聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
子宮にイズヴァルトの子種汁をたっぷりと飲ませ、身体の高ぶりがいくらか落ち着いたマレーネは、自分がこのアタミシアの名所を案内してやると申し出た。
「イズヴァルトさまもそこの胸だけがでっかい芋虫娘さんも、アタミシアのことはあまりご存知じゃ無いでしょうからね?」
胸だけがでっかい芋虫娘というのはローラのことである。実に悪意に満ちた侮蔑であったが、ローラは気にせずに義手義足を外して見せ、へらへらと笑って見せた。
「そういうマレーネさまこそ片輪じゃございませんかね? あーでも健康な手足が3本もあって羨ましい限りでございますな?」
「おほほほ。欲しければ譲ってあげてもよろしくてよ? ただし、わたくしが死んでからお譲りいたしますの。ただ、身体の相性が悪いと、イーガの名医に頼んでつなげてもらっても無駄に終わりますわよ。他人の手足はなれるまで恐ろしいほどの時間がかかると言われますから。慣れた頃には腰が曲がったおばあちゃんになっているでしょうから、せいぜい義手義足で我慢しなさいな。うふふふふ!」
全くもって険悪な会話であった。無理もなかった。ローラがイズヴァルトが惚れて妻にしたことに、マレーネが嫉妬心を抱いたからだ。
イズヴァルトとローラの仲は大変よろしかったが子は無かった。しかし自分にはイズヴァルトとの間に子どもがいる。なのに愛人止まりというのが気に食わなかった。イズヴァルトのちんぽから精液をびゅるるっと絞り出したのは、マレーネが先なのだ。
実に刺々しいやり取りがあったが、マレーネによるアタミシアの観光ツアーが始まった。まずはこの街の大通りを西に行ったところにある、円形劇場である。
この劇場は200年前に建てられ、その頃から存在していた様々な魔道によるからくりが用いられていた。例えば、雨天時に天幕が張られて客を濡らさぬようにする仕組みがあった。
「それだけでなく、ここでは演者が宙に浮いて飛ぶ装置や、色とりどりの照明石が舞台を照らして客の目を楽しませますのよ」
舞台はちょうど劇をやっていた。下半身がヘビのしっぽになっているラーミアという魔族の女が、魔界に戻るために自分を遊び半分で呼んだ召喚士を殺そうとする話である。
今まさに、ヘビの尻尾のキグルミを着た上半身裸の女優が、その召喚士を討たんと飛び蹴りを食らわそうとしていた。この劇のクライマックスにあたる場面だった。
「ほう。飛翔術式がかかるのでござるな? 演者は魔道の心得がござろうか?」
「魔道に関してずぶの素人でも装置があるから扱えますの。魔法の理論を知らなくても、空を飛んだり炎を起こして操ったりできますのよ」
「なるほど! つまりは魔道具でござるな!」
そういうことです、とマレーネはうなずいて、次の場所へ行こうと呼びかけた。
「おろ? 劇はまだつづいているでござるよ?」
「この演目、はっきり言ってつまらないですわよ。漫才みたいな内容ですし、それよりも、本当に1から考えて作った感がいたしませんの」
一緒にいたクシガタールの郷長が、股に棒をおしこんでガシガシとこすりながら、「転生者が書いたもんずら」と告げた。
「要するに、昔の作品か前世に読んだもんの『ぱくり』ずら」
「さ、さようでござるのか?」
「そうずら。おらの大昔のニンゲンの知り合いに、前世でラーミアが飛び蹴りをかます話を読んだことがある、と教えてくれたやつがおったずら」
それとこの劇場の演劇の殆どは、転生者の作家による『盗作』か、およそ出来が悪い劇作家が書いたものばかりだという。
イズヴァルトは周りを見て首をかしげた。着飾った若い女たち、あるいは見目の良い男女が面白そうに観劇していたからだ。
