※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第百三回

 パラッツォ教には特別な要職の聖職者がいた。枢機卿といった。

 

 コーザの頃には11人おり、全員がツノが生えぬ、オーガの『忌み子』であった。

 

 この『忌み子』と呼ばれる存在だが、他のオーガとはまるで違った。

 

 その1つに長命。並みのオーガでは500年程度だが、『忌み子』は千年生きられると言われていた。

 

 また1つ。身体に尋常ではない魔力を持ち、ありとあらゆる精霊術式を用いることができるのだ。エルフやオーガ、ゴブリンや人魚の、ありとあらゆる術式を習得することが可能だった。

 

【ギルバート=カツランダルク注:とはいえそれぞれの術式を『究める』ことは無理らしい。ニンゲンのように「広く浅く」覚えて扱えるというわけだ。ただし、ニンゲンの魔道士よりも多くの術式を扱うことができた。】

 

 そしてもう1つ。ツノこそ生えてはいないがオーガ族らしく、細くてうすっぺらい身体に強靭な体力を持つということだ。

 

 『忌み子』達はツノが生えている同族の様に、20キロほどの重さのな薙刀や槍を、片手で軽々と振り回すことができた。ドワーフには敵わぬが恐るべき馬鹿力を発揮することが可能だった。

 

 それに付随して、陰茎の長さと大きさ、それから繁殖能力もツノが生えたオーガと同じぐらいあった。加えて男も女もどこか色香漂う顔つきと体つきに育った。彼等は、特に男は、子供の数が100人や200人ぐらい、ざらではなかったのだ。

 

 そして。パラッツォ教の『枢機卿』と呼ばれる者達は、まるで聞き慣れない特殊な魔道術式を扱うことが可能だった。

 

 『神聖術式』というのがそれだ。扱う本人の信心深さや、信念や執念によってその威力は増したという。サキュバスのように瞬間移動の魔法も存在したそうである。

 

【ギルバート=カツランダルク注:神聖術式は『枢機卿』らは無論のこと、教主コーザや彼の息子や孫にあたる、司祭騎士や教典の巫女らも使えたそうである。魔力量が多い者も覚えられるそうで、ヘラはもちろんのこと、イズヴァルトやオルランドゥもいくらか扱えたらしい。この神聖術式だが、枢機卿が前世で覚えたとされているが、真実は解明されていない。】

 

 その『枢機卿』の中に、パラッツォ教団の外に神聖術式を広め、扱う者を増やしたくないと声高に主張する者たちがいた。

 

 その代表が、カヅノ=セイジという人物であった。神聖術式に殊更詳しい彼は、教主や司祭騎士らがやりがちな魔術の安売りを危ぶんでいた。

 

 それに同調する者の何人か。その兄のサトシと枢機卿の仲間である、タカミ=ジュンやクニキダ=テツオである。彼等は神聖術式の使い手として、特に優れていた。常日頃、新しい術式も研究していた。

 

 ゴーレムの神聖術式版、『プラーグのヨッセル』は精霊魔法のそれよりも遥かに頑丈で長持ちした。

 

 そして、ほぼ全ての精霊術式の魔法を通さないという長所があったという。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「『プラーグのヨッセル』を北部諸侯らに譲り渡せ? 教主の頼みだと? 聞いていられるか!」

 

 コーザの言葉を伝えに来た司祭騎士に向け、カヅノ=セイジは激しくつばを飛ばした。

 

 黙っていれば黒髪の優男といった容貌なのだが、この時ばかりは醜く見えた。

 

 この枢機卿は表情は悪い意味で豊かと言えた。この男はよく皮肉っぽく笑ったり、憤懣を覚えると激しく歯ぎしりを鳴らした。何かをしゃべる時はまるで悪人みたく見えた。

 

 この枢機卿は兄とクニキダと共に、アサークラント島にある大聖堂に来ていた。聖職者として働く子供達の仕事ぶりを確かめる為だ。

 

