※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第二十九回

 キンキ大陸人はかつて、アカサカチハヤの魔族たちと共生していた。しかしこの大陸には国というものが無く、精霊人のように各々の部族が、話し合いでまつりごとを進めていくという形をとっていた。

 

 しかしそのせいか、この大陸は他の大陸よりも発展が著しく遅れていた。カントニアのムサシノ帝国や、ムーツ大陸の西の海を荒らしまわったオーガの海賊王のような、覇道を声高に唱える侵略者たちも、しばしばこの大陸を襲った。

 

 いつ何時、キンキ大陸が別の大陸人によって征服されるかわからぬ。アカサカチハヤの魔族の王は、ニンゲンと魔族が仲良く共生するこの大陸に、ニンゲン達の国をつくるべきだと考えた。部下達の中でも特に優れていた者達に、この大陸のニンゲン達に、国を築かせるように手を貸せと命じた。

 

 その頃のキンキ大陸には、おおよそ30の大きな部族があった。それぞれに1人の優れた魔族がつき、彼らに国をつくらせた。あるいは、その部族の長と交えて、子を為す者も中にはいた。

 

 その中で、アスカウ地方にあったホーデンエーネン族はとその国は、著しく飛躍した。幾分か強権的だが、国内の統治の仕組みは強固であった。富国強兵を成し遂げ、ついには近国の征服を始め、キンキ大陸に大戦国時代をもたらし、そして勝利した。

 

 キンキ大陸に大きな国を築いたホーデンエーネン。その魔族側の祖は魔界のハーフリングだった。彼はニンゲンとの子どもたちに、戦争と魔道について教えたと言い伝えられているが、族長となった息子に語ったこの説諭が、最も世に知られている。

 

「楽をしたけりゃ相手を蹴落して奪っちゃいちゃいなよ。そうすりゃごちそうもおしゃれな服も宝石もどすけべな美人も、ぜーんぶ君のもんになるだろうよ。人欲を満たすことが一番楽しいことなんだよ」

 

 大陸の戦国時代の始まりを告げる言葉となった。そのせいでこのハーフリングは魔族の仲間たちに、『万年糞ガキ』というあだ名をつけられてしまった。

 

 しかし彼は全く気にしなかった。むしろ、こうも言って笑い飛ばしたという。

 

「もっとさー、自分の欲求にショージキな人生を送らせてあげようよ?」

 

 人は、生き物は三大欲求に支配される。食欲、性欲、睡眠欲だ。

 

 美しい服でき飾り、書籍や思索と実践で知識や知恵を得る欲もあるが、その根本はすべて、その3つの根源的な欲望を満たすためと言って良い。

 

「本能が闘争を求めて止まないんだったら、国盗りがどうして悪いことになるのさ? 他の『世界』でもだいたいこんなもんだよ?」

 

 それに重要な欲望が、もう1つあると彼は言った。進化への渇望だ。

 

「争いは支配や科学の発展を促し、そのついでに文化の程度を磨くもんさ。特に文化だよ。豊かな土地を手に入れて、様々な資源を手にしたら、人はそれを使って何かをしたくなる」

 

 国盗りを始めたホーデンエーネンは、タカイチゲンシュタットを落とした。北の山林地方を掠め取り、西のシギサンシュタウフェンを隷属させた。富が入ってきた。美術や物語を楽しむ余裕が、人々の心に産まれた。

 

「だいたい、ホーデンエーネンの連中ってさ、交尾や同性愛の他に、飼っている馬やロバのおまんこするぐらいしか『愉しみ』が無かったんだよ。あの大陸の一番の蛮族だったよ。それをボクが押し上げてやったのさ」

 

 もっと富を得たい。豪華な城や人が多く住める街を築きたい。その欲求が蛮族達を刺激した。ナガオカッツェ、ヨーシデンへ。それから、大陸の南で最も豊かなナントブルグ盆地に目をつけた。古くからの友好国があった。

 

 いや、キンキ大陸の『盟主』と呼ばれる国がそこにあった。ホーデンエーネンが国盗りの野望を抱く前、そこを中心に大陸中の小国や豪族らが連帯を為していた。軍隊はあったが海洋の外からの侵略者と戦うためにあり、内輪同士の争いのない、平和で穏やかな時代が確かにあった。

 

「そもそもさ、戒律みたいな決まった仲良しこよしをやってばかりじゃ、ストレスたまって変なことを起こすかも知れないよ。ボクの子孫たちはその戒めを叩き切った。それからあの大陸のニンゲンたちは進歩を成し遂げたじゃないか」

 

