聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
イズヴァルトの時代より200年以上も先のこと。
ホーデンエーネン共和国の南部の大都市・ヨーシデンの総合大学に籍を置いていた若き歴史学者は、近頃出した研究論文を先輩学者達にこき下ろされた。
「碩学姫の業績などわかっている! なにゆえこのような『わいせつ文書』をご立派な論文として学会に提出したのだ?」
「イーガ王国は偽物の歴史書や伝記がごまんと存在するそうだが、君はそれを参考に書いたのかね? ばかばかしい」
「君。このトリシア大学で働くなら碩学姫とその子孫のことはあまり良いように書かないことだ。トリーネ姫とその娘のアーノンレンシ。あの者達は国が危難の時に手を貸さずに国を去ってしまったではないか?」
「それにこの論文は……最近我が国に出回るようになったあの奇書も参考にしているのではないのかね? 確かにあの頃のイーガの宰相のものであると記憶しているが、あの『女』にあまり良い話は聞いておらんよ。例え英雄の子を産んだとしてもね」
この論文は即刻破棄か封印しろ。それが学会での結論。歴史学者は我を通すのをこらえて従う事にした。但し彼には特殊な才能があった。
ギターを持って即興の詩を造る。いにしえの吟遊詩人の様な才能があった。美声の持ち主だった。副業としているが、プロの詩人歌手としてもそこそこ名は知れていた。
あまり仕事を貰えない大学を抜け出しては、街の酒場や演芸大会で自作の詩を披露する。それらの詩には彼が封じられた論文に書かれたことをうたっていた。学者たちは黙殺したが大衆らはそれを受け入れた。
それから20年が経ち、彼の研究は認められ出した。かの英雄のサーガではほんの一部でしか知られなかった、碩学姫の物語は皆が知ることなった。その第一人者として彼は海外の大学に招聘される事がしばしばあった。
その男の名はギルバート。碩学姫と呼ばれる人物の十数代も先の子孫である。ごく一部の者しか教えていないが、彼は英雄と姫の両方の血を継いでいた。
彼は自作の詩の1つにこのような事を記している。もし英雄がサイゴーク大陸から帰ってこなければ、ホーデンエーネン最強の騎士という名声と武名を失う代わりに、愛すべき人といつまでも過ごし得たかもしれない。
碩学姫についてもこう詠う。学問は何も大学ではなく便所でもやれる事だと気づいていれば、英雄の子どもらの母親として、市井の大学者としての道もきっと拓けただろうに。
その日、ギルバートは久しぶりに来たナントブルグの劇場に立った。
つま弾くはサーガの調べ。
聖騎士イズヴァルトの物語の第二章、少年の彼が亡き師の故郷へと向かう物語を。
次回が本編となります。
本作ですが『~編』ごとにまた第一回からはじまります。