「しかしですね、このままですとホーデンエーネン側が勝ってしまうことでしょう。北部諸侯らは皆殺しです。彼等の多くはパラッツォ信徒ですよ?」

「フン。死にそうになったらエチウへ亡命すればいい。オルランドゥ教帝サマがきっと庇護してくれるだろうよ。あの坊やは戦場じゃ冷酷無比だが、都にいる時は温厚で心優しい。怒ることも滅多に無いしな。股間は常にぶち切れまくっているけどな!」

 

 セイジはけたたましく笑った。それを兄のサトシが弱々しい声でたしなめる。クニキダはセイジと同意見だが、口汚い言葉がすらすらと言える彼に、追い払うのを任せようとして、黙っていた。

 

「ですが、教主様は是非にも枢機卿様がたにお力添えいただきたいと……」

「だったら教典の巫女を使って、後方から攪乱をすればよいではないか? ホーデンエーネン人は心理術式に引っかかり易いのだろう? そうした篭絡計はパラッツォの得意技のはずだがな?」

 

 20年前のトンダバヤシの戦いでも、それを用いて王国軍を同士討ちにせしめただろうに、とカヅノは指摘した。

 

 教典の巫女が戦場娼婦に身をやつし、ホーデンエーネンの陣に入って洗脳して起こしたのだ。あの同士討ちは。

 

「ですが、あの計略を仕掛けるには、かなり多くの教典の巫女を派遣しませんと……」

「フン。そんな労力すら割けなくなったのか、教団は? とにかくその提案は無しだ! さっさとカナザワースに帰って、馴染みの女のおっぱいでも吸ってろ。あと、教主に伝えておけ。たまには自分でやれ、とな!」

」

 司祭騎士は返された。聖堂を出て行く一団を見届けた後、クニキダはカヅノ=セイジに呼びかけた。

 

「よくぞ言ってくれた。これで教主殿も考えを変えるだろう。サクラウチやオハラに頼もう、とな?」

「そうなるだろうが、この戦争には巻き込まれたくない。パラッツォ教団や俺達に何の旨味もないからだ」

 

 仮に伝授の賛成派に話をもちかけても、そうはできないように手は打って置いた、とカヅノ=セイジは告げた。

 

「タカミ=ジュンが既に、サクラウチ達を説得しているのだ。全くの嘘偽りだが、信じてくれそうな嘘をな」

 

 その嘘とは何か。カヅノ=セイジはこう答えた。

 

「司祭騎士団長が北部諸侯側に潜入しているらしい。あの男の旧友らが義勇軍に加わっているのが、その証拠だとな」

 

 ある意味では正しかった。トールキン他、イズヴァルトと共に戦った者達が北部諸侯側にはいたからだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 詳しく尋ねると、枢機卿は皆、『プラーグのヨッセル』を北部諸侯に譲り渡すつもりがないことがわかった。

 

 説得に手間取っているうちに北部諸侯はがらりと崩れ、数々の決戦で敗北し、決起に加わった諸侯らのいくつかの本拠が陥落。

 

 オバーマゲルクやクツキステッフェンといった大領では、大公の逃げ遅れた妻妾や姫が捕らえられ、残虐きわまりない乱暴をされた挙句に首を刎ねられた。

 

【ギルバート=カツランダルク注:逃げ遅れた者は領主の妾と彼女らが産んだ姫ばかりであった。妾というのは大概、町娘や高級娼婦あがりの女ばかりである。大抵は郊外か隣の城市の別宅に住まわされ、あまり賢くない家来しかつけられなかったからである。オバーマゲルク公はこの一連で、5人の妾と11人の庶子らを喪った。近衛騎士団は女達を念入りに強姦して、それから遺体をさらしものにしたそうだ。】

 

 大公らの城下町の広場では、彼等の美しい側室たちや、まだ幼い姫達の首無し死体が串刺しでさらされた。まだおむつが取れてなさそうな子供でも、いびつな形で股が割け、乾いた精液がこびりついていた。

 

 街でも、ホーデンエーネン軍の機嫌が悪かった場合はひどいことになった。放火や略奪が行われた。いくつかの領主の城下町は、焼亡の憂き目に遭った。

 

