聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「手を穢し過ぎずに済んだ」
というアナキンの安堵は、2ヶ月あまりの後に潰えた。脱出して行方をくらましたはずのクリスティーナ達のうち、長女と次女と三女が捕らえられたからだ。『海賊退治』の連中が集結していたサカーイの港でだ。
「なんで捕まった? 逃げたはずじゃないのか?」
アナキンは知らせに来たヨーシヒデクスの部下に尋ねる。彼はクリスティーナに関する情報収集のため、ヒラジマッシモに滞在していた。
「話しによると、その3人は父親に会うためにイーガ行きの船に乗ったそうです。母親が妹を産んだのを直接伝えたかったと聞き及んでおります」
オバーマゲルクからサカーイを通ってイーガに向かう、南側のルートの船だ。北回り船や内陸を突っ切ってアヅチハーゲンに向かうのは、えらく時間がかかる。
だが、イーガ行きの船は、モナファンの息を止めようとする『忠臣』どもに目をつけられている最たるものだ。彼らに手を貸すサカーイでは、イーガ行きの船は必ず改められる。
「……騙されたか」
誰に。多分オバーマゲルクの水軍衆だろう。それの息がかかった連中が、クリスティーナたちをそそのかしたのだ。
「姉妹はどこに収容された?」
「サカーイのとある商人の別宅です。モナファン海賊団を嫌っているようです。商売敵らしいそうですからね」
「わかった。連れて行ってくれ」
アナキンはそこに向かった。サカーイとヒラジマッシモは隣接している。2時間でその屋敷に着いた。しかし彼は館の使用人の案内と、捕らえた姉妹の監視をする騎士に案内され、地下室に向かったところで嫌なものを感じ、その部屋に入った途端に来るんじゃなかった、と後悔した。
(……うっ。酷い。)
3人の幼い娘は布で口を巻かれ、身ぐるみを剥がされ、両腕を縛りつけられた状態で冷たい石床の上に寝かされ、男たちに代わる代わる犯されている最中だった。
彼女たちは顔や身体のあちこちに青あざを作っていた。大人しくなるように『しつけ』を受けたからだ。口元や鼻から血が出ていた。
3姉妹とも虚ろな目で天井を見上げ、なすがままにされていた。股は放たれた精液にまみれ、血が若干混じっていた。乱暴な挿入と休まぬ輪姦のせいだ。すでに壊れかけていた。
部屋は異様な空気に包まれていた。一番気分を悪くしたのは、部屋の隅に置いてある壺からのにおいだった。排泄物が貯められていたのだ。姉妹と男たちの。
「嬲りものにしているのか、あんな幼い子たちを?」
「はは。これもまた敵討ちですよ」
「……あの壁につながっているのは?」
鎖で繋がれた血まみれの少年について尋ねた。
「あれは見習いの少年なのだそうですよ。とっくに息絶えておりますがね?」
「どうして股間が血だらけなんだ?」
「ここにいる一番上の子に、『いけない間柄』だと聞きましてね……試した時、あの子が処女ではなかったんで、激昂した者らがえぐり取ってしまったのですよ。もう息絶えておりますがね」
「……色々と聞き出せたのに。先のことが見えていない」
それっぽいことを言ってアナキンは本心をごまかした。この場で全員ぶち殺してやりたい。だが、兄と自分の野望のためだ。少年を殺した彼らと戦うことはできなかった。
だが、この男たちが怒ったことについて、ある程度は理解できた。自分たちの子どもと同じ年頃の娘が、とうに貫通済みとなったのに憤ったのだろう。アナキンもピルリアとの間に生まれた子供らが、ちょうど同じぐらいの歳だった。親心はよくわかっていた。
ただ、クリスティーナの娘たちはどの子も美少女である。こんなに美しければ貴族階級なら、10歳ぐらいの女の子など「とっくに処女喪失している」とわかっているだろうに。自分の娘みたいな年頃の童女も嗜んだりするのだ。
その代わりにおつとめをした女の子は、銀貨やかわいいおべべをいただくが、中には狂犬と戦わされたりならずもの達に乱暴に輪姦されたりして、二度と生きて親元に戻れない例も、ほんの少しだがあった。
「で、この子たちはどうする? もちろんクリスティーナを誘い出すための人質として遇するつもりだよな?」
「はい。そのつもりで。ついでにカイルも誘い出せば……」
「やり過ぎだ。庶流とはいえイーガの貴族の御曹司だぞ? もし殺したら、場合によっては紛争に発展するかもしれない。今のホーデンエーネンに、魔道騎士団を破る余力があるのか?」
アナキンの指摘にその騎士は不愉快そうに眉をひそめ、舌打ちした。どうやら思い当たるようだ、とアナキンらに思わせた。この騎士は実際、マイヤに関わる10年前のイーガ攻めに加わり、かの国が一筋縄ではいかないことを経験したのだ。
気分が悪くなっていたアナキンは、一刻も去りたかった。せめて殺されないように祈るだけだ。
「犯すのは好きにしろ。でも治癒魔道士は置け。殺すのは断じてならない。兄とヨーシヒデクス様にもこの事、伝えておく」
「なにとぞよしなに……ところで」
その騎士はアナキンに尋ねる。イーガの前王太子アドルフは、いかなる人物だったか?