 そうしてキンキ大陸は正しい道を歩み始めた。彼のあだ名は『万年糞ガキ』から『最低屑野郎』に変わった。

 

 しかしホーデンエーネンはイーガ地方とアカサカチハヤを除いて大陸を統一した。このハーフリングはキンキ大陸の覇者の祖となったのだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 あれから2日経った。前の国王を支持する武者達の一団の襲撃は2度あった。必ず街道が狭まった場所であった。その都度イズヴァルトは彼らを撃退した。

 

 ゴブリンの里まであと20キロだ。しかしイズヴァルトは別のことで頭がいっぱいだった。国王から聞かされたことが、彼にとってあまりにも衝撃的だったからだ。

 

「イナーヴァニアの魔道の名門、ウキトゥス家の祖は、ホーデンエーネン王家と祖を同じだったのです」

 

 ここで言うホーデンエーネンの祖とは、アスカウ地方に拠っていた王家の源流となった豪族ではなかった。彼らに国の作り方を教えたとある魔族のことだった。

 

 その魔族の名はツダサンチョー。魔界のハーフリングで魔竜の前のコンゴウアミダラデンの主の部下だったという。彼は国をつくるどころか部族長の娘に自分の子を産ませて次の長にさせ、さらに孫娘やひ孫娘を妻とし、子を産ませたそうである。

 

【ギルバート=カツランダルク注:魔族は亜人と同じく、近親交配で血が腐るということは無い。ただ、ツダサンチョーの子どもはニンゲンとして生まれでた。魔界の魔族には遺伝子を操作する魔法が使える者がいるという。】

 

 そしてツダサンチョーはアスカウの部族で過ごしていた頃、サイゴークから1人のニンゲンの孤児の少女を引き取り、弟子として置いていた。大層な美人に育ち、大きな乳房のせいで着太りしていたそうである。食いしん坊でもあったそうだが。

 

 ツダサンチョーはその娘にも手を出した。そうして産まれたのがウキトゥス家の祖となる男児であった。やはりニンゲンとして産まれたその子にツダサンチョーは魔法の多くを教えてサイゴークに向かわせた。大ウキトゥスと呼ばれた魔道士は、母の故郷でもあったイナーヴァニアに根を下ろした。それがウキトゥス流の始まりだった。

 

 それからウキトゥスの一門に英傑の血が混じった。暗黒卿・ツネーヒ=アルグレイブの娘が嫁入りしたのだ。サイゴークの覇王の後見を得たウキトゥス流はますます栄え、サイムラスとウラガモックといった他の流派を凌ぐ勢いを見せたのだが、ワケージュの事件で凋落してしまったのだ。

 

 この事実はヘラの出自に関わる。だが、イナーヴァニア王はヘラがいない時に、彼女に関係あることとは教えてならない、とイズヴァルトに諭した。

 

「知ってしまえばヘラさんは、パラッツォ教主になること以上の夢を持つかもしれません。できるだけ隠し通しましょう。教主様からもヘラさんの出身について、ゴール族だということ以外は聞かされていないと思いますが、そういうことですよ」

 

 しかしそんな血筋のことは、遠い昔の事である。ヘラ自身も興味が無いに違いない。そう思いながらもその夜、彼女と同じ里にいたというゴールを呼び出して訊いてみた。

 

「かくかくしかじか、でござるが、ヘラどのに話しても良いものでござろうか?」

「『姫さま』にはそこまで知らさなくても良いかと思いますよ。教主殿もいらぬ野心をキンキ大陸に抱いては困る、とおっしゃっておりましたし」

「で、ござるな。ヘラどのがなっていいのは、パラッツォ教の教主とイナーヴァニアの首席宮廷魔道士でござるよ。ホーデンエーネンの女王様はちょっと、想像がつかないでござる」

 

 そのヘラは、イズヴァルト達の思惑はおかまいなしだった。ゴブリンの里まで向かう途中、散発的に起こる戦いと男たちに情(セックス)をねだる時以外は、エレナとオリガたちとつるんで遊ぶことに夢中だった。

 

 ここのところヘラの顔が、いくらか子供っぽくなった。内心に潜んでいた無邪気さが面に出てきた。これを良い兆候だと司祭騎士団長は思った。生まれてこのかた、ヘラは同世代の子どもたちと仲良くなる機会に恵まれていなかったからだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 一行はとうとう、ゴブリンの里近くにまでやって来た。ミマカサル高原の中心部。山岳地帯に囲まれた森林地帯である。森を横断して流れる河に架かる橋の前で一隊が留まると、シャレットが馬車から降りて橋の前で呼びかけた。

 