 その乱行はジューンショーン王の耳にも届いていた。王は略奪を禁ずると再び厳命した。ジューンショーン王にしては珍しく怒り狂っていた。「逆らう者は極刑だ」と触れに書いた程である。

 

 しかし、近衛騎士団が率いる軍勢は命令を守らなかった。本領から遠く離れたキンキ大陸北部の地で、思い切り羽根を伸ばしていた。

 

 あわよくば北部諸侯を根絶し、その領地を自分のものにしようとたくらんでいたからだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 そして、ホーデンエーネン王国暦360年12月の中頃。

 

 決起した北部諸侯は大陸の北端・ツルーガニスク半島に追いやられていた。彼等の領地はそこを残すのみとなった。

 

 対するホーデンエーネン軍は、ツルーガニスク半島の付け根で難渋していた。半島攻めに加わる3万の軍勢の兵糧が尽きかけ、これ以上先に進むのは餓死者を出すおそれがあった。

 

 それと冬が、深くなっていた。この年の12月は例年より寒さがひどかった。防寒の準備には万全を期していたが、薪は足りなくなり、随行する魔道士の火の魔法で、なんとか凌いでいる隊ばかりであった。

 

 この軍の総大将となっていた、ゲラルド=シマモトッセン公はその日、天幕の中で頭を抱えていた。

 

「うぬう。戦線が伸びすぎた。兵站が芳しくない」

 

 テーブルの上に広げた、ツルーガニスク半島の地図と北キンキの全体図を目にしてだ。

 

 ゴーレムとクボーニコフのオーガ兵を加えた軍勢は、破竹の勢いで北部諸侯連合軍を破ったが、肝心の物資輸送網はタジタジだった。

 

 思うように資源がやってこない。なぜなら輸送部隊が搬送路となる各街道や海路で襲撃を受けるからだ。北部諸侯は逃げてばかりだったが、嫌がらせの準備も整えていたのだ。

 

「兵糧はもって20日だったな?」

 

 テーブルを囲む副官に問う。左様でございます、とうなずかれた。

 

「略奪しても間に合わないな。兵を選抜して2万ほどに減らし、海から同時に攻める方法に切り替えたほうがよいが……」

 

 北部諸侯の軍勢はおおよそ1万。やろうと思えばなんとかなるが、問題は陸の各所にある砦だった。

 

 どの砦も粗づくりながらも、空堀や物見櫓を置いて、しかもいやらしいほど攻めにくい場所に築かれていた。

 

 それから義勇軍に加わった、優れた亜人の戦士が籠っているらしい。

 

「イワッミーのトールキン、カイロネイアのクリスタとミレイユが籠っているとは。どの面々も海外に名が知られている者ばかりではないか!」

「左様で。それから我が国の一部の戦士や武芸者も、北部諸侯の軍に加わっているそうですね?」

「……嘆かわしいことだ。この国は不忠者が増え過ぎた。ここで根絶やしにせねば、第二第三の不届き者が現れるであろうな」

 

 北部諸侯側は抑え込まれてはいたが、精鋭らは多く生き残って手ごわくなっていた。

 

 とはいえ、彼等もゴーレムには手こずっていた。トールキンほかドワーフの戦士は、土魔法や破砕術式で対抗する術を持っていたが、エルフやゴブリンはつちくれの人形に対して不得手だった。

 

 とはいえである。ゴーレムをつくり操る魔道士は、疲弊しきっていた。過労死する者も何人か出ていた。

 

 ツルーガニスクの攻略を終えるまで、果たして何人が生き残れるだろうか。魔道士たちの間ではそのような話があがっていた。

 

「砦群を強硬突破するほかあるまい。あいにく我らにはオーガの戦士団もいる。犠牲覚悟でその衝力を用いれば、何とかなるかもしれん」

 

 そうしよう、と皆に呼び掛けた時、この場にてシマモトッセン公に意見する者が1人。

 

「その前にだ。もう1つの秘密兵器を用いてみてはどうだ? お前はまだ、あれを使ったことが無いだろう?」

 

 随分とくだけた物言いであったが、さてその人物とは何者だったのか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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