聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
捕虜たちの話によれば、懸念していた亜人はほとんどいない。しかし『あいのこ』と呼ばれる連中はいる。ハーフエルフやオーガの血を引くニンゲンのことだ。
オルフレッドは次の戦いで、それにぶちあたった。ムーツ小国の1つ、ムラカミヴィア王国が受け持つ砦でだ。
そこには金色エルフとニンゲンとの間に産まれた者が20名ほどいた。エルフの中では弱い方の種族の血でも、身体能力は優れ、魔法戦士である。低い丘の上に建つ砦に向かい、オルフレッドは陣頭に立って乗り込んで行ったが、表門付近の坂が曲がりくねったところでその一団に出くわした。
オーガ達が着るような具足。しかし武器は片刃ではなく両刃の剣や槍。簡素な兜からうかがえる、金色の髪はまぶしかった。それを見て随伴の司祭騎士が注意を促した。
「あれはエルフの衆です!」
用心を、と言われたところでその一団は剣や槍の先で印を描いた。他の誰かが叫んだ。
「魔法攻撃を加えるつもりだ!」
彼等の真上に、蒼色に光るいくつもの術式陣が浮かび上がる。さらに強く光った。突如、その前方に白い煙が漂う。4秒のうちに消えうせるが、代わりに幾百の氷柱が現れた。どれも20センチほどの長さで細かったが、先端は鋭く尖っていた。
オルフレッドは印を切った。ツシマに教わった防壁術式の展開だ。同行する司祭騎士達も切りながら兵士達に叫んだ。
「下がれ!」
「あれは!」
「『氷柱槍』です! 運が悪いと鎖帷子も貫きます!」
それらは一斉に飛んで来た。オルフレッドとその他の司祭騎士らは内側に反った防壁を構築してそれに備えた。だが、氷柱は直線ではなく弓なりになってそれらを飛び越え、彼等の後方にいた兵士や武者達に襲い掛かった。
次々と起こる絶叫。オルフレッドの背後にとっさに隠れた副官、クボーニコフのあの貧農出身の男は運が悪かった。革鎧に覆われていない右の首筋に深々と突き刺さって悲鳴をあげた。
「隊長さん!」
突き刺さった氷柱矢を握りしめながら、助けてくれと叫んだが、そのまま倒れて末期のうめきをあげはじめた。矢の先端は内臓にまで達したのだ。この場にいる者では扱えぬ高度な治癒魔法では治らぬ怪我だった。
「……!」
オルフレッドは振り返る。この男はエチウのパラッツォ信徒の女達にとても愛されていた。親子ほどに歳の離れた少女達と交わり、3人の子宮に子を宿させたばっかりだった。赤ん坊の顔を見ずに息絶えていく彼を見て、いたたまれない気持ちになった。
「オルフレッドさん、解いてはいけません! 第二陣が、来ます!」
振り返れば新たな氷の矢が。オルフレッドは決した。防壁術式を展開したまま、このまま押し込め。皆に命じると彼等も覚悟を決めて付き従った。
氷矢は二巡、三巡とパラッツォの軍勢に襲い掛かり、数多くの兵を倒していった。しかしオルフレッド達は肉薄した。うねうね剣を手に号令をかける。憎悪が籠った声でだ。
「かかれ! 一人として生きて逃すな!」
そう叫んだオルフレッドが、一番獰猛にハーフエルフの集団に食らいついた。中には女もいたが彼は容赦しなかった。亜人の肌や肉を斬り、骨も断つその剣で次々と敵を屠っていく。敵は素早かったが武芸はからきしだった。魔法に長じてはいたが戦士では無かったのだ。
ハーフエルフ達の運命は過酷だった。血に濡れた肉と金色の髪があちこちに散らばり、その半分が捕らえられた。ハーフエルフの男達はとどめを刺され、腕を断ち切られ、傷口から臓物をはみだしつつもまだ息をしていた女達は、オルフレッドの命でかき集められた。
「彼女達のとどめを刺されないのですか?」
司祭騎士らが問うと、オルフレッドは「まだだ」と答えた。
「砦を落としてからそうしよう。でも、すぐには殺さない」
破城槌を持ちだして、これから門を破ろうとする者達に呼び掛けた。
「この砦を占拠した後、女は残らず犯してから殺す! これは命令だ!」
司祭騎士達はおののいた。ご無体にもほどがある。せめて慈悲を示し、この場で介錯してはあげられないのか?
