聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
カヅノ=セイジはついこの間までホーデンエーネンにいたのは、ケノービ=ソーローにオルフレッドの暗殺を頼まれたから、ではなかった。かねてより、ケノービと密かに進めていた大きな仕事の為にである。
その目的は果たされた。エチゴニア島のハルヒアトゥントゥリとつながる転移ポータルの装置に入るまで、クニキダ=テツオはあらいざらいを彼から聞いた。
「『おしゃぶり姫』のもう一人の子を、ホーデンエーネンに呼び戻したというわけだな?」
「ああそうだ。マイヤとアドルフ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーとの間の娘。今のイーガ国王の養女でもある」
名前はロゼ=トードヴェル=キョウゴクマイヤー。数えで12歳になる。祖父であるヴィルヘルム国王が育ててきた。その出生などは秘密にされていたが。
「その娘をホーデンエーネンに連れ戻したというわけだな。君と君に強力を求めた者達は」
「お前のことだ。調べ尽くしているだろう。カツランダルク党のケノービ=ソーローだ。あいつが『陛下』に上奏して存在をばらしたのさ」
マイヤにもう1人子どもがいる。捏造した調査資料を渡してこんな嘘をついた。王国の英傑・イズヴァルトとの間の子のようである。王家の姫と英雄との間の娘。これはぜひとも連れ戻さねばなりますまい。
セイン王はこの知らせを聞いて怒った。多くの子どもに死なれて疲れ切っていた顔に生気が蘇った。今すぐ連れ戻せ。国王を陣頭に1万にも及ぶ軍勢がイーガに向かった。
「慌てたイーガは、国王自らが国境のシガラーキに入り、会談の場を設けてくれたのさ」
「……遺伝子調査の結果を捏造? そんな嘘、すぐにばれるぞ?」
「だろうと思って闇医者が使う手をケノービに吹き込んでやった。子どもを生んだ端女があるじとの子だと言い張るための、つまらん騙し技だがな」
クニキダは眉間をひきつらせながら笑った。闇医療が盛んなカントニアのマリーヤや、妙な秘薬を作るゴブリンあたりがやる。あまり褒められた手口ではなかった。しっかりと調べ直せばすぐにばれる。
「何度も検査をすればじきにばれるだろう。その時はどうするんだ?」
「その都度ごもっともな言い訳をつける。これはケノービの仕事だ。俺は知らん」
後はケノービに任せよう。そう言ったカヅノに転移装置に入るクニキダ=テツオはローザについて聞いた。
「どんな娘だった? 親のアドルフと言えば、かなりの虚弱体質と聞いているが?」
「……ありゃあ手放したくないな。慈しみたくなるような娘だった」
カヅノの顔はニヤけていた。彼がこの顔をする場合、子どもに対する父親の感情と良く似たものだとクニキダは知っていた。相当気に入ったらしい。
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話は4ヶ月ほど前に戻る。王国暦358年4月の終わり。
シガラーキでセイン王とヴィルヘルム王の会談が為された。セイン王の発言は終始、挑発的になっていた。
「なんたって、ウチんとこのマイヤの娘だぜ?」
マイヤは既に、ホーデンエーネン王家の一門衆だ。その娘だというロゼもまた、同じくである。
それを殊更強調するかのように、セインの声は荒かった。
「フェアディナントの小僧っこはおたくの孫のせがれでもあるんだから返せとは言わねえ。しかしな、ロゼは別だぜ。イーガ王国の血は流れていねえんだろ?」
対してイーガ国王は重々しく口を開いて否定した。
「ロゼはたしかにマイヤ殿の子ではあるが、イズヴァルト殿の血をひいてはおらぬ」
「ほう? じゃあ誰の血だ? ある日突然行方をくらませて、しばらくしてからご逝去の報が出た、あんたんとこのアドルフのかい?」
「……!」
ロゼの血筋については公式上、父親が誰かは伏せられていた。よもや、王太子アドルフがマイヤを幽閉して産ませた子どもだとは言えないだろう。
ヴィルヘルム王以下、並み居るイーガの武将や大臣らが押し黙った。セインは立ち上がると椅子を蹴り倒して大股で進み、老王の頭を掴んで耳元でささやいた。
