聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
子供のちんちんの余った皮を切るばかりの、名医とは程遠い医者かと思えば、かつては『森の蝮』と呼ばれた凄腕の暗殺者だったという。
しかもとんでもない子がいたそうな。イーズモーの暗黒卿じゃ。イナンナ様の暗殺者としてのライバルだったマリベーラちゃんから聞いたのじゃが、あの覇王の実の母親らしい。
となれば、キッカワンテスの祖は暗黒卿の実の母、という言い伝えがあるから、イナンナ様はイズヴァルトおじいちゃまのご先祖様でもある。おじいちゃまは知っていたかどうかは聞いたことは無いが。
しかし妾が補佐をつとめるワターリ王様もまた、イナンナ様の血が混じっておるという。
ハルムノフちゃんの夜伽話によれば、イナンナ様は18代目にあたるユキムネフ様のお母さんだったそうじゃ。おおよそ700年ほど前ぞ。
ユキムネフと言えばワターリ王家の中興の祖。この人物から、ダテーゾフ、シヴァチャコフ、カサイニコフの御三家が生まれた。
(注:ミョーゲチャコフとアイヅバルドは3代目国王の子が祖。クノーヘとナンブロシアは6代目の王の弟たちの領地となった。)
ダテーゾフと言えば、ろくでもないクボーニコフと手を組んだり、ナンブロシアと共にクノーヘを攻めたりしたりと、おじいちゃまに因縁も持つ家じゃった。もう潰れたが。
カサイニコフとシヴァチャコフもとうに無い。領地経営が上手くいかず、クノーヘに組み込まれてしもうた。イナンナ様は子孫に恵まれんかった。
……そして、サイゴークもそうなった。暗黒卿の国はもちろんのこと、あの大戦でキッカワンテスも末代が滅んだ。サイゴークの血筋は少なくとも、おじいちゃまの系統のみが遺された。
そう考えるととても悲しいお人であった。
妾は、今はもう亡きあのお人をしのんで、日記に残したいと思うておる。」
ニガタケグラード公・アーノンレンシ=カツランダルクの手記より。
館から現れたオーガの集団は、イナンナの姿を確かめるとその場で両膝を付き、深々と頭を下げた。
イズヴァルトはおろか、彼女と親しいオクタヴィアもパオレッタも、これには驚かされた。
「どっ、どういうことでござる!」
「そういうことズラよ!」
オーガの戦士達は急ぎ輿を持って来て、その上にイナンナを乗せた。ようやく何かがわかって来たローラは、イズヴァルトに自分の見解を述べた。
「イナンナさんはどうやら、ワターリ王家の御先祖かもしれませぬなあ?」
イナンナは4500の歳を過ぎていた。イズヴァルト達にもオーガの戦士達は近づいて来た。全員が女のオーガであった。
しかも己の艶やかさを誇るかの様に、『ぐそく』と草鞋の他に着物をまとっておらず、胸元からは柔らかくて大きな谷間がのぞいていた。全員が美女だった。
「ややっ! 殿方のオーガの戦士ではござらなかったか!」
「我らはもしものことがあった時、ワターリ王さまの血をつなぐ役目を果たせと、父や母から言われておるのです」
護衛でもあり妾でもある。最悪の事があった場合を考えて、お側近くにいて子を作る行いもする。出来た子はオーガの里に送られ、王統が全滅した時には錦の旗をかかげ、王家の復活の為に兵を挙げるのだと。
その女オーガは下を持ち上げ、何も履いていないのをイズヴァルト達に見せた。整えられた陰毛の下は柔らかそうなすじがあった。常にかような状態で、国王の元に侍るというのはそういうことなのだ。
「『おおばば様』より話を聞きました。さあ、王さまのところへ向かいましょう」
イズヴァルトと主要な者らは、ワターリ王の謁見の間に招待された。謁見の間といえど、壁のところどころがひび割れ、天井も低いその狭い部屋。床も板敷で踏むたびにギシギシと音を立てた。
国王はイナンナを横の席に座らせ、金メッキがはげた玉座に座っていた。
この時のワターリ王は30代目、タネムノフ=フジワラーニンである。
頭はつるりとしているしわしわの老人、と思いきや、まだ御年42歳。大病を患っているのではないかと思えるよぼよぼぶりであった。
その玉座の背後には、今年12歳になったばかりの世継ぎ、ハルムノフが立っていた。こちらは年相応の顔立ちで、かなりむちむちとしていた。しかし食べ物が悪いのか、顔色はあまりよろしくなかった。
国王は息子の名を呼び、介添えをしてもらいながらよろよろと立ちあがった。
ひどくしわがれた声で、イズヴァルト達に呼びかけた。
「よ……ようこそ……我がアオバグラードの城へ」
「だ、大丈夫でござるか、国王陛下?」
「す、すまん……オーガの娘達と『隠し子』をこさえるのをやり過ぎてな……」
「このたわけは、パラッツォから『甘露(アームリータ』を取り寄せてまで子造りをしまくっていたんズラよ」
今日も朝っぱらからしていたらしい、とイナンナは呆れ顔で言った。
【ギルバート=カツランダルク注:タネムノフ王だが45年の生涯で、おおよそ282人のオーガとして生まれた子を為したという。運悪くニンゲンとして生まれた子を含めると、500人以上を産ませたそうだ。オーガを祖とするワターリ王家には、あちこちの里にもしもの為の『腹』を用意させていた。アオバグラード城にいる女オーガ達は、『腹』と呼ばれた女達だった。】
