聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「オルフレッドとスカルファッカー家に関わる件は今後、抗弁などしてはならぬ」
国王からその通達を受けたマイヤは、憤りをこらえきれなかった。ナントブルグ城下にあるマイア=テクニカの事務所よりオルフレッドとオットーと共に馬車で王城に入った。
セイン王は自室でチェスの見物だった。弟のジューンショーンとわが子のジョーケインのである。叔父に親切丁寧にやり方を教わっている息子にあれこれ助言をしていた。
「ジョーケイン。女王や騎馬の駒ばっかり使うんじゃないぞ。兵士の駒も動かすんだ」
「はい、父上!」
「どうやって相手を詰みに行くか考えろよ。王さまの駒を封じりゃ勝ちだ。丸裸にしたり隅に追い詰めるとか、いろいろあるからな!」
「はい! 承知しました!」
ジョーケインは素直だった。まだ4歳だがゲームのルールを覚えるのに熱心だ。将来が楽しみだと父は思った。叔父も利発そうなジョーケインとなにかと気が合ったので、いつもべったりだ。
和気あいあいとしていた中にマイヤが怒鳴り込んできた。面倒くさそうにセインが彼女を見た。
「わからないわ! どういうことなのこれは!」
怒鳴るマイヤにオルフレッドも同調して尋ねた。
「どうしてアナキン=スカルファッカーの言い分を通すんですか、陛下!」
マイヤよりも親しい、弟分のオルフレッドに問い詰められると、セインも流石にむげに追い払えなかった。
「まあつまり……シミとキーラが死んじまったからこの話、もう聞かねえことにしような、ってことでケノービのやつとケリをつけたのさ」
「とはいってもマイヤおばちゃんは無いことを言われたんですよ! 侮辱ですよ!」
「……そりゃわかるさ。けど、マイヤとお前はケノービやアナキンよりも位が上だ。何故って、王族なんだしな。上にいるもんが下の連中のしょうもねえ嘘についてぶっ殺す、とかいきり立ってたら身が持たねえよ」
マイヤがきっと睨んだ。
「……怖い顔すんなよ。アナキンは多分、嫁さんを失ってすげえ悲しくて狂っちまったのさ。おめえがあんな意地悪をしたなどとは思ってもいねえよ? けど、悲しくてたまんねえ奴は、ろくでもねえ間違いもしちまうもんさ」
セイン王はマイヤの眉間からオルフレッドの顔に視線を移した。しばらくじいっと見て、それからマイヤに呼びかける。険しい声で。
「おめえにだってあるだろ?」
「……その目、なんですか?」
「そろそろ気づけよ……噂になってるよ。くっつきすぎだよ。トーリを困らせるようなことすんな。イズヴァルトが戻って来た時に胸張って出迎えられるようにしろ。サキュバスの子孫だからって容赦はしねえよ。お前がカツランダルクの一家の、大黒柱になったんだからな」
何を言われているのかがわかったマイヤはうなずく。これ以上、事を荒立てるつもりは無かった。オルフレッドとの関係が周囲に知られている。自分の評判なんぞはとっくに地に落ちている。そこはもう気にしていない。
だが、そのことで周りからは勘ぐられたようだ。オルフレッドをスカルファッカー家の跡継ぎにするという野望を抱いていると思われている。もちろん、そんなものはマイヤの心の内にありはしない。重要なのは土地ではない。そこから得られる
(スカルファッカー領なんて、今のオルフレッドくんには不要だよ。)
オルフレッドはオルガスムナと、アスカウ=タカイチゲンシュタットの領地を得る。オルガスムナはしばらくの間、となるが、領内のマイア=テクニカの工房からの税は実質的に、トーリとその遺児に入るようになっている。
オルガスムナの次の領主が立てられたら一部をそちらに引き渡すつもりだが、大部分はマイヤとシュミット家の懐に入るのだ。収入はそんじょそこらの大貴族がよだれを垂らす程もある。オルフレッドはシュミット家の長男だから、一番多く配当が来るはずだ。スカルファッカーの領主よりも豊かになる。
(けど、くだらない想像をする人たちもいるんだな、ってことは気にしないと。)
公式の文書でスカルファッカー領への願望は無いことを伝えよう。部屋に戻ってからマイヤはオットーにその一式を書かせた。オットーは筆達者だったからものの10分で終わらせた。
「しかしマイヤ、こんなのでこの国の貴族たちはわかってくれるのか?」
「いやいや、わからせるんだよ、オットー。私には王族というネームバリューがあるんだもん。それはとっても心強い武器なんだよ?」
