聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
さて、村娘を救ってから2か月後の事である。シギサンシュタウフェンの城に一人の旅の騎士がやって来た、ホーデンエーネンの王から遣わされた使者だという。
使者が持っていた国王からの手紙は、確かに王家の印がついた蜜蝋による封が為されていた。驚くシギサンシュタウフェン領主にその者はこう告げた。
「御子息をぜひ預からせていただきたいと、陛下からのお願いでございます」
シギサンシュタウフェン公は封書を開き、中身を読む。これにはこう書かれていた。
「アカサカチハヤの魔竜を退治する軍に、是非とも加わっていただきたい、だと?」
問われた使者も驚いた。殿のご子息は、まだ10になったばかりと聞き及びましたが?
「いやはや。拙者はシギサンシュタウフェン殿にお力添えをと思っておりましたが、幼いご子息に……」
「陛下も恐ろしいことをお考えなさる。イズヴァルトですか? もちろん自慢の我が子ですとも。剣の腕は麒麟児、それと村娘達に弟の様に可愛がられておりましてな……しかし親としては成人するまで、手元に置きたい」
王もこの田舎で起きた事を耳に入れておられたか、とシギサンシュタウフェンは嘆いた。なんとしてでも武勇ある者を根こそぎ動員したいらしい。
キンキ大陸の中央を陣取るアカサカチハヤ山地の奪取。それはホーデンエーネン王国の長きにわたる宿願であった。
かの地は温かい泉がそこかしこに湧き、薬となる草花が生い茂る、未開なれど豊かな大地であった。良質な鉄や金銀、キンキ大陸には既に無いとされる貴重なミスリル銀の鉱脈が豊富に眠っている、とも噂されていた。
魔竜・サイカノマゴイチは部下である多くの魔族とともにかの地を占拠し、コンゴウアミダラデンなる大きな宮殿を建て、周囲を睥睨していた。
かの大魔竜は、魔の者がはびこるこの世界において世界最強。不敗の龍王として君臨。更に、故郷の魔界より優れた魔族の戦士達を配し、ニンゲン達の好き勝手にはさせなかった。
かの地を人間の手に戻す、ということはホーデンエーネンの悲願であり、国民や王家の夢でもあった。この山地のせいで北と南は、船でしか行き来出来ず不便を強いられていたからだ。
「それと、トンダバヤシの地を恒久的に王国のものとしたい、と記されている。これは激しい戦いになるでしょうな」
領主は目を閉じて呟いた。山地の南にあったトンダバヤシの丘陵は、土地が肥え、水も豊富で耕せば大陸一の穀倉地帯になりうる土地であったが、王国は相次ぐ敗戦により魔竜のものとされていた。
この時代、アカサカチハヤを越えたキンキ大陸北部では、不作や北のエチウ諸島を統一し版図としたパラッツォ教団による宗教的侵攻により、住民反乱が勃発し続けていた。
それを鎮めるいくさは数年の、長きものとなると言われていた。その糧秣を賄う為にトンダバヤシの地を制し、更に魔竜を地に伏させて名を馳せる。
それとアカサカチハヤの豊富な鉱山も得られれば、世界最強と恐れられたホーデンエーネン王国の栄光が再び蘇るはずであった。
「この私を指名してくださるのなら、領地の武者や武芸者を集め、是非にもはせ参じたことでしょう。しかし、我が息子を魔竜退治にとは」
手紙の最後には、御子息、イズヴァルト殿は単騎で盗賊団を壊滅させた剛の者。魔竜とのいくさに参加させたのち、場合によっては聖騎士団にも加入させたいと書き添えられていた。
聖騎士団とはホーデンエーネンで最強と謡われる近衛の精鋭騎士団。快速とも言うべき反応ぶりと、老人がかぶるような緑色の帽子を身に着けても豪勇ぶりをうかがわせる者達ばかりが集まっている。
イズヴァルトは麒麟児とはいえ、まだ齢は10。並みの大人と同じほどの体格を持ち、長旅にも根をあげぬ体力を持つが、流石に生きて帰れる見込みのない戦場(いくさば)に連れて行くのは、親の情として気が引ける。
