※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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幕間のお話です。


幕間③:魔竜が見た2人 上

「なにやっとんのや、あのぼうやと嬢ちゃんは?」

 

 魔竜・サイカノマゴイチは見当がつかなかった。何のための訓練だろうか。街はずれの原っぱでやっている、『ゆうしゃ』達の鍛錬である。

 

 今日初めてそれの見学をすることとなった。鍛錬と聞いていたからせいぜいが武芸の練習試合でっしゃろ、と思っていたがまるで違った。まるで戦争である。『ゆうしゃ』達は皆が馬に乗り、小川を挟んだ先にある低い丘を見ている。

 

 二重、三重の柵で囲まれた丘の上の土塁。突貫工事で築いた野戦陣地だ。そこに槍や弓を構える亜人達がいた。その柵だが、1本1本にエルフやゴブリンの古代文字が刻まれていた。彼等が防壁や罠に刻む魔法文字であった。

 

「あの丘にある馬防柵には、対魔道術式が込められているでござる! この世界で一番面倒な防御術式でござるよ!」

 

 つまり、そんじょそこらの魔法では破れない。げええ、という『ゆうしゃ』達の声が聞こえて来た。

 

「知っても通り、貴殿らはこの世界で使える魔法は10分の1から100分の1の威力に減じている! ただし、あの魔道防壁は物理に弱い! 叩き折られたり引っこ抜かれたりすれば、たちまち効果が失せるでござる!」

 

 そこから勝機が産まれるだろう。彼はそう言ったが「んなわけあるかいな!」と魔竜は心の中で突っ込んでしまった。あいつらのデキはよく存じている。確かに強いだろう。しかし、一度牙を折られた彼等はすぐにめげることがあった。

 

(それにセッシウサイがゆうてたように、何かを成し遂げる熱意っちゅうもんを使い切ったもんばっかやで。あんなよう若いのに、まるで人生悟ったような顔をしとるで?)

 

 『ゆうしゃ』達の顔は、すっかり沈み切っている。まるで負け戦のしんがり部隊を5度も6度もやって、たまたま生き延びている兵士みたいな顔だ。目つきはどよんとしていて表情に覇気が無かった。あの男が『試練』でここに来てからみんな、深く刻まれた皺が増えていた。

 

「貴殿らがこれから致す教練とは、軍師どのが語った『ながしののたたかい』の様なものでござる! あのいくさでは攻め手側はああした柵の前で散った! しかしそれは何故か、おわかりでござるか?」

 

(普通の兵隊さんだったからやでえ。)

 

 一度は世界を救ったことがある『ゆうしゃ』なら、あの柵を越えて亜人達に勝てる、とあの男は思っているのだろう。

 

「それは、『ゆうしゃ』ではござらなかったから! それに尽きるでござる! となれば貴殿らはきっとあの柵を越え、陣地を奪いあの旗を掲げることができよう!」

 

 彼は後方にいる『軍師殿』が乗っている荷車を指さした。可愛い顔がにっこりと微笑んでいる。腕が肘のあたりまでしかない彼女は、その旗を腋に抱えて掲げていた。全身を黄色く塗って、ところどころに黒い模様がある、下手くそだが可愛い猫の絵だ。

 

「なあ、ブライアンはん」

 

 魔竜は隣にいたブライアン=スエッツァーに訊いた。あの猫の絵、誰が描いたんや?

 

「あれは……虎だと聞きましたよ」

「描いた本人からでっしゃろか?」

「そうですね。ヴァネロペが描いたそうです」

 

 なんでやねん、と魔竜は思った。彼に同行しているカイロネイアの褐色エルフに描かせれば良いのに。きっとリアルで美麗な虎を描いてくれただろう。もっとも、あの地域の耳長は、『けもなー』を盛らせる様な余計なことをするだろうが。

 

「ちなみにあれ、おいらの前世の言い伝えから考えたみたいですけどね」

 

 ブライアンは言う。この一連の教練をプログラムしている『軍師殿』は、『甲斐の虎』の合戦からちなんでいた。劣勢に追い込まれている時の戦いをである。

 

「前回のは川中島の戦いで……もちろん、信玄のほうですが、挟撃がうまくいかなかった時に敵の総がかりを受けた時を再現しようと川を背にしてましたよ」

 

 別動隊が30人の本隊が15人に分け、別動隊ははるか後方に行ってしまいなかなか戻って来れない想定で配置した。エルフとドワーフとゴブリンの混成軍25名と戦ったそうだ。

 

 結果はもちろん、別動隊が駆けつけてくるまでに本隊は全滅。

 

「あの坊ちゃん、本隊のほうに加わってたん?」

「そんなわけないじゃないですか。別動隊に加わっていたって盛り返しましたよ」

 

 あくまでコンゴウアミダラデンの安楽な生活で腑抜けている『ゆうしゃ』達を、1から鍛え直す為にやっている教練だと答えた。

 

「そうなんか……」

 

 初めて聞いた。昨日まで魔竜は魔界に戻っていたから、彼等が何をやっているのか存じて無いのだ。

 

