハンナに振った。そう思うよね? しかしハンナはオルフレッドの頭を撫で、自分の豊かな胸に夫の頭を包ませてやることにした。父母の死をどう慰める方法がわからなかったからそうしたのだ。顔を埋めてすすりあげる兄を見て、コリアンナは苛立った。
「……はあ。ザーチャやディークのほうがよっぽど男の子だよ。にいちゃんは騎士さまだけど心はあたしより女の子だね?」
「それ以上言っちゃいけないよ、コリアンナちゃん」
マイヤとてオルフレッドをどう慰めてやったらいいかがわからない。こういう時にイズヴァルトがいたら何か教えてくれるだろう。得意なギターでやさしい声で唄って、落ち着かせるのだろうか。しかし自分にはそんな器用なことはできない。できるのは、おっぱいちゅうちゅうとちんちんしゃぶしゃぶぐらいだ。
(トーリ、ルッソ。どうして死んじゃったんだよ? せめてオルフレッドくんが私の『おしゃぶり』で我慢できる歳になるまで、生きてくれたらよかったのに……)
それもこれも多分、カツランダルクの呪われた血のせいかもしれない。最初に泊まる事となった宿場町の宿屋のベッドで、マイヤは咳をしながら1人で考えた。
(カツランダルク本家を嫌う何者かにトーリは殺された、という線は考えられるだろうか。)
政治的にも人望的にもうまくやっていたトーリが、恨みを買う事なんてあるんだろうか。そりゃあ魔法が使えるというのは皆に恐れられるだろうが、トーリは王族だったんだからむしろ頼られる類だろう。
(パラッツォ教とはうまくやってたみたいだし、オルガスムナの家で起こったことはあっちが仕掛けて来たことだと聞いている。じゃあ、誰が思い当たる?)
ならば分家筋か。けれどもそちらで嫌な奴は1人しか思い当たらない。チュバッカの夫のケノービ=ソーローである。高慢で、自分とイズヴァルトによく突っかかっていた。けれども今じゃコリアンナの庇護者である。
(う~ん。でもトーリはチュバッカさんをいろいろ厚く遇していたしなあ。そもそもトーリを殺したいやつなんてどこにいるんだろ? うん、殺人の線は多分違う。)
マイヤはそもそも、探偵の真似事は苦手な性分だ。調査資料があれば犯人捜しをやれるのだが、誰かの足跡を追って真実をつかむという労力を割きたくない。
とにかく寝よう。そう思って目をつぶるとコリアンナが入って来た。
「マイヤちゃん。今夜は一緒でいい?」
「いいよ」
マイヤは腕をあげて毛布の中にコリアンナを引き入れた。寝る時のマイヤはいつも裸だ。コリアンナはぬいぐるみみたくマイヤの肌にしがみつき、頬ずりをしだした。
「ちいちゃくなっちゃったけど、マイヤちゃんは昔とおんなじだね?」
「おんなじだなんて、童顔だからかな?」
「そうかも」
10年前と違い、乳房はまた大きくなったけれど腕と脚が短くなってしまった。頬も少しこけている。叔母のかわいらしさが減じているとコリアンナは思った。でも口には出さない。コリアンナはマイヤの、甘いにおいがする乳房に顔を埋めた。
「アスカウの村のことだけど、言っていい?」
「いいよ」
「あたし、領主になりたくない。ロールフに譲るよ」
「……どうして?」
「だっておかあちゃん。領主様になったから死んじゃったと思うんだよ。運の神様がそうしたんだ。おかあちゃんは多くを求めすぎたんだ。昼間はにいちゃんにきつくあたっちゃったけど、あたし、本当はとっても怖いんだ」
コリアンナが黙りこくる。マイヤは胸の肌が暖かく濡れるのを感じた。姪は姉と違い、先祖の無念を聞かされて育った訳ではないのだと改めて思った。