「この者達はもう長くはありません!」
「早く、マハーヴァラ様の御元へ!」
オルフレッドは命乞いをはねつけた。血だらけでも美しい面のハーフエルフ達に欲望の眼差しを向けていた兵士達に呼び掛けた。
「この世での末期の法悦を為させてやれ! それが慈愛だ!」
彼女達は連れて行かれた。強姦が始まった頃に門が破れた。批難に満ちた視線を向ける司祭騎士らを無視し、勇猛果敢な者達と共に砦の中へとなだれ込んだ。
その砦の中にも女たちはいた。ムラカミヴィアの武将の妻や娘、それから戦場稼ぎの娼婦たちだった。オルフレッドによってまとめて集められた時、彼女達は残らず首を刎ねられた砦の男達を思って、めそめそと泣き続けていた。
「……命じる。ハーフエルフの女達と同じでいい」
クボーニコフの兵士や武者達は歓喜の声をあげた。女達は舌を噛み切らないように口に布をまかれるとすぐさま服を引きはがされ、勝利によってたぎる多くの男根に刺し貫かれた。全員が長い暴行の果てに力尽き、息絶えることとなった。
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その後、オルフレッドは3日のうちにいくつもの砦を落としていった。その都度女達を捕虜にし、付き従う兵士や武者らに犯させた。死を賭しての戦いに赴く彼等に、せめてもの追加の報酬を与えたかったのだ。
しかしこのやり方はパラッツォの教えを信じる者から考えれば、断じて容認できぬ行いだった。夜、テントの中で血まみれになった兜と剣をボロ布でぬぐっていたオルフレッドのところに、1人の司祭騎士が訪れた。
「オルフレッドさん、このやり方はあんまりです」
「……」
「まるでクボーニコフのやり方そのものですよ。ホーデンエーネンだってこんなやり方、許される者ではないでしょう?」
「これは、ホーデンエーネン流のやり方だよ」
ロート伯からこう教わった。兵卒に略奪や強姦を禁じてはならぬ。彼等の報酬だからだ。しかし王から領地を得ている騎士や貴族はこれを慎め。
「僕は船で港を出てからずっと、教典の巫女しか抱いていない」
「……彼女達もあなたのやり方を間近で見て、怖がっていますよ」
「存分に怖がってくれ。僕はこの『ホーデンエーネン流』をやめる気は無い」
司祭騎士はため息をついた。こんな戦い方をしているのを見たら、エチゴニアにいるサクラウチ枢機卿の娘達はきっと悲しむだろう。彼女達は決して、殺戮を容認しない。
「どうしてそんなに思い切りが良いのですか? エチゴニアへの義勇に来られた時は、捕虜を次々と味方につけた、と聞き及びましたが?」
「クボーニコフはエチウに近い。でも、ムラカミヴィアとかあの辺りは、とても遠いじゃないか?」
隣国の兵を皆殺しにしていったらその噂は信じられ、深く恨まれるだろう。でも遠く離れた国々はどうだろうか。
「遠いから情報が伝わるのが遅い。それを確認する者も少ないはずだよ。例え仕入れて戻って来て広めようとしても、他の人々は信憑性が無い『ホラ話』と思ってあまり信じないんじゃないかな」
「いったい……そんなひどいことを……誰からを学んだのですか?」
オルフレッドは冷淡に吐き捨てた。ホーデンエーネンの兵法からだ。母のトーリが実家に置いていたいくつかの軍記物にも、似たような話があった。彼は実の父親の様な、単純一途な武人とは違う人種だった。
「文句があるなら、君だけ船に戻ればいい」
「いいえ。このまま従います。いくさが終わるまでは……それでは、おやすみなさいませ」
司祭騎士は去って行った。きっと、憤懣を仲の良い教典の巫女にぶつけるだろう。そう思ってオルフレッドは見上げた。天井には教典の一節が記されていた。
「いかなる時でも慈愛の心を持たねばなりません。隣人にも敵にも、等しく手を差し伸ばすのです」
(……それが出来たら苦労しないよ。ただのきれいごとだ。)
出発の前、枢機卿のクニキダは「皆殺しにしてやれ」と息巻いていたがあれは嘘だろうとオルフレッドは思っていた。多くの兵力と彼個人の圧倒的な神聖魔法で戦意を喪失させ、誰もかれも帰順させるつもりだろう。
