聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
準備できる最強の『ゆうしゃ』。それが来るまでおまんこでもしながら待っていろ、と言われたイズヴァルトだが、久方ぶりの接戦と流血を経験した彼はじっとしていれなかった。
試合場の片隅で、さっき戦った拳術士に技を教わることにした。正拳突き。回し蹴りに肘と手刀を用いたカウンター技の練習を。
「あーあー、ちょっと勢いが強すぎだよ。正拳突きはもっとゆるーく、のっそりとやるんだよ」
「そ、そうなのでござるか? 力を込めて相手を殴りつぶす、そういう教えられ方をしたでござるが?」
「いやいや。これは鍛錬だ。拳と腕に闘気を込める為のな。そいつに意識を置く練習ってのはな、ゆっくりやるのがいいのさ。まずは集中。それから突きだ」
拳闘士が言う方法でイズヴァルトは繰り返した。最初の頃は腕に気が籠らなかったが、繰り返すうちに段々と実感が伴った。己の拳と腕をまとう闘気をだ。
「そうそう。その調子。慣れてきたら徐々に速く突け。もちろん、今の腕の感覚を保ったままだ」
「わかったでござる」
「俺のお師さんはこの正拳突きの練習を1万回。1回ごとに祈りながら朝から晩までやっていた。まあおれは5000回ぐらいしかせんのだがな……お師さんは世界一の『拳聖』と謡われていたよ」
イズヴァルトの練習を見守りながら『ゆうしゃ』は言った。その師は自分に究極の奥義を伝えた後、単身で魔王城に乗り込み、敗れた。
「たった一人ででござるか……」
「だから、負けて死んだんだ。でも俺は魔王に打ち勝った。自分が未熟者だってわかっていたから、仲間を集めたんだ」
ここにいる『ゆうしゃ』たちは、たった一人で偉業を成し遂げたのではない。仲間達に支えられて大きな試練に打ち勝ったのだ。いくら強くても一人ではどうにもならないことがある、と拳闘士は言った。
「だから、『ぱーちー』というものを組むのでござるな」
「パーティだよ。お前は一人でやりたがりそうな気があるから忠告しとく。絶対に孤独になるなよ、目指すなよ?」
最強と呼ばれる者はえてしてその様なやり方を選んでしまう、という拳闘士の忠告を受け、肝に銘じながら正拳突きを続けた。200回、300回と繰り返した頃に、ポコリーヌがやって来た。
「えへ♡」
何故か顔がゆるみきっていた。それもそのはず、このたぬきの女獣人はイズヴァルトが放つ男のにおいに発情していたからだ。上半身裸で鍛え抜かれた身体は汗で濡れ、冷たい外気のせいで湯気が立っていた。
「えへ♡ えへへへ♡」
「……ポコリーヌどの。へらへら笑っているだけではわからぬでござる。何か用事があってここに来たのでござろう?」
「……はっ! そうでした!」
たぬきのそれそのもののしっぽをふりふりとしながら獣人は伝えた。最後の相手の準備が整った。
「で、ござるか。今度はどんな『ゆうしゃ』でござるか?」
「『ゆうしゃ』じゃありませんよ。でも、今度は手抜かりはできませんよ。この街での最強の剣士ですから!」
しかもその相手からはこんな注文があった。『獄炎の凱歌』は禁止のままだが、イズヴァルトが持ち歩いているミスリルの大剣で戦っていい。もちろん、あたればただ事じゃ済まなくなる鋭利なグレートソードである。
「……えらく大きく出たでござるな?」
「そのぐらいとんでもない実力の持ち主だということですよ。さあ、この布で汗を拭いてください」
ポコリーヌは手に持っていたタオルをイズヴァルトに渡した。彼が上半身の汗をぬぐうと素早い動きでひったくった。
「こ、これ、わたしが洗っておきますから♡」
「何から何まで済まないでござる……が、どうにもたぬきくさいでござるよ? スカートからぷんぷんと漂っているでござる」
「あは♡ あははは♡」
指摘されたポコリーヌはぴゅーっと走って去ってしまった。そのタオルのにおいを嗅ぎながらまんずりをする為に便所へ向かったのだ。その慌てぶりにイズヴァルトは首を傾げた。
「……変な娘さんでござる。いつもああいう感じでござるか?」
「お前さんに発情しているんじゃないのか、あの魔族は? 獣人はかなりなつっこいぜ?」
「残念でござる。もうちょっと『たぬき』そのものでござったら、あごのところをくすぐったり致したでござるが……」
そういう意味ではない、と拳闘士は言ったが何の事やら、とますますわからぬイズヴァルト。今度は特別観客席のツダサンチョーが彼の名を呼んだ。
「いつまでだべっているつもりだい! もう対戦相手は入口から出たんだけど!」
