※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

644 / 767
幕間㊱・決戦計画⑥

 女は金髪だ。身長は155センチほど。かなりの美人である。髪を後ろに束ねて剣を提げている。旅の女武芸者といったなりだ。

 

 他2人の男は黒髪で、顔は白く背が高い。のっぺりとしていた顔立ちのひょりとした容貌だ。2人は墨色の滋味なローブをまとっていた。

 

「お前たちは誰だ?」

 

 シマモトッセンが尋ねると女が答えた。

 

「マイア=テクニカの関係者っていたところでさぁ。但し、エチウのと付け加えさせていただきやしょう」

 

 イーガはパラッツォ教国と国交を結んでいる。当然、国策企業でもあったマイア=テクニカの支社はカナザワース島にもあった。但し、小さな事務所程度の人数だが。

 

 その支社だが、イーガ人のとある人物を顧問として遇していた。これは『軍師殿』とマレーネが知らぬ情報だった。

 

「お初にお目にかかりますねぇ、ゲラルド=シマモトッセンさん。あたしはエレクトラ=ガモーコヴィッツ。以後お見知りおきを」

「……噂には聞いている。マルティン王太子の御母堂であったな。もう2人は?」

 

 顔立ちのよく似た2人は、クロサワ=アキラとクロサワ=キヨシといった。エレクトラはパラッツォ教の司祭と伝えたが、実のところは『枢機卿』である。

 

 ホーデンエーネンのマイア=テクニカの交渉役の魔道士たちが、エレクトラに尋ねた。

 

「エレクトラ様はなにゆえ、いきなりこの席に来られたのですかな?」

「この取引に待ったをかけに来たんでさぁ。そちらさんはゴーレムの術式の伝授に、とんでもない金額を御呈示されたと聞きましてねぇ? でもそう致しますと、マイア=テクニカが暴利を貪っている、ってゆう評判が各国に流れちゃうんですよ」

 

 それだと本社があるイーガの評判が落ちてしまう。ゴーレムなどそもそも、カントニアのエルフが編み出したごく基礎的な魔道である。ホーデネーネンの魔道士業界には全く伝わっていなかったが。

 

「まあ、エルフさんたちのゴーレムは、100年200年耐えられるように、身体やからくりを手作りして、それを魔法で吹き込むものでございますがね」

「そんな手のかかるものはいらん、と我々ホーデンエーネン軍は思っておるのだ。大量生産というのが鍵だ。だから、その辺の土と石でかたづくって、動く矢弾避けとして扱う。運用法を工夫すれば陣地制圧にも使えるであろうがな」

「ほほう。流石は近衛騎士団きっての知将、良き見識でございますねぇ?」

 

 褒められてゲラルドは少しだけうれしくなった。エレクトラは年増だが、目を見張るような美人だからだ。

 

「土と石で簡単に作れる魔法人形……術者の魔力がどこまで持つかで制限時間が出る、使い捨ての魔道兵器でございますがねぇ、マイア=テクニカの魔道技術部門が開発した、新式の術式ならばどんなヘボでも簡単に作れちゃう、というのが大きな魅力でさぁ」

 

 そして戦術をがらりと変える事もできる。ゴーレムたちを並べて防壁や捨て石同然の陣地攻撃にできるだろう。

 

「但し、北部諸侯の皆さんが抱える魔道士たちも扱える術式ですぜ?」

「どうせ伝わるだろう。仕方あるまい。鉄砲と同じだ。だが、魔道士や魔法戦士の数が違う。我々のほうが上だ。結局は数が上のほうが勝つ」

「そうなりますと、べらぼうに高いお金を払うのってのは、あんまり面白い話じゃあございませんなぁ?」

 

 ゲラルドはうなずいた。ホーデンエーネンのマイア=テクニカの者達はエレクトラをじっと見つめるだけで、黙っていた。

 

「ここいらで取引といたしやしょう。エチウのマイア=テクニカからの提案でさぁ」

「そちらが教えてくれるというわけか。条件は何だ?」

「伝授方法については口述。学ぶそちらさんが紙で方法を記録して、他の方々に広めてくださいな。それから、この術式、北部諸侯の皆様方にもいたしやしょう」

 

 その代わりお値段はお手頃価格に。ホーデンエーネンに最近生まれたかわいいアイドル、マレーネ=カツランダルク=ホーデンエーネン姫を、イーガの義理のじいじに遭わせるというのが条件だ。

 

