聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
カイルの妻でありモナファン家の令嬢であるクリスティーナはマイヤと同じ25歳だが、147センチと小柄で、顔立ちは幼く見える。乳房も尻も大きくない。しかしカイルとの間に8人の、それからもう1人、12の歳に産んだ娘がいた。
その娘の父親というのが、先代のオバーマゲルク大公の実弟で、前アジール海洋公のトマス=オバーマゲルクだ。王国がパラッツォ教と敵対していた時代の宥和論者で、他領で迫害を受けていた信徒を保護していた。
しかしそのトマスは、厄介な趣味を持っていた。若い娘、というよりかはまだ初潮が訪れていなさそうな子どもが大好きで、それ絡みの悪事を積み重ねていたのだ。
クリスティーナは11の時、他の海賊団の頭領らの娘たちとともに、港町のカジノで遊んでいたところを拐かされた。トマスは半ば監禁、もう半分は『わがまま小鳥のあまあま飼育』みたいな感じで彼女たちを囲い、この少女たちが最初に孕んだ子どもの父親となった。
トマスは全員に自分の種を仕込んだ後、イーガのアドルフの手となって暗躍していたエレクトラの手引きにより、娘たちをさらわれた海賊たちの闇討ちに遭って死んだ。
(※このあたりは本編『少年編』の第八回と第九回を参照してください。)
よってクリスティーナは最初に産んだ長女をもってオバーマゲルク公と接点があった。
他の海賊の令嬢が産んだ子どもたちとともにオバーマゲルク公が引き取り、トーリが生きていた2年ほど前まで月に一度、生母として顔を合わせることがあったのだ。
オバーマゲルク公やトマスの嫡子らは、クリスティーナたちにちゃんと礼を尽くしていた。トマスの悪趣味で彼女たちの貴重な乙女の時期を、1年ほど無駄にしてしまったからだ。それだけでなくアジール海域の各海賊団も、いろいろと仕事を回してもらった。割と良い金額でだ。
とはいえだ。オバーマゲルクの家中には、それを嫌う勢力がいた。領内の水軍衆だ。大公に忠誠を尽くす武者たちによって構成されている。
彼らはアジールの海賊達に対して、強い敵意を抱いていた。商船の護衛任務の仕事などをモナファン海賊団らに奪われ、大公から信用されていないと思い込んでいるからだ。
そのせいなのか、もしもの時の為のオバーマゲルク方面の『逃げ道』が、まったく設けられない状態だった。更にカイルの敵前離脱。これが騎士たちの感情を逆撫でた。
クリスティーナの父親のカリグラは、婿殿が生きて戻ってきたことに安心しているが、このせいでモナファン海賊団はきわめて立場を悪くしていた。他の海賊団やオバーマゲルク公からは擁護されはしているのだが。
□ □ □ □ □
他の海賊団に嫁いだ姉たちからもらった手紙を開き、クリスティーナは腕を組んで考え込んだ。
「ナントブルグではモナファン追討の声が上がり始めている」
「オバーマゲルク公の領内の港湾で、水軍衆と海賊衆との乱闘騒ぎがよく起こるようになった。オバーマゲルクへの脱出は難しくなりつつある」
2週間前に国王代理が秘密裏に提示して来た、オーキ諸島への脱出がよいみたいだ。クリスティーナの父親であるご隠居、カリグラ=モナファンもオバーマゲルクの事情はよく知っている。娘にジューンショーンの案を取ろうと言うようになった。
(そうするしかないか……。あたしの身体はこんなんだけど。)
クリスティーナは大きくなった腹をさすった。この中にはカイルとの9人目になる赤ん坊が宿っていた。彼女の部屋にはその他に、8人の子どもたちと護衛の海賊が2人いた。
頑丈そうな筋肉がついたむさ苦しい男らは、ねだる子どもたちを背に乗せ、お馬さんとなって四つん這いで部屋の中を這っていた。とても幸せそうな顔であった。
「おうまさん、はいどうどう!」
「ひひーん!」
馬のモノマネをする部下達を見てクリスティーナはくすっと笑った。ちなみにだがこの男らは、クリスティーナやその姉達の嫁入り前の相手もつとめた愛人でもあった。
クリスティーナは彼らとの性交は不満だった。ちんぽと腰使いは満点に近いが、あそこをまったく舐めてくれなかった。指でいじって濡らすのはしてくれたが。
妻の女陰を散々なめていたクリスは、彼らは酢でしめた小魚の塩辛のにおいが苦手だからではないだろうかと語っていた。モナファン家の女の女陰はどうやら、塩っ気が多いみたいである。
