聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
オッヤシラッツの戦いから、オルフレッドの才能は開花した。港を奪取した日の夜、クボーニコフ側の反撃があるだろうと言ったロート伯に、偽計を提案した。
「残った敵の船を沖合に浮かべましょう。俺達はそれに乗って潜み、相手が接舷したら襲いかかるんです」
クボーニコフは海軍が主体だから、海から襲撃しに来るだろう。これは一か八かの作戦だが、当たれば敵に打撃を与えられるはずだ。彼は討ち取った敵の守将が持っていた、ミスリルの小剣や槍の穂の出来具合を確かめながら進言した。
「わかった。でもそれだけでは心もとない」
ロート伯は二段構えでいくことに決めた。囮が敵軍と揉めている間に、快速な小舟に乗り込んだ一隊が挟撃をしかける。幸いに、このあたりの海の潮目がわかる漁師が味方についてくれた。
明くる日の夕方、準備が整い沖合の船に潜むオルフレッド達のところへ、東の港からやって来たクボーニコフの船団が近づいてきた。クボーニコフの海軍は、独自の手旗で信号を送る。それを聞いていたオルフレッドは捕虜のうち1人にやらせた。国に忠誠どころか恨みを抱いているような貧民出身の海兵にだ。
「寄って来たっぺ。うまくいったようだぁ」
「ありがとう。君が生き残れたら、僕の家来として取り立てるよ」
「……ありがてえ」
痩せっぽちで背が低いクボーニコフ人は、ぎりぎりまで付き合ってくれた。敵の船は大きなのが2隻。うち1隻がうまいことオルフレッドが乗る船に板を渡してくれた。それがきっかけだった。
「かかれ!」
オルフレッドの号令のもと、義勇兵らが動き出した。他の船が動いて敵艦に接舷し、身動きを取れなくすると白兵戦が始まった。
敵艦には300名。うち1人がオーガだった。まるで優男のそいつがいの一番に現れると、オルフレッドは頭にツノがあるのを認め、ミスリルの小剣を抜いて突っ込んだ。
「俺狙いかあ!」
そいつは斧を振り回してきた。力強く素早いが、武術の技量はまるで無かった。オルフレッドは腰を低くしたまま背後に回り、振り返って叩き斬ろうとする相手の脇腹に力いっぱいの一突きを加えた。
「うがっ……アアアっ……」
オーガの戦士が倒れると、オルフレッドは斧を奪い、クボーニコフ兵でも強そうなのを斬り伏せていった。その折に敵のもう一隻が動き出すと、ロート伯が編成しておいた快速船の一隊が、その艦に襲いかかった。
その戦いでも義勇軍は勝利した。大きな軍艦のうち1隻をできるだけ無傷で手に入れたオルフレッドは、これに搭載されていた投石砲に目をつけた。
その頃、ウオズトック島からパラッツォ教団の艦隊が、オッヤシラッツの港に入ろうとしていた。クボーニコフの敗戦と義勇軍による港の占拠を知ったからだ。
教団の艦隊の艦長らと合流を果たすと、オルフレッドは手近な港の敵艦隊を叩くべきだと進言した。
「幸いにクボーニコフの軍艦を1隻、無事なままで手に入れております。『投石砲』を搭載しています。これを用いて撃破を試みましょう」
果たしてオルフレッドの目論見は当たった。近くの軍港に停泊していた敵艦隊の指揮官や兵士達が、乱暴者なだけで頭が悪いのもあったが、パラッツォ教団とクボーニコフの船でもって、沖合で撃破した。
艦隊は停泊していた敵方の3隻と200名程の農民出の海兵と下士官を帰参させた。生き残った指揮官クラスの武将はどうするか。オルフレッドは「処断すべし」と声高に言った。義勇軍は賛同したが、パラッツォ教団の艦長らは難色を示した。
「いくらなんでも捕虜にせず、殺すっていうのは……」
「こいつら、エチウの至る所で略奪や虐殺を命じたんですよ? だったらその報復として指揮官ぐらいは処刑しないと。中にはホーデンエーネンのパラッツォ教徒たちを殺害した人物だっているかもしれません」