「……それが? あのかたは僕に対してとても親切にしてくれた。様々な魔法も教えてくださった。師と仰ぐお人だったよ」
「そうでございますか。では、事故に遭ったマイヤちゃんを幽閉してものにした、という噂話は?」
「そんなものは知らん。嘘っぱちに決まっている。ローザ姫はイズヴァルトの娘。マルティン王子が惚れて一時期妻にしただけだ。ばかばかしい」
他の者に返す為の、あらかじめ決めていたセリフだった。アナキンは実際に会ったマイヤをいまだに、ローラという漁民の娘だと信じていた。
□ □ □ □ □
同じ月の末に、イズヴァルトとマイヤの間の娘とされているロゼが、セイン王の子とされる娘を産んだ。王が出陣前に伝えた命により、マレーネと名付けられた。
国王不在で沈鬱な自粛ムードが漂っていたナントブルグだが、この姫の誕生でお祭り騒ぎとなった。20日後の初のお目見えの式では、異母兄であるジョーケインの腕に抱かれた乳飲み子に、参列者は次々とお祝いの言葉をかけた。
暗い日々がいくらか和らぎ、貴族や富豪の間できらびやかな宴が行われるようになったある日、ケノービとアナキンはモナファン征伐派の首魁の城に呼ばれた。フジイデールの南にある、ハビキシュッテンの領主だ。
城の前に来ると領主自らが出迎えてくれた。その目つきがきつく、太った身体にアナキンは見覚えがあって気持ち悪くなった。あのサカーイで姉妹を輪姦した男たちに混じっていたのだ。
「ははは。このたびは遠路はるばると祝着至極! ソーロー卿もスカルファッカー卿も、すこぶる元気がおありそうですな!」
「はは。こちらこそ」
アナキンの兄はそっと出された右手を握りしめた。アナキンは念話魔法で呼びかけた。そいつは姉妹を犯していた奴の1人だ。
「……わかっている。ハビキシュッテン卿より文もいただいた」
その文には姉妹の身体的特徴や、挿入の具合などが事細かに書かれていた。文の最後にはこう書かれていた。
とってもかわいく喘えぐ姿がなまめかしい、愛の天女の様な『ひよこたち』との出会いに、感謝。
「……まったく気持ちが悪い奴だ、この男は。最悪なのと手を組んでしまった。でも仕方がない」
内心、実に嫌だったがアナキンも握手をかわした。
「さて、御兄弟の『友』がお待ちかねですぞ。逆賊モナファンを討たんと怒りを燃やす同志らが。とはいえ本日は、マレーネ姫様のご誕生を祝しての集まりでございますよ?」
ハビキシュッテンは割と腰が低い。江戸時代の石高的に言えば、ソーロー家やスカルファッカー家の20〜30万石よりも格下、10万石ぐらいの領主だからだ。
けれども格式は高い。大陸戦国時代にこのあたりを領していた王国の、嫡流の末裔だからだ。ハビキシュッテンは北にある交通の要衝・フジイデールを一時期領していたぐらいに勢威を誇っていた。城もこのレベルの領主にしては至極立派だった。水堀は三重も巡らしていた。
「さあさあ。皆がお待ちかねですぞ」
城の大食堂にモナファン討滅を目指す『忠義の臣』たちが集まっていた。幾人かの顔を見てアナキンは余計に気が重くなった。あの幼い姉妹を犯して嬉しそうにうめいて精を放った者であった。
ケノービとアナキンは家柄から、ハビキシュッテン卿の左右の席に座った。この集まりの中で大きな領地を持つのは、この御三家ぐらいだ。あとは木っ端レベルの小領主達である。
出された馳走だが、まことに不味いものであった。肉は脂身が多すぎて野菜はしなしな。肝心な味付けも薄いか濃すぎる。風味に乏しい。アナキンは顔をしかめながら、念話魔法で兄に確かめる。
「アジール河の客船のくそまずいことに定評がある弁当って、ハビキシュッテンで作っているんじゃないんでしょうか?」
「このあたりの連中の味覚に期待するな。料理の文化がろくに育っていないからな」
キンキ大陸南部でも、屈指のメシマズの地域である。アジール河口になると食文化は豊かだが。まずいものを懸命にこらえながら、舌鼓を打つ真似をし続けると、ハビキシュッテン卿が「今日は面白いものを用意してきましたぞ」と告げられた。
卿は立ち上がり、手を叩いた。
「持ってきたまえ」
12〜3歳ぐらいの若い侍女らが布に包んだ何かを大事そうに抱えて持ってきた。まずは3つ。アナキンたちの眼の前で布が取り払われた。
金箔を貼られた髑髏である。とても小さい。子どものものと思われる大きさだ。
「……!」
アナキンは絶句。ケノービもめまいを覚えた。
けれども同席する騎士たちはそれを見るや、瞳を好奇心で輝かせて集まってきた。
この髑髏について、ハビキシュッテン卿は1つ1つ誰のものかと説明した。