 マレーネ姫はセイン王に嫁いだロゼ姫の遺児である。そのロゼ姫はマイヤと亡きアドルフ王子との間に産まれた娘。

 

 ホーデンエーネンに明け渡される前までは、イーガの王・ヴィルヘルム=トードヴェル=キョウゴクマイヤーの養女として育てられていた。

 

「なるほどな。貴公、義父殿に頼まれたか? イーガからの指令を受けているのだな?」

「いやいや、これはあたしなりの義父様へのご恩返し、というもんですぜ? この話がまとまれば、エチウとイーガとの関係も深まりますからねぇ?」

「そういうことですよ、大公殿下」

 

 クロサワ=アキラが初めて口を開いた。道楽者の不出来な倅の子とはいえ、ロゼ姫は国王に大層愛されたそうだ、と言った。

 

「可愛い孫姫を慈しんで育てておられたのですよ? それをいきなり、御老人が引き離されたのです」

「まあそうだな、クロサワ=アキラ司祭。私も孫がいるからな。気持ちがわかる」

「しかもその孫姫様はお亡くなりに。自分はもう老い先短い。ならば、その血を受け継ぐひ孫様に一目会いたいと思うのもわかりますな?」

「ううう……確かにそうだな。私もいくさで孫に会えぬ日々が続くのが辛いよ。それに孫とそんなに歳の変わらない、妾腹の息子や娘もおる。かわいいもんだ。戦争の勝利を目指すのと同じぐらい、子や孫は大事なものだと存じている……」

 

 シマモトッセン公は涙ぐんだ。エレクトラが提示した条件もだいぶ難しいものと言えたが、それで済むのならお安い御用だろう。良き条件と言えた。

 

 しかしこれを妨げたい者がいた。隣の部屋にいたアナとオーラフだ。

 

「どうする、オーラフ?」

 

 今すぐシマモトッセンに心理掌握の魔法をかけてやろうか、とアナが呼びかけた。オーラフが本気を出す為にサキュバス本来の姿……ツノと翼と尻尾を生やした身体となる。

 

「やっちゃおうよ。パラッツォ教の司祭ぐらいならいなせるわ?」

「ちょっと待て……エレクトラと言ってたな?」

 

 ウォルターが訊いた。そうよ、と姉妹が答えると、

 

「サート銀山でイズヴァルトさんが負けるきっかけを作った曲者だぞ、そいつ。イーガでも指折りの魔法戦士だったと聞いている。しかもだな……」

 

 イッツク=シーの戦いでヴィクトリアと背中をあわせて戦ったという女戦士だ。

 

 アナがかぶりを振った。速攻でやるしかない。

 

「奇襲をかければこっちのもんよ。ウォルター、他のみんなと一緒に援護して?」

「じゃあ、シマモトッセンの首を獲ってみるか? マイア=テクニカの魔道士たちも殺せるだろうし。あんたらの転移魔法を使えば、エレクトラだって殺れるかもしれない」

 

 それならやれそうだ、とウォルターが凄むと、それはやっちゃだめ、とアナとオーラフが注意した。

 

「ちっ。じゃあ囮をやる。うまくやれよ?」

 

 ウォルター達は出て行った。しかしクロサワ兄弟が察知し、廊下に出て待ち構えた。

 

 俺達はあくまで囮だ。ウォルター達が剣に手を賭けると、クロサワ兄弟もまた左右に差していた小剣を抜く。

 

 抜刀が早いウォルターが抜いてすぐさまアキラに斬りかかると、切っ先を手に持っていた二本で受け止めた。

 

 ウォルターは引こうとした。しかし動かない。抑え込まれたのだ。

 

「ぐっ……随分な馬鹿力じゃねえかよ!」

「手荒な真似はよしていただきたい。こう見えても俺はオーガ族。腕力では君よりもはるかに上だ」

「くそっ。オーガのパラッツォ教の司祭……イズヴァルトさんが言っていた『枢機卿』だな?」

 

 ウォルターは剣から手を離した。それから念話魔法でアナとオーラフに伝える。外にいるエルザと連絡を取って脱出の準備をしてくれ。

 

「そんなにびくつかなくたっていいじゃないんですかい?取って食おうってつりじゃありゃしませんからねぇ」

 

 扉からエレクトラが現れた。ウォルターはその顔をにらみつける。おおこわい、と副司祭騎士団長はおどけてみせた。

 