イズヴァルトは振り向いた。飛んで来たヴァネロペからミスリルの大剣を受け取った。対戦相手を見る。
身長は164ぐらいで肩は狭い。ぼさぼさの茶色い髪で動きやすい旅人用の服の上に、上半身だけを守る簡素な革の鎧をまとっており、両方の手に黒い刀身の不思議な剣を携えていた。
「むむ。あの御仁は……」
瞳孔が大きく開いた。見覚えがある顔立ちの若者だったからだ。近づけば近づくほど何故か、懐かしさがこみあげる。相手が微笑んだ。
「よお! 久しぶりだねイズヴァルトさん!」
「き、貴殿は……!」
イズヴァルトの頬に涙が伝った。長い、10年ぶりに見たあの少年だと思い、近づいて抱き上げようとしたが、ツダサンチョーはいささか無遠慮だった。
「最終試合、始め!」
その若者がとっさに動いた。真正面に突っ込んでくる。脚が速い。たちまち間合いが詰められた。彼の右手が握っていた刃が斬りかかって来た。
「名乗りもせずでござるか!」
イズヴァルトは大剣を鞘から抜いた。刃を弾く……はずだった。
「……!」
いつの間にか相手の姿が目の前にいなかった。気配。真上から。刃の切っ先が頭を狙っているのを感じ、身をすくめた。
着地の音。背後からの一撃だ。くるっと回って今度こそ剣ではじいた。相手はにやりと笑っていた。
「やはり、そう簡単に斬られてくれそうにないね、イズヴァルトさんは!」
「ブライアンどのこそ……!」
その若い剣士はブライアン。ブライアン=スエッツァーといった。世界一の剣豪を夢見ていた少年だった。イズヴァルトと元侍女がまだ少年少女の頃、亡き師の形見を返しにヒッジランドへと向かっていた途中に出会った、オーキ島の宿屋の息子の成長した姿であった!
「ここからはアゲていくよ!」
「望むところ!」
イズヴァルトは大きく退いて大剣を右手に持って腕を伸ばし、斜め上に大きく掲げた。長い大剣と長い腕を用いてリーチを伸ばす為である。相手が鎧を着ていない時に使う剣法だ。しかし彼の片手斬りはなまくらの鉄刀でも、鉄の肩当てを切り裂く威力があった。ミスリルの剣ならなおさらだ。
対してブライアンは二振りを持った腕をだらりと垂らしている。隙を見せて誘い込むつもりだ、と思ったイズヴァルトは警戒した。しかし勝負を決めるチャンスでもある。
ブライアンは大きく深呼吸をしながら、両腕を挙げて頭上で刃を交差させた。突如、彼の腕と剣が増えたように見えた。8本の腕と黒い刃が目の前に。
「……目の錯覚でござるか! そうでござろう!」
何か手妻があるかもしれない。それを誘い出す為にイズヴァルトは動いた。直線的な突貫でもって相手の動きをうかがう。剣を持つ腕は右上にあげたまま。ブライアンは動かなかった。その切っ先がブライアンを狙えるところまで来ると、それが大きく振りかぶった。
「……なっ!」
残像、と思っていたが違った。皮膚をほんのちょっとかする程度だが生えたぶんだけの斬撃がイズヴァルトの身体を襲った。斬られる痛みを覚えながら彼は身をひねり、避けながら威力を削いだ。あまりにも近づきすぎて、その方法しかとれなかった。
「油断しすぎだよ、らしくない!」
腕が2本になった。右肩に鋭い痛みが奔った。ブライアンの左手の剣の切っ先に抉られたからだ。
「……くっ!」
イズヴァルトは身構えた。左手で素早く印を切った。ブライアンの足元に魔法の力場が生じた。『覇王の剣』から学んだ重圧の術式で、金縛りにしてやろうと企んだからだ。が、しかし。
「とっくに見切られているよ。オイラの『予見』の力にね!」
ブライアンは右腕の剣で自分の足元を素早く斬り払った。あろうことか魔力の力場は一瞬にしてかき消えた。もう少しでブライアンを抑えつける力が発動していたのに。
「その件、魔封じの力がござるのか!」
「そうさ、魔界の剣でね! オイラはろくに魔法が使えないからこれを貰ったのさ!」
その二振りは、魔界の一般兵士が持たされる剣だというが、あなどること無かれ。魔力の力場を切り払う魔殺しの力が備わっていたのだ。
ブライアンはこの二振りを、右は『トシゾウ』、左のを『ソウジ』と名付けていた。どちらも異界の、彼の前世の世界の著名な剣士の名前から頂いたものだった。
「……魔剣には魔剣をでござるか! しかし!」
戦いの中に身を置いた自分に根競べで勝てるか、とイズヴァルトは意気込む。けれどもこの二刀流の剣士、未来の『剣聖』の異能と才は、イズヴァルトの想像を遥かに超えていた。
「……なぜ!」
いつの間にかブライアンは彼の懐に入り、右腿を深く斬り裂いていた。骨までには達しなかったが試合続行は難しかった。治癒魔法をかける隙が無かったからである。左手の黒い刃が喉元に突き付けられていたのだ。