「この一番大きいのがですな、カイル=グリーヴァスの一番上の娘、ミランダたんのものでございますぞ!」
「おおっ!」
「かわいいミランダちゃんの頭蓋ですか!」
「小さい顎と齒ですな! これで拙者のちんぽを咥えていたと思うと、たまりませんなあ!」
カイルの長女を凌辱した騎士らは、その『甘い思い出』に浸りながら頭蓋骨をうっとりと眺める。
アナキンはその場から駆け去りたかった。スカルファッカー領より急ぎ兵をかき集め、この連中を一網打尽に討ち果たしたかった。
ハビキシュッテン卿は吐き気を催す事実を突きつける。
「真ん中のが次女のリアイナたん。一番左のちいちゃいのが、あの愛くるしかったメイアたんのでございますぞ……姉妹揃ってなんと愛くるしいお骨でございましょうや!」
そうですなあ、と相槌を打つ声ばかりだ。そこに『忖度』は無かった。生前の姉妹を彼らは存分に楽しんだ。悲鳴、喘ぎ、肌と身体の奥がもたらす快感に魅了された。だから骨になっても、かわいいと本気に思えたのだ。
その頭蓋のてっぺんには切れ目があった。ハビキシュッテン卿はミランダの頭蓋のそれを指で掴み取り上げた。
「……なんと!」
皆が喜びが混じった声を出す。アナキンとケノービ以外は。この兄弟は野心はあるが感覚は平凡だった。蓋が外された頭蓋の中を見て寒気を覚えた。
『蓋』を外されて見えた中は、内側にくぼんだ鏡のようになっていた。その鏡に、裸にされて両腕を縛られた女の子が動く姿が映っていた。頭蓋の生前の姿だ。
怯えた目をして、呆然としていたが、突如、何一つまとわぬ真っ黒な肌をした男の後ろ姿が現れた。彼女を組み敷いて脚をこじ開け、幼い陰部を顕わにさせると、のしかかって野太い肉棒を突き立て、動き出した。
男の尻が力強く動いた。娘の膣口が力強いうねりに押し広げられ、蜜を垂らした。それをじっと見ていた客人が宴の主催者に尋ねた。
「ハビキシュッテン様。これはいかなる趣向でしょう?」
「ミランダたんの可愛い姿を収めた映像術式を、この鏡に込めたのですよ」
「いやいや、この男は知りませんぞ? 何者ですかな?」
「あの屋敷のあるじが雇っているチンゼー人の家人ですよ。なかなかに立派な逸物をぶら下げておりましてな……ミランダたんはこのおっきいのによがって、すすり泣きしっぱなしでございましたな」
その『仕掛け』は、他2人の頭蓋の中にも施されていた。長女のそれはまだ広がって馴染んだが、妹たちのは血が滲み、裂けそうだった。
「おやおや。こんな大きなものをちゃんと受け入れるとは……」
「リアイナちゃんもメイアちゃんも、随分と健気でしたなあ……」
姉妹を犯した者たちが、しんみりとした様子でつぶやいた。だが、ハビキシュッテンが作らせた『お宝』は、これだけではなかった。彼は待機していた侍女達に呼びかけた。
「さあさあ、残りのものを持ってきなさい」
アナキンとケノービが顔を青くして待っていると、侍女の1人が布に包まれた円筒状のものを、他3人が布がかけられた大きな台車を運んできた。
「ハビキシュッテン様。これは……?」
「まずは小さいほうをお見せいたしましょう。出しなさい」
抱えていた侍女はつばを飲み込んでそれを包みから取り出した。瓶である。中に入っていたものは、先端が手のようなものが生えている生き物だった。
しかし脚は生えておらず、1本の管のようなものがついているだけである。その上は袋状の形をしており、真ん中が切られていてその中をのぞかせていた。
「……」
それを見てアナキンはいよいよ立っていられなくなった。くるまった生き物のようなものが入っていた。胎児だった。
「これは、なんでございましょう?」
「ふふふ。ミランダたんの子宮と、育っていた赤ちゃんですぞ?」
またも客人たちがどよめいた。その胎児の父親だが、ミランダと『恋人ごっこ』をした仲の海賊見習い。つまりは、サカーイの商人の屋敷で局部をえぐられ、事切れていた少年だった。
「この子宮は樹脂に漬けて保存しております。100年、いや200年。我々が愛して止まなかったミランダたんの膣と子宮とお腹の子は、朽ちること無くこの瓶の中で生きているのです」
つまりは不滅というわけである。死んだ者の内臓と命とならなかった胎児であるが。
「これが女の腹の中にあるものか!」
「しらんのか。罪人の女の腹をかっさばいたことがあるから俺は知っているぞ! でも、こんなにかわいらしいのは初めて見る!」
「やはりミランダちゃんは内臓まで愛くるしかったのですな! いやあ、これは良いものを見た! 眼福ですぞ!」
(……何が眼福だ! 血に飢えた獣どもが!)
