※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第六十七回 上

 マリーヤ王国の大規模攻勢。歴史書ではホーデンエーネン王国暦でいうところの、359年4月18日と記されている。

 

 その前日までに、マリーヤ王国は新造の軍艦を含む150隻をフッツディア地方に集結。おおよそ3つの軍団に分けて同時攻撃を展開した。

 

 南側ミ=ウーラを攻める艦隊はおよそ20隻。これは牽制。主力となったのは北に向かった100隻だった。エドニア側の読み通り、今度の攻撃はギョートクヴィア港の奪取だったのである。

 

 しかしエドニア国も布陣を布いていた。ピサロ=アマルフィが所属する白鯨艦隊及び、主力の狂鯱艦隊と鮫歯艦隊を含めて、総勢50隻の航海艦を派遣していた。それからギョートクヴィアの守りにつく、比較的小型の河艦も20隻が海に出る。

 

 その日の午前5時頃、白鯨艦隊にマリーヤ海軍出現の情報が届いた。スミダリヤではなく直接ギョートクヴィアを攻めるようだ。エドニアの読みは少し外れた。主力三艦隊は西のスミダリヤを狙うと思っていたからだ。

 

「急ぎ、ギョートクヴィアに向かわねば!」

 

 白鯨艦隊の提督は戦速をあげろと配下に命じるが、この中で一人、ピサロ=アマルフィは異論を唱えた。

 

「絶好の機会ではありませんか。マリーヤは大軍を頼みにして力攻めで街を落とそうとしている。しかも島々が散らばり、入り組んでいて防備も整えたギョートクヴィアにですよ?」

 

 ここは艦隊の速度を落とし、敵方が深入りするのを待つ。マリーヤ軍にいるであろう、陸戦隊の上陸作戦が始まった頃に急襲するというものだ。

 

 武将らは彼の意見に反対した。提督の第一の副官が憤り、叱り飛ばした。

 

「貴様には人の心が無いのか! それでは民間人に被害が出るではないか!」

 

 ピサロの右頬は腫れたが、それでも論じた。

 

「こんな時のために避難勧告や内陸部への退避をしていたはずです。それに、街には防護術式を仕掛けた陣地があるはず。1日や2日では落ちますまい。半日すればフッツディアやギョートクヴィアの諜報から報告が届くはず。それまで待ちましょう」

 

 提督はピサロの提案に耳を傾けることにして、他の艦隊の提督らに意見を求めた。誰もが一理ある、と返してきた。ギョートクヴィアの守りが堅いのは確かだ。

 

 結局、3つの艦隊は待つことにした。そして4時間後にギョートクヴィアから救援要請が届いた。

 

「敵艦多数。水上を制し陸戦隊を上陸させ、現在市内にて交戦中。急ぎ加勢を求める」

 

 敵艦だが、うち9隻は上陸戦までに戦闘不能。残るは91隻。どれも防衛術式をかけられており、投石砲の攻撃に2度3度耐えられるとのことだった。

 

 しかしエドニアの船と比較すれば脆いと言えた。白鯨艦隊は1隻ごとに必ず魔道士を2人、3人置き、防御を厚くしていたからだ。

 

 しばらくして遠くフッツディアからも報告が入った。敵軍は3方に分かれて出撃した。一番多くの船団がギョートクヴィアに。もう2つは数が少ない。囮のようだが、

 

「うち、金色エルフらしき一団を乗せたのがシナガウに向かった」

 

 他の参謀とともにその情報を聞いたピサロは、今こそギョートクヴィアに向かうべきだと提督らに上奏した。提督は聞き入れ他の艦隊にも連絡を取って出発した。

 

 この時代のカントニアの船は基本、帆を風に受けて進むのだが、大抵は魔道で風を起こして推力を高めた。専門の魔道士だけでなく、兵士や船員、はたまた貴族クラスの者も行う。

 

 カントニア人はほんの少しでもエルフの血が混じっていたから、魔法が使えぬ者はほぼいなかった。特にエドニア人は喧嘩慣れこそしていなかったが、魔法に関する才はマリーヤ人よりもあった.

