聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
シギサンシュタウフェンまでの旅について。ジェイムズたちはおおよそ、9日後に到着する予定となっている。
まずは王都を出発。2日かけてヤマート大河沿いにあるアスカウの宿場町へ。そこでマイヤがヨーシデンの『後継』にしたザーチャとディークが加わり、シギサンシュタウフェンへと向かう。
但し、ここでマイヤとジェイムズらヨーシデンから来た面々は分かれる。マイヤは同行するオルフレッドとタルッホ=ユッキカル、一部の侍女らと共に一番の近道である北街道を通ってシギサンシュタウフェンへ向かう。
ジェイムズらはマイヤの家宰のうち1人と残りの侍女らと共に南街道へ。ザーチャとディークはそっちに同行する。
南街道は迂回ルートである。アスカウ領をだいぶ通過する行き方だ。3泊ですむところを6泊する。これには目論見があるらしい。未来のヨーシデン公と交流を深める為にだ。今後、この2人は彼等の世話になるだろうから、というマイヤの考えからだった。
彼女は口に出さなかったが、ヨーシデンの今後のことについて、いろいろと思うところを進めようとしていた。自分の余命が心配だったからだ。
働きすぎると血を吐いてぶっ倒れるし、おちんぽミルクを摂取しないと体調がものすごく悪くなる。マイヤの健康状態はずっとその状態だった。そんなに長くは生きられないだろう。
なので、甥2人には領地の関係者とコミュニケーションをとらせたい。ジェイムズらはマイヤの思惑というものをアスカウで知らされる事となった。ザーチャとディークが勉強道具をぎゅうぎゅうにつめたかばんを背負っていたからだ。
それからアスカウを出発し、馬車に乗りながら、途中の旅籠で身体を休ませながらの子供達への講義が為された。とりたてて頭がいいとか思覚えが早いというわけではない、凡庸な少年達だが一生懸命に話を聞いてくれた。政治に何ら関わりが無い、ジェイムズの大工や建築の話でさえも。
「とりあえず、私から今日お話しできる事はここまで、ということでよろしいでしょうか?」
ジェイムズの宿部屋で、イナーヴァニアの家屋について1時間ほどレクチャーしたのだが2人は食い下がった。幼いディークが目を輝かせる。
「ジェイムズさん、もっと話してよ?」
ザーチャも興味津々だ。
「雪深いところの屋根についてもっと知りたいです。イナーヴァニアの家はどのような造りになっているのだとか」
「私の故郷ですか……」
イナーヴァニアの彼の故郷では屋根を高くするようになっていた。雪が多く積もる土地だったからだ。
「屋根はとても高く、傾斜をつけておりました」
「どのぐらいですか?」
「それはもう槍の穂先みたいにとんがらせておりましたよ。そうすると雪が屋根の上に積もらずに、すぐに下へ落ちていくんです」
「建てるのにお金がかかるんじゃないの?」
ディークが不思議そうに尋ねると、彼は村の住居について語る。できるだけ大きな家にして、何家族かが一緒に入居する。炊事場は共同で鍋や食器の貸し借りもしょっちゅうあった。
「喧嘩とかはあったのかな。みんな仲良くしてたの?」
「たまーに喧嘩はありましたが、仲良くやれていたと覚えておりますよ……ついでですが、夫婦の営みの声が物凄かったですね。それから、女の人はお二人のお母さまみたく、他の旦那さんや子供さんとこっそりと浮気をしていましたよ」
ディークはきょとんとしていたが、ザーチャは顔を赤らめた。その話はいいから、とザーチャが促す。とはいえ彼は実際に体験済みである。その手の話がこっぱずかしいだけだ。
「こほん……そういう家ですが建てるのが結構難しいため、ドワーフやゴブリンの大工のお世話になっておりました。彼等がいないと建てられませんでしたね」
ジェイムズは亜人の大工らにいろいろと教えてもらった。留め金に使う釘などを強化する冶金魔法もいくつかだ。あいにくそっちはあまり見込みが無かったので、彼は木を削って石を積み立てて作る仕事に専念した。
