※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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 ナオエニア諸島で盛んな産業はなんでしょうか。いろいろあるけれど皆さんはすぐに思い出せるでしょうか。

 そうです。漁業がありますね。獲った魚を加工して売る水産工場も。ナオエニアは漁業で栄えております。

 それだけではありません。良港に恵まれたこの島々には沢山の外国の船がやって来ます。その中継交易で大きな税収を得ています。

 それから、鉱業と金属部品製造を忘れてはいけません。金属製品の工場は島には大小あわせて50箇所ほどあり、オーミゲニアやエチゴニアで生産されている魔道機動車や魔道二輪車の部品になっております。

 オーミゲニア連邦のアヅチハーゲンにある、代表的な魔道機動車メーカーの様々な車に、島の鉱山で採れた鉄鉱石を加工した部品が使われているのです。

 ではそもそも、ナオエニアの鉱山はいつ頃から開かれて、金属部品の製造がどの時代に始まったのでしょう?

 それには、今から数百年前に起こったエチウ諸島とムーツ大陸との戦争が関わっております。キンキ大陸の英雄と言われる、イズヴァルト=シギサンシュタウフェンが参加したと言い伝えられている、北海戦役です。

 あの戦いで島には多くのドワーフとエルフがやって来て、ナオエニアに鉱山と冶金をもたらしました。その戦争を経て、ナオエニアは金属加工でも世界的に名を知られる国となったのです。

ナオエニア国産業庁出版・『我が国の産業について』より一部抜粋


第八回

 ヤヒコフスキ島。

 

 ナオエニア諸島の北西側に浮かぶ島である。本島たるナオエニア島の次に大きい。

 

 サーガより数百年先の未来では多くの人が住んでいるが、イズヴァルトの時代は小さな漁村がまばらにあるだけの過疎の島だった。

 

 イズヴァルトはトールキンと数名のドワーフ、それからヴォルフ=ラングレンとともにその島に来ていた。トールキンに誘われてである。島の真ん中には大きな山があり、木々が鬱蒼と茂っていた。

 

 草深いけもの道をかき分けてイズヴァルトは山を登る。標高は1000メートルといったところのこの山は、なかなかに大きくて広かった。かれこれ1時間ほど歩いたが、いまだ目的地までどのぐらいかわからない。

 

「それで、拙者達はどこへ向かうでござる?」

「もうそろそろじゃ。この山はエチウに来た時から興味がわいてのう。儂は仲間に調べておくよう、頼んでおったのじゃよ」

 

 もう少し歩くと開けた場所に出た。草がまばらになり、ほとんど土が見えていた。ところどころに赤茶けた石がゴロゴロと転がっている。錆びた金物のにおいがした。これは何かとヴォルフが問うと、トールキンはそれを拾って答えた。

 

「鉄を多く含んでいる石じゃ。この山……いや、ナオエニアのところどころに、こうした鉄鉱石まがいの石がころがっておる」

「ということは、ナオエニアは鉄の産地だということでござるか? そんな話は聞いたことがござらぬが……」

「鉄はエチゴニアでもクボーニコフでも採れるじゃろうて。こんな島々から採掘して取り寄せんでも鉄器はつくれるわい。しかもムーツは砂鉄もよう採れるからのう。ナオエニアの鉄は放っておかれたのじゃろう」

 

 ナオエニアはエチウ諸島の中では豊かなほうにあるが、国として見るなら小国だ。クボーニコフやホーデンエーネンといった大国に自国で造ったモノを売るという時、足元を見られて安く買いたたかれるだろう。だから船から船へモノを流す中継貿易のみをやっていた。

 

「ニンゲンであるお前さんらにはわからんじゃろうが、この島の鉄は質が良い。いや、他の島もそうじゃ。ええ武器が造れるぞ」

 

 イズヴァルトはうなずいた。背中に差した大剣の柄をにぎり締める。この剣はエチゴニアの鉱山で採れた剣を冶金術式で強化したものだ。切れ味は悪いがそんじょそこらで折れたりしない。エチゴニアも良い鉄の産地でもあった。

 

「エチゴニアのこの剣とどちらが上でござろう?」

「多分、質はナオエニアのほうじゃろう。もう少し行くと仲間達のところじゃ。向かおう」

 

