聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
イズヴァルト達はナンブロシアのドミトリー公子と共に、クノーヘ公の館に入った。暖房をしっかり施していたものの、外見の質素さと変わらぬ内装だった。美術品の類は殆ど見かけなかった。
出迎えてくれた現大公・ニコライ四世=ナカノルクは還暦を過ぎていたのに若々しく、ウォルターとあまり歳が変わらない様に見えた。
背は高く、190ほどあった。筋骨隆々としていくさ場ではさぞかし活躍できそうな、長いヒゲを生やした偉丈夫だった。
「皆様方。遠路はるばるこのクノーへにお越し下さった。大君様の『おおばば様』も、お久しゅうございます」
この大公はイズヴァルトよりもシゲニウス帝よりも、イナンナに対してかしこまって接した。イナンナがぴしゃりと言った。
「だったらおまんも戦士団と一緒に出迎えろズラ。ところでオラのアスタルテちゃんはどこズラ?」
「ひめさまですが……」
「その言い方はよせ。あの子にはワターリの血が流れておらんズラよ?」
様子がまだわからぬドミトリー公子がイズヴァルトに尋ねた。あのエルフは何者だ。何代か前の国王の母君と答えると、ドミトリーは緩んでいた顔を引き締めて膝をついた。
「どういうことでござる?」
「大君のご先祖様だからだろ。とどのつまり、俺もクノーへ公も、タネムノフ陛下とハルムノフ陛下の
イナンナがドミトリーに気づき、「楽にして良いズラ」と呼びかけると彼は立ち上がった。臣下としての礼儀を見せた後、ドミトリーは背後にいたヴァネロペからぼそっと聞いたことをイナンナに告げた。
「アスタルテ様は北東にあるオーガの集落におられるご様子。若い妊婦のお産を手伝い、その後はまだちんちんの皮を切っておらぬ男児達の面倒を見る様子です」
ヴァネロペがまた「ごにょ」と。
オーガ達に頼まれ、ここしばらくはいろんな里を巡ってお産や男児の包茎手術で忙しいそうだ。あと、老人のための薬も作っているのだと。
「あの子はしっかりと、医者の仕事をつとめておるズラな。後でちょっくら顔を見に行かせてもらうズラよ……ところでドミトリー。おまん、クノーへ公に何か言いたくてここにやってきたズラな。まずはそれを話すズラ」
ドミトリーは頭をさげ、わかりましたと答えてクノーへ公に尋ねた。
「言わせてもらう、クノーへ公。次の大公を傍系の親族衆の男子を差し置いて、実弟殿に引き渡すとはどういうことだ?」
「弟が継承するのは、親族衆全てが承認していることですよ」
「キン=セン殿は太祖アテールイ様のご実家の出。しかもオーガだ。これが何を意味するかわかっておるのか?」
ドミトリーはこう述べた。アテールイの実弟の、オーガの末裔を当主に据えるということは、ワターリ王家と同格の一族になろうという魂胆が伺えられる。
「ダテーゾフが勢力を減じた今、王家の乗っ取りを疑うぞ。これがただの邪推のままで終わらせる、真っ当な理由を聞かせてもらいたいものだな?」
「ドミトリー殿。アテールイ様の御一門に近い我らよりも、ナンブロシアがワターリの大君の忠烈無比な臣であること、よく存じておりますぞ? その源流がタムラ=マーロと並ぶアテールイ様の強敵、ヨー=シイエのご末裔だとしてもです」
イズヴァルトは首をかしげた。だいぶ昔に聞いた名前だったからだ。ホーデンエーネンの昔物語にある英雄と同じ名であった。
いろいろと知っていそうなローラに聞こうとすると、その本人、ドミトリーが答えてくれた。
「中出し好きの色男、ナンブロシア家のご先祖はキンキ大陸から来たのだよ。お前らがよくご存知の、軍神ハチマンウーサとニンゲンの勇士との、半身半神の英傑様さ」
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ムーツの英雄・アテールイは生涯、2人のライバルがいたと言い伝えられている。