村人から聞いたが既に童貞を終え、いっちょまえに年上の村娘達といちゃついている様子だが、たとえ男根や陰嚢がふてぶてしくても、可愛い我が子。
彼は使者へ丁重に断りを入れ、帰らせた。それをかのイズヴァルトは部屋の外で盗み聞きしていた。使者が屋敷を去っていくのを追いかけ、呼び止めた。
誰だと問うその騎士に、自分こそがイズヴァルト=シギサンシュタウフェンと答えた。
「すぐにでも王の元へ出発するでござる!」
そう告げると、父上のご了解は得たのか、と探られた。
「父上は悩んでござった。陛下の頼みを断るのはどうかと」
「そうであったか。さて、どうおっしゃられたのかな、ご子息どの?」
「この件はすべて拙者に任せる、とおっしゃったでござる。拙者は決めた。王様の元にはせ参じるでござるよ!」
使者は承諾した。討伐軍には選抜試験が催されると聞いていたから、いくら若き天才といえどまだイズヴァルトは幼年の身。選定から外れるだろうと思ったからである。
それよりもこの少年が殆ど領地を出た事がないと聞いたので、旅をさせてやろうと考えた。これもいい機会だろう。王都まで、急げば4日間の旅程である。
「しかしイズヴァルト君。盗賊を1人で打ち破った噂は本当かね?」
「それでは、試していただきたいものでござるよ!」
イズヴァルトはこの使者に、武者の気配を感じ取っていた。この者こそ、ホーデンエーネンが誇る精強なる聖騎士団の一員だった。
使者は試してみることにした。イズヴァルトの腕がいかなるものか。木切れの棒をもって彼と何度か戦ってみた。豹のように素早く、羆の様に力強く、尚且つ冴えわたる剣撃を繰り出す幼き騎士には敵わなかった。
ホーデンエーネン聖騎士団のはしくれの自分がなぜ、と悔しく思いつつも、彼の実力を素直に認めた。
「……素晴らしい」
「かたじけないでござる」
「これほどの腕ならば申し分ない。是非とも魔竜討伐にお力添えいただこう!」
うむ、とイズヴァルトは力強くうなずいた。ついでに立ち寄った村で聞いたのだが、とその騎士は尋ねた。領地の年頃の娘全員と、乳繰り合ったと聞いたが本当か?
「……まったくの嘘偽りでござるよ」
イズヴァルトは常日頃、ぬちょぬちょとやりあう5人の村娘のことを思い出して顔を赤くした。この仕草に年頃の子供の可愛らしさを見出した騎士は、笑って彼の肩を叩いた。
彼等は先へ先へ、と馬を進める。王都からあと1昼夜、というところで足止めを喰らう一向。ヤマート大河にかかる大橋が流されてなくなっていたのだ。
橋の傍にあるアスカウという村の者に尋ねると、上流が突然の大雨に見舞われて、水かさが増して流れが急になった木造の大橋が、昨夜のうちにあらかた流されてしまったという。
この河の上流と言えばアカサカチハヤである。イズヴァルトと騎士は互いにうなずいた。きっと魔竜の仕業に違いないと。
「魔竜はイーガの魔道士やカントニアのエルフよりも優れた魔法が使えると聞く。きっとこれもきゃつの仕業なのだろう」
「魔法を! いやはや……拙者は魔法使いの師匠はおらぬゆえ、その攻め方をされてはたちまち困り果ててしまうでござるよ……」
「イズヴァルト君。聖騎士団も同じだよ。ただ、最近はイーガの魔道士や市井のサキュバスを講師に招き、魔法戦の研究も始めている。魔竜との戦争で手柄を立て、出世すればきっと魔法についても学ぶことができるだろう」
濁流を前にしてその騎士は、カントニアのエルフであればこの川を凍らせて渡ることができるだろう、とつぶやいた。ならば魔法が使えぬ拙者は泳いで渡りきろう。そう叫んで服を脱ごうとすると止められた。
「な、なにゆえでござる!」