 もう数百階段分の坂を昇ると、木の板の屋根と煙を放つ煙突が見えて来た。トールキンの仲間達の工房だ。パラッツォ教団が雇った亜人の傭兵達だが、本職は鉱山夫や鍛冶師だった。トンカチを叩く音が響いていた。最初に見えた工房を訪れた。

 

 トンカチで赤く熱した鍋を叩ていた鍛冶師が振り向いた。女ドワーフだ。腕は太くずんぐりとした体型だが、顔に醜さは感じられない。愛嬌たっぷりの顔立ちは若いと見えた。

 

「おい、ダイアナ!」

「トールキンか。まだ待っとれ! この鍋を叩き終えたら話す!」

 

 鉄鍋を整え終えると、外で待っていたトールキン達のところへダイアナがやって来た。イズヴァルトを見るなり顔を赤らめた。トールキンはにっ、と笑いイズヴァルトらに紹介した。

 

「鍛冶師のダイアナ=ジョーンズじゃ。儂んとこの村に住んでおった。儂より先にパラッツォ教団の傭兵となって、戦場ではでっかい大弩弓(バリスタ)を背負って戦っておったが、それに飽き始めて鍛冶をやっているのじゃよ」

 

 鉄臭く汗臭いにおいを放ちながら、ダイアナはイズヴァルトとヴォルフの手を握った。その握力と手のごつさを感じてイズヴァルトは「優れた武者でござるな」とつぶやくと、彼女は照れてしまった。

 

「鍛冶の後のおめこはあとにせいよ、ダイアナ」

「ぬかせ! 会うたびせがんでくるのはおまえのほうじゃろが!」

「お前さんも乗り気じゃろうに……が、今は仕事の話じゃ。ヴォルフ、あの弾をダイアナに渡して貰えんかのう?」

 

 ヴォルフはポケットから徹甲弾を取り出してダイアナに渡した。これと同じものを造って欲しい。ダイアナは手早く印を切り、鉄の弾をほんのりとした光に包ませた。掌に置いたものを顔に近づけて鋭く見つめる。

 

「……微妙な造りじゃのう。これはどこの鍛造品じゃ?」

「マイヤ=テクニカじゃよ。イーガとホーデンエーネンでは誰もがよく知る魔道品の製造会社じゃ。ほら、お前さんも暇な時にいじっている『たぶれっとぱっど』を造ったところじゃよ」

「密度が甘いのう。精錬もまだまだじゃ。本当にイーガの衆が手がけたもんか、疑わしいのう……」

 

(ギルバート=カツランダルク注:のちに自伝書『おんなドワーフどきどき鍛冶巡り』をイワッミーで出したダイアナ本人は、本の中でこう書いている。

 

「本当に造りが甘い弾丸だった。聞けばその徹甲弾の製造を監督したのは、かの大陸の知の至宝と呼ばれた『おしゃぶり姫』ではなく、その腹心の女魔道士だったそうである。機巧と術式を凝らした『たぶれっとぱっど』や『尻穴開発偽触手マシーン』には驚かされたが、こうした単純な製品はまだまだに思えた。ホーデンエーネンと言えば、サイゴーク諸国に負けず劣らずの武器防具を造る国なのに。とても残念だったが収穫もあった。この出会いが後の私の行動を決めたのだ。」

 

 なお、ここに書かれている女魔道士は、エウレカ=リットフェンテルトという名である。ナントブルグの女歴史学者、アネモネ=リットフェンテルトの先祖だ。)

 

 ダイアナはとても残念がった。お悔やみ申し上げます。こんなレベルの製品をお出しすることはできません。冶金技術にかけては全種族一のドワーフを舐めてんのかコラ?

 

「と、いうとどういうことでござる?」

「もっと質が良いものをお出しする、と言っているんじゃよ、イズヴァルトさん。こんな鉄を適当に鋳ただけの様な代物と同じもんを出すのはプライドってもんが許せねえんじゃ。ただ、鍛造術を考えるのに時間が欲しいんで2~3日は待ってくれんかのう?」

 

 なんて短い期間だ。イズヴァルトは感激してしまっていた。エルフがちょっこりな女芯丸出しの美幼女エルフの銅像を造るのとおなじぐらいに早い時間で、亜人殺しの弾丸よりも強力なものを作ってくれるとは。

 