「……まあな。しかし油断はならないと思うが」
「私、謀略を考える頭は持ってないよ。良ければオットー、考えといて?」
書面を受け取ったマイヤの義手を見て、オットーは考え込んだ。彼女をこのような姿にした謀略に、間接的には手を貸したが悪巧みに関する知恵は足りない。
(アドルフ様なら。どこをどう抑えるべきかと助言してくれただろうな……)
でもそれは、笑みを浮かべながら黙読するマイヤに向かって言えないことだ。
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それから3日後、ケノービは『蟄居中』となっているアナキンの館を訪れた。謀議をする為にだ。ケノービは領地で作られた一番上等な酒を持って来たが、館の主は受け取るだけで口につけなかった。
「ところで、いつも何をして過ごしている?」
「剣の稽古や亜人達が教えてくれた魔力の鍛錬ですよ」
「……こういうのか?」
ケノービは右手を上げ、人差し指の先に小さな炎を灯した。これを1時間、2時間続ける。カヅノ=セイジが教えてくれた訓練法だ。魔力は使い切る経験が多いほど、それを貯める『器』が大きくなるそうだ。
「やってますね。そういうのです」
「ちなみにお前がやるとどうなる?」
「……そうですね、これぐらいは」
アナキンは印を切った。彼の頭上に炎の環がいくつも現れ、重なり合って球状となった。鞠と同じぐらいの大きさ。玉の数は3つだ。良く見れば環は回転し続けている。かなり高等な『お遊戯』だ。
「ほお……すごいな!」
「アドルフ様はこれを、10個も作ってみせましたよ。しかしお体が弱く、魔力が尽きるまでは出来なかったそうです」
イーガにいる魔法達者なエルフが、アドルフと同じぐらいのことをやれるという。つまり、健康な身体だったら、とんでもない大魔道士になれたというわけだ。ケノービは残念でならなかった。もう1年長く生きて、弟を導いて欲しかった。
「ところで兄さん、この次はどうするんだい? マイヤは手を引いたんだろ? オルフレッドが不満を覚えるだろうから、仲違いをさせるのか?」
「オルフレッドは使わん。仲良しにさせたままにする」
ケノービはスパイらにマイヤとオルフレッドの周囲を探らせたが、2人が話し合っても言い争ってはいないという情報をつかんでいた。マイヤがやさしくオルフレッドをなだめているという構図らしい。
「今も、極めて仲が良いそうだ。朝から晩までべったりらしい」
「甥と寝るなんてよくわからないよ……」
「それを言うなら、叔母と寝るなんて信じられん。が、たった7歳しか違わん。こういうこともあるのだろう」
ケノービは小さな頃のマイヤを思い出した。あの時は少年騎士イズヴァルトのお付きの、庶民あがりの幼い侍女程度としか思っていなかったが、可愛らしさやフェラチオのテクニックは評判どおりだった。7歳なのにいろんな男のものをしゃぶっている、という事実に気持ち悪さも覚えていが。
「で、どうするんだい?」
「しばらくはこのままにする。放っておこう」
「どうして?」
「放っておいてもマイヤは勝手に傷ついてくれるだろう。ナントブルグの貴族たちに、あれこれと想像させる時間を与えるのだ」
マイヤとオルフレッドの仲がそのままならば、時間が経てば彼女達をますます疑う者が増えてくる。それとマイヤはイズヴァルトを『捨てた』ことで国民からの心象はきわめて悪い。
オルフレッドに関わる出来事をケノービは、『しもじも』にもちゃんと流布するように仕込んであった。イーガの王子の妾になっただけでなく、甥と姦通しているともなれば、いよいよ評判はガタ落ちだろう。
「しかし、どうしてあんなに賢い女が、自ら首を絞める真似をするのだろうな?」
「四肢を失ったのと、健康を害しているからではないでしょうか。ヨーシデンやマイア=テクニカの事以外を考えるいとまが無い、というのも」
「つまりは、生き急いでいるというわけか。ならば余計にやりやすい。あの『おしゃぶりだるま』を葬る計略を進めていこう」
そう言ってケノービは酒が入った杯を傾けた。ああ、旨い。そうつぶやいて目をつむる。
生き急いでいるのはマイヤだけでなく彼も同じだ。父と妹達を事故を装って殺害した。決断したのは彼だった。天下を取る、という野望のために、彼は弟を巻き込んで、もう二度と戻れない道を走り始めていたのである。