聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
さて、イズヴァルトによるヨコヤマヴァール攻めである。
タッカテオッキ河の東の街道に入ってから一時の休憩をしている最中、軍師ローラは話し合いの場でこう進言した。
「鉄壁と思われているあの城ですが、実のところ抜け穴というものがいくつかございます」
抜け穴とは言うが、城の防備の弱点ではない。イズヴァルトの突破力をもってすれば、南側にある陣地を容易に攻略できるだろうし、飛翔魔法をもってすれば城壁も越えられる。
しかし、それができると思わせてはいけない。ヤッスンドルフではやらかしたが、ローラはそう言いきかせてここまで進めてきた。
「抜け穴、つまりは隠し通路でござろうか?」
「そのとおり! あのヨコヤマヴァールは周辺の砦と、地下通路で繋がっているのです」
ヨコヤマヴァールの防備は、近辺の10もある砦とセットで組み上げられてきたものだとローラは言った。
その中でも一番攻めやすいのは、ヨコヤマヴァールから1キロ離れた北東の山中にある砦である。イブキラッセン城という。
イブキラッセン城は、山の3合目からてっぺんまでを城塞化した堅固な要害であった。トーリ=カモセンブルグが各砦の中で、一番力を注いでいたそうだ。
【ギルバート=カツランダルク注:今現在のイブキラッセン城だが、とある実業家に買収されてホテルとなっている。】
「防備と規模こそ一番上ですが、同時に、一番落としやすい城でもあるのです」
「どういうことでござる?」
「曲輪が大きすぎるからですよ。あの城をきっちりと守るためには、そもそも1万ぐらいの守備兵が籠もるのを想定して築いたのです」
けれども今、イブラキラッセンにいるのはたかだか800程度だという。ローラはその話を捕虜たちから聞き出した。
彼らはイブキラッセンだけでなく、ヨコヤマヴァールやナーガハーマのこまかいことまでぺらぺらしゃべった。ローラが得意の『ぱいずりおしゃぶり』を施したことで、心の鎧を外してしまったからである。
「というわけで、兵は神速を尊ぶというわけで、時は今、でございまするよ、イズヴァルトさん?」
「さようでござるな。では!」
イズヴァルトが『氷雪の栄光』を高く掲げながら、一団とともにイブキラッセンへ攻め込んだ。
ローラが言う通りに城兵はほとんどおらず、広々とした曲輪はガラガラであった。
あっさりと攻め落とすと、ローラは城兵に抜け道の入口を案内させた。
照明石で照らされた地下道は天井が高く、広々としている。軍馬と並んで通れるほどに幅が広かった。しかも石畳が敷かれていた。
「ここからヨコヤマヴァール向かうのでござるな?」
「一気呵成に落としましょう。もちろん、私も同行いたしますよ」
イズヴァルトは拒まなかった。地下道からは歩行となり、ローラの義手義足を外し、布で自分の身体にくくりつけた。
地下道は封じられていなかった。出口はヨコヤマヴァール北面の城壁の地下につながっていた。干物などの保存食が詰まった箱や酒樽などがびっしりと並んだ、広々とした空間であった。
「むぅ……これは?」
「どうやら食料庫のようでございまするな? いやしかし、抜け道の出入り口をかようなものに致すとは」
籠城を想定していない。ここを守るのは軍事の素人のようだとローラは嗤った。
「近衛騎士団のお歴々は、だいたいがこんなものでござるよ。さて、ここに守りを置いて、拙者らは地上に出るとい致そう」
地下蔵の扉を開け、イズヴァルトとローラは地上へとあがる。
途中で出くわした兵士たちが襲いかかって来たが、イズヴァルトの敵ではなかった。
相手の武器をことごとく、『氷雪の栄光』で叩き落として追い散らした。地上に出ると騎士や兵士、騒ぎを聞きつけてやってきた市民たちが集まっていた。
市民たちは呑気に野次馬を決め込んでいた。現れたイズヴァルトを見てはしゃぎはじめる。
「おお、イズヴァルトさんだ!」
しかも彼は女を胸に抱えている。兜から蒼にも見える黒髪を流した見目麗しい娘だ。美しいというよりも愛くるしいという顔立ちだった。
その女が顔を向けると、市民どころではなく騎士や兵士も驚きだした。
「おい、誰かさんにそっくりだぞ!」
「あのお方によく似ておる!」