「ちなみに火薬はどのぐらいの量じゃ?」

「この早合筒と同じぐらいです」

「どれどれ……なんで炸裂術式を使わんのか。エルフの衆がそうした改造銃をつくっておると聞いとったが?」

「魔力の補填ができない者を考えて造られているからですよ。マイア=テクニカ産の魔力発火式銃は低レベルの魔力の持ち主でも補充できるように工夫してあるんです。ホーデンエーネン人は魔力量がとても少ないですから、他の大陸と比べて」

 

 ヴォルフは右手の指先で印を切った。イズヴァルトを含む全員がくしゃみをした。

 

「何をしたんか、ヴォルフ!」

「くしゃみをする魔法をかけたんです。ゴブリンが使う魔法ですよ。俺だってこのぐらいは使えます。後は、あそこがかゆくてしかたがなくなる魔法とか、わきががきつくなる魔法とか。あと、うんこが臭くなる魔法とかなら」

「細菌を活性化させる魔法でござるな! なかなかにこすい術式でござる! 拙者も覚えたい! 戦いの時の嫌がらせにぴったりでござる!」

「……無理ですよ。こいつはゴブリン族の秘伝なんです。細菌毒を活性化させるまでは俺にはできませんけど。魔力が余り無いんです」

 

 しかし銃に魔力を補充するぐらいはできる。知りたい、学びたいと叫ぶイズヴァルトをヴォルフはなだめた。ゴブリン族の血が流れていないと無理だと諭すと、涙目になった。トールキンがぼそっと言った。

 

「そういう魔法は、あの副司祭騎士団長なら覚えられるじゃろうなあ。ゴブリンの血も混じっておったじゃろ?」

 

 副司祭騎士団長とはサイゴークの戦いの最終局面でパラッツォ教側に寝返り、イズヴァルトを捕虜にする計略をはかった女策士・エレクトラ=ガモーコヴィッツのことである。

 

「……本人に聞けばよろしかろう?」

「お前さんを息子みたく何かと気遣ってくれる、良い年増美人じゃろうに。それとあの女は蛇のようにねちっこい性格じゃが、おめこもねちっこい。周りから見ればいい女じゃて。閨に引き入れてたのじゃろう?」

 

 司祭騎士団長の愛人でもあった彼女は、40を過ぎた歳で新たに子を身ごもっていた。イズヴァルトの子か愛妾と遇したシマーヅ国のピピン王子の子か。あるいは、捕らえられていた時に相手をしたドワーフか司祭騎士らの子かはまだわからぬ。

 

 けれども、イズヴァルトの子ではないかという説の勢いが強かった。腹の子の育ち具合を見るからに、捕らえられた前の種が仕込まれた時期は、イズヴァルトと共に行動をしていたからだ。ピピン王子は寒さで体調を崩して後備えにおり、冷えた肌を温めようと国元から連れて来られた別の妾たちと温み合っていたからである。

 

「エレクトラどのの事はもういいでござる。ダイアナどのには後で心づけを贈るゆえ、よろしく頼みたい」

 

 イズヴァルトはドアのノブに手をかけた。

 

「トールキンどの、もっとご案内いただきたい! 拙者はここをよく知りたいのでござる!」

「やれやれ、せっかちじゃのう……」

 

 エレクトラがどのくらい、イズヴァルトのことを心配しているのかがトールキンはわかる気がした。気が逸り過ぎている。何かに焦っているようだった。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 ドワーフ達が住み着いて1年になるという。この山はすでに坑道ができており、精錬所も建てられていた。普段は鍋や包丁を造っているが、鉄砲の弾を造るぐらいの余裕はたっぷりとあった。

 

 戦士であるが鉱山技師でもあるトールキンがこの山に目を付けたのは、3年前の真夏のことである。ここの防衛部隊に赴任した時に見つけた。山に登り、連れて来ていた愛人のエッダと真昼間から素っ裸になって汗だく種付けプレスセックスに興じていたみぎり、この山の石が妙に赤茶けているのを目にしたからだ。

 

「というわけで儂は仲間を呼んでこのお山を開かせた、というわけじゃ」

「なるほどでござる。まあしかし、この山鳥の丸焼きは、なかなかに良い味がするでござるな!」

 