椅子に座るクリスティーナに、一番上の娘が寄ってきた。
「ねえねえ、おかあさま」
金髪の髪と耳を母親の大きな腹に押し当てて尋ねる。
「お父さまといつ会えるの、わたしたち?」
クリスティーナは長女の髪を撫でた。10歳になり、若い海賊と『恋人ごっこ』をするようになっても、顔立ちと表情はあどけない。左手を伸ばして母の頬を撫でる。
世話係の亀頭をつついたりしごいたりしていても、その小ささと整った爪の形は、幼い子どものそれであった。
「わからない。でも、もう少し我慢すればお父さまと会えるわよ?」
「もう少し? いつ? 逃げないの?」
「逃げる手立てを考えているんだけど……」
「わたしもお母さまもこのまま島にいると、ホーデンエーネンのいきり武者どもに、マワされて殺されちゃう、って言ってるよ?」
「……ハァ?」
クリスティーナは額に青筋を立てた。女海賊の声になった。
「おい。どこのクソじゃりがそんなこと言いやがったんだ?」
「みんなだよー。モナファの村の人たちとかだよー」
「アホか。もしそんなのが島に来たら、残らず返り討ちにしてやるにきまってんだろ? 天下のモナファン海賊団だぞ、うちらは?」
「でも、
それはそうだ。モナファン海賊団でもこの拠点島にいるのは、せいぜいが200程度。水際で戦えば勝てる自信はあるが、上陸されたらそうもいかないだろう。
「うちを攻めるんだったらモナファとほかの海賊団の島を同時に襲って、援軍が来ないようにするだろうって、お父さまも言ってたよー?」
「お、おう。そうかもしれねえな。たぶん、あたしがタンゴバルドの連中だったら、それをやるかもしれねえや……」
クリスティーナは長女の頭を撫でた。とても将来が楽しみな娘である。その娘は嬉しそうに母親の大きなお腹に抱きつき、脚をバタバタとさせた。
そのせいで幼い襞から、精液の残り汁がつつ、と流れ出てタイツのクロッチを汚した。昼食前に『恋人ごっこ』をした少年がたっぷりと放ったものだった。
「ん……」
長女が股に右手を挟んだ。クリスティーナは気持ち悪そうにしている娘の顔を見てから窓に目を向けた。晴天はいつの間にか雨雲になり、大粒の雫を海に落とし始めていた。
「雨が降ってきた……」
小粒だった雨は途端に大降りになり、雷が鳴り出した。
□ □ □ □ □
1時間もすると空は真っ暗になり、雨は土砂降りとなった。島のあちこちに建てられた物見台にいても、何も見えないぐらいに雨は激しかった。
そのせいで海賊たちは、島の西側の入り江のほうに2隻の船が入ってくるのを見つけられなかった。両方とも15人乗りの漁船、といったところだ。
船が海岸に打ち上げられる。甲板から次々と乗っていた者たちが飛び降りた。面を包む布をかぶった俊敏そうな体つきの者たち。腰や背中に剣や槍を縛り付けていた。
その中に真っ黒な服に身を包み、同じ色に塗った胸甲を身に着けた、顔が見えない黒い鉄仮面の武者がいた。腰の剣を抜いた。薄闇の中でも青白く光っている。上等なミスリルの剣。
その剣の輝きを目にした、大きな身体の者が鎧武者に目を向ける。胸のあたりが曲線を描き、大きく盛り上がっていた。女だ。半袖からのぞく腕は褐色で太く、手に頑丈そうな手甲を身に着けていた。
「手筈通り皆殺しにするちや?」
「残らずだ。子どもでも赤ん坊でも皆殺しだ」
「つづのうてたまらん仕事じゃ。帰ってええか……」
「リシェナ、君はどんな仕事でもやり遂げる、って兄さんから聞いたが?」
女は顔の覆いを外した。唇が厚ぼったく目がくりっとした、シマナミスタンの風がある女だ。
だが亜人だ。エルフ。剛力と格闘術に関して並ぶ者がいない、ナハリジャーヤの黒髪エルフである。
「心が痛いのは僕もだ。でも、セイン王を見殺しにした海賊団だ。憎い」
「しかたがねえちや……こんな仕事は最初で最後にしたいのう」
「すまない……言えることはそれだけだ……」
黒い鉄仮面は上り坂に剣を向けた。リシェナが先陣を切り他の者が後に続く。坂の上には鉄板を鋲で止めた分厚い門が待ち構えていた。リシェナが前に立ち、深く息を吸い込む。
「
その拳の一突きで分厚い扉は吹き飛び、門の柱が割れて破片を撒き散らした。近くの海賊たちがその音に気づき、首にかけていた呼び笛を吹いて仲間に知らせようとする。