「夜討ちを盗賊に仕掛ける頭があるのに、君は頭がいいのか無謀なのかよくわからないところがあるな。いくら武勇に優れているからといって、この流れの激しい大河に勝てるはずがない。しばらくは近くの村で落ち着こう」
「おっしゃる通りに致すでござるよ」
イズヴァルトはあきらめた。橋の近くにあるアスカウの酒場に寄り、香草がきいた羊肉の丸焼きにかぶりつきながら村の者から話を聞いた。
この村では大工や駐屯の兵士らが、沢山の浮船を造っているという。それをつなげて仮橋にする。ただ、1週間はかかるだろう。
「この村には王国軍の砦があるのでござるか?」
「ナントブルグに続く道の要衝でもあるからな」
アスカウの村は人口こそ少ないが、交通において重要な土地であった。この当時ホーデンエーネン南部で屈指の規模の運送屋も、本店を置いていた程だ。
その荷運び屋は先祖代々からこの村の住人であったが、牧場から馬や牛を安く買う為にナントブルグではなくここに拠点を置いているのだと騎士は教えた。
「かのうなところでござったか! まあしかし、これから寝起きする砦に一旦、向かった方がよろしいかと存ずるでござるよ」
「残念なことにだ。砦は橋の向こう側にあるのだよ。今日からはこの宿屋で寝泊りしよう」
それを聞いた酒場の主人は、無理でしょうなと告げた。近隣から橋を作るために大工や村人が集まっているという。
本当のことかと思いながら、騎士とイズヴァルトは道沿いの方々の旅籠屋を回ってみた。どこも空き部屋は無かった。すわ、野宿かと思ってあきらめたところに、最後に寄った旅館の主がこう伝えた。
「北東にある牧童の里をまわってみては? 宿代として家畜の世話を頼まれますが1人ぐらいは入れてくれるでしょう」
特に心優しいのは一番豊かな牧場を持つシュミット氏だと主人は教えた。この宿場から一番遠いところに牧場を持つが、情に厚く義を重んじる一家なので追いはぎに遭うことはまず無いだろうと。
騎士とイズヴァルトは主人が書いた紹介状を持って、牧童の里へと向かって行った。馬に乗ってとぼとぼ行くこと30分。
幾度も幾度も牛や馬や羊が囲われる牧ばかりという風景が続く。里の真ん中の集落を通り過ぎ、新たな原っぱばかりの道を歩んだところで、1人の童女がしゃがんでいるのを見つけて呼びかけてみた。
「そこのお嬢ちゃん! ひとりっきりで何をしているのかね?」
娘は顔をあげて呼びかけ返した。どこへ向かうのですか、おさむらいさん。ふっくらとした白くてきれいな頬を見て、イズヴァルトは頬を染めてしまった。
整ってはいたが人に愛されそうな顔立ちで、蒼にも見える艶やかな黒髪を後ろにまとめてお団子にした、可愛いことこの上ない6歳ぐらいの女の子だった。
やせてもおらず太ってもいない。気配からぎすぎすしたところが無く、親から充分な愛情を注がれているのがうかがえた。
しかし、とイズヴァルトは鋭い勘をもって彼女のたたずまいに可愛らしさ以外の何かを感じた。妙に艶めかしく、かつ老成しているような。自分と交わった5人の村娘よりも、何故だか年上の様に感じた。
イズヴァルトは馬上から娘のくりっとした目を見ると、童女は見上げてにっこりと笑って「どこからきたの?」と問いかけた。
「拙者はシギサン村から来たイズヴァルト=シギサンシュタウフェンという者でござる。お嬢様はなんという名でござるか?」
「そんな遠いところからきたんだね!」
「貴殿は、この里のおじょうさんでござるか?」
イズヴァルトが問うと童女はいとけない笑みを浮かべながらうなずいた。それよりも大事なことを頼みたいと、右腕を伸ばしてみじみたいな小さな手を広げてみせた。
「大きな葉っぱがあれば2枚か3枚。私にいただけないかしら?」
「葉っぱ遊びでござろうか? ……持っているでござるよ。たしかにこの辺りは大きな葉っぱをつける木はござらんなあ」