「ワターリからこんなとこまで。一体どなたからのおつかいですかい?」

「ワターリじゃねえ。ツックバーからさ」

「ありゃ。イズヴァルトさんは今はシゲニウス様のおひざ元にいるんですかい? あたしの諜報網も錆びついてきちゃいましたかねぇ?」

 

 そう言ってエレクトラは、今のイズヴァルトについて知っていることをべらべらとしゃべり出した。

 

 『軍師殿』と共にムーツへ入り、オーガの王が持っていた秘宝を手に入れたことや、『ゆうしゃ』という妙な名前の称号を自称して、彼の嫁が世界各地の王や将軍に親書を送っていることも。

 

「手紙を送る時はどうやら、サキュバスさん達をこき使っていると聞きましたよ。それも木っ端の魔族じゃなくて、魔竜さんの部下ぐらいの能力の持ち主……まあ、もしかしたらですが、お姉さんの『遺臣』を呼び集めていたりしているかもしれませんねえ」

 

 もっとも、それは無いだろうがとエレクトラは思った。

 

 トーリ=カツランダルクが頼みにしていたカミラやピックプリトといったナントブルグ王国の『遺臣』達は、その全員が消息を絶っている。

 

 とはいえ、彼女達の子や孫にあたるサキュバスはまだいる。トーリの子供達が領地を引き継いだ、アスカウとヨーシデンにだ。

 

 だが、どの淫魔も未熟だったり、底が知れている。長距離の転移魔法などもっての他だ。とはいえ、ちょっと良い諜報魔道士ぐらいの役には立てる。

 

「ええと、ついでに言っておきますけどねぇ、隣の部屋で待機している淫魔さん達に、下手な真似をしないように注意してくださいな?」

「その2人、枢機卿だろ? わかってるさ」

「それならよろしい。そいじゃあ、ここからは『念話』で」

 

 ヒッターチに帰るまでは他言無用でお願いします、と頭の中で声がした。

 

「『元経済長官』さんが何かをたくらんでいる、っていうのは、こっちも把握しておりますよ」

「となると、何だ? アンタらも『軍師さん』の計画を察しているっていうわけだな?」

「その通り。パラッツォ教の情報網をバカにしちゃいけませんよ」

 

 そして何をやろうとしているのか、エレクトラは当てて見せた。ウォルター達が眉をしかめると、エレクトラは、このように提案してきた。

 

「ゴーレムのこと、見逃してくれませんかねぇ? そもそもホーデンエーネンに手を貸そうとしているのは、イズヴァルトさんがオーミゲニアで活躍する為なんでさぁ」

「……だとしても、ゴーレムは違法きわまりないカードだろ?」

「いやいや。泥沼化させる為ですよ。騎士だの『ゆうしゃ』だの、そう呼ばれるお方は戦争が商売でしょ? このままじゃ北部諸侯の勝ちが決まっちまいますよ。何せナーガハーマまで攻め込まれてる。ここで逆転するにゃ、クボーニコフと手を組むのも必要でしょうが、何よりも自分達にはこんな兵器があるぞ、と、北部諸侯と『援軍』に知らしめなくちゃ沽券に関わる」

 

 北部諸侯は現在、内外からの支持を得られていて義勇軍が集まっている。海外のパラッツォ教徒や彼等と親しい、亜人の傭兵たちが多い。意気軒高だ。

 

 特にエチウから義勇兵たちは、クボーニコフと戦って来たからオーガとの戦い方をよく存じている。北部諸侯側は毒矢や毒槍をたんまりと準備していた。

 

 となると、イズヴァルトの助けが欲しくなるぐらいに劣勢に立たせるには、ホーデンエーネン側に若干の便利な道具をあげるしかない。だからゴーレムだ。

 

「と、いうわけです。あたしらもイズヴァルトさんの『大活躍』のおぜん立てをしているっていうわけですよ。もちろん、やり過ぎた時の保険も用意しておりますぜ」

「保険? そりゃなんだ?」

「パラッツォ教の最終兵器、教主コーザ様でさぁ」

 

 コーザもまた、イズヴァルトの『大活躍』を望んでいた。元々はイズヴァルトに、エチウの俗世の王になってもらいたいと望んでいたのだ。

 

「コーザ直々にかい? 目的はなんだよ?」

「そりゃあもちろん、決まっているでしょう? イズヴァルトさんにはオーミゲニアで大活躍してもらって……そこの王様になってもらいたいと思っているんですよ?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。