聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
一方のクボーニコフ軍側である。
ナンブロシアの西部港湾都市・オーマストックでは、クボーニコフ海軍の軍船が、100ほど集結していた。
オーマストックは『北軍』という名称の水軍衆が基地としていた。クボーニコフの属国たるユーリポフ13王国や更に南の小国軍の艦隊を含む『南軍』とは違い、組織としてまとまっており、停泊地での乱暴狼藉も少なかった。とはいえ、である。
「きゃーっ!」
その日の夕方も、港湾付近で若い女の悲鳴があがった。数名の海兵に取り囲まれたのだ。彼女は抵抗もできずに暗がりに引っ張り込まれ、慰み者となってしまった。水兵等は、娘をなぐりつけて黙らせると代わる代わる乗って犯した。生殖欲と女体欲に飢えていたから、誰もが1発や2発では済まなかった。
こうした強姦沙汰はしょっちゅうあった。組織としてまとまっていても、王国は元から軍法が雑過ぎるのだ。その半年ほどで、秋の鈴虫の鳴き声と同じぐらい、女たちの悲鳴とすすり泣きの声が、この港の風物詩となってしまった。
オーマストックの住民らはクボーニコフ人に強い敵意を抱いていた。いや、オーマストック以外のナンブロシアの港湾で、同じ様なことが起きていた。物資の略奪は禁じられていたが女の身体は認められていた。むしろ、奨励されていたぐらいだ。
クボーニコフの海将や水夫達の間では、『海賊王チアン=カイシェック』の頃からの、こういう言い伝えを信じていた。
「港の女は荒くれ男が大好きだ。嫁入り前の若い娘も人妻も、海賊のたくましいナニを本能で欲する。その証拠に、抱かれた女たちはこぞって孕むからだ。口ではいやよと拒んでも、膣と子宮は待ち望む。大海原の猛者どもの、人食い鮫のような股間のものと、それから尽きること無く出される胤汁を」
これが男というものだ。クボーニコフ人的な見方では。特に海の男達の間では。勇猛というより獰猛を。武勇ではなく蛮勇だ。クボーニコフ海軍はこの当時最凶の艦隊を率いていた。その最大の被害者たちは、侵略されるパラッツォ教徒達であった。
日暮れから月夜と変わり、夜更けになった頃。繁華街から列をなして港湾に入った金色エルフの一団が、道端で伏って泣きわめいている娘らを見かけて止まった。どの娘たちもクボーニコフの海兵に襲われた者達だ。
その一団には歳の頃でいえば、11か12ぐらいに見える尖耳の子供がいた。しかし口まわりに白い髭をはやしていた奇妙な子であった。顔の輪郭といい体つきといい、代謝が落ちた中年男性の様な太り方をしていた。
顔立ちはまあまあ整っている。稚児好きが尻を責めてくなる美少年には見える。が、顔といい姿といい、まるまると太った子狸に見えもした。
涼やかな目をした、怜悧そうな顔立ちの金色エルフの男が彼に問いかける。
「どうするべえ?」
他のエルフたちも心配そうにすすり泣く娘たちを見ていた。白い髭が生えた少年はため息をついた。
「ひどいことをするものだ……」
懐から煙管とタバコ袋を取り出し、葉を詰めると印を切った。一筋の紫煙が立ち上った。子供のくせにタバコを、と思う向きもあるだろうが、タバコ袋に入っているものがタバコだとは限らない。大麻の可能性だってあるのだから。
「クボーニコフめ。折角カントニアの諸国が手を貸しているというのに、見せてはよろしくないものを平気で見せる……いつまでも仲良くはできんな」
「ぼやくのはそのへんにしといて、この娘っこどもをどうすんべえ?」
「治癒魔法をかけてやれ。それと孕まん様にもだ。今ならまだ間に合うだろう。あと、宿舎に連れて行け。今夜一晩ぐらいは湯浴みをさせて介抱してやろう」
娘たちはエルフ達に抱き上げられ、宿舎へ連れて行かれた。どの娘らも殴られて怪我をしていたから、治療を受け、桶に張った湯で身体を洗ってもらい、膣の中に残った精液を優さしい手つきで除いてもらった。
一晩休んでその翌朝。娘らは宿舎の食堂に集められた。腹を空かせて帰るのはよくないだろうからと、助けてくれたエルフたちのあるじが、気を利かせてくれたのだ。
食卓に並んでいたのは、ムーツ大陸ではあまり口にしない、塩気の薄い根菜のスープや木の実が入ったパンだった。パンにはバターやはちみつもついている。オーマストックではあまり見かけない朝食だった。
