聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
フレッダとイルマが通う、アスカウの学問所が再開するからと言って、コリアンナが王都と出た翌日だった。ヨーシアキレウスは庶兄の使いに呼び出された。12歳ぐらいになる少女だ。腹が異様に出っ張っていた。
「会わせたい人物がいるから昼に来い、とお館様はおっしゃっておりました」
「スカルファッカー家の館か。ところで、君は?」
「お館様の『ひよこ』でございます。もうそろそろ『めんどり』となりますが……」
要は庶兄の愛人ということだ。王都に住む娼婦の私生児で、子供好き専門の売娼をしていた。去年、客としてついたヨーシヒデクスに、召使いとして引っ張り上げられたという。
「兄上もお盛んだな。顔は知らないのばかりだ。リッカとルイーダにもまだ顔を見せてくれないしな」
「如何いたします?」
「スカルファッカーの館か。使われなくなって久しいと聞くが、お化けでも見せてくれるのだろうか」
ヨーシアキレウスは承諾した。昼前に王宮の彼の部屋に、迎えの者が訪れた。今朝会った少女ともう1人、腹がすっきりしている同い年ぐらいの娘だった。そちらもヨーシヒデクスの『ひよこ』だ。
馬車に乗るとカーテンがかけられた。薄暗い灯りの中であい向かっていた2人が横の座席に座った。何をするのかがわかった。ベルトを外され、ペニスを引きずり出される。揺れる車内でフェラチオが始まった。
(……兄上め。ずいぶんと趣味が悪い趣向を考える。)
その2人には性交まで持ち込まれた。コリアンナを受胎させるべく、しばらくは精子を温存しようと望んでいたが、若い男の生理は考えに沿ってくれなかった。
女の子たちはとてもよく啼いた。性交が終わったところで馬車が止まった。遠回りをしていたのだな、とヨーシアキレウスは思った。
馬車を降りると確かに、市中にあるスカルファッカー家の門の前だった。王宮の正門から5分、といったところなのに、40分もかかっていた。内股ぎみに歩く兄の愛人たちと玄関をくぐると、ヨーシヒデクスと、見たことが無い顔のもう1人が待っていた。
「兄上、そのお方は?」
「アナキン=スカルファッカー殿だ。常々、お前に会いたかったようだ」
お互いに顔を見合わせて頭を下げ、握手をする。ヨーシアキレウスの予見のちからが働いた。この男のは暖かい光だ。でも、
(……何か、暗い闇みたいなものがちらつくな。何かを為すだろうが、どこかで躓くか幸運を逃してしまう。そういう星の下か。)
兄が念話魔法で呼びかけてきた。アナキンはどうだ。ヨーシアキレウスは話しかけてくるアナキンに相槌を打つふりをしながら手短に答えた。
「才と寿命は優秀なれど、運勢の波高し」
「なるほど。俺のような凡人というわけではないのか」
「……兄上のが一番ちょうどよい、と見えておりますが?」
ちょうどよい。ヨーシヒデクスはその一言で察した。会わせたかったのはアナキンか、と弟に問われた。
「この屋敷の奥にいる。アナキンから聞くといい」
「勿体ぶっているようですな。単刀直入に言うと、兄上らの『機密』に関わるお人では?」
「まあ、そういうことさ」
気分が良くなったヨーシヒデクスは、馬車でやって来た2人の侍女を手元に呼び寄せた。片方が、よちよちした足取りの妊婦を気遣いながらやって来る。彼は小さな二輪の花に片寄せ、「俺の弟はどうだった?」と訊いた。
(ひそひそ話に妾といちゃいちゃか、ヨーシヒデクスは。)
彼をちらと見たアナキンは、心の中で毒づいた。
(スカルファッカー家はやはり王家の陪臣だ。たしなめる気概が起きない。)
一応、兄弟が陰で語り合っているのを念話術式の微弱な魔力で察していたが、輪に加わる気にはなれなかった。今日はとある人物をヨーシアキレウスに引き合わせる為にセッティングをしたのだ。
(人の才や寿命がわかるらしいな。三国志の……司馬徽先生みたいなものか。俺の見立てを言わないということは、言えるものではなかったということだな。)
自分のことはいい。異能を持つというヨーシアキレウスには是非とも見てもらおう。自分たちの兄らが進めている陰謀が、成就するか否かが知りたい。いや、良い結果を聞いて火を点けるのだ。