目には目を、歯には歯をだ。オルフレッドがこう考えるようになったのも、国王の小姓時代に学んだ兵法もあるが、実父らしいイズヴァルトへの反目の念もあった。
(イズヴァルトならおしりぺんぺんで済ませるだろう。でも僕は違う。甘い顔はしない。いや、できない……。)
何故なら武勇が段違い。しかもイズヴァルトはとんでもない魔法戦士だからだ。敵を心の底からビビらせて平伏させる力は自分には無いとオルフレッドは思っていた。だから、多少は冷酷なこともやらないといけない、と常日頃自分に言い聞かせていたのだ。
義勇軍の実質的な隊長であるロート伯も、オルフレッドの案におおむね賛同していた。彼もまた、ホーデンエーネン流の兵法や軍法を学んでいる。しどろもどろになっているパラッツォ教の武者達の前で、ぼそっとこう言った。
「侵攻してきた軍の武将は、身代金の材料としては役に立つが、それは正規の戦いにおいてだ。この様な一方的ないくさでは身代金などあてにならん。しかもクボーニコフは奪うことばかりに執着し、与えることを好まぬケチな国だ」
しかし海兵は役に立つ。特に船の漕ぎ手だ。パラッツォ教徒の女が許せば、大事な生産力にもなる。クボーニコフの貧農は略奪を為していたが、それは貧しいからだ。たらふく食えれば良き人民であり信徒となるだろう。
オルフレッドは最後の押しの一手に出た。高らかな声でこう伝える。
「処刑しなければ義勇軍はホーデンエーネンに戻ります。如何でしょうか?」
凄まれたパラッツォの武者達は、しぶしぶ認めることにした。指揮官らの処刑だが、オルフレッド自身が刃を振るった。さらし場に並べられた海軍衆の武将の首は10あった。どれも、クボーニコフの海賊衆の族長補佐や王国の名門の出の者たちだった。
ボロ布で血刀をぬぐいながら、オルフレッドは武将達の前で言った。
「これに防腐処理を施して、クボーニコフの王に送りつけたいものですね」
挑発と動揺の効果があるだろう。オルフレッドはさらに踏み込んだことを考えて言った。どうせならこいつらの子供が乗船していれば、その首だって刎ねてやったのに。
「そ、そこまでひどいことをやるのは……」
パラッツォの武将らが怯えると、自分はこう言っていたことを捕虜たちに伝えて欲しい、とオルフレッドは言った。
「……何のためにです?」
「彼等を早くパラッツォ教団側に帰順させたいのです。それを手っ取り早くやるなら恐怖が一番効率がいいらしい。兵法の先生が教えてくれました」
「……」
これにはロート伯も黙っていた。そのやり方はホーデンエーネンでも『ド鬼畜』と恐れられているイーズモーの暗黒卿の手だった。オルフレッドは実父や義父と違い、甘い顔を見せる物ではないと考えていた。
(やるなら苛烈にいくべきだ。みんなに甘い顔をしてたから母さんと父さんは死に、イズヴァルトは捕らえられて司祭騎士にさせられたんだ。)
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捕虜たちの半分近くがオルフレッドに託された。
指揮官たちを皆殺しにした上に、その子まで殺したい、と言い放つという『脅し』と、パラッツォ教団に懇願して『飯』と『女』にありつけさせて『安堵』を得たクボーニコフの貧農兵らは、その後の戦いで大いに役に立ってくれた。
教徒の間では一応はわだかまりはあったが、とりあえずは人間扱いしてくれたことにより、彼等は同胞に刃を向けることを厭わなかった。例え戦死しようとも数々の野戦で先手を担って血槍をふるうオルフレッドに従い、次々と敵軍の撃破に手を貸してくれた。
そうして彼が先手衆をつとめたエチゴニア島での野戦の数は、およそ10回ほど。時には優れた魔道士やオーガの武者により危うい時もあったが、彼は実父譲りの武勇でもって屠って切り抜けた。