「ほな、訓練でも逆境というもんを体験させて、すっかり消えかかっている闘争心を引き出そうという魂胆でっしゃろか?」

「そういう事になりますね。ほら、はじまった」

 

 あの男が旗を『軍師殿』から受け取って、総大将役の『ゆうしゃ』に手渡した。その役を引き受けた若者は剣を抜いて号令。整列。きびきびとした無駄のない動きで横隊が組まれた。

 

「……まるで軍隊やでぇ」

「すごいもんでしょ」

「どっかの国に攻めることでも考えとるんかいな?」

「そっちで名を挙げるというのもいいんじゃないかと思ったけど、でもそれだと『ゆうしゃ』じゃなくて魔王になっちゃいますよね?」

 

 『ゆうしゃ』達が動き始めた。まずは柵を打ち壊す先発隊の10名だ。塁から矢が飛んでくる。もちろん練習用の、当たると痛いが刺さらないやつだ。投石もである。彼等は手に持った盾で飛んでくるのを防いだ。小川を越え、じりじりとにじり寄っていった。

 

 だが敵側も、飛び道具のみでの反撃に終始しなかった。棒を持った者が柵から飛び出て迎え撃つ。乱戦が始まった。魔竜は『ゆうしゃ』側を応援した。

 

「せやで! そこでさっと引いて魔法をぶちかませばええんやで!」

「……そんな頭の血のめぐりがいい連中じゃないですよ、魔竜さま」

 

 『ゆうしゃ』達は魔法の代わりに、別地点で迂回した馬に乗った別動隊10騎を突撃させた。総大将が直々に指揮をとっていた。あちゃあ、と魔竜は嘆いた。隊長はいても大将がいない軍ではないか。

 

「あの坊ちゃん、軍隊っちゅうもんをちゃんと説明したんか!」

「やりましたよ。でもあいつら、軍人じゃないですよ。ただの武芸者かつ冒険者です。力押ししか知らないような……」

 

 『ゆうしゃ』達は魔法を使える者を全員、後方に置いたままにしていた。まるで勝とうとする気概が無い。いや、考えがまわらない。あちらでこの演習を見守っている彼と『軍師殿』も、またやってしまった、という顔で嘆いていた。

 

 騎馬隊に向け、柵の向こうから次々と矢や石が投げられた。それらに当たった馬たちは突進を止めて怯んでしまった。挟み撃ちは失敗だった。

 

「いてっ!」

「ぎゃわあっ!」

 

 『ゆうしゃ』達は結局、柵に取りつく前に撤退してしまった。あまりにも情けない戦いぶりだった。これでは『ただの兵隊さん』のほうがよっぽど役に立つ。魔竜は呆れてしまった。

 

「……あんなんで、よう、世界を救えましたなあ?」

「だからレベル20ぐらいで倒せる魔王がいた世界の連中だってオイラ、評価しましたよね?」

「あんさんのおっしゃっている意味、ようやっとわかってきましたわ……」

 

 そんな大した実力が無くても救える世界がある、ということだ。いや、実力ではなく根性か。自陣に戻った『ゆうしゃ』達があの男に厳しめの口調で説かれて、ますます意気消沈していた。

 

「……そないやったら、あんさんが加わればええやんか?」

「魔竜さま。それだと、あいつらの訓練になりませんよ。あいつら旅に付いて行くんですから。1年間限定ですけど」

 

 あの男は『ゆうしゃ』として名をあげる旅の最中、クボーニコフにカチコミに行く計画を立てていた。王都で暴れ回って侵略戦争をしようとするクボーニコフ王に『おしりぺんぺん』をやるつもりなのだ。その間、様々な戦いを起こるだろう。

 

「あそこのみんな、それ知っとるんか?」

「知っているも何も、俺の力を貸してやるぜ、と威勢よく答えちゃったもんですから、こういう訓練をやっているんですよ」

「……クボーニコフかあ。最悪、死ぬかもしれへんで?」

 

 それは覚悟の上ですよ、とブライアンは答えた。彼もその旅に同行するのだ。

 

 あの男からエチウ諸島とかの国の戦いのことを詳しく聞いていた。クボーニコフ軍の水軍衆は悪辣そのものだ。略奪や婦女を嬲るのはおろか、虐殺だって平気でやる。加減や良心ってものが無い連中ばかりだ。

 

「今はエチゴニア島の決戦で負けて、一時停戦で落ち着いていますけど……エルザの話によれば山間部の農民をかき集めて水兵に仕立て上げているみたいですね。ナンブロシアが手を切ってもまだやろうって魂胆らしい」

「そりゃああかんねんな。引くには引けないとこまで追い詰められた、っていう感じもするけど、ちょっと下々のもんの気持ちを無視しておりはるなあ……」

 

 こういう時は『調停役』たる魔族の自分の出番となるだろうが、エチウは敵視しているコーザが治めている土地である。あのレベル99でも勝てなさそうな魔王の利となるようなことはできない。そうしてしまうと『いびつ』なパラッツォ教が世界中への布教に乗り出そうとするからだ。

 

(かといって黙って見ていると別の意味で大事になってまう……監視役というもんも、いろいろと難儀なものやなあ。)

 