「なにからなにまで、もうしわけねえべ」
「ありがてえことだっぺ。これもオーシラさまのお導きだぁ」
女たちはその場にいた、子狸の様な少年に何度も頭を下げた。彼こそが助けてくれたエルフ達のあるじだと知ったからだ。しかし名前はまだ聞いていなかった。それと、この宿舎がどこの国の軍が借りているのかもだ。
「なるほど。聞きたいのかね?」
「もちろんだっぺ!」
「うん……いいよ。もちろんいいがこれだけは約束してくれ。1つ。我々が助けた事はできる限りいい広めること。2つ。知り合いに貿易商人や船商人がいたら、私達の国とその名前をいい広めてくれたまえ」
隠すことはしなくていい。吹聴してくれ。そう言ってこの少年は自分の名前を教えた。
「へファイスティオン=キツレティス、であるよ。さあさあ、この名前は絶対に覚えておいてくれ。カントニアにあるコーガ王国の、ちょっとしたお家の者だということもね。それと、ここにいるエルフたちはウマヤーノ共和国というところの北部にある、ヌマタラシュク=エルフのみなさんだ。わけあって私の手伝いをしてくれているのさ。あははは。絶対に忘れないでくれたまえよ、君たち?」
□ □ □ □ □
へファイスティオン=キツレティス。カントニア大陸の中央部、キーヌ大河と湿原に囲まれた水の王国・コーガの影の支配者である。かの国では『大御所さま』と呼ばれていた。
この男は今回の戦争について一枚噛んでいた。この戦争におけるカントニア側の援軍の交渉役である。彼のコーガは、クボーニコフやその南にあるいくつもの属国と友好関係を結んでいた。この男は顔が広いのだ。
この戦争に協力した目的は、コーガの友邦国・ウマヤーノを介したムーツ西側の国々との交易や交流をより活発にするためにだ。コーガ王国だが、有り余るほど穀物を生産していたから輸出ができた。それをもって北方の物資を仕入れるのだ。
ただ、その航路には必ずミナッカミニア北部のエルフの部族・ナエバニア衆の協力が必要だった。ムーツ南西部の制海権を握っていたからだ。海流にも詳しい。
よって彼はウマヤーノとナエバニアと手を組んだ。その上で、ヘファイスティオンの母の実家・ヌマタラシュクの力も借りることができた。クボーニコフは彼を介して、カントニアの各国の協力を仰げたのだ。
ヌマタラシュクの大族長・ギタナスは自分ともゆかりのあるヘファイスティオンに、400のエルフの戦士を貸し与えた。ナエバニアはもっと協力的だった。族長カジミェシュ自らが戦列に加わったのだ。
こうしてカントニア衆はまず、『南軍』の後方支援として加わることとなった。主に物資や兵員の輸送だ。食料が不足がちなユーリポフ13王国やその南の諸国に、穀倉地帯でもあるカントニアの麦や芋を運んだ。
しかし戦争の流れが、当初考えていたのよりも滞っていた。特に、北方戦線の流れが思わしくない。ということで『北軍』の援軍として加えられた。この事についてカントニア衆は強い不満を持っていた。前線に立つことなど話に無かったのに、だ。
それと、正規水軍で構成される『北軍』の武将らは実に高慢で、彼らに対する配慮が足りなかった。『南軍』では温泉やオーガの美女つきの宿舎を用意してくれたのに、こっちではただの傭兵団と変わりが無かった。特に、オーガの美女が侍らなくなった事で、大いに不満を持っていた要人が1人。
「まったく、思いやりというものを感じられませんべえよ」
このカントニア衆の会議室で椅子にあぐらをかいて座っている、ナエバニアの大族長・カジミェシュ=ウンノフスキである。
かれこれ1万年近く族長をやっているのだが、彼の見てくれは13才ぐらいの少年のようだった。エルフにしては少々骨が太そうでもある。何故なら、この族長はハーフリングであったからだ。エルフの父と、シマナミスタン=ドワーフの母であった。
「ヘファイスティオンくん。ボクちんは『おーっぱい』が必ず側にいないと機嫌が悪くなったり本気を出せないってこと、クボーニコフの王様くんには話してくれたんですべえか?」
クボーニコフとの取次役はへファイスティオンの役目だ。
「もちろんですとも! カジミェシュ殿が『ぼいんぼいん』が大好物で、女オーガの実りあるものをいつでもしゃぶる状態じゃないと、軍を引っ返してしまうぞ、と脅しましたし、そろそろ来るのでは無いでしょうか!」