イズヴァルトは馬から降り、彼女に葉っぱを3枚渡した。用を足したときに尻を拭く為のものである。女の子はありがとうと告げて尻をもぞもぞと動かしながら、しっしっ、と手で追い払う真似をしてみせた。
「なんと失礼なおこさまでござるか!」
「そ、そうじゃないよ……は、はやくあっちに行ってくれるとうれしいの。あ、別に見たいならいてもいいけど……」
娘は少し脚を伸ばした後、スカートをめくりあげて真っ白な脚と幼い割れ目とをイズヴァルトの目の前に晒してしまった。
少しいたずらっぽい笑みを浮かべながらしゃがんで力む声を放つと、騎士はイズヴァルトの腕を引っ張った。
「お邪魔は良くないからさっさと行こう。お嬢さんの名誉にも関わる事でもあるからな」
「あ、いや……娘さんが人前で用を足すのは拙者の村ではよくあることでござるし、このぐらいの歳の子が人前で大小便をするのは、決して恥ではないでござるよ……」
「君がご領主のご子息だからわざと見せているのだよ! 市井の少年相手にはそんなことはしない。さあ、行くぞ!」
イズヴァルトはうなずき馬に乗った。とはいえ女の子が「ふぬぬーっ!」といきんで、愛らしい尻からにおいたつものをひねり出すのをしっかりと見てしまう。
立ち止まって最後まで見届けたくなってしまったが、それは騎士らしからぬ振舞いと自分を諭し、シュミット家へ向かう事にした。
その道中、彼はずいぶんとぼんやりしてしまっていた。あの童女の可愛らしさと白くてまあるいお尻と、ぶりぶりとうんちをひねる姿がどうにも頭から離れなかったからだ。
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「羊小屋で寝泊まりするなら、食事もつけて1週間、いや、1カ月は泊っていただいても構いません。お金もいらない。ただし、少し手伝いをしてくれたらの話ですがね」
家にたどり着くと、シュミットという30手前の牧場主はイズヴァルトと騎士にそう告げた。
「手伝いとは何かね、シュミット殿?」
「騎士様には村の警備を頼みたい。この里の警ら兵さんはみんな、ヤマート川の橋の修繕に向かっちゃいましたからね。人手がいないのですよ」
それから牧場主はイズヴァルトに、息子の手伝いをお願いできないかと頼んできた。シュミットの息子は数名の雇われ人とともに羊飼いをして過ごしている。
シュミット氏には1人の息子がいた。13歳になるルッソである。去年まで村の学問所に通っていたが、羊飼いの仕事のほうが性に合うといって今年から通わなくなってしまったという。
「やればできる子だし成績も悪くは無かったのですが、さっさと手に職付けたいと言ってきかないのですよ」
仕事ぶりはそこそこ。しかし机に向かうことが別に苦ではなかったから、シュミット氏としては村の大きな運送屋の事務や帳簿係になって欲しかったと嘆いた。そちらのほうが羽振りが良いからだ。
「何よりも地図を読んだり集めたり、他の国の言葉を学ぶのが好きでしてね……牧場の経営は私の弟とその倅に任せて、得意な分野で生きて欲しかったんですがね」
乗ってきた馬を厩舎にくくりつけた後、イズヴァルトは早速羊飼いの倅のルッソと顔を合わせた。
金色のぼさぼさ頭で、イズヴァルトよりも頭1つぶん小さい少年だった。とはいえシュミット氏は大柄だったので、きっと背が高くなるに違いないと思った。
向こうからはにかんで手を差し出すとイズヴァルトは手を握り、「よろしくでござる」と言って笑った。
「あんたがシギサンシュタウフェンさまのお坊ちゃんか」
「イズヴァルトと呼び捨てしてよろしいでござるよ」
「じゃあ……イズヴァルトさんで」
「こちらこそ、ルッソどの。これから働きの鈍い拙者を叱咤する役目がある故、頑張ってしごきたてていただきたいものでござる」
「あははは、おれはそんなにひどいやつじゃないよ。仲良くやろうね!」
