聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
主に、劣勢化の合戦における一発逆転を狙った中央突破、殿軍での運用を想定されている。
そのはじまりは王国暦343年頃。南天騎士団内で、重営倉モノの乱暴者をどうするかと話し合った時、時のイコーマブルグ公がこの様な提案をした。
「こういう者達を人工的な狂戦士に仕立てあげることは、今の技術で可能なことだろうか?」
麒麟児と呼ばれた、聖騎士イズヴァルトがその名を知られ出した頃でもある。少年天才騎士に劣らぬ猛者を作りたい。
早速研究が始まった。
南天騎士団は王国直属騎士団や近衛騎士団といった他の騎士団と比べ、魔法研究に力を注いでいた。イーガから魔道士や野良の魔族を招き入れていた。
彼等は特に、サキュバスに注目した。
狂化した者を命令には従順にさせる為に、彼女達が得意な心理掌握の魔法を用いようと考え、指揮官らに習得させた。
そして隊員となる者の身体強化法だ。
筋肉を増強する薬や闘争本能を刺激する薬は古来からあったが、魔族達はニンゲンの身体能力を大いに増大させる、簡単な方法があると伝えた。
それは、自分達の血と肉を食わせることだった。ほんのひとかけら、ほんの数滴で良いのだという。
中でもサキュバスの血と肉は、男の身体限定だが、大きな作用をもたらすと、魔族、しかも当の淫魔たちから聞かされた。
「睾丸を去勢されていないのが絶対条件です。食事もいつもの倍以上、与えなければなりません。私たちの血肉が男の成長ホルモンというものを刺激し、さらには眠っている力をも引き出させるのです」
四大大公らは早速試した。サキュバスの血をほんの数滴舐めた隊員は、1カ月のうちに急成長した。誰もが背を伸ばし、横幅は倍近く広くなった。
しかし困ったことに、生殖機能も著しく成長してしまった。
チンゼー人の様な長く太ましい陰茎と大きく膨れ上がった陰嚢も得てしまい、日に必ず1回は射精しないと気が狂い、もがき苦しむようになったのだ。
それに困った大公らと教官たちに、好色な女魔族達は申し出た。自分がガス抜きの相手を務めよう。
かくして激しい訓練の後、隊員らはへばりきるまで異界の女達と交わった。その行いもまた彼等の成長を促した。
そうして隊士たちは身体を作り上げていった。平均して並みの戦士の5倍以上の膂力と体力を得た。
生殖能力に至っては、その頃の健康的な若者の4倍だ。彼等の相手をした女魔族の多くは、子を産んだ。
最初の実験的な育成は、良い結果に終わった。
大公らと研究者らは、この隊の数をもっと増やすことを考えた。
隊員の条件は健康的で頑強な身体を持ち、成長の見込みがあること。
但し、優れた頭脳は持ち合わせていない者が欲しい。軍学を覚えられる様な知性の持ち主に、使い捨ての思想はあんまりだからだ。
サキュバス達がこう進言した。
「各村に必ず1人か2人はいる、図体のでかい白痴の男を起用してはいかがでしょうか」
早速集められた。気質も大人しい者が多く、心理掌握魔法を用いれば、乱暴者を仕立て上げるよりもいくらか楽だった。
彼等も実用に値することが判明した。叩き込みさえすれば、機械の様に軍隊式の単純な命令を守ってくれる。乱暴者より育てやすかった。
しかし白痴の者らは身体が仕上がると、性衝動は他の者より激しかった。理性の留め金が弱い為、気絶するまで自慰や女たちとの性交を繰り返した。
かくして『六枚銅貨部隊』の隊員の数が増えると、女魔族達は毎年のように子供を産むようになった。
彼女達だけでは収まりきらぬから、近隣の売れない娼婦をかき集めた。その者らも隊員らの子を産んだ。
かくして『六枚銅貨部隊』は出来上がった。
初陣はキンキ大陸で始まっていた、パラッツォ教団との戦闘。彼等は圧倒的な力で敵を壊滅させた。
その実力に着目した近衛騎士団も、本家本元のそれと同じように『六枚銅貨部隊』を作り上げた。
しかし同じ名称の部隊があると、ややこしくなってしまう。
後年、本家本元の南天騎士団は、中央に慮り名を変えた。『黒獅子部隊』と名を変えた。
