※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第十二回

 イズヴァルトの愛人でもありパラッツォ教では重きをなしている司祭騎士団の副団長が、去る6月の末に出産を果たした。

 

 産まれたのは娘である。名はヴィクトリアとつけられた。

 

 イズヴァルトのかつての師の名でもあった。エレクトラとも関わりがある人物だった。

 

 イズヴァルトが気になったのは出産してから3カ月も経ったことである。なにゆえ彼女は子を産んだことを黙っていたのか。

 

「副団長どのはなにゆえ手紙をよこさなかったのか……理解ができぬでござるよ」

「いくさと子種撒きに専念いただくように、という心づもりであったとお返事がございました」

「言われなくてもやってやるでござるよ。しかしエレクトラどのも拙者のことをわかっておらぬ。産まれてきた子に会う為にいくさばから戻らぬでござるよ。そのぐらいの心構えはしているでござる」

 

 司祭騎士団長には数え切れないほどの子供達がいた。しかしそのだいぶ多くは、無双の騎士の子を産みたいとのぞむ女の希望を叶えてやってのことだった。

 

 今すぐにでも会いたいというのなら、副団長との間に為したエレナという娘とエルフたちとの間に産まれた子どもたちである。それからマレーネというイーガの女大貴族と為した子達も。彼にはこの時数百人の子供がいた。しかし愛情を注げるのは、ほんの一部であった。

 

 とはいえ子が産まれたのはめでたいことである。それが良き知らせであった。では悪い知らせとは何なのか。使者はイズヴァルトに手紙を渡した。教主コーザからの文であった。

 

「……なんということでござろうか」

 

 イナーヴァニアとヒッジランドの国境付近で戦闘が勃発。それに伴い、サート銀山ではヒッジランド側の住民が退去し、ウラスコーへ避難していった。銀山町で戦闘が起こる気配は無さそうだが、イナーヴァニアとの隣接地帯は、既に火の手があがっている。

 

 ヒッジランドだけではなかった。イーズモーとの隣接地帯でもだ。非武装の信者が巻き込まれることは無かったが、砦や関所が襲撃を受けた。

 

 しかし正式な『宣戦布告』はまだ受け取っていなかった。つまりは「一部の武者達の軽挙妄動による紛争」で済ませる程度ということだ。けれどもサイゴークでは、戦争の気配はいよいよ高まりつつあったのも確かだ。

 

 それを聞いたヘラが歯ぎしりしてイズヴァルトに持ちかけた。

 

「今すぐサイゴークに行って、そいつらをやっつけちゃおうよ!」

「いいや、それはまだならぬでござるよ。いくさというのも始めるには色々と段取りというものがあるでござる。いくさが始まる前に会談の場を設けて語り合い、できるだけ事無きにおさめる、というのをまずは目指すべきでござるよ」

 

 拳を用いた外交手段、それが戦争。しかし最後の最後の用いるもので、そう無闇矢鱈に振り回すのは、あらゆる戦争学の著書でも『ご法度』とされているとイズヴァルトは教えた。

 

「ちぇっ。手を出してきたんだからこっちに大義があるのに! 今度こそ教主さまの敵を叩きのめしてやる好機だよ!」

「暗黒卿みたいなことを言ってはだめでござる」

「ん? どうゆうこと?」

 

 わからない、といった様子でヘラは首を傾げた。そこにうるさい高笑いをしながらエドワード=ルーカスがやって来て語り始めた。イーズモーの暗黒卿のサーガの一節をだ。

 

 

------

 

 

 暗黒卿ツネーヒ=アルグレイブが、イーズモーの天下取りに乗り出した時の話となる。前の国王が死んだばかりで、各地の領主が好き勝手に動くようになった頃だ。

 

 ある冬の日、暗黒卿の領地の北側の境目にある2つの村の子どもたちが、雪合戦をおこなった。村ごとに子どもたちが団となっての合戦ごっこは、よくあることだった。

 

 ただ、その日は少し様子が違った。北の村の子供らの中に、雪に石を詰めて投げる者が現れたのだ。それが運悪く、南の村の小さな男の子の頭にあたり、その子を死なせてしまった。

 

 当然、言い合いが起きて村どうしの紛争になりつつあったのだが、北の村の長は南の村に長に提案して事無きを収めようとした。

 

 村長の娘のうち1人を、南の村の村長の息子にめ合わせるというものである。嫁入りは事前に夫側が結納金を出すしきたりだが、今回は無しということにした。

 

 けれども死んだのは南の村の村長ではなく、貧しい農民の息子であった。その家は何の賠償も得られない。その話を聞いた暗黒卿はすぐさま駆けつけて、南の村の長に問いかけた。

