聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
その第一次試験と同じ頃、悲しい出来事があった。魔竜も立ち会ったゴール族の娘の出産だ。
あの娘は生まれて来る我が子を待ち遠しそうにしていたそうである。出産経験がある『軍師殿』や褐色エルフに赤ちゃんの育て方をいろいろと聞くぐらいに、母親になることに熱心だった。
しかし産まれたのは、目玉が無く頭の真ん中がくぼんでいる奇形児だった。その子は産まれてから2日で息を引き取った。ヘラは母親代わりのエルフの女と、なぜか気が合う『軍師殿』らの胸に顔を預けてすすり泣いた。
赤ん坊は街はずれの墓地に埋葬された。その数日後、ヘラは忽然と姿を消した。グラットンの剣はもちろんのこと、赤ん坊が埋葬された墓が掘り返されていた。ポコリーヌに言われて墓にやって来た魔竜は、掘り返された跡を見て、深い悲しみが起こす狂気を恐ろしく感じた。
「……そないなことしても、死んでもうた命は戻らへんねん」
あの嬢ちゃんは何をするつもりやろうか。ゴール族について知っているだろう、オクタヴィアを呼んで聞いてみた。
「……あん種族のことはよくわからねえずら。カントニアじゃ、ほとんどいなかったからな。おらが子供の頃にはもう、とっくに人食いと昔の風習を止めたらしいずら」
しかし人食いの種族をよく知る者は、城下町にいるかもしれない。サイゴークのドワーフやゴブリンが街にいた。彼等が集う酒場に向かい、オクタヴィアとと共にどんな理由が考えられるかと聞いて回った。
要約。ゴール族は生まれてすぐ死んだ子を食うことがある。魔竜が初めて知る風習だった。
女はかの種族の特性が発現しないから食わないが、男は我が子でも食うそうだ。そうした者は力が底上げされるという。ニンゲンを食った時の数倍や数十倍もだ。イナーヴァニアにいたというゴブリンの男が、酒をちびりとやりながら教えてくれた。
「しかも我が子を食ったやつは、ちんぽがとっても元気になる。毎日5回射精しないと気が狂うそうだ。そいつが5年以上続くらしいね。あと、ちんぽがひとまわりでっかくなるみたいだよ」
「うわあ。けったいな話どすなあ。まるでサキュバスはんらのおまんこから出る汁やお肉みたいやわあ」
「あれより効果がすごいと言ってたな。これ、嘘じゃないからね。俺のゴール族の知り合いが、本当に食っちゃったんだよ」
陰惨なやつはどこかからか、食用の子どもを産ませる為の女をさらったという。ゴール族の普通のご家庭でも、赤ん坊や子どもが亡くなった場合は肉だけ取り、近所にお配りするという。『食葬』とよばれているそうだ。
しかしヘラの女の子だ。人食いの鬼になることは無いだろう。しかしどうにも気になった。数日後、捜索のためキンキ大陸北部に向かわせていたサキュバス達から連絡を受けた。
森の中で、まだ新しいニンゲンの赤ん坊の骨を見つけた。頭蓋骨が奇形でヘラが産んだ赤ん坊に特徴が似ている。周辺には吐いた跡と大量の人糞が落とされていた。もしや、と魔竜は思ったが、
「……んなわけあるかいな。ヘラの嬢ちゃんに限って、そんなことあらへん」
しかしこの話を聞くと、ヘラと仲が良かった者らがひどく動揺するだろう。魔竜は黙殺することに決めた。サキュバス達にはきつく言いつけた。絶対に口外するな。
結局、ヘラがいた痕跡は、そこだけしか見つからなかった。そしてその年の12月、彼女がエチウにいる教主の元に戻ったらしい、という話がコンゴウアミダラデンに入って来たが、魔竜はもう魔界に戻っていた。
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ヘラの話は絶対に話すな、ということを告げて戻った魔界では、その元締めをやっている兄からあの世界のことを色々と聞かれた。
「ところで、サエキノマオと会えた?」
即答した。まったく足取りがつきまへん。魔王はとても悲しげにうつむいた。
「そろそろ顔を見せに、魔界に戻ってきてくれるといいんだけどね……」
サエキノマオは魔王と魔竜の実弟である。母親が同じだ。彼らの母はとある世界の時と空間を司る竜神であり、主神に仕える両性具有の天使長であった。
その神はその世界の人間にあたる存在に、過剰な保護と厳格な掟を課した。そのために進化に停滞が起こった。
このままだと獣と変わらないと思った天使長は、一部の部下と結託して人々に知恵と技術を教え、発展させた。そのために神の怒りを買って魔界へ逃げ込んだ。
先代の魔王は『彼女』の美しさと優しさに惚れ込んだ。天使長は『妻』にし、数十名の子の『母』となった。その中の上の子たちに当たるのが、魔王と魔竜である。
彼らの弟であるサエキノマオは、その母が持っていた特質を強く受け継いでいた。時を渡る力と『空間』、つまり、異なる世界を自由に行き来できる力である。