2人は笑い合い、それから放牧地へと向かった。得意な分野で出世して欲しいと父親に嘆かれたルッソだが、なかなかに働きぶりは熱心だった。
家畜たちにも愛されている様で、羊や牛は彼のもとから離れようとしない。イズヴァルトもなぜか、この牧場の動物らにすぐになつかれてしまった。
羊や山羊の子供と戯れながら、イズヴァルトはルッソからいろいろな話を聞く。この村を離れたくないので学問をあきらめたのだと。
「あそこの運送屋はしょっちゅう転勤があるんだ。なにせ西のナントブルグや南のナガオカッツェの街に支店があるからね」
「そこをたらいまわしにされるからと?」
「そういうことさ。おれはこの村を離れたくないよ。そりゃあ、一生に一度は世界を回る旅をしたいとは思っているけどね」
ルッソは子牛に頬を舐められながら、学問所で学んだことや、遊びに行くアスカウの宿場町で聞いたいろんな話を披露した。
「西のサイゴーク大陸では旧主を国から追い出し、大陸南部を制覇しようと目論んだスーエイニアのハースティンがイッツク=シーとかいう島で討ち死にしたらしい」
「チンゼーの中央部には羽妖精っていうとても可愛らしい亜人が住んでいるという。あちらのお貴族様はあの種族を可愛がって甘やかす事を競ってやっているみたいだよ」
「南のシマナミスタンは黒い肌と黒髪のエルフとドワーフが、ニンゲンと仲良くくらしているそうだ。混血もかなり進んでいるらしくって、人々の多くは200歳ぐらいは余裕で生きられると語られている」
ルッソの話は山奥で暮らしていたイズヴァルトにとって実に魅力的であった。ただ当人は耳学問と謙遜した。
「聞くだけ、本で覚えるだけじゃなんにもならないよ。行って見ておかなきゃね」
「ならば、拙者が聖騎士となったあかつきには、ルッソどのを家宰として取り立てるでござる。一緒に方々を旅してまわるでござるよ?」
「うれしい申し出なんだけど、おれ、やっぱりこの村を出たいと思わないんだよね」
そう断ってルッソは空を見上げる。青い空はすでに橙色に染まっていた。羊が逃げないように監視をしたり、よりよい草地を探す仕事に夢中で、夕方になってしまったのだ。
ルッソが持っていた角笛を吹く。家畜達が他の牧童とともに集まって来た。ルッソは堂々とした様子で皆を引きつれながら家畜小屋へ導いた。
それからルッソとイズヴァルトは途中ではぐれる羊を群れのほうに戻したり、小屋に戻った時に家畜が全部戻っているかを彼と一緒に数えた後、帰宅する手伝いらを見送り、夕食を取る為に母屋へと入った。
食卓には主人とその妻と、一緒の家に寝起きする女の手伝いが既に座り、食事を並べていた。イズヴァルトと一緒に来た騎士はいなかった。とある若い寡婦に呼びかけられ、食事を一緒にしているのだという。
「ほう。あの御仁がお誘いをでござるか」
「あの人、ずっとアデナウアーさんのとこに寝泊りすると思うよ」
「なにゆえでござるか?」
「アデナウアーさんは子供がいるけどまだ20歳だからね。そういうことさ」
ルッソがささやくのをシュミット氏がたしなめる。彼の母と手伝いの女が空咳した。食卓について置かれた料理にイズヴァルトが手を付けようとすると、ルッソに待ってくれ、と求められた。
「どうしてでござる? お食事がさめてしまうでござるよ?」
「もう2人戻って来るんだ。2人がおつかいから帰ってきてから食事にする。この家ではそういうしきたりなんだ」
イズヴァルトは従うことにした。腹の虫が鳴いていたがぐっとこらえる。そうして10分程経つと、食堂に当人たちが謝りながら入ってきた。
そのうち1人の顔を見て、イズヴァルトは思わず驚きの声をあげてしまった。途端に心がざわめき落ち着かなくなる。さて、彼を驚かせた人物とは何者だったのか?
その続きについてはまた、次回にて。