この城には妊娠中のを含め、およそ58人の女オーガが住んでいた。国王は常日頃、朝から晩まで全員を相手していた。
「けどイズヴァルトさん、タネムノフはなあ、おまんの様になんもしないと必ず夢精してしまう超絶倫ではねえズラよ。養生しねえといけねえのに、ちんぽは全くのきかん坊。もうやめろと手紙を書いたのに、まーたオーガの娘っ子とがきんちょをこさえたズラよ」
「イナンナどの。そなたはワターリ王家のなんでござるか?」
「私からお話しいたしましょう、司祭騎士団長殿!」
ハルムノフが叫んだ。少女のようにも聞こえる甲高い声だが、張りがあった。
「『おおばば様』は父上から数えて12代前の王、18代目にあたるユキムネフ陛下のお母上様。つまりは、我々のごせんぞ様でもあるのです!」
「なんと! ……ご存じでござったか、オクタヴィアどの、パオレッタどの?」
2人とも口をあんぐりと開けて否定した。そのような話を、イナンナ本人から聞いたことが無かったのだ。
「そういうことズラ。オラはワターリ王家の連中には、『おおばば』とか言われておる。まあそうかしこまらなくてもええズラ。腹とおまんこを貸してやっただけズラよ」
わーすごい、と目をキラキラと輝かせているホージュリアとローラと違い、イズヴァルトは物憂げな表情でうつむいた。こんなに凄い人に気安く接して、自分はなんてふてぶてしかったのだろうと深く反省していた。
「まあ気にするな。で、オラはおまんらが欲しているダテーゾフ討伐の勅状を、タネムノフにさっさと書かせるズラよ。というわけで、タネムノフ」
紙とペンを持ってくるから書け、とイナンナは急かした。タネムノフはゆっくりと首を横に振って拒んだ。
「どうしてズラ?」
「そのう……おおばば様。我が国には、こういう法律があるのです……」
タネムノフは苦し気な声で語った。征伐に関する勅を得た者は、新たな征伐の勅の対象とはならない。勅の失効は成し遂げるまでである。
ゆえに、ダテーゾフが得たミョーゲチャコフを討て、という勅は、完遂するまで有効だ。取り消しはできない。勅を出した国王が退位するか、死去するまではだ。
説明が終わるとゲオルギー公子がサーベルを抜いて怒鳴った。
「そんな法律いつ決まっただ! したっけ陛下さまはダテーゾフに慮ってミョーゲチャコフを見捨てるつもりだっぺか!」
「いやいや……その時はそういうつもりではなくて……」
「そういう大事な物事のけじめは、きっぱりとつけてくなんしょ! こんなんだからワターリのご本家はナメられっぱなしになるっぺよ!」
公子はこれからやろうとすることを、国王をはっきりと告げた。ダテーゾフ大公の首を獲る。イズヴァルトとローラがあわてふためいた。
「ではござらん! おしりぺんぺんだけにとどめるでござるよ!」
「そのつもりですとも! ダテーゾフ大公の御座所を急襲し、兵を退かせるように言い聞かせるだけでございます!」
「んなことで気が済むか! 首だ! 首獲って、二度とミョーゲチャコフに逆らわねえようにしてやっぺ!」
ゲオルギー公子は怒り狂い、サーベルをぶん回して暴れ出した。イズヴァルトとホージュリアがなだめながら取り押さえる。この獰猛な公子の様子を見て、国王の腰は抜けてしまった。
「あわわわわ……わわわ……」
「おい、タネムノフ。怯んでないでとっとと決めるズラ。勅はどうする? どうせダテーゾフに言われて無理やり作った法律ズラな? とっとと変えてしまえ」
「おおばば様……わたしはもう……そんな気概がございません……」
この国王は、牙が抜けた獅子だった。まるで幽閉の様な毎日を送り、王位を簒奪される謀反もあるかと怖れた。自分と嫡子が討たれたことを考えて、オーガの女達に子を産ませて備えたりもした。不安が重くのしかかる毎日だった。
「譲位します」
「へ?」
「私、今から国王の位をハルムノフに譲ります。これからは普通の王族として余生を過ごしたいと思います」
「……この、大たわけ!」
イナンナはハルムノフから国王をひったくり、その尻をばしん、ばしん、と叩き始めた。
女といえど、亜人の力はとても強い。叩くたびに国王の尻の骨にひびが入り、国王は泣き叫んで助けを求めた。
「おおばば様! およしになってください! それ以上はいけません! お父様が死んでしまいます!」
「は、ハルムノフ……不肖の父で、すまぬな……」
「て、ことはどうするズラ? おまん、次の国王になるズラか?」
ハルムノフはうなずいた。
「しかし、国王になるからにはその前に、私は儀式を為さなければなりません」
オーシラ神の前で執り行う、3日3晩に及ぶ成人の儀である。それを為さぬ者は国王になれない。
「……おまん、まだ大人になっていなかったズラか?」
「はい。私はまだでした。この城の女たちはあくまで、父上のお側を世話することのみと、言いつけられておりますゆえ……」
そう答えてワターリの王子は、ローラのほうに目を向ける。
さて、彼が言う成人の儀とはいかなるものであったのか?
その続きについてはまた、次回にて。