「ちょっとでも動いたらぐさりと行くよ? オイラは非力なほうだけど、この剣はとんでもなく鋭いんだ」
「……わかった。負けでござる」
イズヴァルトは剣を投げ捨て、それから膝を付いた。ツダサンチョーは声を張り上げ、ブライアンの勝利を皆に伝えた。
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「ふえええ。いきなり本気でかかってくるのはひどいでござるよ?」
控えの部屋でイズヴァルトは、オクタヴィアとヴァネロペに治癒魔法を施してもらいながら、抱きすくめたローラと背中に飛び乗っていた2人の娘に、かわいちょかわいちょ、と声を掛けられながら頭を撫でられていた。
「あははは! でも本気の殺し合いだったらイズヴァルトさんが勝ってたと思うよ? どんな手だって使うだろうからね」
これは武芸試合だから自分は勝てたのだ、とブライアンは慰めをかけた。手にボロ布を持ち、試合で剣についた血を拭いながらだ。いかに魔界の剣とはいえ、手入れを怠ると切れ味が鈍ってしまうのだ。
「しかしブライアンどの、どうして魔界の剣を?」
「あのくされホビ……じゃなかった、ツダサンチョーさんの会社の社員さんとして雇われたのさ。そこで働くサキュバス達のおまんこのお世話係としてでね。オイラ、こんなやせっぽちでも日に10回は射精できるんだぜ?」
そう言って剣を鞘に納め、隣にいたヴァネロペの腰に抱き着いた。彼女はふくれっ面でその腕を押しのけた。馴れ馴れしいのはきらい、と小さな声でつぶやいた。
「あんまり……好かれていない様子でござるが?」
「まあ、ヴァネロペは吸精の時以外はこんな感じだよ。オイラがいつも相手をしているのは他のコたちさ。今日は遠くにいっているから、また今度紹介するよ……いひひひ」
そのサキュバス達は自分のちんちんにまとわりついてばかりだという。特に首ったけになっているのは一際かわいい三姉妹で、その一番上のとは恋仲であると語った。
「で、イズヴァルトさんが『ゆうしゃ』になったら、オイラと一緒にそのコらの面倒を見てもらいたいってわけだよ」
イズヴァルトは苦笑し、オクタヴィアが舌打ちした。
「ますます、おらのイズヴァルトさんが遠のいちまうずらな……」
ふてくされたエルフにブライアンが近づき、その顔をまじまじと見てささやいた。
「だったら、オイラといちゃいちゃする仲になる?」
「たわけ。サキュバスのできそこないくっせえにおいがするぼうずと、気安く仲良しこよしはしねえずらよ?」
「結構好みなんだけどな。おねえさんみたいなタイプって」
「色ボケ過ぎなぼうずはお断りずら。ちんちんがいらいらしっぱなしだったら、便所でとっととシコってくるずら」
オクタヴィアはスケベだが、最初から馴れ馴れしい男は好まなかった。特に軽薄な感じがするブライアンみたいなのは苦手だった。
「ちぇっ。だってさ、ローラさん」
「そりゃあそうですとも。わたくしも馴れ馴れしい殿方は少々、御遠慮いたしたいところでございますな」
「なーんだよ。あんただってオイラに負けず劣らずのくせに。まあいいか」
それよりも気がかりなのは、ツダサンチョーの胸の内である。イズヴァルトは試合に負けた。つまりは第二次試験は合格に至らなかったわけだ。とはいえ手加減をしてわざと負けたら無効試合になっていただろう。ツダサンチョーは特例をよく赦すが、その代わりにあらかじめ決めていた事はきっちりだった。
「さて、ローラさん」
「『社長』が納得する再試験を、ということですな?」
「もう一度、ブライアンどのと勝負でござるか?」
ブライアンが首を横に、ぶんぶんと振った。それだけは御免蒙りたい。再戦はきっと、イズヴァルトが殺す気でかかってくると予想したからだ。彼は今の自分の弱点がわかっていた。持久戦になったらかならず負けるだろう。イズヴァルトほどの底力は無いからだ。それと、次は必ず斬られる。痛いのはとても嫌なのだ。
「そりゃあ勘弁してよ。オイラがエルフやドワーフみたいに超回復力があればやってもいいんだけどさ……」
ローラがうなずいた。
「そうですなあ。というわけで再戦はまず無理かと、しかしご安心を」
もっと別の方法を考えている、とローラは言った。その策なら提案に関して大甘なツダサンチョーなら了承するだろう、と太鼓判を押した。
「ほんとにでござるか?」
「お任せくだされ! わたくし、ローラ=ラダトゥム=セアックの再試験案でもって『社長』を魅了し、説き伏せて参りましょう!」
果たしてローラが提案した『再試験』とはいかなるものであったのか?
その続きについてはまた、次回にて。