アナキンは屋敷の2階で一番奥にある部屋の、扉の前で立ち止まった。
「アナキン様。ここにその御方がいらっしゃいます……私と一緒に入りましょう。ヨーシヒデクス様は召使いがご案内いたしますゆえ、お嬢様がたとご一緒に、別の部屋でお待ち下さい」
□ □ □ □ □
アナキンの声がしたので、彼女は足元にいる下男に開けるよう呼びかけたが、ねちゃついた垢が隙間についた、小さな足の指をかぐわしそうに嗅いでいた彼は顔を見上げ、悲しそうな顔をしていた。
「また夜に呼びつけるから。それでいいじゃない?」
「しかし今宵は、お館さまと過ごすのではございませんか?」
「1時間だけくれてやるから。それで満足しなさい。下賤の者が図々しいよ?」
「1時間も……!」
下男は感極まっていた。この美姫がそこまで思ってくれるとは。嬉しそうな顔で自分の素足のにおいを嗅ぐその男を、愛おしいと思った。が、恋心などこれっぽっちも抱いていない。
今日は朝起きがけの30分間と昼間の1時間、この男を側に近寄せていたのは別の理由があった。今、彼がはだけていた股間にぶら下がっている、太くてたくましいものとそれから放つものが欲しいからだ。
この男は腰遣いが素晴らしかった。挿れている最中に外してしまうことは無かった。それと精液に含まれる魔力の量がとても多い。魔道を志せば良いのにと思えるぐらいにふんだんにあった。但し早漏ぎみだ。短い時間で何回も発射できるたくましさを持ち合わせていたが。
(スカルファッカー家は優しいからね。下男も下女も栄養が満ち足りているみたい。やはり、アナキンおじさまはとてもおやさしい方だわ。きっと、みんなに好かれているのでしょうね♡)
お義父様とは大違い。スカルファッカー家の養子になりたかったと思っていると、また扉が叩かれた。アナキンの声だけでなく、ヨーシヒデクスの声も聞こえてきた。
「仕方ないわね。さっと身支度するから、それから扉を開けてちょうだい」
「は、はい、レーア様」
その少女、レーア=カツランダルクは立ち上がり、脱ぎ捨ててあったサンダルに足をかけた。それから身繕いの為に大鏡の前に立った。
身長は145ほど。顔立ちは丸顔に近い。後ろで束ねたものを左右に分けて垂らす長い髪は、蒼にも見える黒だ。
髪に似合わず袖の無い純白のドレスを着ていた。但し袖が無く肩と胸元が露わになっている。首の後ろまで生地が続いておりそこで結んで止め、背中にも1本ヒモを通す。後ろは腰のあたりまで丸見えだった。普通のドレスではない。娼婦向けの衣装だ。
まだ子どもの彼女だが、胸元には深い谷間ができていた。細い体にそぐわぬ大きな実りだ。この1年近くで急激に肉をつけた。今では陰茎を挟んでしごくこともできた。乱れが無いのを確かめると唇に紅をさした。
(これでいいわね。)
レーアは椅子に座ると下男に命じた。アナキンらが入って来た。見たこともない若い男を連れていた。昨日の晩、ヨーシヒデクスに背後から衝かれながら耳にした、ヨーシアキレウスという男だろうと思った。
(ふうん。あんまりみてくれは良くないわ。やせっぽちだし。)
魔力がありそうな感じだが、風采があがらなくて印象に残らない。アナキンがその若い男にレーアのことを説明した。
「このお嬢さんは私の兄嫁の親戚にあたりまして、嫁入り前に王都を観光したいということで、ここ数日、私の屋敷で預かっているのです」
「レーアといいます。はじめまして。私のことはお気になさらずに、どうかごゆるりと、おくつろぎなさいませ」
会釈すると若い男が尋ねてきた。
「私はヨーシヒデクスの弟、ヨーシアキレウス=ナガオカッツェです。以後、よしなに。ところでレーア殿、お聞きしたいのですが……」
「はい。なんなりと」
「どこの家の姫君でしょうか?」
思わず正直に『カツランダルク』と言いそうになったが、アナキンが制した。
「ははは。貴族ではなく商人ですよ。ソーロー家の分家で北部の大商人に嫁いだ女性がおりましてな。レーアはそこのご令嬢なのですよ」
「なるほど、そうでしたか」
ヨーシアキレウスは納得した様にうなずき、レーアをじっと見てきた。一言も発さず、ただただ、じいっと。
(なにこいつ? もしかして、あたしの胸元をじっと見ているのかな?)
