聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
最初は『語り部』のギルバート=カツランダルクのお話となります。
序 『演義研究家・ギルバート』
『演義』と呼ばれる小説のジャンルがある。史実を面白おかしく脚色した物語のことを言う。
講談のネタに使われる事が多く、ホーデンエーネンでは『れいでぃお』の国営放送の、だいたい夕方あたりの番組でやっていたりする。仕事帰りにポケットやカバンの中に入れたそれをつけると、アナウンサーや俳優が熱を込めて演じているドラマ番組が聞けるだろう。
『演義』の題材は大抵、いにしえの英雄や勇士の生涯である。
3000のサヌキスタン兵を相手に、10度の敵中突破を果たした程の豪勇・ウルリヒ=トンベリンや、ゲースティアと北部チンゼー諸国を荒らしまわった海賊・疾風のシロッコ。あるいはサイゴークの統一を為そうとしたイーズモーの暗黒卿など。
今から数百年前の英雄、イズヴァルトもまた『演義』の題材だった。彼には吟遊詩人のサーガや歴史書の記述が多かったから、文士はこぞって彼を題材にした『演義』を書いた。
そのイズヴァルト研究の大家、トリシア大学の木っ端歴史学者・ギルバート=カツランダルクもまた、『演義』というものを書いていたりしていた。そっち関連の商売に関して、そこそこの仕事とそこそこの謝礼を貰っていたのだ。
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その日はヨーシデンにある放送局にいた。彼が原作を書いた、ムーツの非道な海賊王と戦った3人の義士の『演義』のドラマだ。彼は提出された脚本にチェックをつけていた。
「我ら、生まれた日、生まれた時は違うとも」
「心を1つにして、憎きチアン=カイシェックを討ち果す!」
「オーシラの神に誓う。大願を成就するまでは、決してあきらめぬ!」
「同じ年と日に産まれなくとも、同じ年と日に死す。我らは誠の兄弟となり戦友とならん!」
そして脚本では杯が酌み交わされるわけだが、ギルバートが物言いした。史実と違うよ、これ。
「歴史書も彼等の日記にも、酒を酌み交わすんじゃなくて、その場に居合わせていた、それぞれのお気に入りの遊女のおっぱいを吸いあったはずなんだが?」
『桃園の誓約』と呼ばれているこの誓いの儀式は、史上名高い。3人の義士はそれぞれのお気に入りのオーガの遊女の、桃色をしたおっぱいを味見したのが事実である。互いの好きな乳首の形と感触を共有したわけだ。互いの嗜好を体験するのは、義兄弟となるには良い経験と言える。
それからギルバートは、本のページをぱらぱらとめくる。無いじゃないか。元の『演義』ではチアン=カイシェックに義士の妹らが捕まり、手籠めにされる場面があった。散々に犯された後に海賊らの目の前で便所壺にまたがって、股から精液を垂らしながら排便をさせられるという、とても屈辱的な場面だ。
「ムーツで語り継がれている話もそうあった。私も義士たちが無念を晴らす為に活躍するのを、よりよく見せる為にちゃんと入れたよ。どうしたのだね?」
そこにラジオドラマのプロデューサーが説明を入れる、額から汗をかいていた。
「あのう……しかしですね……国営のラジオ番組で、そんな下品なシーンを入れるのは……」
「君! そういう場面が下品と何故決めつける! 他の国ではちゃんとそういう場面をきっちりやっているんだよ! サガミニアやゲースティア、倫理的に似通っているイーガでもだ!」
「でもですね……これは子供向け番組なんですよ。子供達の教育の観点から言っても、そのようなシーンを入れるのは……」
ギルバートは呆れてものが言えなかった。ホーデンエーネンもまた、性におおらかなのに。キンタマの小さい奴が考えそうな言い訳を、何故するのだ?
