聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「……それで……君の『婿殿』は……ずっと子造りにかまけたままか……」
ハルヒアトゥントゥリの聖堂にて。信者が座る席で書を読んでいたサクラウチ=シロウに、その男が尋ねたのはホーデンエーネン王国暦358年6月の、最初の日の昼のことだ。
「そっちは盛んで順調だ。アコとマコとユコだけでなく、ミコとリコとキコとも始まった」
「……その3人は……確か……去年信徒の誰かの子を産んだばかりだったな……」
立っていた男がつぶやく。ニンゲンでいえば12歳ぐらいの年頃ではないか。まるで魂が抜けているような死んだ目。虚ろな視線。虚無的な表情。それでいて、オーガのそれのようなやせぎすで背が高い美青年に見える男は、枢機卿のうち1人だ。
「ツシマ、お前はオルフレッドに娘を貸さないのか? 枢機卿の中でお前とタカミだけだぞ?」
「……カヅノ兄弟もいるだろう……」
「あいつらは別だ。『元・仙台バンド』のあいつらは別枠と思っているからな。だいたい、弟のほうがオルフレッドを好いていないらしい。でもお前は、最近鍛えた『神聖兵装』を彼に贈りたいほど、興味を持っているのだろ?」
サクラウチはツシマという男が背中に負っていた剣を見る。相手はそれを抜いた。蛇行している刃の長剣だ。1メートル20センチ以上ある。
「……確かにそうだ……この……うねうね剣第二世代型を……イズヴァルトの息子に……」
「おい、フランベルジュというかっこいい名前があるだろう? なんでそっちに基づいた名前にしないのだ?」
『蛇行刃』とか『スネーク=エッジ』だとか、いろいろとかっこいい名前が思いつくだろうに。サクラウチは暗く静かな曇りを身にまとう、枢機卿としての同僚の目をのぞき込んだ。相も変わらず視線をあわせてくれないと思った。理由はわかっている。極度の恥ずかしがり屋なのだ。
この男はツシマ=シュウジといった。オーガの『忌み子』として生を受けた枢機卿の1人だが、他の連中と同じく転生人でもあった。前世でも恥ずかしがり屋で虚無的な顔をよくしていた。あと、空想癖がかなりあった。
「ツシマ、俺と話していて何を思っている?」
「……うねうね剣第二世代型は……くねくね剣に名を変えるか……へびへび剣にするか……」
「うねうね剣でいい。うねる炎の様な刃だからせめて、『炎蛇の剣』ぐらいの工夫をしてもらいたいものだが、『シディムの炎』の術式を入れたりしているだろうな?」
「……この剣で……切れるぬものはほとんどない……」
つまり、斬る以外に役に立つ魔法を込める工夫はしていない、ということだ。サクラウチはツシマが『鉄騎隊長』エドワード=ルーカスに与えた、『第一世代』のことを思い出した。玉鋼とその他の金属を混ぜた特殊な合金で鍛え、神聖術式で切れ味と耐久力を増した「だけ」の代物だった。戦いで折れたが。せめてもう一工夫が欲しかった。
「ちなみに『第二世代』はどんなもんだ?」
「……そもそもの耐久力に難があった……そのため……原材料をもう2種類増やした……さらに……神聖魔法の他に……ナオエニアのドワーフに教えてもらった冶金術式を加え……切れ味……耐久力……弾力性を……増している」
第一世代のは自分とエドワードの二本分だけしか作らず、テスト用の1本を作らなかったが第二世代は万策を尽くした。今回は4本作った。自分用とエドワード、それから、オルフレッドに贈るこれと実験用にだ。
「貸してくれ」
受け取ったサクラウチは鞘からうねうね剣を抜いた。刃の紋が見え、切れ味は鋭そうだった。しかしこの剣は斬るよりも突くのが正しい使い方だ。うねった刃は治りにくい傷をつける為にある。
「重ねがけして鍛えてあるな。だいぶ時間をかけただろう?」
「……1本を仕上げるのに要した時間は……第一世代型の倍だ……」
「そんなにか? 俺も1本欲しいな。フランベルジュではなくバスタード=ソードがいいが。しかしだ、ツシマ。オルフレッドは槍の方がよかったぞ?」
オルフレッドは幼少の頃に、シギサンシュタウフェンの村でイズヴァルトと同じ剣士に習い、ナントブルグでも王家に仕える剣豪に学んだが、むしろ槍や棒のほうが得意だった。そちらの才があった。剣はあまり見込みが無いという。
「どうせなら『蛇矛』をプレゼントすればよかったのではないのか?」
「……考えておく」
「まあ、ここのところのオルフレッドは股間の槍をふるってばかりだからな。娘達の大事なところばかり貫いている。だが、そろそろ飽きて来る頃だろう。たまには気分転換をやらせてあげたい」