戦いの先々で捕虜となった指揮官は全て処刑。貧民の兵と完全に降伏するつもりの武者を加えて行き、ハルヒアトゥントゥリに入った時には、800を超える帰順兵を率いる隊長となっていた。
「なるほど、君がホーデンエーネンの若き荒武者、オルフレッド=カツランダルクというわけだね?」
ハルヒアトゥントゥリの本山に籠る枢機卿のサクラウチ=シロウと初めて顔をあわせ、尋ねられたのはホーデンエーネン王国暦358年の3月半ばのことである。
「荒武者というわけでもありませんよ。この島に来てから一緒の、このミスリルの槍のお陰です」
傷痕だらけの顔を槍に向け、オルフレッドは笑って言った。槍は何度か柄がだめになってしまって取り換えていた。穂は刃こぼれしたことが無く、研がなくても美しい刃をたたえたままだった。切っ先は手に入れ時と同じく、鋭利だ。
「ホーデンエーネンの鉄の槍、あるいはムーツの玉鋼のそれじゃ、僕は生き残れて無かったでしょう」
率いていた兵士達も大勢死んだ。クボーニコフの軍船の奪取に手を貸してくれた男も、先の戦いで首を射られ、こと切れた。改宗し、独身の信徒の女と激しい恋仲になったのに。
もともとの義勇軍もまた、無事では無かった。100名程が戦死し、率いていたロート伯も一昨日の激戦で、右手の指を3本切り落とされるほどの大けがを負ったばかりだった。
「ご尽力、痛み入る。しかしそろそろだ。クボーニコフ軍はこの島に兵力を集中し、ハルヒアトゥントゥリを落とさんと息まいている」
そこが目の付け所だとサクラウチは言った。法衣の左胸の小物入れに挿していた赤いバラを引き抜くと、それを手に取って机の上に拡げられていた、ハルヒアトゥントゥリ山地の地図に置いた。
「バラはこの本山、と見てくれ」
「……はい」
「クボーニコフ軍はこのバラをいただこうと、全力を集めてこの山地を包囲している……それを、全部、引き入れる」
明日か明後日までにハルヒアトゥントゥリ山地のあちこちにある砦を引き払い、盆地になだれ込ませるという策だ。本山……元はエチゴニア公国の本城は要害堅固だ。10万の軍に総攻撃をかけられても、3日や4日では落ちない。
「できるだけ引き付ける。それを……私と『同志』達が神聖術式やひそかに集めていた、『プラーグのヨッセル』を用いて包囲殲滅を企てる」
『プラーグのヨッセル』。『枢機卿』らと一部の司祭騎士らが使える、神聖術式で動かす土の巨人たちだ。ゴーレムともいう。エルフ達もかつては同じものを作っていた。『やさしい力持ちのおともだち』というそのまんまの名前で、子守りや土木工事に従事していた。
「プラーグの……それ、なんですか?」
「魔法の兵器と思ってくれればいい。人型魔道兵器とも。しかし数をそんなに作っていない。200……ぐらいだったか。全部この盆地に潜ませてある」
3年前、サート銀山でイズヴァルトとエルフ達が、これに取り囲まれて身動きを封じられたことについてを、オルフレッドは知らなかった。
(わけがわからないけど、それが教団の隠し玉というわけか。いわゆる伝家の宝刀というものかな。)
激戦を潜り抜けた身として、釈然とはしなかったがサクラウチの計略を信じることにした。
果たしてこの2日後、ハルヒアトゥントゥリに籠るパラッツォ教団軍は、クボーニコフ水軍をできるだけかき集め、大いに撃破した。一説によれば、この敗戦で全軍の半分を喪ったという。獰猛で精強を誇った水軍を、30年程再起不能にしたとも。
ハルヒアトゥントゥリの盆地はことごとく、クボーニコフの武者や兵士の屍で埋め尽くされた。その光景を見てオルフレッドは、この戦さ旅で初めて震え上がってしまった。
(これが……教団の真の実力なのか。)
この決戦の翌月、クボーニコフ側から正式な和平の使者が教主コーザのもとにやって来た。