だったらおちょくってやろう、と思って前かがみになった。レーアの乳房がどれだけ大きく重いのか、見てわかる。男をさからせる術の1つだ。
「……」
無言のまま見据えて。彼の瞳にはレーアの胸は映っていなかった。レーアは気味が悪くなった。この男は何を考えている。念話魔法を仕掛けようと思った。その矢先、
「この部屋はどうも臭い。男の脂ぎった発情のにおいと、酸っぱいにおいがいたしますな?」
「ははは……お気づきになられましたか?」
「酢でも造っているでしょうか? それと、そのう、男の子種の汁みたいなにおいも」
ヨーシアキレウスは気分が悪くなったから出たいと言った。彼をおちょくりたかったから、レーアは立って彼に近づいた。
「……」
1週間風呂に入っていないぐらいの少女のにおいが、ヨーシアキレウスの嗅覚を襲っていた。その周りの2人にもだ。
「あたしね。老廃物をたっくさん出す魔法をかけているの」
レーアはにんまりと笑う。美しい黒髪からもぷうんと臭いものが漂っていた。但し、男の生殖欲を刺激するにおいだ。
「ゴブリン族が編み出した、汗や垢がよく出る魔法よ?」
その魔法だが本来は医療用の術式だ。代謝を促して老廃物を身体の外へ垢や汗として出す。たった半日で1週間風呂に入らないぐらいの悪臭が漂うが、風呂に入って落とせばよい。
彼女は香水ではごまかせないぐらい、汗と頭皮とわきがのにおいに包まれてはいたが、肌はつるりとしていて身体は健康そのものだった。
ヨーシアキレウスは間近に来たこの娘にめまいを覚えた。だが、下男やくさくなった彼女との交合を楽しむようになっていたアナキンとは違い、発情はしなかった。
「気分が悪くなりました。下がらせていただきます、兄上」
「そういうことなら仕方がない。もっと親睦を深めてもらおうかと思ったが……」
ヨーシヒデクスは弟の肩を抱いて扉へ向かった。廊下に出ると振り向いて睨みつけた。レーアは調子に乗りすぎたと反省した。『しつけ』が待っているだろう。
今夜か明日、ヨーシヒデクスに引っ叩かれて乱暴に犯されるかもしれない。彼の『しつけ』はいつもそうだった。
□ □ □ □ □
「もしかしたらレーアを抱くかと思っていたが、案外ひ弱なのだな?」
別の部屋で出された茶を飲みながら、ヨーシヒデクスは弟を笑った。窓は開け放たれていた。ヨーシアキレウスは相当、レーアの悪臭に参っていたのだ。
「ただただ、クサいだけでした……『においフェチ』という趣味を進めた者しか耐えられないでしょう。私には無理だ」
「ほう? コリアンナ姫のどうぶつくさいまんこはよく舐めるのにか?」
「あれは『やさしいにおい』ですよ。レーア殿の身体はただただ臭い。本当に健康のためでしょうか?」
「嘘に決まっているだろう。ああいうにおいを放つ娘を好む男をさからせる為にやっているのだ」
クサくなった娘の身体は、そういう趣味の男を腎虚寸前にまで挑ませるという。そういう男とのセックスをレーアは好んだ。前は風呂を1ヶ月も2ヶ月も入らなかった。髪がフケだらけだった。
「そうですか。ソーロー家の親戚……さしずめ、サキュバス族の血が目覚めたのでしょうな?」
「ここからは俺とお前だけの秘密だ。心して聞け。あいつはチュバッカの親戚どころではない」
レーアはあの一族の中で、もっと上の存在だ。
「ご本家筋、と言ったらわかるか?」
「……!」
「ケノービのやつには止められているが、はっきり言う。あの娘はマイヤ=カツランダルクのもう1人の娘だ。そして、イーガ王家の血も引いている」
「なぜそれを、私に……!」
兄は弟の目を見据えて言った。レーアを担いで天下を狙うつもりだ。
「まさか、セイン陛下の妻にと?」
「そんなところだ。ジョーケイン王子でもいい。俺とケノービの野望に加担してくれるかどうか、聞きたいのだ。手を引っ込めて、俺達の行く末を見届けるだけでもいい。ただ、皆に言いふらすならばこの場で斬る。意味がわかるか?」
「加担もしませんし、言い広めたりもしませんよ。では兄上が一番聞きたかったことをこの場でお伝えいたしましょう。あの『神輿』がどう見えたかを」
途方もない光をまとっていた。トーリやマイヤのように。女傑や女王となりうる器に思えた。
「けれど、あまり暖かいものではありませんでしたな」
「短命に終わるということか?」
「かもしれませんが、そうはならないかもしれない。よく外れることがございますからな。ですが」
ヨーシアキレウスは茶を飲み、ポケットに入っていた飴玉の袋を取り出して、1つを口に入れる。気持ちが落ち着いた。
「単刀直入に申せば……一代限りの天下となりましょうな」
「栄えるのは俺だけが、ということか。ふうむ」
ヨーシヒデクスは満足だった。短期間でも天下を取れればそれで良い。家より名。長いおだやかな栄華よりも、短くも輝かしい栄光だ。望むのは。
「悪くないな! 邪智奸佞の臣として悪名を残して死ぬのもありっちゃありだ! 王家一門衆というぬるま湯に浸かって漫然と生きるよりも、華々しく討ち死にを遂げて名を残したい!」
兄はどうやら群雄豪傑向きのようだ。ヨーシアキレウスは生き生きとした表情の長兄を見てそう思った。しかし加担する気にはなれない。自分は平和な時代で漫然と生きたい性分だからだ。
(俺は兄上の弟として、こそこそと、けれどものんびりと生きていればいい。)
しかしそうはいかなかった。10年以上先に起こる、ホーデンエーネンで起こった激動に飲み込まれていく運命が待っていた。
その動乱の震源地こそが、彼がいたナガオカッツェであった。