そういうわけでだ。もう1つ贈り物をしてみないか。娘達をオルフレッドに貸していない、ツシマにこう言った。
「いろいろと贈り物をしてあげようじゃないか。我々には彼に、たくさん教えてあげられるのだからな」
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種付けばかりの毎日は楽しい。でもそればかりだと飽きてくる。『実父』よりも女の魅力に取り憑かれやすいオルフレッドだが、枢機卿らが言うように彼もそう思っていた。だから、ツシマ=シュウジの誘いを受ける気になった。
まずは贈られたうねうね剣の出来栄えを試す。ハルヒアトゥントゥリの訓練場で『うねうね剣・第二世代型』を手にし、ツシマが用意してくれたものに切っ先を向ける。カントニアが誇るイワッキ=オータニア国の突撃騎兵が用いる胸甲を着せた人形と、ドワーフの戦士が用いる大型のぶっとい金棒だ。
「……うねうね剣は……その形状から……基本的には貫く為の刺突剣としての用途で用いるべきだが……我らは当然……斬ることも想定して鍛えている……」
その切れ味は鉄の棒を断つほどだ。試してみようじゃないか。まずは刺突だ。剣を水平に構え、鎧を着た人形にぶつかっていった。オータニアの騎兵の胸甲は分厚い。でもうねうね剣は軽々と貫いた。人形の胴体も串刺しになった。
(ミスリルの突剣ぐらい……いや、あれよりもっとできが良いな。)
オルフレッドは剣を引いた。鎧と人形の傷口を確かめる。
「治りが悪そうな形状をしてますね?」
「……そうだ……うねうね剣は……命を奪う為に……この様な形状となっている……」
エルフやゴブリンの暗殺者も、こうした形状のナイフや小剣を手にするそうだ。その上に致死性の劇毒を塗り込める。ニンゲンとオーガはそれで確実にお迎えが来る。ほかの亜人にはあまり効果が無かったが。
「……次は斬る……だ……」
「わかりました。つまりはあの金棒をですね?」
オルフレッドは気合を込める。えいっ。斬。金棒は見事に切り落とされた。ただ、剣の切れ味だけでこうはいかない。オルフレッドの力と技量も手伝っていた。
「……お見事」
なかなかどうして、とツシマは驚いていた。剣もなかなかにできるではないか。太刀筋から見れば決して「才能がない」とは見えなかった。剣聖は無理でも剣豪にはなれそうだ。ただ、あの男と比べると、いささか気迫に乏しいかもしれない、と思った。
(……『実父』と比べると……ということかもしれないな……でも、武者としては……なかなかに得難い若者だ……)
しかしその後、ツシマは残念だと思ってしまった。サクラウチとともに槍や棒を用いての腕試しをしてみると、オルフレッドの動きが剣を持つより格段に切れがあったのだ。
オルフレッドに1本も取らせなかったが、接戦だった。しかし剣では、エチウの数多くの名剣士から学んでいたツシマが圧倒した。リーチが短い武器は苦手なようだ。全ての試合で負けたオルフレッドは悔しがった。
「僕は騎士だっていうのに!」
そうではない、とツシマは諭した。自分たちはニンゲンよりも身体能力が優れたオーガであり、数百年も生きている。その長い人生の中、剣や槍の鍛錬もしてきた。1分で学べる質はニンゲンよりも低いだろうが、時間はたくさんあるから存分なアドバンテージがある。
「……決して……才があるわけではない……君も……オーガや亜人であれば……」
「でも、悔しいですよ。戦士の経験が無い坊さんに負けるなんて」
「まあな。私達は僧兵のマネごとをしているつもりはない。武術もあくまで嗜み……護身のためだ」
しかしこれは試合だ。実際の戦いでは単純な技量くらべでは終わらない。相手を罠にはめたり、噛ませを浸かって疲弊させてから討ち取ったり、その時々の『運』で変わる。策戦や不安定要素を凌げるのは、それこそ『規格外』の奴だけだ。
「……しかし……君はまだ……もう1つを……学んでいない……」
「もう1つ、ですか?」
「そうだ。あの司祭騎士団長は剣だけに長けているわけではない」
つまりは魔法だ。オルフレッドはその修練をほとんどしていなかった。ホーデンエーネンでは王族に魔道をある程度は学ばせていたが、せいぜいが暗い所を照らす小さな炎玉をつくるとか、その程度だ。
サクラウチとツシマは、オルフレッドには武術よりも魔法に才があるのでは、と考えていた。なにせ彼はあの怪物・トーリ=カツランダルクの息子だ。男だからサキュバスの術は扱えないだろうが、それでも『化け物』の才はいくらか引き継いでいるはずだ。
「学んでみないか?」
我らの『秘技』を。
つまり、『枢機卿』らが扱う、神聖術式をだ。