 魔竜は後ろを振り返り、居城であるコンゴウアミダラデンがある山を見てその麓に目を向ける。そこに城下町があった。魔族とこの世界の亜人と流れ者のニンゲンが仲良く暮らす街だ。魔竜が治める街でもある。

 

 あの男と同行者達は『軍師殿』に伴われ、去年の秋、彼女の街へやって来た。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 彼等が来たのは去年の秋。ホーデンエーネン王国暦で言うところの357年の10月の中頃となる。その時にはまだ魔竜は、魔界には帰っていなかった。

 

 10年ぐらい前にものすごい喧嘩をして別れたと聞いていたが、執務室で会った2人のイチャイチャカップルぶりは、目に余るものがあった。あの男は常に、『軍師殿』をだっこして持ち運んでいた。しかも自分の身体と彼女の身体を紐でくくりつけていた。容易に外れない。

 

「……あんさんたち、そんなべったりくっついておらんで、たまには身体を離してみたらどうなん?」

 

 たしなめると『軍師殿』は「ぴえーん! ぴえーん!」と泣きだした。あの男は「よちよち」と頭を撫でて頬につたった涙を指でぬぐい、魔竜に猛然と抗議した。

 

「拙者は絶対に離したくないし、彼女も離されたくないでござる! この10年間、つもりに積もった慕情とかいろんなものがすっきりするまで、かような格好のままでいたい! どうせならおちんぽとおまんこをはめあったままでもよろしいでござる!」

「ふえええん。わたしもだよー! もっともーっとくっつきたい! もう離しちゃやだよう! 離れたくないもん!」

 

 『軍師殿』はすっかり甘えている子供と化していた。まるでガキだ。再会した時よりひどくなっていた。若くてかわいいからまだ許せる、と魔竜は思った。

 

「けどなあ、ちんぽとおめこをはめあったままで、人に会うってのも倫理上どうでっしゃろ?」

「倫理などくそくらえでござる!」

「そうだよそうだよ! もちろん、うんちのあとのお尻拭きふきのお世話もたっぷりしてもらうもん!」

 

 抗弁した後2人は顔をあわせ、ちゅっちゅとし始めた。完全にバカップルであった。後ろにいた褐色エルフの女がすごい嫌そうな目で『軍師殿』を見ていた。あの女も彼に惚れていた。お腹には2人目となる子が芽生えているそうだ。

 

「せやけど……」

 

 一緒にいたゴール族の少女が彼等の助けに入った。

 

「そういうことだよー。司祭騎士団長さんと『軍師さん』のやりたいようにさせてあげたらー?」

 

 大きなお腹を抱えたマタニティウェア姿だった。背中には姿かたちがみずぼらしくなったグラットンの剣を背負っていた。ヘラ=ウキトゥスというその娘は2人の肩を持って魔竜を叱りだした。

 

「教主さまはこうおっしゃってたよ! 夫婦や恋する者同士の『法悦』こそが至高のものだって! つまりは神様の声が聞こえやすいってことだよ! それを邪魔するのは神の教えに反するらしいってのも教えてくれた! おばちゃんはそういう人がいないから酷なことを平気で言っちゃえるんだよ!」

 

 夫や恋人がいないというのは余計だが、一理ある。しかしそれを説いたのがあのコーザだということで、魔竜は信じたくなかった。だったら、好きな者どうしだけでおめこするような教典に書き換えればええやんか。

 

「わかった……わかったから。あたしはお二人がいちゃこらしても気にしまへん。どうぞ好きにやっておくんなさい」

 

 と、答えたら翌日彼等に与えた部屋の隣人(ゆうしゃ)たちから苦情が入った。あれの声が一晩中聞こえて来てよく眠れなかった。なんとかしてくれ。魔竜は黙殺した。彼等の面倒を見ているツダサンチョーから、今後の計画を聞く時間だったからだ。

 

「で、あんさん。あの坊やをどないして『ゆうしゃ』に鍛え上げるんや?」

「もちろん、あの手の連中がやっていることをさせるつもりですよ。そのための迷宮(ダンジョン)もスオニア国の許しを得て作りましたし。

 

 厄介な造魔がうようよいる地下迷宮だ。ヴァネロペが置いた転移装置(ポータル)で繋がっているスオニアで一次試験。それからコンゴウアミダラデンにいる異界の『ゆうしゃ』たちとの試合に勝つのが二次試験だ。おまんことゲームコーナーに入り浸っている彼等だが、世界を救ったことがある強豪でもある。あの男なら苦戦するはずだ。

 

「ここ、あいつらにとっちゃ『アウェー』やで? いつもの十分の一の実力しか出せんとちゃう?」

「ふふふ。馬鹿を言いますな、魔竜様ともあろうお方が。まだ世界を救ったことが無いやつに負けると思いますか、彼等が?」

 

 救世主という名をきっと、あの男は思い知るはずだとハーフリングは言った。その自信満々な笑みは翌日始まった第一次試験で脆くも打ち崩された。心の無い魔物と戦い放題、という話にあの男は、迷宮に配置したそれを全て倒してしまったのだ。『ゆうしゃ』たちを足止めして苦戦させたやつにである。

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