サイゴーク、特に雪が積もる寒いところは、こういう亜人たちと交流をやらなければやっていけない。ついでにジェイムズは、父方の曾祖父あたりがドワーフの血が混じっていると語った。肩幅がやや広いのはそういうことだ。イナーヴァニア人は混じりっ気が多い民族だとも語った。
「ザーチャ様もディーク様も、お母さまみたくサキュバスの血を継いでいるわけですよ」
「サキュバスはやだなあ。どうせならオーガやジェイムズさんみたくドワーフがいい!」
「いやいや。サキュバスは事務屋としての才があるらしいですよ。ベッドでの技巧はおろか、机仕事も得意なそうで。そういう才能も世の為人の為に役に立つものですから、お二人は亡きお母さまがくれたものを大事になさってください」
それからいろいろと話をしてから2人は帰った。もう寝る時間だから自室に戻って寝るだけだが、アスカウを出発してから2日目で大きな変化があったと同僚達から聞いている。ルイーダとリッカの2人が兄弟とべったりになったのだ。可愛らしい喘ぎ声も聞こえるそうである。
(子供は子供同士、というわけだ。)
ジェイムズもあの少女達のお世話を受けたが、どうもしっくりこなかった。色街の娼婦みたく馴れていたからだ。陰唇と肛門の形も崩れていたが。相当ひどい環境に置かれていたらしいと思った。となればマイヤの侍女という仕事は、天国みたいなものだろう。そうあって欲しいものだが。
ベッドに寝そべり、少しだけ眠る。ほんの2時間ぐらいだった。誰かに呼びかけられる気がしたのを覚えて目を醒ました。
(さて。出かけるか。)
廊下に出た。この時間なら、同行者らはマイヤの侍女たちとおさかんの最中だった。床板がきしむ音がとてもやかましい。きっとやかましいだろう声は魔法で外に漏らさないようにしているが手抜かりをしている。
ザーチャとディークの部屋の前にいくと、話を聞いていた通り愛らしい交歓の声が続いていた。幼いディークもちんちんを用いた女の子とのお遊戯を知ってしまっているとうわけだが、自分もあのぐらいの歳にいろいろとやったから、と考えてジェイムズはたしなめないことにした。
外に出て宿場の通りから南へ向かう路地を抜けて林に入る。真っ暗なその中で待っていた。寝ているジェイムズに念話魔法で呼びかけた者だ。褐色の肌の男エルフ。ソゴプールのエルフ族だ。
「連絡役はアンタだけか?」
「そうだよ。で、マイヤはどのあたりにまで来ている?」
「夕食前に聞いた話だが、シギサンシュタウフェンの手前辺りらしいな」
北街道のそのあたりは、ほぼほぼけもの道みたいなものである。付近にあるのは木こりの村だ。とはいえ宿ぐらいはあるだろう。
「2日でそこまで来たのかえらく速いものだ。まあ……」
アスカウに発つ前日、事前にどこへ向かうかジェイムズ本人に教えてもらった。逃すことは無いだろうが、と言ってそのエルフはほくそ笑んだ。
「そっちの段取りはどうなっている? 襲うなら今夜が一番絶好の機会だろう?」
「すぐに伝えるよ。情報網は張り巡らせてあるし、何より、エルフの念話魔法を舐めて貰っちゃ困る。そう簡単に傍受はできん。下っ端のサキュバスどもじゃ、魔力の揺らぎさえも気づくまい」
「頼りになるやつらだ。期待しているよ。それで……」
サキュバス以外の追跡者はいないだろうかと小声で問う。これまで2度でくわした、と彼は答えた。
「ニンゲンの魔道士だ」
「……もしかして、イーガのか?」
「安心しろ。どいつも葬った。ニンゲンにしてはかなりやれる連中、という評価だ。が、魔道騎士団卒の手ごわい奴らじゃなかったみたいだ」
気づかれぬうちにさっさと戻れとエルフはジェイムズを促す。彼の姿が見えなくなると、遠く離れた連絡員に通信魔法で伝えた後、気を張り詰めながらあたりを見回した。この林の、もっと南のほうにいるようだ。向かってくる。
(気づかれたか。今度のは手ごわそうだ。)
彼は逃げなかった。闇の中を走る。狙いに来ている相手の顔を見ようと思ってだ。