「しかし、他の観客席の皆様方はとても熱心にご覧になっておられるが?」
「フリ、ですわ。こういう名のある劇場の客となっている自分に酔っているだけですの。着飾ったぶんおつむのほうも充実させたいという見栄のためですの」
言い切るマレーネにイズヴァルトは嫌なものを感じたが、エルフたちがうなずいているのを見て彼女は正しいことを言っているのかもしれないと考えた。
【ギルバート=カツランダルク注:イーズィ王国だが、服飾家のセンスは世界随一なことで有名だが、学術や文芸に関しては今ひとつな国として知られている。ちなみにカントニアで一番文芸が盛んなのは、今も昔もコーガ地方である。】
次に案内されたのは、アタミシアの海産物をふんだんに使った大きな料理店。100年以上の歴史を誇る老舗だった。建物は3階あり、1階と2階は来店客でひしめき合っていたが3階部分は空いていた。お得意様の専用のフロアだった。
そしてここで出される料理は、イーズィ地方の古来からある、魚を主体とする料理ばかりであった。魚を散りばめたサラダや刺身、あるいは魚鍋や焼き魚など。
マレーネはここのお得意様でもあった。彼女は案内した店員にアレを持って来て頂戴、と告げただけで調理場へ向かわせた。メニューを見ていなかった。
「あれ、でわかるものでござるか?」
マレーネの隣に控えていたオットーが代わりに答えた。
「お嬢様はこの店の常連でございますから。それと、今日この日の為にあらかじめ予約を入れていたのです」
マレーネお嬢様の舌は信用できるから期待していただきたい、とオットーが言うと、マレーネはふふ、と笑ってイズヴァルトに言った。
「イズヴァルト様とお連れの方々と、今日この日の再会を祝してそうさせていただきましたの。ここの料理は味にうるさい美食家もかろうじて及第点を入れてくれる程ですから、安心していただいてくださいね?」
言い方に棘があったが、出された料理を見てイズヴァルトは感激した。色とりどり。それからおいしそうなにおいが立ち込めていて、量が多かった。
「おお! 拙者のよくばりな胃袋のことを考えていただけていたとは!」
イズヴァルトの前には、あら塩を散りばめた大きな魚の頭を焼いた料理が乗った大皿があった。この辺で獲れるカントニアオオマグロの兜焼きであった。
カリカリに焼かれた表面にナイフを突き刺して中の肉を削って自分の小皿に取る。それをフォークで刺して口に運ぶと、適度な塩気と脂がのった柔らかな肉の風味が口に広がった。
その美味に誰もが感激の声をあげた。魚料理にかけてはチンゼーで一番と言われるシマーヅのピピン王子とウーゴ王子も褒めに褒めた。常日頃2人と食事を共にしていたエレナとオリガもだ。
どれも申し分ない。が、粗食を知れば美食も十分に知っていたイズヴァルトは、サバ料理だけはよろしくないと思った。
「エチウのサバさんに比べて、いささかぱさぱさとし過ぎでござるな……」
それを耳にしたマレーネがうなずいた。
「おまんこの味しかわからない野蛮男と思いきや、意外と舌も肥えていらっしゃったのですわね?」
「言い過ぎにもほどがあるでござるよ。なんとなくでござるがこういう理由がござろう」
イズヴァルトはカントニアの周囲を取り巻く海流のことを語った。カントニアは南にあるが、このイーズィでも気候はキンキ大陸南部とあまり変わりが無かった。カントニア大陸は寒流に取り巻かれているからだ。
それからムーツ大陸の海流とつながっていて、冷たい海水がまわり北国の魚が流れて来て生息している。エチウでよく見かけるサバがそうであった。
しかしサバたちはたまに、多くのエサを求めて南のオガサワーラあたりやシマナミスタン大陸近海に旅することがあった。そちらの海は暖かかった。餌となる生物も多く、ずっと棲みつきたくなるぐらいに居心地が良いのだ。
