聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
自分を毛嫌いする子孫を、どうしても心服させたい。どうすればいいかとツダサンチョーは考えた。男に抱き上げられ、精液のにおいをぷんぷんとさせているマイヤを見る。
少々太り始めてはいたが、細い類の身体である。そのくせに100センチ以上ありそうなバスㇳと、それに負けぬぐらいむっちりとした尻と太もも。
(……財布だけじゃなく身体ものにしたい。)
飼ってやろう。そう考えながら、不穏なものを感じて睨みつけてくる子孫に提案してみた。
「そうだ。君の前世の世界に行ってみないか?」
「……ん?」
マイヤはきょとんとなった。それはどういうことだろうか。
「だから前世の世界だよ、ぜんせ! わっかんねーのかよ?」
「えーと、えーと……ぜんせ?」
マイヤはいまだのみ込めなかった。だが、聞いていた魔竜は慌てていた。魔族はともかく、この世界の住人を異世界へなどとは、律法で禁じられていたからだ。神との取り決めにもあった。特にニンゲン種は要注意だった。よからぬ菌やウイルスを保有しているからだ。
「あんさん、そないなこと駄目にきまとっりまんがな! 普通の人間に『扉』をくぐらせるなんて、ご法度やありゃしまへんか!」
「ふふん。ボクは魔界の大貴族だぜ? ちゃんと権限があるってのわかって言っているのかね?」
相手は自分より立場が上なのに、ツダサンチョーは強気だった。こいつは魔王と自分が手強いと思っている相手以外、下に見る気が濃かった。魔竜は「俺より格下」と見なしていた。実力は魔竜のほうに軍配があがるのだが。
「異界層転移、つまりは『扉』の法律に書かれていることからは外れないさ」
ツダサンチョーはその法令の条文を引き合いに出した。
「第5条に、大貴族は特別な理由があれば、自由に異界へ出入りすることが可能である、とあるよね?」
「そりゃそうやけど。特別な理由って、あんさん……」
「査察さ。お役所への書類は後から出せばいいさ。それと、このマイヤはボクやあのお方の子孫なんだろ?」
(あのお方って……?)
マイヤは疑問だった。どうして名前を言わないんだろう。彼女はその名前を知っていた。姉と彼女に従っていたサキュバス達が書き残していた日誌で知ったし、魔竜の口からも聞いたのだ。
「だったら、『先祖返り』を起こして魔族になることがあるだろうさ。こいつら『ゆうしゃ』どもの精液を食らわせているのもそういうことだろ?」
『ゆうしゃ』の体液にはそこそこの魔力があった。中級魔族のそれと同等だ。それを浴び続ければマイヤは『先祖返り』を果たすだろう。いや、少しずつだが始まってもいた。瞳の色にあらわれていた。
彼女の瞳は、そもそもが深い紫色だった。今はその輪郭がうっすらと、赤紫に変わっている。彼女の魔力回路の荒廃ぶりと、魔力蓄積の許容量の無さとでかなり時間がかかると思ったが、案外早くにいけそうだった。
5年のうちにやればできるだろう。魔竜は推察していた。これは今のマイヤから想像すれば遥かに早い。病気はもはや治りつつあった。何せ魔王の一族の血を引いている。特別待遇だ。
「どうだい? 前世の世界、行ってみたいだろう?」
「……その代わり、マイア=テクニカの経営権を全部よこせとか、イーガ王国の特別待遇枠をちょうだい、とか言ってくるんでしょ?」
「イーガはやだよ。あいつら捕まえにくるんだもん。ボクを解剖して魔族の身体がどうなってんのか調べる為にだろうね。あとは魔族の魔法術式を調べる為にとか。イーガとカントニアはお断り、だよ」
カントニアだとミナッカミニア地方は行きたくない、とツダサンチョーは震えながら言った。この世界での『任期』が終わる前あたりに、ウマヤーノをたびたび訪れていた。理由はわるいことしてお金を稼ぐ為にである。