「いや、あれがたぶん、ローラ=ラダトゥム=セアックという、イズヴァルトさんの女軍師だろう!」
「いや、イズヴァルトさんの新たな精液専用便器女らしい!」
誰かがケツのところをよく見ろ、と皆に呼びかけた。ローラは鎖帷子をまとっていたが、動いているうちにめくれて大きな生尻が少しだけ見えてしまっていたのだ。
指摘に気づいたローラは、わざと尻を持ち上げた。こちらを見ていた者たちは肉付きよく柔らかい肉を蓄えている白い臀部と、その間にある美味しそうな窄まりに目が釘付けになった。
ローラはぷっ、と屁をこいた。イズヴァルトが動き出した。
ローラを抱えたまま前に飛び出し、呆気にとられていた騎士たちをあっという間に馬から叩き落すと、構えた兵士たちに足払いや関節への打擲をかけ、次々と悲鳴をあげさせた。
あっという間の早業ゆえに、市民たちがやんやと喝采してくると、イズヴァルトは彼らにこう告げた。
「拙者はこれよりヨコヤマヴァールを根城といたすでござる! 2ヶ月3ヶ月籠もるつもりゆえ、その間はナーガハーマにで避難していただきたい!」
ローラも市民たちに呼びかけた。
「街の行政庁の金蔵からありったけ、皆様に分配いたします! それと家財や宝石を持って退去してください! 但し食料は家の中に少しだけでも置いていただけるとありがたいです!」
市民たちは皆、イズヴァルトらの呼びかけに応じた。
蔵にあるものを開けてまで退去を薦めるというのはつまり、この街に踏みとどまっては巻き添えを喰らう激戦が行われるからだろうと推測させたからだ。
オクタヴィアらが行政庁に向かい、銀貨や銅貨が入った箱を持ち出すと、集まった人々はこぞって中身をつかみ取っていった。
退去したのは市民だけではない。街の防備に携わっていた兵士達もだった。彼等も『迷惑料』のつかみ取りにこぞって加わり、自分達の十日分の賃金に匹敵する銭を持って行った。
とはいえ、それを拒んだ者もいた。兵士や騎士、市民の中で、腕自慢の者達である。
「イズヴァルトさん、俺達も一緒に戦います!」
「世界を渡り歩いて身に着けた武勇が、どれほどのものかこの目で見てみたいのです!」
皆がイズヴァルトと肩を並べて戦うことを希望する。しかしイズヴァルトは固く拒んだ。今度の籠城戦はニンゲンの腕自慢では凌ぎづらい、激しい戦いとなると思っていたからだ。
「お気持ちだけ、預からせていただくでござる」
かくして、ヨコヤマヴァールの市民と守備兵の全員が街を去った。南側で防備を固める工事に加わっていた者達も従った。
その後、イズヴァルトは従っていた者達と共に、街に残っている食糧や武器弾薬をかき集めた。おおよそ2か月分の食料と秣に、300丁ほどの鉄砲と多くの玉薬を手に入れた。
集められた武器の中から、ゲオルギー公子は最新鋭の騎上筒を手に取った。
銀色に輝く銃身をさすり、握りをぎゅっと掴みこむ。火縄や火打石が無く、魔法発火装置で発砲する機巧のそれは、ムーツ大陸ではあまりお目にかかれない代物だった。
「これが、ホーデンエーネンのてっぽうだべか……」
ズシリと重い。早合を破り銃口に中身を詰め、棒で押し込めると、城壁の上に翻るホーデンエーネンの旗に狙いを定めトリガーを引いた。
轟音が鳴り、ホーデンエーネンの軍旗に穴があいた。ホージュリア妃や遊牧民の戦士達が、最新型の鉄砲に興味を示した。妃はローラに目を向けた。
「弓よりもだいぶ楽に扱えそうだな? これがマイア=テクの最新型か?」
ローラは眉をしかめる。それからイズヴァルト頼み、新式の短筒一丁の銃口をのぞきこんだ。
「知っているものとは出来が違う。施条の精度がだいぶ上がっている様です……」
ローラは言う。自分が知っていた銃はもっと狙いにくいものだったと。
「ゲオルギー公子さまが狙撃に慣れているとはいえ、初めて扱えば外してしまうはずですよ。ホーデンエーネンは鉄砲をここまで進歩させてきたのですね……」
「ローラどの、鉄砲を怖がらなくてもよいでござるよ」
イズヴァルトは自信をたっぷりとローラに言った。
「拙者にかかれば、進歩した鉄砲も無力であること、次のいくさで、ホーデンエーネンの衆に知らしめして見せるでござる!」
さて、聖騎士の胸中に、どのような策があったのか?
その続きについてはまた、次回にて。