 

 交代交代で風の魔法を起こし、船団は最大船速で東に向かった。4時間後、炎と黒煙が各所にあがっているギョートクヴィアが見えた。しかしエドニア艦隊は焦っていなかった。

 

「敵は攻めあぐねている。港湾部を占拠されたが、政庁を守る防塁をまだ突破されていない」

 

 しびれを切らした艦隊が、とうとう艦砲射撃を開始した。敵艦隊は街や周囲にある島々の陣地を攻撃するのと、海側を守るのとで二手に分かれているとのことだった。

 

 各艦隊の提督は好機、と捉えた。各艦に帆をまとめて櫂をこぐ役目の水夫達に持ち場につけと命じた。両舷の鎧戸が開き、長い櫂が伸びる、

 

 各船の漕ぎ手たちは、国中から集められた屈強な力自慢ばかりだ。男ばかりだが女の姿もある。誰もが腕と胸板が太い、牛のような大きな身体をしていた。

 

 彼らは普段、船内で雑用ばかりをしているが、決戦の時は身体強化術式を己にかけて力をあげる。最低でも3倍だ。

 

 その上に、このような時には各自に飲み薬が渡された。疲労と痛覚を麻痺させて高揚感をもたらし、その上魔法の効果をあげる効能があるものだ。それを飲んだ水夫たちは雄叫びをあげると、腕と腰の筋肉を躍動させてめいいっぱい櫂を漕ぎ始めた。

 

【ギルバート=カツランダルク注:その麻薬だが古代ムサシノ帝国時代から存在していた。『森の蝮』と呼ばれる暗殺者が、標的の過労死を狙って造ったものらしい。性交での快楽も深めたそうだ。この当時のカントニアでは合法とされていたが、現在では取り扱いと製造が禁じられている。この薬が原因での犯罪が絶えなかったからだ。】

 

 漕ぎ出すと船速はあがる。櫂で進むのは小回りを良くするためだ。船団は島嶼に囲まれるギョートクヴィア湾に集まる、マリーヤの艦隊に向けて突進する。それをようやくマリーヤ軍が察知した。

 

 ちょうど2キロという距離に入ると矢が飛んできて、先頭の艦の船首にあたった。それを見たエドニアの水兵らは敵がどんな兵装を備えているのかに気付いた。

 

「エルフの合成弓だな!」

 

 バリスタではせいぜい1キロかもう少しだ。しかしエルフ達が造った魔法の弓矢なら、ニンゲンが用いても2キロは飛ぶ。

 

 指揮官や船長らは戦闘員に、矢盾や物陰に隠れろと命じた。敵の様子をもう少し見てみたいピサロは、鉄盾を持ちそれに矢が当たる音を聞きながら、敵の船影がはっきりと見えてくるのをその目で確かめていた。

 

 距離が1000メートルを切ったところで、各船の銃眼の窓が開いた。そこからバリスタの先や小型の投石砲の砲門が飛び出た。

 

 残り600というところで、マリーヤの投石砲が噴いた。飛ばされたのは火薬をたっぷりと詰めた炸裂弾だ。ほとんどが海に落ちて轟音と水柱をあげるが、そのうちの1つがエドニア海軍の一隻に直撃し、爆発した。

 

 が、それで砕かれることは無かった。防護術式が施されていたからだ。あと3,4発喰らえば効力を失うが、マリーヤ側の砲手はお世辞にも上手いとは言えなかった。

 

「マリーヤの奴らはろくな訓練をしていなかったのか?」

 

 ピサロの隣で、樽の後ろに隠れていた騎士が言った。

 

「多分新兵だからでしょう。船の数がいつもろより多すぎます。元々が陣地への砲撃が狙いだったのでしょう」

「動かない標的なら、入って3日の素人でもできるからな!」

 

 射程距離内に入った船が鐘が鳴らした。舵を切りマリーヤの船団の真横に入った。ここからは撃ち合いだ。船速を落とし、各船の水兵がバリスタの狙いを定め、敵船に放った。

 

 最初の一撃は魔道の防壁で跳ね返された。エドニア側もだ。しかし2撃目、3撃目になると固めた護りがものをいい始めた。

 

 先に船板が爆ぜ、悲鳴の声をあげたのはマリーヤ側だった。

 

「撃て! 撃てぇーッ!」

 

 こちらの防壁もそろそろおしまいだが、エドニアは果敢に撃った。武器庫から予備の矢弾を出す必要があり、次の装填まで時間がかかる船は、舵を切って全速力で逃げ出した。代わりに新手の船が砲撃に加わった。

 

 マリーヤも敵の船を沈めるようになったが、狭い湾に集まってしまったせいで身動きがとれなかった。とはいえゆっくりとだが幾隻かは舵と櫂を用いて離れ、追い打ちをかけられながらも後備えの船と交代した。

 

 会戦から1時間経った。エドニアは数こそ劣勢だったが、勢いがあった。マリーヤ側は20隻ほど失ってたじろいでいた。

 

 そこに追い打ちをかけるかのように、島と島との間の狭い水路から、投石砲を積んだ数席の河艦が入ってきて襲いかかった。海に出ていたものと好機を待って潜伏していた、ギョートクヴィアの防衛水軍だった。

 