「しかしそうした海には脂は必要ござらぬ。何せ暖かくて動くのに余計な栄養が必要ござらぬからな」
「ご名答でございますわ。それと、イーズィ地方近海は南カントニアでも温かいほうでございますの。お風呂みたいにぬくぬくとしたシマナミスタン海流に近いですからね」
2人の話を熱心そうに聞いていたローラがなるほど、とうなずいた。
「となればイーズィはシマナミスタンとの交流が盛んでございますから、自然、食文化が近くなる。あちらでは焼くより油で揚げたり、香辛料をまぶした料理が多い。シマナミスタンと同じぐらいに胡椒がとれるカイロネイアにも近いのに……ここの料理は香辛料をまるで使っておりませんな。となるとこの店は、郷土料理を出す店では無いのでしょう?」
問われたマレーネはくふ、と微笑んだ。
「ご明察、でございますわね。その通り。ここはカントニアでも東のほうからやって来る観光客さんたちの味覚にあわせたお料理を出しておりますの」
つまりは観光客向けの店であった。本物のイーズィの郷土料理は、様々な香草と辛くて痺れる調味液をふんだんに使った味の濃い料理ばかりである。カイロネイア=エルフ好みの味付けでもあった。
イズヴァルトとローラはニラッサの郷で、お腹がぐるぐるとなる辛い料理を散々食わされた。そのせいでローラは荷車の穴からぶちゅぶちゅとうんちを垂れ流す日々を送っていたのだった。
「……本当はお料理だけでもわたくしの『お気に入り郷土料理店』にご案内したかったのですが、そこのオットーがとんでもない胃弱でして、そちらを選べませんでしたの」
マレーネに言われたオットーは、肩を縮めて恥ずかしがった。細面の美男子に見える彼女だが、とても胃が弱くて気が小さかった。
「大通りのほかのお食事のお店は全部、郷土料理ではございませんの。つまりはこのアタミシアは、外からの旅人さんを狙ったお店ばかりの大きな温泉宿場町、と言って差支えありませんわね」
つまりはただの保養地としての面しか無い。つまらない街ですわ、とマレーネは吐き捨てた。随分と気分を害することを言うが、カイロネイアのエルフ達はマレーネの言に賛成していた。特に、オクタヴィアがそうだ。
「おらたちエルフもチンポ漁りと温泉以外の目的で、この街に来ることは無いずらよ。飯も海水浴も温泉も、イーズィにはもっとええところがあるずらよ」
股に自慰用の棒を突っ込んだまま料理をもぐもぐと食べていた、クシガタールの郷長も相槌をうった。
「ほうずらほうずら。温泉とちんちんしか取り柄がねえつまんねー街だあ。特にこのへん。ニンゲンの娘っ子はよそから来た性格のよくねえかわいくねーのばっかだし、無駄にぴかぴかしてうっぜえうっぜえ。でもまあ、そういうへんてこも面白がって見れると思ってイズヴァルトさんたちを連れて来たずらよ」
「ううむ。それだったらミシマニアに連れて来てほしかったでござるよ。あそこはシマナミスタンのあまくておいちい果物や黒糖菓子が、いろんな店に置いていると聞いたでござる……」
しかしミシマニアだと私が来るのが面倒くさい、とマレーネが突っ返した。この慰安旅行だが目的の半分は、お金持ちのマレーネによるおもてなしだった。彼女がカイロネイアに連絡を入れて、この話が成ったのだ。
「とはいえ、温泉だけは良いところですから、そろそろ皆さんをわたくしの屋敷に招待いたしますわね。それと……」
彼女はイズヴァルトとローラを見て付け加えた。それから、エレナとオリガにも。
「お二人には、わたくしがこれから手掛けようとしている商売に関してのご相談がございますので、是非ともお聞きになられてくださいね?」
さて、この金満の令嬢が言う商売とは何だったのか?
その続きについてはまた、次回にて。