 

「貴公の息子が死んだのか?」

「いえ、違いますツネーヒさま。死んだのは小作人の子です」

「では、向こうからやって来た娘をここに呼べ」

 

 果たして連れて来られた。新妻になったばかりの北の村の娘にツネーヒは尋ねた。

 

「貴公、嫁入りの理由はわかっているな?」

「結納金無しで来たことでわかることでしょう」

「いいや、違う」

 

 ツネーヒの抜いた剣が、娘の首を断った。暗黒卿はそいつをつかんで男の子の墓前に備えた。南の村の長と妻を喪った息子が批難するとこう返した。

 

「貴公らではない。この墓の子が喪った。せめてもの償い方をしているだけだ」

 

 そう言うとツネーヒは村を去った。北の村に嫁に出した娘が殺されたことが知れ渡ると、血気にはやった村長の子らが、敵討ちだと言って若衆や荒くれ者を連れ、南の村を襲った。しかし彼らは救援に来たツネーヒと騎士達に捕らえられた。南の村の長にいう。

 

「これでわかっただろう。北の村の連中は、難癖をつけて南の村を滅ぼそうとしたのだ」

「難癖はツネーヒさまでは……」

「違う。彼らは明確な害意をもって雪弾に石を詰め、長の娘をよこした。こちらがこう出ることを想定してだ。つまりは、この村を奪わんとする隣の領主の思惑である!」

 

 このことをツネーヒは盛んに吹聴して大義名分をたて、北の領地に攻め込んだ。首を刎ねられた娘と襲撃者の村は、領主の計画に担ったものとして滅ぼされた。領主も奇襲に遭って討たれた。

 

 それから数ヶ月も経った頃、国王が譴責の使者をたてた。その使者にツネーヒは、自信満々にこう言い放った。

 

「大義は我らにあった。だから攻めて滅ぼしただけだ」

 

 雪合戦で死んだ子の墓には、北の村の村長一家と領主から切り取って紐でつなげた耳が供えられていたという。つまりはツネーヒなりの仇討ちだったというわけだ。

 

 

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「……ということを暗黒卿はやってのけたのだよ! あっはっはっ!」

「ひっどい話だなー。けど、覇王さまだったんでしょ、ツネーヒって?」

「ははは! こんなのが朝飯前みたいな策略を使いまくっていたそうだよ」

「……だから、滅んだのでござるよ」

 

 ツネーヒ時代のイーズモー王国は、謀略ばかりが目立つ非常に血なまぐさい国だった。いい勝負なのは戦国時代のホーデンエーネンだ。暗黒卿に匹敵するぐらい、騙し討ちというものが行われた。

 

「パラッツォが治める国を、暗黒卿のイーズモーみたいにしてはならぬでござるよ。まあ、経典の巫女を用いての『はにーとらっぷ』をしたというのを、しょっちゅうしていたらしいでござるが……」

 

 魔竜戦役で傭兵衆より突然の裏切りがあったのも、経典の巫女らによるものだ。戦場娼婦となった彼女たちを抱いた者達が心を支配されてそれを起こした。

 

 そのせいで師を失ったイズヴァルトは、その時の怒りがこみ上げてきた。しかし復讐は成し遂げているとも思っていた。サイゴークの戦場で、数多くの教団の戦士たちを倒したのだから、ヴィクトリアの無念も少しは晴れただろう。

 

「使者どのら。教主どのや副団長どのは、他に何かおっしゃっていたでござるか?」

「副団長様からは、ちらっとだけ」

「申していただきたい」

「我々は、これを受け取ったまでです」

 

 使者らは巻物を手渡した。広げると何も書かれていなかった。だがエルフの魔法を駆使するエレクトラのことである。イズヴァルトは金色エルフの術式だと思い、印を切って手を当てた。すると、白紙に光が浮かび上がり、またたく間に文字が現れた。

 

「ほう。隠し文字の魔法か。副団長らしいな! で、なんと書いてあるのかね?」

「ムーツ大陸に向かうのなら、クボーニコフではなくナンブロシアにせよと言ってきているでござる。そっちのほうが話が早い、らしい」

 

 かねてからその為の工作もかけているし相手からも良い返事をもらっているから、時期が来たら向かうといい、と書いてあった。

 

「その為にもまず、サワータキャビクに向かわねばならぬらしい」

「ははは! ではそうしよう。あの島のクボーニコフ軍を追い払うことにしよう!」

 

 今はその勢いがある。船をかき集め、サワータキャビク攻めをせんと意気込むがさて、イズヴァルト達はすんなりと思惑通りに事が進められたのであろうか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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