心の中で毒づいたのは、アナキンではなくケノービだ。これが国の天下にいる武者たちか。まるで蛮族そのものだ、と憤りながら、ミランダの子宮に釘付けになる客人らを蔑んだ。
しかし『宝物』はこれだけではない。最後に残った台車が残っている。客人たちがそちらに目を向け始めると、ハビキシュッテンは手を叩いた。侍女の手によって布が取り払われた。
台車の上に乗っていたのは三姉妹だった。裸身である。3人とも静止したまま微笑んでいた。長女は両脚を上に広げて大陰唇を指で広げ、次女は
(姉妹は生きていたのか! 騙したな!)
アナキンはハビキシュッテンを睨んだ。悪趣味な冗談だと思った。とはいえその3人の様子は見れば見るほど、不自然に思えた。
「ハビキシュッテン卿、これは?」
「ふふ。剥製ですよ」
大公は立ち上がり、台車の側に立った。メイアが突き出す尻の穴を撫でながら告げた。
「サカーイに優れた革職人と剥製職人がおりましてな……それと人形師。ミランダたんとリアイナたん、メイアたんの遺体を渡して皮を剥ぎ、作らせたのですよ」
職人たちは石膏で彼女たちの剥製の土台を造り、皮と外性器を剥いで薬品に漬けたあと、張り合わせた。目は作り物だが髪の毛は本物だ。
「ホーデンエーネンではあまり知られぬ『剥製づくり』でございますが、サイゴーク、特にスオニアあたりには遺体を使ってこういうものを作る文化があるそうですぞ」
さんざん可愛がった挙げ句、逆賊の子として処刑したが、あまりにももったいなかったのでこの様な剥製まで作った。ハビキシュッテン卿はそう言って朗らかに笑った。
アナキンは何も言いたくなかった。ただただ、この宴から出て行きたい。しかし兄には、一言云う気力が残っていた。
「恐れながら、ハビキシュッテン卿」
「なんでございましょう、ソーロー卿?」
「この様なことはいささか……世の人が眉をひそめる行いかと思われますが?」
ハビキシュッテンは三女の剥製の尻を撫で、頬を緩ませたまま答えた。
「いやいや。これは『見せしめ』とも言えるものですぞ」
「ほう。それはどういう理由でしょうか?」
「この三姉妹は死してもなお、この先ずっと、恥ずかしい姿を人目にさらす。生きている時の姿を知る我々が、可愛らしくてたまらない、と思える頭蓋も子宮も剥製も、後の世の人からはただの恥ずかしい姿としか見ぬでしょう」
ただ、こうも思われるはずだ。逆賊の子だからこうされた。
「王家に刃向かう抑止にもなるわけですぞ。ふふふ」
「まあ、そのような役目を果たすことにもなるでしょうが、しかしものには限度というものがあると思うが……」
「限度? ソーロー卿、貴方ともあろうお方が、そんなことをおっしゃるとは。一度『道』を見出したのならば、突き詰めなくてはなりませんぞ?」
(何のことを言っている?)
ハビキシュッテンはすぐに答えを出してくれた。ケノービの正妻のチュバッカが作り出した『香道』だ。
「あの偉大なる文化の担い手が身近にいらっしゃるのに?」
「いや、チュバッカは……」
「おっしゃいまするな。あの奥方こそ極みを求める道者。拙者もあの志に感化されましてな、こうしたかわいいものをいかにして長く残すか、常日頃考えているのですよ」
ケノービはこれ以上言葉を返すつもりはなかった。作り物の目をはめ込まれた剥製達の微笑みを薄ら寒く感じながら、自分に言い聞かせた。
(天下を取るためだ。こんな野蛮で愚劣な奴らでも、味方につけ、動かさなくては……。)
ホーデンエーネンは尚武の国、と同時に。血と欲望に飢えた『忠臣』たちの国、でもあった。