「まあ、その話はこれ以上は触れねえよ。イズヴァルトの種だって可能性もある」
「それは……」
「だが、ロゼが俺んところの一家に連なる、っていう話は変わらねえ。しかもホーデンエーネン自慢の『おしゃぶり姫』のご長女だ。大事にしねえわけがねえ。姪っ子として、蝶よ花よと愛でてやりてえぐれえだ」
セインは強くにらみつけた。30をすこし過ぎたばかりなのに、心労で疲れ切って皺だらけになり、その上でっぷりと太り始めて肉をつけはじめた顔には凄みをもたらしていた。
「なあ、ヴィルヘルムのじいさん。ここいらで手打ちといこうじゃねえか?」
「と、なると貴公は何を求める?」
「ロゼをホーデンエーネンに連れ戻す。それだけだ。賠償金なんか余計なもんは要らねえよ。あんたのところとは今後、あれこれと厄介をかけるからな。でも、そうしてくれねえのなら……」
今度は10万の軍勢を率い、マルティンとマイヤの子のフェアディナントも連れて帰る。しかも領土侵攻も兼ねてだ。これはイーガの王都・コーヅケーニッヒも落とすという意味も含んでいた。
「わかった。そうしよう」
それが今取れる最善の手だ。ヴィルヘルム王は気圧されて情けないと自嘲しつつ、右手を差し出してきたセイン王の手を握った。
「だが、ロゼは普通の子ではない。ただのおとなしい姫ではないぞ?」
「マイヤの子だからな。サキュバスの血が強く流れているんだろう。そのぐらいはわかっているさ」
かくしてロゼ姫はホーデンエーネン側に引き渡された。会談の後、セイン王は彼女と初めて対面した。
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セイン王のその軍勢にケノービは加わっていた。シガラーキから出たセイン王はカツランダルク党の有力者である彼を呼び寄せてこう言った。
「これからヨーシデンへ向かう。ロゼのおっかさんのマイヤが造った都だ。そいつを見せてやりてえ」
それから船で西へ向かい、大陸最大の貿易都市であるサカーイを経由してアジールへ向かう。それから陸路でナントブルグへ向かうという旅路だ。
「南天騎士団に連絡して軍船をよこさせろ。ヨーシデンの港で停泊させておけ」
「はい。仰せのままに」
「あと……従者で12歳から20歳ぐらいまでの若えやつを10人。ちんぽときんたまのイキがいい奴をだ。ロゼの話し相手の女も欲しいが、まずはそいつらを選んでおけ」
「……はて?」
ケノービは首をかしげた。ロゼにいきなりマイヤやトーリのマネごとでもさせるのか。確かに、ヴィルヘルム王の側近からは話を聞いたことがあるけれど。
「……わかってんだろ? マイヤの娘だぜ? おまえんところのご先祖、ナントブルグのサキュバスの女王の子孫なんだ。それと、『イズヴァルトの娘』ってのもある。すけべえなのは輪にかけて、だぜ?」
顔見せを口実にのぞいてこい、とセインは笑った。王は既に見ていた。イーガ王は変わり種の『孫娘』を、いろいろと甘やかしていたようだ。
姫は王が泊まったその宿の、別の部屋にいた。ではどのようなものか、とケノービは姫を伺うことにした。そこにカヅノ=セイジが加わっていた。従者の魔道士として、フードを目深にかぶってケノービの後ろに付き従っていた。
「どんなものだろうな、『おしゃぶり姫』の娘とやらは?」
その部屋に向かう途中、ケノービがカヅノに予想を聞いた。
「容貌はお聞きになられなかったので?」
「興味が湧かんよ。病弱と聞いていたからな」
しかしマイヤの娘だ。顔に愛嬌はあるだろうが母親ほどの美人には育たないだろう。ホーデンエーネン人の多くに、つまらない顔の小男と思われている、アドルフの娘でもあるからだ。眼力がある者なら、かの王子の顔の良さに気づいていたのだが。
「胸は、どのくらいの実りがございましょうや?」
「そこが母親似だったら『すごくでかい』だ。むしゃぶりつきたくなるだろうよ」
かくして2人は、国王の『養女』がいる部屋の扉を開いた。最初に、若い男の濃い体液のにおいが立ち込めた。しかしすぐにそのにおいは扉と、急ぎ開け放たれた窓に抜けた。
そうしてケノービとカヅノは確かに見た。澄ました顔でソファに座る、ロゼ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーの姿をだ。