「そうか。あいつが籠もるなら、魔法抵抗が極めて強い世界だと思ったんだがな」
魔族の魔法の力が著しく制限された、いくつかの世界である。マハーヴァラ神が治める世界なら一番有力だろうと思っていたよ、と魔王は言った。
他の世界にも探索の手を伸ばしているが、弟の痕跡が見つからない。サエキノマオの居場所は未だ見当たらない。かれこれ1万年以上探しているのにだ。
魔王と魔竜が弟に去られたのは、理由があった。魔界の王がその遣いをやっている各世界の関与についてである。監視と消極的な関与にのみ認めるそのやり方を嫌っていた。
我々は積極的に関わるべきだ。世界の安定と、迫害されて滅ぼされる善意の者達の救済を為すべきだ、と論じた。
けれども魔王と多くの魔族たちは、今のままを堅持しようとしていた。談義の場ではサエキノマオを激しく論破した。そうして魔竜の弟は、魔界を出ていった。
「ちなみに、あの世界はどこまで探索したのかい?」
「知的生命体がおる星をくまな探させましたわ。でも、おらんかった」
これは本当の話だ。他の有力な候補の世界でも同じ。これは魔王の『おじ』あ『おば』が担っている。彼らからも良い話を聞けなかった。
「辛いね。僕も直々に探そうかと考えているんだが、魔界は誰に任せればいい?」
「それはやめたほうがええで、にいちゃん。ただの王様やないんやから。なにかあった時、魔界におらんとなーんも指図できへんよ?」
「そうか」
とりあえず魔王は考え直してくれた。魔竜は安心した。その彼女が担当する世界だが、くまなく探したとは言ってもまだ探しきれていない、しかもとても『におう』場所があった。コンゴウアミダラデンがある星にあった。
(……エーゾ大陸の奥が、まだやったな。)
エーゾ大陸。ムーツの北東に広がる、一年中雪と氷で閉ざされた土地だ。とはいえ殆どが氷の海で、地面とよばれているものはほんの少ししか無い。
そこは魔竜が調査を一度諦めた場所である。派遣した魔族が何名か帰ってこなかった。魔竜もくまなく探したが、酷寒の中で見つけたものは何も無かった。
エーゾに住人は確かにいた。沿岸部には土着のエーゾゴブリンと一部のニンゲンや移住した亜人達。その奥にはニンゲンの様な顔かたちで犬のようなしっぽと耳が生えた謎の亜人種・バーサーク族だ。
バーサークは皆たくましい美男美女ばかり。寒いのに膝が見える丈の短い厚手の貫頭衣をまとうだけで頑丈だ。が、まるでわんこのようだった。ところかまわず尻を出して糞尿を垂れ流し、あるいは人目を憚らず男女の営みをいきなりおっぱじめたりする。あと、体臭が野良犬臭い。
「もう少し、あたしも頑張ってみるわ。にいちゃんは魔界で大人しく待っときなはれよ?」
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魔界から帰って来ると、あの男達にヘラの痕跡のことについてしつこく訊かれた。やってしもうた、と魔竜は悔やんだ。サキュバスは性交で、ある程度の知識を相手に共有してしまう特質がある。その経由でばれたのだ。
「ヘラどのは人食いの鬼ではござらぬ! ましてや、あかちゃんの遺体を食べるなんてありえぬでござるよ!」
「そうだよ! あんな天真爛漫で可愛い子がそんなことしないよっ!」
あの男と『軍師殿』は、悲痛な顔で「嘘だと言ってくれ!」と泣きわめいていた。あの男の娘たちもだ。ピピンという転生人とその息子も、「嘘ですよね?」と不安げに聞いてきた。
一緒にいたブライアンとオクタヴィアに聞く。その件を知ってから皆さん、毎日毎日やかましい。しかしこの件で誰よりもショックを受けていたのは、あの娘を一番かまっていた彼女だった。そっけない身振りだったが、我が子の様に愛していた。
「探しに行かせて、もらえないずらか?」
ぼそっと言った彼女に魔竜は快く応じた。魔族のちからを借りてええよ。ツダサンチョーを呼びつけた。こっちに来てから、サキュバスどもをちんぽにまたがらせ、あの男の幼くてかわいい娘2人にちんぽのしゃぶり方を仕込んでばかりの怠惰な『縁戚』だ。
「あのエルフの嬢ちゃんたちの手助けをしなはれ」
「ええっ? ボク、あんまりお金にならないことはやりたくないんですけどねえ?」
なんなら、とハーフリングは提案を持ちかけてきた。
「コーザのやつに話を持ちかけて、探させるってのはどうですかね? もちろん、魔竜様が資金を提供した上です。お金は一旦ボクが受け取りますよ」
「アホか!」
ハーフリングというやつは強欲で、人格がよろしくない。この世界のもそうだが、魔界のはもっとひどかった。いろんな世界であくどい商売や詐欺みたいな契約をしていた。このツダサンチョーは『性悪の鑑』みたいな奴である。
「とにかく、ヘラの捜索の手助けをやらんかい! つべこべ言わずに『はいよろこんで!』と返事して身を粉にして尽くせや! あんさん、魔界の大貴族やろ? 魔王のしもべであることをよく自分に言い聞かせんといかん立場やろ? それになあ!」