 この集落の集会所でドワーフ達とテーブルを囲み、食事をとるイズヴァルトは彼等の料理の味付けの良さに舌鼓みを打った。塩と香草だけの素朴な味付けだが、調味料は適量で程がよい。エチウ人の舌は少々塩気が好き過ぎていた。作る料理がどれもしょっぱいのだ。

 

「エチウに……戻りたくないでござる」

 

 ドワーフ達の手料理を味わって、イズヴァルトはしみじみとした調子でつぶやいた。同席していたヘラが叱り飛ばした。

 

「何言ってるのよ! 司祭騎士団長さんは教主さまに期待されているんでしょうに!」

「ヘラどの。料理が舌に合う合わないはとても大切な事なのでござる。あまりにも味覚の好みと離れたものばかりを食べさせられると、人というのは故郷を懐かしがるもの。拙者は牛さんや山羊さんのお乳で味付けした料理が並ぶ、ホーデンエーネンが恋しいでござるよ……」

 

 それからカントニアとシマナミスタン、チンゼーもだ。どの大陸も味付けは違う。カントニアはキンキ大陸と似通っているが、食用の馬を飼う為、馬肉を用いることがある。あの肉はコクがあって美味い。

 

 シマナミスタンは香辛料たっぷりで辛くて痺れる料理ばかりだが、ヨーグルトを用いてどこかまろやか。あまーい黒糖を使った落花生やクルミのお菓子は絶品だった。味覚が交通渋滞を起こす国ばかりだ。

 

 チンゼーはシマナミスタン寄りで辛みが強い。とはいえあちらは食材が豊富だ。昆虫を炒った謎の料理も食べたことがあるが、乾かしたエビを食べている様で香ばしく、味はまろやかだった。舌が退屈しない料理ばかりだ。

 

 しかしエチウは違った。魚料理と塩っ辛い料理ばかりである。とにかくしょっぱい。味覚が麻痺するというより卒中を起こしてしまいそうなぐらいに。寒い地域の食文化は壊滅的だった。

 

 とはいえこのナオエニアは別である。今から200年前に唐辛子や出汁を用いた風味豊かな料理が出回っている。『はんりゅう』と呼ばれるジャンルの創作料理で、野菜と豆腐と肉に唐辛子をぶち込んだ『チゲなべ』や、『こなもん』としては酸味がある『チヂミ』と呼ばれるパンなどが食べられている。

 

 その料理を作り出したのはどうも、異世界転生者らしい。イズヴァルトはかつての侍女がまだ可愛らしかった頃、アヅチハーゲンにあったその『はんりゅう』の店で一緒に食べた。

 

「からい! からいよ! ひーっ、ひーっ!」

 

 可愛かった頃の侍女は口の周りを腫れぼったくさせてしまった。その夜の『おしゃぶり』はいつもより肉感的で熱くなれるものだったが、侍女は翌日の朝、「いたいよー!」と泣きながら下痢を吹き続けた。

 

「この島の『はんりゅうりょうり』は如何なものでござろうか、トールキンどの?」

「まあ、味は落ちておらん様じゃが、アヅチハーゲンで食べられるものと変わらんじゃろう。サクラウチ=シロウ枢機卿は好物らしいから、この島によう訪れておるそうじゃが」

 

 サクラウチは内臓を痛めつけるほどに辛い料理を沢山食べ、お腹を苦しめることが大好きだという。お通じが良くなるからだ。エチウ人は野菜をあまり採らないため、便秘がちになる者が多かった。

 

 難儀な食べ物の趣味だと思いながらイズヴァルトはまた一口。うまい、うま過ぎる。対してヘラは不満そうだった。彼女は塩気に馴れてしまった為、ドワーフ達の料理の味付けが少し物足らなかったのだ。

 

「そういえば徹甲弾というのは、いつ量産ができるの?」

 

 ヘラはドワーフ達に尋ねた。早く見積もってあと1週間ぐらい。ダイアナがより硬くて威力のある弾丸を研究しているそうだ。

 

「ふーん。1週間。その間にあたしたち、ここを守らなければならないのね?」

「この島は徹底して隠すべきでござる。気づかれたら必ずここを攻め取って来るでござろう」

 

 その為には欺瞞計を繰り出して、目を他のところに向けなければならない。ううむ、と唸って考え始めたイズヴァルトだが、あることを思いついたとヴォルフが告げ、策を語り始めた。

 

 さて、若き狙撃の名人が語った策とは、いかなるものであったのか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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