この部隊こそがジューンショーン王の死の3年後に四大大公が起こした、『王妃の変』の数々の戦いで大いに名を轟かせたのは有名な話だ。
『王妃の変』は後発の『類似品』を、本家本元が絶滅させた戦いでもあった。
【ホーデンエーネン軍事史 特殊兵団の章より一部抜粋。】
六枚銅貨部隊が攻めたのは、ツルーガニスクの砦の1つであるヒキダフォルンの砦だった。南部にずらりと配置された砦群の、ちょうど真ん中に位置していた。
籠る砦兵はおよそ300名。それ以上は入りきらない小城であったが、三方が崖で攻めるのは難かった。鉄砲や連弩台も備えていた。
守り手側は当然抵抗をしてくる。板金鎧でのっしのっしと向かってくる相手が射程範囲に近づくと、鉄砲や弩弓の矢を見舞った。
だが、彼等の鎧は鉄砲や矢を跳ね返してしまった。何故なら対鉄砲用の最新鋭の鎧であるからだ。マイア=テクニカに特別製造させたものである。鋼よりも硬い、特殊な合金で作っていた。
矢弾が使えないとなると、射手らは怯んでしまった。それを亜人の戦士が出て来た。金色エルフの傭兵達だ。
「銃弾を跳ね返すのか! 魔法ならどうだ!」
彼等は矢に魔力を込め、空に放った。途中で散り、幾十もの炎の矢となって六枚銅貨部隊の真上に降り注いだ。
だが、炎は兜や鎧に当たるとかき消えてしまった。魔法抵抗を施していたのだ。この甲冑はイーガの技術工房で研究されていた、対魔道の防備が施されていたのだ。
砦まで300メートルほどのところに来ると、部隊の指揮官が号令をかけた。六枚銅貨部隊の面々が止まり、抱え大筒を抱えた隊員らが前に出た。
この抱え大筒も新兵器の
図体の大きな射手たちは、背中の袋から鋳鉄製の砲丸を1つ取り出すと、砲口にそれを押し入れた。
10キロ以上もあるそれを軽々と持ち上げ、照準を砦に向けると引き金に指をかける。
「撃て!」
大筒の砲丸は景気よく飛んだ。投石砲並みの速さで飛んで来るものだから、弾道はほぼ一直線だった。
砲丸は砦の屋根や柱を打ち壊し、ここに籠る者達を動揺させた。
それとこの砦は木造の、急ごしらえのものだった。砲丸が直撃するたびに柱と梁が揺れ、床が抜けた。
連弩を備えた南の物見台の兵士にあたり悲鳴があがると、砦の指揮官は動揺して下手な命令を出してしまった。
「打って出るぞ!」
「しかし、砦に籠ったほうがこの戦いは……」
「その前に大筒で崩される! その前に殺るんだ! 急げ!」
指揮官は馬に乗り、強引に兵について行かせた。わああっと大声をあげて六枚銅貨部隊に攻めかかる。
しかし白兵戦こそがこの部隊の真骨頂だった。大筒の射手らは後ろに下がり、大薙刀や戦斧を持った隊員が前に出た。
「お前たちの強さと恐ろしさを、あの反逆者どもに見せてやれ!」
指揮官が叫ぶと隊員らは、応、と返さず獣じみた咆哮をあげた。心理魔法で動きを御された猛者達は駆けだし、200名いる敵と衝突。
ただの兵士や戦士は、改造された兵士達の相手では無かった。六枚銅貨部隊の十数名は、まるで小虫を潰すように死体を作っていった。
その凄まじいほどの戦いぶりに、何よりも驚いたのは彼等の指揮官だった。まさか、あの図体ばかりの大ぐらいの女好きが、ここまでの力を秘めていたとは。
「ははは……やれ! 一人残らず蹴散らしてしまえッ!」
そこからは掃討戦であった。六枚銅貨部隊は新手を繰り出し、三方向からの包囲殲滅に取り掛かった。200名は玉砕した。
砦に残った者はじっとしていたわけでは無かった。戦いの最中に狼煙をあげて救援を求めた。すぐ近くの3つの砦から、それぞれ50から100の兵が打って出た。
こうなれば六枚銅貨部隊は、逆に包囲されるかと思いきや、それこそがホーデンエーネン側の狙いだった。彼等は魔法戦士や魔道士たちを連れ、通り道を馬で先回りしていた。
念話術式が使える斥候から敵が砦を出たという知らせを受けると、数体のゴーレムを作り出し待ち構えた。
北部諸侯側の軍は、ゴーレムを置いて待ち伏せたホーデンエーネン軍に驚いた。北側の砦から進発したドワーフのトールキンは、ゴーレムの姿を見て皆に呼びかけた。