おおよそ30年近くを、『地下経済コンサルタント』として、ウマヤーノ地方の売春構造や闇経済の発展に寄与した。特に売春の仕組みである。能力の低いハーフエルフの女を増やすように提案した。
エルフは基本、セックスの快感はニンゲンよりも強かったが、貨幣価値を感じていなかった。そこらへんにある木の実を拾ってかじる程度の価値だと思っていた。
そこでツダサンチョーは、ニンゲンとエルフとの間の娘に目をつけた。特にヌマタラシュク派の男とニンゲンの貧民階層の女との間の子は、とてもじゃないが大成できないものばかり。
事実、そのように産まれた女は売春で稼でいた。ハーフエルフの娼婦は飽和状態に近かった。だが、その頃はまだ、娼婦の数が多いから値段が下がるということは無かった。それをツダサンチョーは、とんでもない安値で買える構造にすれば、貧乏な男の鬱憤もおさまるので社会も落ち着く、などと吹聴して、社会の仕組みを変えさせた。
そうしてウマヤーノに、銅銭1枚でハーフエルフの女を抱ける世界屈指の安価な売春市場が産まれた。事実、ウマヤーノ地方ではほとんど、反乱や騒乱は起きていない。ガス抜きができているからだ。餓死者はいたが。
そうしてツダサンチョーは、ウマヤーノでちょっとした有名人になった。気を良くした彼は、カタシナシュフ一派の族長が『お婿さん』を募集していた話を聞きつけ、種付けしてやろうと入り込んだ。
「で、カタシナシュフのキファニアに会う前に、そこら辺の女とイチャイチャしてたんだけど……」
エルフの里である。ツダサンチョーは当然、彼女たちから可愛がられた。しかしそれが運の尽きだった。
「族長の姉だというガキんちょに目をつけられたんだ。勝手にケチをつけられて、ガチボコにされたってわけだよ……」
そいつは風呂に入っている時に襲いかかってきた。魔封じのちからを持つ匕首を持って、圧倒的な力でツダサンチョーを打ちのめした。里のエルフたちを啼かせたちんぽと金玉をもぎ、穢い瓶の中にぶち込んで血だらけになって倒れる彼に、投げつけたという。
「……カタシナシュフでなにをしたの?」
「何もしてないさ。言われのない暴力だったよ。強力な精霊魔法の魔封じおかげで、ちんちんときんたまを元通りにするのに5年もかかったよ。本当にひどいことをやってくれたもんだよ、マリベーラっていうあのクソアマは……」
そういうわけで、少しぐらいは同情して欲しい。そのついでにたくさんのお金をくれたら、お礼として前世の世界に連れて行ってあげよう。
「マイア=テクニカの株か債券の10%ってのはどうだい? 5%でもいいよ」
「う〜ん……」
「そんな話、聞き入れてはあかんで、嬢ちゃん」
魔竜はツダサンチョーに言った。
「ツダサンチョー。あんさんが嬢ちゃんにやってあげたいことしてもええで。でも、そのお礼はあたしが払うで」
「へええ……お礼って、どんなのかい?」
「あんさん。魔界でのお仕事外されたばっかやろ? この世界でお仕事任せるでえ。あたしの片腕や。それが報酬や。これは絶対やで?」
しくじった、とツダサンチョーは思った。調子に乗りすぎた。魔竜の片腕となればかなりの権限を貰えるが、それは『監督官』としてのだ。もらった財産で商売するのだってままならない。
しかも魔界の王族の「絶対に」という言葉は、大勢の魔族にとって強力な拘束力が働いた。それを言われたが最後、従わざるを得ない。
(でも、まあいいか。)
いくらだって抜け道があるだろう。ツダサンチョーはそう考えていた。マイヤを心服させ、その子や孫を籠絡して自分の思い通りにだってできるはずだ。まずは彼女からの信頼を得よう。
「よし! では準備を整えたら行こうじゃないか! マイヤ=カツランダルク、君の前世の世界への旅は、最大2年までやれるからね。さあ、いつ頃まで居続けようか?」