ねだってきたのはあっち側だが、ヘラの嬢ちゃんにいっぱいスケベなことをして楽しんでいたんじゃおまへんか、と魔竜は指摘した。なかなか締まりのいい搾精おまんこだとか、エッチが好きすぎてたまらない、だとかほざいていたのだ。ツダサンチョーは。
「……はい、よろこんでそうさせていただきます。くそっ」
ツダサンチョーはなおも注文をつけた。『ゆうしゃみならい』と『軍師殿』だけは捜索に加わらせない。なぜなら試験がまだあるからだ。
「それと、ポンコツのほうの『ゆうしゃ』達の何人かが、あいつのことをすごい慕っちゃいましてね。これからする旅に一緒に加わりたいと言ってきているんですよ」
「……そうなん?」
「ま、お尻目当てじゃないんでしょうかね。あいつ、美男子でおでぶのピピンと貸し合っているし……『軍師殿』はそいつを覗いて、ぐひひ♥ っていう感じの気色悪い笑みを浮かべてましたよ」
そんな話は聞きたくなかった。しかしツダサンチョーの申し出通りにした。それから1ヶ月もしない内に、エチウにいた魔竜の部下が、『教主』からの書状を受け取った。ホーデンエーネン王国暦358年の2月頃だ。
その手紙にはこう書かれていた。ヘラは戻ってきた。心配ご無用。されど、もう司祭騎士団長殿と同行させるには能わない。
「場合によっては、後継者から外す所存、やて?」
その先が書かれていた。もしかしたら先祖返りが始まったのかもしれない。それから、自分の手に余るようになった。
(なにゆうてんねん。コーザというもんがそないな弱音を吐くわけ無いやんか?)
しかし魔竜は知らなかった。この世界で最も恐れていた男が、その力が衰えていた。ホーデンエーネンに現れた『吸精魔の女王』に力を与え過ぎたせいだった。
コーザは死んでしまったその女に、必要以上の力を分け与えてしまったのだ。底力というものをだ。無尽蔵の回復力があるコーザは、サキュバスの女王の子孫によるエナジードレインを食らった。
とはいえコーザ自身は気づいていなかった。修練をすればその力はある程度、元に戻るということをだ。エナジードレインを受けてレベルが下がったら、もう一度上げ直せばいいだけの話だ。
但し、完全に元に戻るには、百年もかかるだろう。彼にはそこまでの猶予は無かった。
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それからしばらくして、彼らが旅立つこととなった。最終試験の為にだ。その内容が決まっていた。『ゆうしゃ』としての名声を高めるのと、『獄炎の凱歌』に代わる武器を手に入れることである。
武器についてはまだ、いくつか候補があった。カントニア大陸の『エルフ狩りの王の弾弓』とムーツに眠る氷の魔剣(と言われている)『氷雪の栄光』。シマナミスタンにも砂塵の津波を起こす大金槌『流砂の静寂』というのがあったが、どこにあるか場所はわからなかった。
しかし『エルフ狩りの王の弾弓』と『氷雪の栄光』ならどこにあるか魔竜も知っている。弓はカイロネイア=エルフの秘宝だし、もう1本はムーツのオーガたちの聖地・ヒラーイズミの山の中に眠っているそうだ。
「まあ、武器はともかくとして、まずは名をあげることやな」
魔竜は旅支度を整えた彼に言った。あいもかわらず『軍師殿』とべったりだ。彼女を抱き上げたままである。
「さようでござるな。武器は二の次でござる」
「けど、候補の2つが使えなくても、あたしに泣きつきなさんな。あんさんに本物の『姫竜の牙』持たしたらあぶなっかしゅうてしゃあないわぁ」
「私もつかえるの? 『魔蜂の突針』の力を引き出せたよ?」
嬢ちゃんのほうはもっとあかん。魔竜は『軍師殿』の髪を撫でた。
「なんたって、あたしの『おばちゃん』の末裔やからな。死んだあんさんのおねえちゃんだって、使いこなせたはずですわあ。けどなあ」
『魔蜂の突針』を手にした、ヒッジランドのエリザベス姫は悲しい最期を遂げた。あの剣はどこかで呪われたように感じられる。あるいは、使いこなせる者が不幸体質だからか。
「あんさんは変な戦いに巻き込まれとらんで、長生きせえよ?」
そう声をかける。この娘は初めてあった時、どんな窮地でも運良く脱せそうな、抜け目がなくて幸運に恵まれた子だろうと見立てた。
でも今は違った。性根は明るいが背後に暗いものを感じる。運に恵まれない淫魔の一族の気配が濃厚にあった。もう瞳の色が変わっていた。深紫ではなく赤色に。『先祖返り』が進んでいたのだ。
「……それと、これからはあんまり魔界を刺激するようなこと、せえへんようにな?」
とりあえずの忠告だ。目立たなければこの世界で暮らせるに違いない。
だがもし、魔界のお偉いがたに目をつけられたら、彼女はいずれ、魔王の一族衆に無理やり加えられる事になるだろう。