「森の精霊の末裔にして守護者達よ! 我はシャレット=チャッチ。現イナーヴァニア王の10番目の妻にして汝らの末席にいる者ぞ!」

 

 腰に差していた二振りの小剣を道の上に置き、呼びかけを続けた。

 

「こたびは貴殿らのご助力をいただきたく、国王とともにここへ参った! 貴殿らが慕ってやまない聖騎士イズヴァルトもいる! 隠れていてもにおいでわかる。姿を現して我の呼びかけに応じてほしい!」

 

 すると、橋の向こう側からボウガンや騎兵銃を持ったゴブリン達がその小柄な姿を見せた。数は10名。鎖帷子をよろい、帽子のような簡素な兜をかぶっていた。

 

「求めに応じた! シャレット=チャッチ、我らが族長の孫娘よ!」

「しかしだ! そこには我らミマカサルのゴブリン達の仇敵がいるな!」

「たとえ人の肉を食わなくなっても、その血に飢えた獣のにおいはすぐにわかるぞ!」

「ゴール族はそこでとどめ置け! 橋を渡らすな! ここから先は、人食いの悪霊を討ち果たさんと欲する森の精霊たちの使いの領域ぞ!」

 

 馬車の中からやり取りを聞いていた、ヘラとゴールの戦士たちは憤りを感じた。ヘラと同じ馬車の若い戦士が、一番目を怒らせていた。

 

「ゴブリンごときに遅れを取るもんか!」

 

 彼は飛び出した。直後、シャレットが怒鳴り馬車に戻るよう命じたが、腰に抜いた剣をかざして橋の向こうにいる小さくてやせっぽちの亜人達を挑発した。

 

「やあ聞け! 俺こそイナーヴァニア家の近衛のゴール兵。ジェッキンソン=ステイサムその人だ!」

 

 ジェッキンソンはシャレットの静止を払い、橋の前に立った。馬車からイズヴァルトらが、隊列を囲んでいた騎兵らが彼のほうに集まってきた。

 

 これを加勢だと勘違いしたジェッキンソンが、右足を一歩前に出し、橋の板を踏もうとする。ゴブリン達が武器を構え出した。うち1人が大きな声で警告した。

 

「そこまでだ、ゴールのジェッキンソン! 橋を渡ろうとするな! 1枚だけならまだ許す。しかし2枚目を踏んだら最後、お前は輪廻の理に導かれるだろう!」

「黙れ『森人(もりびと)』! 飛び道具しか扱えぬお前たちに、このゴールの剛力を止めることはできはせぬ!」

「よせ! よせ!」

「笑わせるな!」

 

 ゴブリンや仲間たちが止めるのも聞かず、勇敢なジェッキンソンは右足で吊橋を揺らした。それから左足で一枚踏んだ。橋の両側から水柱が立った。

 

「おのれ、伏兵!」

 

 水柱を起こした者の正体は、両手に匕首を持った濡れた身体のゴブリン達だった。一気に突き抜けようと駆け出したジェッキンソンを橋の真ん中で取り囲む。馬車がやっと通れるぐらいの狭い吊橋だが、剣を振るっての戦いは十分にできた。

 

「ジェッキンソンどの! お下がりくだされ!」

 

 イズヴァルトが彼に向けて叫ぶ。イズヴァルトとシャレットは走り始めた。ジェッキンソンは前方のを切り裂く為に動いた。その時だった。

 

「うぐっ!」

 

 彼はつんのめって倒れた。甲で守っていたはずの右足首がばっさりと斬られていた。血刀を持つゴブリンが彼の右横にいた。川の中にもう1人潜んでいたのだ。その者は苦悶する標的の首をばっさりと切り落とした。

 

「……なんてことでござる」

 

 イズヴァルトは後悔した。もっと早くに気づいていたなら。しかし彼をもっと悔やませてしまう様なことが起こりつつあったのだ。

 

「ジェッキンソンさん……よくもッ!」

 

 その声はヘラだった。彼女は獄炎の凱歌から炎の刃を伸ばし、飛翔魔法で空高く飛び上がろうとする。が、しかし橋のさらにその先から突如として起こった一直線の紫電が飛来し、彼女の横を通り過ぎて思いとどまらせた。

 

「今の、何ッ!」

 

 カイロネイア=エルフの得意技、紫電砲だとイズヴァルトは気付いた。橋のその先に1人の褐色の女エルフが姿を現したことに驚いた。

 

「むっ、貴殿は!」

 

 さて、ヘラに雷の魔砲でもって脅し、さらなる被害を食い止めようとしたエルフは何者だったのか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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