1人は前半生における宿敵、タムラ=マーロ。
アテールイはトォーノを、タムラ=マーロは今のアイヅバルドを地盤としており、豊かなセンダニア平野を巡っての100年に及ぶ苛烈な戦いを繰り広げた。
タムラ=マーロはオーガの豪傑であったが老獪な名将だった。アテールイは負け込み、最後に残ったヒラーイズミに籠もることとなった。
しかし彼は勝った。タムラ=マーロは歳が3倍近い老齢だったからだ。
その後はタムラ=マーロの子どもたちが相手となったが、仲違いが多く、結束力は弱かった。
長い間苦しめた老将からたくさんのことを学んだアテールイの敵ではなかった。離間の計を張り巡らせ、各個撃破に持っていき、アテールイはタムラ=マーロの一族を吸収した。
(アイヅバルドの大公だが、その祖はタムラ=マーロの娘とアテールイの子である。)
もう1人の宿敵は、ヨー=シイエ。アテールイが対峙したのは、大陸の過半を治めていた晩年の頃だ。
ヨー=シイエはキンキ大陸の女軍神・ハチマンウーサと彼女に仕えたニンゲンの戦士との間の子であった。オーミゲニアに戦士団を持ち、母が主催する数多くの武術大会で、数多くの活躍をみせたという。
この男、「俺より強いやつに会いに行く」を地で行く、果敢なチャレンジャーでもあった。
キンキ大陸で母以外の強者に出会えなくなると、アテールイの話を聞きつけて単身、ムーツ大陸に渡った。
そこで数々の荒くれオーガや強いもの好きゴブリンと拳で語らい、あっという間に一大勢力を作り出すと、ムーツ無双の英傑と呼ばれていたアテールイに挑戦状を叩きつけた。
アテールイはここでも苦しめられた。神出鬼没の機動戦術を駆使し、大将決戦を果敢に挑む若いヨー=シイエは、戦士としての盛りを過ぎ、体力も衰えていた老齢のアテールイを翻弄した。
けれどもこのヨー=シイエ。機転はあっても深謀が無かった。
決戦主義から相手を疲労させる持久戦法に切り替えたアテールイは、敵軍団の切り崩し工作やヨー=シイエを孤立させる目論見に出た。
そして最後の決戦の舞台に、ヒラーイズミを選んだ。
アテールイはわざと少数でこの山地に入って、一気に勝負を決めようと深入りしたヨー=シイエを、山に施した様々な罠で疲弊させ、彼をたった1人にさせた。
取り囲まれたヨー=シイエは、満身創痍だが意気軒昂。生涯の最後にオーガの王との一騎打ちを所望した。
アテールイは衰えたとは言えども、豪傑だった。ヨー=シイエは初手では圧倒したが、受け流し、じっと耐えるアテールイが放った痛恨の一撃を受け、最期を迎えたという。
「こうして強いやつに巡り会えて最高に幸せな人生だった! やったぜ!」
これが半身半神の英雄の最期の言葉であった。彼はナンブロシアのニンゲンとの間に、跡継ぎを1人遺していた。アテールイは娘のうち2人を嫁がせた。
かくしてナンブロシア地方もアテールイの版図となった。この戦いから2年後、全ての気力を使い果たしたアテールイは皆に見守られながら卒したという。
これがその英雄の、末期の言葉である。
「人生とは、重き荷物を背負うようなものと言われていたのは、本当のことだったべ……」
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「まあつまり、俺様もまたキンキ大陸人だったわけだ。色男と、そこのサキュバスのまんこくっさい不具女。俺達は蛮族のお仲間同士、というわけだ!」
ドミトリー公子はわはは、と笑いながら、イズヴァルトとローラのあごをぺちぺちと叩いた。
万事に鷹揚なローラもさすがに、偉そうなこの公子については、あまり好感が持てない様子だった。
「イズヴァルトさま。おともだちはなるべく選んだほうがよろしいですよ?」
「ドミトリーどの流の愛情表現、らしいでござるよ」
「そうだぞ、網元の娘。おい種馬、クノーへで用事が済んだらナンブロシアに行くぞ。今度こそ、俺の馬鹿な妹たちを孕ませてもらおう……その前にだ」