(クニキダ枢機卿ならイズヴァルトのようにやれる。でも、僕は……。)
自分は無力だ。オルフレッドはそう感じていた。
ホーデンエーネンの騎士の中では頭一つ抜きんでた武があり、神聖魔法も覚え始めたが、まだ、敵を絶望させ、「たすけてくだしゃい。おちりぺんぺんでゆるしてくだちゃい!」と命乞いさせるような実力からは、程遠い。
「母さん。イズヴァルト。どうして僕を、無双の勇士として産んでくれなかったんだ? あんたたちの子なんだから、もっと手早く終わらせられるはずだよ、こんな戦いなんか」
平凡な者から見れば贅沢な悩みだ。しかしオルフレッド本人は、思い悩むほど辛いものだった。
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3日後。オルフレッドはその戦いに臨むこととなった。彼のこのノトゼタシア島でのいくさ旅で、一番重苦しい戦いにだ。ユーリポフ13王国連合軍の基地をめぐる戦い。
ユーリポフ13王国連合軍は東部で一番の良港である、ヒミスヴィークに一大拠点を持っていた。とはいえ軍勢は2000もいない。軍船も10隻程度。ただ、この港自体は50隻ぐらいの軍船を収容できるぐらいには広かった。
この戦いに際し、西側の攻略を進めていたクニキダ=テツオ枢機卿は、オルフレッドに合流してから戦うよう求めていた。エチゴニアから追加の船団も派遣する。陸と海とで封じ込め、降伏させる腹づもりだった。
しかしオルフレッドは、その提案を蹴った。残存兵力2200を励まし、東へ兵を進めた。進撃していた各地に潜んでいたパラッツォ教徒300名を加えてだ。
オルフレッドの容赦ない進撃は、敵側にも恐れを抱かれていたし、ノトゼタシアのパラッツォ教徒の間でも話題になっていた。この時、ノトゼタシアの敵連合軍側で、彼はこう仇名されていた。
『皆殺しオルランドゥ』。
オルランドゥとはオルフレッドの、エチウ語圏での呼び方だ。ちなみに彼が名乗っている姓のカツランダルクは、カーンダークである。
「騎士オルランドゥ=カーンダーク。ホーデンエーネンの『女王』と呼ばれたトゥリ=カーンダークの嫡子。そしてその父は司祭騎士団長イフヴァルトその人である」
と、この当時を調べたエチウの学者たちもこう書き残している。ノトゼタシアでのこの戦いから、オルフレッドはエチウの歴史書の中で、その名前で記されることとなった。
その彼は今、ヒミスヴィークの港をうかがっている。港の東にある山からだ。望遠鏡で停泊するユーリポフ13王国の船団をのぞき、後ろにいた司祭騎士らに呼びかけた。
「投石砲、ここまで届くんだろうか?」
「距離があり過ぎますよ。ここからだとざっと3キロメートル。投石砲では無理です。エルフの強弓でない限りは」
「エルフ……純血種がいたら厄介だな」
「多分、この戦いに加わりはしないでしょうね。ユーリポフはオーガの方を重んじておりますから」
「いるとするならゴブリン……いや、彼等もそれほど多くはいないでしょう。これまでのエチウの戦いで、見かけたという話は殆どありません」
純血種のエルフとゴブリンは、クボーニコフの水軍衆には数えるほどしかいなかった。せいぜいがイズヴァルトが戦った戦闘でだ。それとゴブリンは既にこのエチウの件から退いていた。ナンブロシアにある最大勢力の部族が、他の族長を招いた大会議を開いて一切の関与を禁じるよう決めたからだ。1年ほど前に。
「あの辺のエルフ達もでしょうね。もともとがナエバニア=エルフがその源流ですから。そこの大族長がクボーニコフと軍事関係を切る、と宣言しておりましたし、純血種で残るのはオーガ族ぐらいでしょう」
オルフレッドは望遠鏡をさげた。
「わかった。じゃあ、夜襲でいこう。毒矢もありったけ準備してくれ」
「わかりました。でも、本当にクニキダ様の増援を待たないのですか?」
問われたオルフレッドはうなずいた。今は大きな流れがこちらに来ている。このノトゼタシアでの勝負を決する、丁度その時だと信じていたのだ。