「あれは儂が引き受ける、お前さんらは魔道士と魔法戦士を狙えい!」
彼の『
ゴーレムを容易く破ることができたのは唯一、彼やドワーフの戦士たちである。この土人形に彼は強い殺意を抱いていた。
自分達が別の城の防備に行っている時に、こいつらを用いたホーデンエーネン軍にフワッセン城を落とされた。城の兵士達はおろか、城主の奥方と娘たちまでも皆殺しにされた。弔い合戦だ
トールキンは馬から降り、ゴーレムの群れに突っ込んだ。大斧は一撃で造魔の腕や脚を叩き砕き、それを操る魔道士たちをおののかせた。
しかし、ホーデンエーネンの騎士達は、これで怯える事は無かった。
「ホーデンエーネンの猛者達、ここが勘所とわきまえよ!」
互いにそうやって激励し、腕に覚えがある魔法戦士達と共に魔道士を狙う敵方を容易に近づけなかった。
それと、敵方とは数も違っていた。向こうはたかだか100人だが、ホーデンエーネン側は300も400もいたのだ。
とはいえ、この数はゴーレムたちを残らず土くれにし終えたトールキンが加わると、何の救いにもならなかった。
彼が敵勢に突っ込んだ後、その部隊の一番の手練れと魔法戦士が胴ごと薙ぎきられ、雪の上に血と臓物をまき散らすと、これは敵わぬと思った指揮官が退却と叫んで逃げて行った。
逃げていくホーデンエーネン側に、トールキンは追撃をするなと呼びかけた。魔道士や魔法戦士を多く討ち損じたが、100人ほどしかいなかったこちら側は、半分近くが死傷して余力が無かった。
トールキンは砦の隊長にこう告げた。
「お前さんらは砦へ戻れ。クリスタとミレイユが調練に行っておる北の要塞に連絡して、兵を出してもらうんじゃ。救援には儂が向かう」
「わかりました。お気をつけて」
トールキンは再び馬に乗り、南のヒキダフォルンの砦へと向かった。すると道の途中で金色エルフを含む、その砦の守備兵に出くわした。
「どうしたんじゃ?」
金色エルフが答えた。救援が間に合わず落とされた。敵は『六枚銅貨部隊』という、新手の猛者を繰り出して、打って出た者らを全滅させたことも語った。
「動きは鈍いがオーガ並みに強い。防護術式を張った鎧をまとって、お前でも手こずるかもしれない」
「もしや……ゴール族の末裔かのう?」
ナガオカッツェ地方や、ホーデンエーネン王国から自治をもぎ取っているタンバレーネ山地の民には、その血を濃く引き継いでいる者が多かった。
何等かの血を引き出す方法で、先祖の血を目覚めさせたのではないかと考えを述べたが、『六枚銅貨部隊』がどのように育て上げられているのか、誰も見当がつかなかった。
「まあしかし、ゴーレム以外にも、そんなけったいなもんを出すとはのう……ホーデンエーネンの底力は推して知るべし、じゃて」
「トールキン、向かうのか?」
「……いや、ここは決戦がええじゃろ。北の要塞の4000と各砦を集めた1000ぽっちじゃどうにもならんが、それでも万に1つの好機が訪れるかもしれん」
半島の南で決戦をする時は、何とか工面できる増援は3000程だと事前に聞いた。北は主に沿岸部の守りで兵を割かねばならかった。
ホーデンエーネンの海軍が食糧と物資を詰め込み、攻め入る動きをしだしていると、諜報たちから聞いたからだ。
「そこで、『六枚銅貨部隊』とゴーレムの使い手の首を全員、頂くとするかのう。この単細胞にはそれしか考えられんわい」
トールキンは自嘲しながら笑った。かくしてその通りとなった。
ツルーガニスクの各所の砦の兵士達は密かに抜け、北の要塞へと向かった。北部諸侯はここが決め手になると力を入れることにした。
北の要塞に集まったのは、おおよそ1万2000程。ここで負ければ後が無かった。
決戦はホーデンエーネン軍にとって望むところだった。総大将自らが陣頭に立ち、3万5000のうち2万で、オーガの戦士と『六枚銅貨部隊』を含む軍勢を北に進めた。
かくしてこの反乱を終わらせるかホーデンエーネンへの独立を勝ち取るか、の一大決戦が始まろうとしていたが、さて、その行方はいかなるものであったのか?
その続きについてはまた、次回にて。