クノーへ公の跡継ぎに対する、異議申し立ての続きだ。甘くて扇情的なにおい放つ、ローラとヴァネロペに気になりだしたクノーへ大公に呼びかけた。
「どうしてもキン=センの弟御を次に据えるというのなら、ナンブロシアから1つ申し出させていただこう」
姉と子どもたちを呼んでくれ。彼女たちの協力がいるとドミトリー公子は言った。
大公は部屋の向こうに控えていた現大公妃と、4人の娘達を連れてきた。なかなかの美貌の持ち主ばかりであった。
ただ、娘たちはそうでもなかったが、妃のほうは雪だるまのようにでっぷりと膨らんでいた。ドミトリーをやさしく端正にした顔立ちであった。
その妃、ナターシャ=ナカノルクはドミトリーの同腹の姉だった。歳は30でイズヴァルトとほぼ同い年だった。
「『おおばば様』、お久しぶりでございます。イズヴァルトさま、お初にお目にかかります……なんと麗しい殿方なのでしょう?」
優美かつ独特のゆらぎのある、優しげな声の響きに、イズヴァルトは心を突き動かされてしまった。
それとこの妃の体型である。たっぷりとした腹の肉に負けず劣らずの大きな胸と、太い腰。
ローラを除いた女の趣味は、太めで優しげな女を強く好んでいたイズヴァルトは、彼女を見つめると心臓が高鳴り、ついつい勃起してしまった。
ナターシャと大公の娘たちも負けず劣らずの美人揃い。但し彼女たちはまだ12にも満たなかった。
ナターシャは5人の娘を大公と為したのでもう1人いたが、14になるその娘はオーガの部族に嫁いで、来年には孫の顔を父母に見せる予定だった。
「随分とお美しいおかたでござる……」
ローラがそっとイズヴァルトの背を小突いた。ドミトリー公子が義兄に告げた。
「大公殿、どうしてもと言うなら条件をつけたい。キン=セン殿に、俺の未来の甥姪の父親となる、この、パラッツォ教団の無責任射精野郎と姉貴殿の娘のうち1人との間の子を娶せて欲しい」
「……なんと!」
イズヴァルトは驚いた。ドミトリーはこういう目論見がある、と説明した。
「無限発射野郎、お前はパラッツォの司祭騎士団長だろう。教主との娘との間にもガキンチョをこさえたはずだ。となれば教主の義理の息子となる。枢機卿という連中の、頭クルクルパーでまんこが濡れっぱなしのバカ娘どもとも子を為しただろう? 性欲の赴くままに?」
「……強いられたのでござるよ」
「まあ、今のお前は教団の代表者の1人だ。大公みたいなもんだ。そして俺やクノーへ公の娘に子を産ませれば、教団との強い絆となる。ていうか、お前はもうこっちじゃ、エチウの大公扱いだ。諦めてちんぽの先に冠をつけておけ」
つまりはこうだ。パラッツォ教の要人(教主の義理の息子のようなもの)とナンブロシア大公家の血とクノーへ大公の血が混ざった娘を作り、まだ幼児のキン=センの正妻にする。
それによってキンーセンは強力な後ろ盾を得る事となるが、同時に大きな足かせを取り付けられることにもなる。下手なことができなくなる。
「どうだ? 姉上も音に聞こえしイズヴァルトなら、娘1人の腹を貸してもいいだろう?」
「……ちょっと、うなずけない提案ね」
ナターシャは反論した。エチウとの結びつきはまだないが、クノーへとナンブロシアは既に、何世代かに渡って姫を交換している。知っているだけでも5人いる。
「もう既に両家は交わっているのよ? しかもこの子達はまだ子を産めない身体よ」
「……その論も認めなきゃならんな。だが、俺はここで引き下がりたくはない。大事なことは早めに決めたいんだ」
ならば、とナターシャ妃は別の提案を持ちかけた。それからイズヴァルトの顔をチラと見た。
ローラとオクタヴィアがその視線に気づき、生殖欲のせいでいささかぼうっとしているイズヴァルトの背を小突いた。
さて、このクノーへのお妃が告げた別案とはいかなるものだったのか?
その続きについてはまた、次回にて。