だが、そうはさせない。壊れた門から数名が飛び込んだ。剣の形状はキンキ大陸の直線的な刃ではなく、チンゼーやシマナミスタンの湾曲刀だ。刃が雨を弾き、しばらくの後に赤く濡れた。海賊たちは己の血まみれの首を、泥の中に転がされた。
口封じは成った。一部始終を見届けた鉄仮面は剣をモナファンの城に向けて告げた。
「最初に老カリグラ! 次にクリスティーナだ!」
□ □ □ □ □
半刻のち。
城の大広間から、カリグラの気炎の声を聞き、そのあとすぐに、末期の叫びを聞いたクリスティーナは子どもたちに呼びかけた。
「お爺さまはだいじょうぶ。腰をやっただけだから……」
そうなだめても怯えるばかり……ではなく、どんな荒事が起こっているか、赤ん坊にいたるまで目をきらきらとさせていた。死が目の前にあるとはいえ、荒ぶる海賊の血はこの子らにも流れていたからだ。
そうとはわからず、子守りの海賊とともに、抱えた子どもたちにクリスティーナはなだめて呼びかける。だいじょうぶ。だいじょうぶ。その部屋に背の低い若者が飛び込んで来た。
「く、クリスティーナさま!」
海賊見習いの少年である。彼の顔を見て、長女がねちっこい視線を送った。昼前に『恋人ごっこ』を楽しんだ相手だからだ。こすれられまくって感じやすくなった陰唇が、きゅっと縮んだ。こんな時にも彼女は生命と快楽の欲を覚えていた。海賊の娘だからだ。
「大殿様、お討ち死になさいました! 立派なご最期でした!」
「お父さまが! だれが討ったの?」
「鉄仮面をかぶった、ものすっごく強い黒騎士です!」
クリスティーナは起き上がり、部屋の壁かけていた剣に手をかけた。120センチほどの刀身のグレートソードだ。
「親父をか……やろう、ぶっ殺してやる!」
小柄でしかも身重なのに、剣の鞘を軽々と抜いた。しかも細い腕でぶんぶんと振り回し、怒りのあまりに机に叩きつけ、真っ二つにしてしまった。
「お母さま、すっごーい!」
子どもたちがキャッキャとはしゃいで喜ぶが、そうは言っていられない事態である。
「だめですぜ
「隠し通路から逃げましょう! せめて姐さんだけでも!」
「そうですよ! とんでもなく強いんですから! もうすぐこっちに来ちゃいます!」
致し方がない。クリスティーナは部屋の奥にある暖炉に向かった。その中の右上にぶら下がっていた石を回すと、暖炉の奥が動き出して中が開いた。海賊2人と見習いの少年に呼びかけた。
「おめえたち、子どもたちと一緒に先に行ってろい」
「あ、あねさんは?」
「通路の仕掛けを動かしておく。少しでも足止めできるようにな」
そう言ってクリスティーナは廊下に出た。身重なのにえらく軽い足取りだ。廊下の向こう側、大広間の方には見知らぬ黒装束がの姿が何人かあった。
それに気づかれぬようにクリスティーナは反対側の部屋に入った。扉の横にかけられていた鹿の首の角を力任せに折ると、さっと自分の部屋に飛び込んだ。
「あそこか!」
黒装束の者たちが叫んで走り出すと、地響きが鳴り出した。女の姿が見えたあたりから床が崩れていった。
「仕掛け城だったか!」
「古くさいのにこういうのだけはきっちり整えてやがるな、海賊どもめ!」
しかしさすがはモナファンの海賊、と感心する者もいた。カリグラの首を桶に収めていた鉄仮面にも話がいった。
「追いますか? たぶんクリスティーナだと思いますが」
「放っておけ。この嵐じゃ多分、逃げ船に乗り込んでも無事じゃ済まないだろう。海の藻屑になって消えたかもしれない、と報告しておく。兄上にな」
黒騎士は鉄仮面を脱いだ。アナキン=スカルファッカーだった。顔は雨と汗で濡れ、ひどく疲れ切った様子でうつむきながら、深いため息をついた。
「……女どころか、赤ん坊にまで手をかけたらきっと夢に見る。そこまで図太くなれないんだ、俺は」
横にいたリシェナもうなずく。他の者たちもまた。
ここにいる全員、手は血に濡れていたが、それでも限度があった。立身出世の為に赤子まで串刺しにできる傭兵や騎士らとは違った。けれども城の中は、海賊たちの死体と血の匂いでいっぱいだ。アナキンは皆に言う。
「カリグラの首だけでも持ち帰ればそれで終わりだ。後は、セイン王の仇討ちがしたい忠義者どもに任せよう」
とりあえず、事は成った。形だけでも仕事は果たしたのだ。