思い当たるところはあった。仇敵とも言えるアネモネ=リットフェンテルトがおっぱじめた、『矯風運動』のせいかもしれない。
知性はおろか研究家として劣っているあの女と同調する馬鹿どもは、口やかましい事だけは確かだった。論戦でいつもボロ負けするし負けたらヒステリックにわめき散らかすくせにだ。これだからナントブルクの学者どもは。
プロデューサーは大変気の毒そうな汗のかきかたをしていた。多分、『古都』のお偉方の顔色を窺って生きているのだろう。あちらはアネモネの勢力圏にあった。
「……わかった。もう口出しをしないよ。その代わりと言って、なんだが」
このラジオドラマが終わったら企画されている、イズヴァルトのサーガの『放浪編』の監修をさせてもらえないだろうか。特に後半のだ。
「せ、先生。イズヴァルトのその話は……」
プロデューサーがしどろもどろに口を動かす。それはまずいよ、無理だよ。『放浪編』はイズヴァルトの青年時代の話だ。カントニア大陸のエルフ達といちゃいちゃしながら、チンゼーを経由してサイゴークに渡る。
そして戦いの終盤のサート銀山攻略戦で、旅の仲間だったエレクトラの裏切りに遭い、パラッツォ教団の魔王・コーザ=ストーンマウントに破れてしまった。
後半部分は教主コーザの使い走りの仕事を余儀なくされて文句を垂れる日々を送る、というのがその筋だ。エチウでは『聖王の騎士』と呼ばれるサーガで言い伝えられている。
「一体、どこを直そうとなされるおつもりでしょうか……」
(来たな。物言いが。)
ギルバートは不安を感じた。彼が口をはさみたいのはコーザに捕まってからの話だった。講談やホーデンエーネンに出回っている『演義』では、まったくもってけしからん俗説が流布している。イズヴァルトはまる1年、虜囚として何もせず暮らしていただけ、というものだ。
だがその話は、最新の研究(と言うよりイズヴァルトのことをよく知る亜人たちの思い出話)では否定されている。本当のことを元にした、より正しい
「考えてくれるかい?」
「ええ、まあ……善処いたします」
嫌な予感は当たってしまった。ムーツの三義士のドラマの後番組で放送が始まったイズヴァルトの青年時代のサーガは、ホーデンエーネンの『事なかれ主義作家』らが書いた、『まがい物』がそのまま放送される事となった。
そしてこれから始まる物語はその『まがいもの』ではなく、ギルバートがまとめたエチウ地方伝来のイズヴァルトの物語となる。大体は事実に沿っている。
だだ少なくとも、ある人物の事に関しては間違っている。それはおのずとわかるだろう。
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ギルバートカツランダルク記す:
これは『聖騎士イズヴァルトのサーガ、放浪の編』の後半とパラッツォ教団史の第三節第三部、『コーザ大教主とホーデンエーネンの聖騎士について』より、演義風にまとめたものである。
これまで出回っていた『放浪の編』では、コーザに囚われた後のイズヴァルトは半死人みたいな描かれ方をされていた。
「教団に囚われている間、我らがイズヴァルトは教主の魔導により半睡半覚の子種傀儡となり、およそ1年間、教団の数え切れないほどの女らと交わり、子を産ませ続けたのであった」
しかし今は違う。教団との合同研究によって、事実からかけ離れていることが判明していた。コーザは彼の『ぶっ壊れるほどの性感をもたらし百発百中の受胎力を持つ子種液を放つ秘宝おちんぽ』だけでなく、その武勇と名声にも期待したのだ。
私はエチウにまだひっそりと残っている、パラッツォ教の『正統派』が保管していた文献を読み知った。もちろんそれをエチウの学者等とともに読み解いた研究本を諸外国に広めた。まだ若い頃にだ。
……まあ、ホーデンエーネンではいまだ『トンデモ本』扱いをされている。あのくそったれ、アネモネ=リットフェンテルトのせいだ。
あいつはシモのネタというのがとにかく大嫌いだ。とはいえ醜女ではない。まあまあな美人だった。20代のはじめぐらいまでは。それと、とんでもないヤリマンだったらしい。身体は安っぽい香水くさかったそうだ。
それと、アネモネの昔の彼氏(知っているだけでもだいたい10人ぐらい)の話も聞いたし会ったことがある。顔の良さを頼みに生きる、ナントブルグのゴロツキ連中ばかりだ。女衒師や詐欺師。そういう界隈とつるんでいたということは、相当なやんちゃをしていたわけだ、彼女は。
若い頃のアネモネはそういう奴らに騙され続けて、性愛というものに嫌気を覚えたんだろう。だから矯風会に宗旨替えをしたのだ。そういう奴は事実と史実を平気で捻じ曲げる事もあする。パラッツォ教とイズヴァルトと、それからあの姉妹の事をだ。
あのくそったれは私とエチウの学者らが書いた研究本を、「捏造!」と叫んで学会に認めさせなかった。特にナントブルグの学会でだ。ヨーシデンのトリシア大学にも無理やり認めさせた。
(そのせいで私は批判を浴び、2年ほど母国のイーガに戻らなければならなかった。戻った後は肩みの狭い境遇にさらされた。与えられる研究費は4分の1。諸外国への臨時講師の仕事で稼がねば研究はやっていけなかった。)
いまだホーデンエーネンでは『放浪の編』が出回り、マイヤ=カツランダルクとその姉は、ただ単に王や英雄の『添え物』のまま。でも、真実は違う。あの妹姫は……。
―――これから語ることは、事実に最も近いイズヴァルトの物語である。