 マリーヤ水軍は囲まれた。艦隊や河艦だけでなく、陣地からの砲撃もあった。四方八方から攻撃され、みるみるうちにその数を減らしてしまった。

 

 交戦が終わったのはその日の23時。エドニア側の勝利だった。ピサロ=アマルフィが乗った船は大破して戦闘不能となったが、運が良くニンゲンよりも強靭なハーフエルフであった彼は負傷しながらも生き残った。

 

「……勝ったか」

 

 降伏と救援の花火を打ち上げる、敵艦の姿を見てピサロはつぶやく。この戦いは彼にとって初めて知る勝利だった。

 

 そして潮騒とともに、背後では勝利の代償ともいうべき声を聞いた。大怪我をして甲板に引きずり出された水夫達のうめき。息を引き取った船長の遺骸を抱いて泣く、水兵達の慟哭。

 

 しかしその声は、友軍の船の閧の声でかき消された。

 

【ギルバート=カツランダルク注:これが勝利というものの本質なのだ、と本人は日記に書き残している。しかし彼のエドニア海軍での人生の大半は、負け戦と引き受けさせられた殿作戦の毎日だったと言い伝えられている。】

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 その日。イズヴァルトはピピン王子とブライアンとともに、シナガウの台場に入った。

 

 台場は港と長い桟橋でつながっており、扇形の島の周囲は石垣で固めた強固な塁で固めていた。投石砲は20門ほどあり、約500名の兵士が常に常駐していた。

 

 島の東端の物見台にのぼったイズヴァルトは、ピピン王子とともにあたりを見回した。

 

「なかなかに強固そうな要害でござるな」

「本当にここを襲うんでしょうか、イズヴァルトさん?」

「正直言うとわからぬでござる。が、シナガウが一番王都に近い。手っ取り早く奇襲を仕掛けるなら、ここでござるな」

「でも、王都への奇襲の目的がいまいちわかりません。サガミニアでさんざん工作を続けたのですから、それを頼みに王都を攻略するなら理解できますが」

「拙者もわからぬでござる……ここはローラどのにたずねてみよう」

 

 イズヴァルトは空に向かって、サキュバスのオーラフの名を呼んだ。はい、という声が背後から聞こえた。彼女は姿隠しの魔法を用いて、イズヴァルトの側についていたのだ。

 

「念話術式を使い、王都にいるローラどのかマレーネどのに尋ねていただきたい。この場合の奇襲は、何を意味するでござろうか?」

「そうですか、ええと……マレーネさんとつながりましたけど……その……」

「なんでござるか?」

「そんなつまらない疑問に答える暇が無い……ええと、エドニアの王都で、密かにマリーヤと通じていた貴族たちが、王子様のうち1人をさらって二の丸に立てこもったそうです」

「な、なんと!」

 

 してやられた、とイズヴァルトは嘆いた。流石に王都内の内通者までは存じていなかった。マレーネとローラは子どもたちと共にイーガ大使館に入ったが、事態鎮圧の為に手を貸してくれ、とエドニアの王族に乞われたせいで、その会議に首を突っ込んでいた。

 

「謀が多すぎるでござるな?」

「マリーヤとは国交を断絶したくなりましたよ。ここまで気色悪い陰謀を張るとは……」

「ま、なんにせよ事態を見守るしか無いわ。エルザ姉さんとブライアンがサカり終えるまでに、敵軍がやってこなければいいけれど……」

 

 オーラフは桟橋近くに張った、小さな天幕に目を向けた。そこでブライアンとエルザは恋人同士の愉しみに耽っていた。エルザの声で周囲の者が集まってしまっていたが、彼女たちはお構いなしだった。

 

「とりあえず、拙者らは待つしか無いでござるな。ウラクタとカーマタからは、マリーヤ軍を見かけたという連絡が来ぬし、しばらくのんびりと構えさせてもらうでござる」

「じゃあ、ワタシはピピンさんにかまってもらうことにするわ」

 

 オーラフが姿を見せた。ぴちっとした黒いドレスをまとっていた。豊満な乳房と尻が特徴的な、やや太ましい身体がピピンに抱きつくと一緒に消えた。邪魔する者がいない場所で思い切り青姦に勤しむため転移魔法を使ったのだ。

 

「サキュバスというのは、やれやれでござる」

 

 イズヴァルトは物見台から降りると、釣りをしていた兵士たちの様子を見物しだした。

 

 シナガウのあたりは意外と釣れた。釣り人のバケツは、何匹も青魚が泳いでいた。釣りをする兵士たちの今夜の晩ごはんだ。彼らは近所に世帯を持っていた。

 

 4月のやや寒い潮風に吹かれながらも、イズヴァルトは釣り人達の様子を見つつ、うとうととし始めた。その日の正午頃のことであった。

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