聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
フルカワグラードの決戦は、イズヴァルトにとって真に不本意な戦いだった。最後の最後にウォルターが裏切り、敵総大将の首をあげてしまったからである。
「はああ……これはこの後が厄介なことになるでござるぞ?」
しかしウォルター達、サイゴークの戦士達は上機嫌だ。酒のちからもあったが、何よりイズヴァルトと再会したことが嬉しくてならなかったのだ。
「気にすんなって。俺達もついていくぜ。逃げたダテーゾフ大公と、クボーニコフとの一戦が控えているんだろ?」
「まあ、そうなるかと思うでござるが……」
イズヴァルトは長椅子に座り、酒の觴を手にするウォルターをじっと見る。久しぶりに会った戦友は、『ローラ』を腕に抱いていた。
「ほら、嬢ちゃん。今夜はたんと飲もうぜ。14年ぶりの再会を祝ってな!」
「うん! ウォルターさんも14年前と相変わらずの呑兵衛さんだね! 顔もぜんぜん老けてないし!」
「ははっ。嬢ちゃんもな。でもいつぞやみたいに酔い過ぎて便所で『おしゃぶり』はよしてくれよ? ワインのゼリーみたいな味がする俺の『せーえき』は、ベッドの上で下の口で呑んでもらうからな?」
「浮気の相談かな? イズヴァルトの前じゃだめだよ。うひひひー!」
『ローラ』は上機嫌だった。酔のせいもあるが。ウォルターは彼女に酒を飲ませながら、盛んに胸を揉んだり尻を撫でたりした。えっち、と罵られても止めなかった。
とはいえ彼は、『ローラ』の顔と胴体以外をできるだけ見ないようにしていた。肩や太ももの先が、見ていられない形状であったからだ。
「しかし、両腕と両脚をイーガのバカ王子にもがれちまったとはなあ。スーエイニアにいる触手姫が見たら、えらく嘆き悲しむだろうな……」
『ローラ』の笑顔が沈んだ。イズヴァルトの目に、昏いものが漂い出した。
「きゃつの転生先の世界を突き止めて、息の根を止めてやりたいでござるよ」
「できるのか、そんなこと?」
「『ゆうしゃ』になった暁には、是が非でもやり遂げたい。それで魂が牢獄に繋がれてもかまわぬ……アドルフめはこの手で討ち果たしたい」
「……だめだよ、イズヴァルト」
『軍師殿』がいさめた。
「そんなことをしたら魔竜様……いいえ、魔界の王様にも目をつけられる。ヴァネロペちゃんやエルザさんたち、ヤギウセッシウサイさんとも戦うことになると思うよ? だからそんなことは考えちゃだめだよ!」
「本当は、貴殿もそれを願っているのでは?」
違う、と『ローラ』は返した。もう復讐はなし終えている。あの男が死んだ後、イーガはカツランダルクの後ろ盾となった。
「イーガの富をたっぷりとお裾分けしてもらったよ。ヨーシデンができたのも、イーガのおかげ。今のホーデンエーネンとイーガを見て、あいつはきっと悔しがるよ?」
それとあの男の娘のマレーネ。彼女は『ローラ』をとても慕っている。
『汚れた淫魔の血が流れるイモムシ女』とか、『股と尻がガバガバな肉便器姉貴』などとバカにしてくるが、ただ単に口がわるいだけだ。一生をオットーと共に『ローラ』のお世話係として、殉じるつもりでいた。
イズヴァルトの子を産んでくれるよう頼むと、3人もつくってくれた。実母はマレーネではあるが、名目上の母は『ローラ』となる予定だった。
「もう、イズヴァルトは苦しまなくていいんだよ? むしろ、あいつに執念を燃やすのが私を苦しめることだって理解して?」
「わかった。そのように務めるでござるよ……」
その晩の酒宴はつつがなく終わった。しかし翌朝、『ローラ』が取り乱した様子を、イズヴァルトとウォルターは目にすることとなった。
別の酒席でダテーゾフの武将らと呑んだミツクニュモスが聞き出したのだ。
□ □ □ □ □
「嘘だっ。そんなの嘘だよ! 本当のロゼちゃんは今もずっとイーガにいるはずなんだ! きっと偽物だよ、そのロゼちゃんは!」
その話を聞いた『ローラ』は、イズヴァルトの胸の中で暴れ、ずっと泣き叫び続けていた。
セイン王の後妻、ロゼ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーが、この9月に突然の病で亡くなったという知らせを聞いたのだ。
まだ13歳だった。しかし1月頃にタンゴバルド海賊団討伐に行ったきり、行方不明となったセイン王との間に、マレーネという娘を儲けた。
『軍師殿』はこれまでに無いほど取り乱した。
「前世でも! 現世でも! かみさまはわたしのことがそんなに憎いの? この世界で楽をして夢を叶えたから? その代わりにわたしにこどもを亡くすように差し向けたの?」
「……ローラどの。ローラどの」
「ねえ、イズヴァルト、私のために神様を殺してよ! 前世の! 現世の!」
『ローラ』は狂ってしまっていた。ウォルターがどういうことかとミツクニュモスに訊いた。彼は『ローラ』から、彼女が死んだ後の前世の世界を旅したことを語った。
「『ローラ』さんは前世に娘さんがいたらしくてな……」
泣き続ける『ローラ』を連れ、部屋から出ていったのを見てこっそりと告げる。念話でだ。
「言いたくないぐらいの酷い末路を送ったみたいだ」
「……酔いが覚めるような話か?」
「頭は悪くなかったそうなんだが、意志ってやつにどうも障害があってな。薄弱なのをいいことに、悪い奴らの食い物にされていたようだ。そしてそいつらに殺された」
「酒っけがすっかり抜けたよ。むしろ悪寒がする。神様を殺したいって叫んでたのもよくわかるさ……」
これが『転生者』の宿命というやつか?
そうした者達は、前世では成し遂げられなかった栄華を築いても、悲劇のうちに人生の幕を閉じるという。
その話を知るウォルターは、エチウにいるエレクトラや、ヒッターチのシゲニウス帝もいずれそんな目に遭うのか、と尋ねた。
「だから生き抜こうとするんだろうよ。のんべんだらりと博打や女遊びにうつつを抜かす俺や、飲んだくれのアンタとは全く違う」
「……俺は酔ったまま、何もなせずに死にてえよ。『ローラ』さんのような目に遭うのはまっぴらごめんだ。ただ……」
少しぐらいは役に立ってやりたい。『ローラ』だけでなく、彼女にべったりで、今後も彼女のために悩むであろう、イズヴァルトの力になりたいと思った。
(本来は、俺じゃなくてヴィクトリアの役目だったんだろうがなあ……。)
早くにくたばりやがって、と、今は亡きいとこにウォルターは毒づいた。