女オーガは、必ずと行っていいほど乳房が大きい。尻もである。体型もどんなにデブでも腹にぷりんとした肉がつくぐらいだ。つまりは太れない体質。いわゆる、わがままボディの持ち主が多い。南軍にいた頃、カジミェシュはそうした女オーガ達のおっぱいを四六時中、揉んだり吸ったりこすりつけたりし続けた。
「ほんとうですべえ?」
「本当のことですとも。今朝も強姦されて泣いてた娘たちを街に送った帰りがけに、海将の船に怒鳴り込んで促しました。あいつら、この港で見つけた美女たちを、
クボーニコフの『北軍』は、下っ端の海兵からその頂点に立つ海将の皆の素行が悪い。まあそもそもの成り立ちが海賊どもだ。上位の連中は下半身が苛烈なぐらいにたくましいオーガ族である。女無しでは生きられぬ身体であった。
「貴殿は信頼できますけど、クボーニコフの連中は信じられないですべえなあ。まったく、応じずに南軍にとどまっておくべきでしたべえよ……おっと」
会議の席に何の挨拶もなく、クボーニコフの海将らが現れた。全員がオーガ族である。具足をまとい、飾りものがついた兜をかぶっていた。鎧の下の服の裾は短く、さっきまで散々に貫き続けた女陰の汁のにおいを放つ陰茎が、ぶらんぶらんと揺れているのが見えた。
「カジミェシュ殿! でかぱいのおなごが欲しいっぺか!」
何だか挑発の色がついた物言いに聞こえた。カジミェシュがうなずくと海将達はぎゃははと笑ってこう返した。
「だったらこの港のおなごから引っ張ってくるっぺ!」
「おらたちはみーんなそうしているだあ!」
カジミェシュとヘファイスティオンの顔の色が、みるみるうちに赤くなった。キツレティスから反論した。
「しかしここは、貴国の盟友のナンブロシアの領地ではございませんか? 略奪などもってのほか。なのにそこから奪えというのは、まるで国の代表とは思えぬ言い方ですな?」
そもそも略奪なんぞ、あってはならんのだとヘファイスティオンは声を強くして言った。海将たちはげらげらと笑うだけだ。
「文弱な陸の連中が考えそうなことだっぺ!」
「おらたち海の男はなぁ、死と隣り合わせだから許されるんだっペよ!」
「しかし、法律では!」
「そんなもん、オラたちにはなーんも関わり合いのないことだべよ! キツレティス、ごちゃごちゃぬかすといてこますっぺよ! 簀巻きにして海に落としてやろっか?」
キツレティスは激怒した。ここで一戦を交えてやろうか。ぽっちゃりとっちゃん坊や体型の彼だが、とりあえずは武芸の心得はあった。ちなみに身体能力は並のニンゲンよりも遥かに良い。何故ならハーフリングとニンゲンとの混血児だからである。
それと、彼はカジミェシュ族長に目を向けた。子供のなりをしているが、生粋のハーフリングだ。その身体能力がどれほど凄まじいのかを彼は知っていた。なにせ、あの『海賊王』と互角に張り合った、生ける伝説でもあったのだ。
「……ここは、あきらめますべえ」
カジミェシュから意外な一言を聞いたのは、そのすぐだった。女オーガのでかでかおっぱいはあきらめよう。呆気にとられているキツレティスを尻目に、ナエバニアの大族長はオーガ達に尋ねた。
「おっぱいのことだけで、来たわけじゃないですべえな?」
「察しがいいっぺ。さすがはナエバニアの大族長だっぺ」
「おら達が来たのは戦争の話だっぺよ。次の方策が決まったんだあ」
その作戦。北軍全軍をあげての総攻撃だ。このオーマストックと向かい岸にあるサワータキャビク島。それらに停泊するクボーニコフ軍船をすべて、エチウに向ける。後方をがら空きにしてだ。
「補給線はもう無視して、ノトゼタシアとエチゴニアの両方にガンガン攻め込むっペ。一番欲しいところを狙うべさ」
「『南軍』も後からそれに加わるだあよ。そっから先は一気に本拠地、カナザワースに攻め込むべ」
「となると、当初の目標だったナエバニアとアガノモックの奪取は……」
そんなものは無しだ。海将らが言い捨てるとカジミェシュが口を開いた。
「その役目、ぼくちんらに任せてもらってもいいですべえ?」
「ほーう。族長。ナエバニアか、アガノモック、どっちだっぺか?」
族長はもちろんここだと叫んで返した。さて、このナエバニアの大族長が返答したのは、どちらの島であったか?
その続きについてはまた、次回にて。