聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
タッカテオッキ河畔における敗北は、ホーデンエーネン軍の士気を大いに削ることとなった。
軍議の席でああでもない、こうでもないと悩む近衛騎士団の重職らや勇猛果敢な者は別として、すっかりあきらめムードが蔓延していた。特に下級の兵や騎士の間でだ。
それと、天候のせいもあった。
濃霧の中での戦いの翌日は急に冷え込み、吹雪となった。
こうなると兵士や騎士は暖を取る為に火酒を飲む。吹雪は4日ほど続いた。ナーガハーマの兵士達の間で、二日酔いに苦しまぬ者はいなかった。
しかも、ナーガハーマには兵士達を一層だらけさせる誘惑があった。パラッツォ教徒の女がそれだった。
ナーガハーマはこの当時、比較的新しい大都市だった。
街の東を流れる、北とタッカテオッキと南のアネガウを結ぶ運河の土木工事や、新たな市街地の建設工事で、数だけは多いエチウのパラッツォ教徒が雇われ、そのまま住み着いたのであった。
【ギルバート=カツランダルク注:その当時のナーガハーマの人口は、おおよそ15万を超えていたそうである。現代の約3割ほどだ。とはいえ、ナーガハーマはナントブルグの5倍以上の広さである。その当時の世界最大の都市である、ウマヤーノ国のタカレストの北街区とほぼ同じぐらいの面積だ。】
この当時、この街にパラッツォ教徒の女は、閉経前の者でも5万人以上が住んでいた。
彼女らは『法悦』と『生殖』を尊んだ。父親がわからぬ子でも慈しめ、とも教わっていた。
若い娘達は容易く兵士達のおねだりを受け、こうして肉の交わるのを楽しんだ。
それは兵士達も同じだった。彼等の多くは薄給で、一人暮らしがやっとの者達ばかりだった。
貧民階層出身の者が多く、地元ではなかなか恋愛に恵まれぬし、見合いの話もあがらぬ者たちばかりであった。
戦場での強姦や、質の悪い安売春婦を買うことしかできなかった彼等は、あまり銭を使わず、少しの駆け引きで成就する『恋愛』を、ナーガハーマで存分に楽しむことができた。
中にはパラッツォ教の博愛の教えと相手の女に本気で惚れこみ、改宗する者が続出するほどだった。
火酒と恋愛遊戯ばかりのナーガハーマの駐屯は、長期化するにつれて兵士や騎士の心身を蝕んだ。
侵される、というよりかは溺れてふにゃふにゃになる、という感じであった。戦うという気概をすっかり喪失していた。
そして、イズヴァルトが戦意喪失に拍車をかけた。
聖騎士の名と北の防壁・ヨコヤマヴァールの落城、そしてタッカテオッキでの敗戦が、厭戦ムードをますます高めたのだ。
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とはいえホーデンエーネン側には、戦意高揚の最後の起爆剤が残っていた。
ホーデンエーネン王国暦361年2月半ばに現地入りした、国王・ジューンショーン=ホーデンエーネンのことである。
国王は船を使わず、城下の色街にいたサキュバスを雇い、転移魔法の用いて2日の旅程で遠いナーガハーマに入ったのだ。
国王が到着したのはナーガハーマのアネガウ側の外郭門だった。
同行していたサキュバス数名は、後ろの方でえづいていた。
「うえっ。うええっ。うえええっ……」
下の口で精を飲みすぎてつわりになったのではない。転移魔法とセックスでの疲労によるものだった。
ちなみに彼女達の格好は胸が空いて谷間を見せ、腰のあたりから裾まで、横に切れ込みがある服だった。蟹股で歩くたびに股から精液がこぼれていた。
「立派な城壁ですなあ」
同行する騎士が言った。聳え立つのは、およそ10キロ近く続く城壁であった。
しかし国王は不愉快そうだった。
「なんだこれは? 全然終わっていないじゃないか」
外郭門の周囲では、まだイーガ産の魔道重機やゴーレムが土塁に石を積む工事を続けていた。至る所に資材置き場があり、労働者がひっきりなしに動いていた。
「報告とまるで違う。トーリとマイヤが提出した計画書では、もう終わっている頃のはずなのだが?」
「戦費やいろいろな事態のせいで、予算がまわらなかったのでしょうな」
「いいや、ナーガハーマの建設では、必要な資金を集め終えていた。さては、無能な者に首をすげ替えたか。嘆かわしい……」
マイヤ=カモセンブルグ亡き後、ナーガハーマの建設工事を担っていた者達こそが、近衛騎士団に所属する大貴族達だった。
疲労で嘔吐しだし、股を濡らしながら盛んに腰をくねらせて精を求めるサキュバス達を工事現場の男達にゆだね、国王らはナーガハーマの中心へと向かった。
ナーガハーマは中心地と周縁地で街の姿が変わっていた。
市の中心、クニトモッツエン山城と小さな城下町が旧市街地。昔ながらの要塞都市で、道は坂が多く曲がりくねっていた。
その周辺、北のタッカテオッキと東の運河、南のアネガウ河のあたりまで長い外郭で囲われているのが新市街地だ。
トーリとマイヤの姉妹によって計画された新市街地は、路はまっすぐで各街区は碁盤の様になっていた。
こうした整然とした街並みはホーデンエーネン国内ではほかに、マイヤが造ったヨーシデンの都だけであった。
国王らは出迎えの馬車に乗り、クニトモッツェン城へ向かう道すがら、窓から街を眺め見た。
雪が降りしきるのに市場は往来が盛んで、質の良い暖衣に身にまとう人々ばかりである。
しかも市場のはずれの物陰や、公園の互いの脚を絡み合わせ、腰をぐいぐいと動かす男女や子供達の姿が、ちらほらとあった。
「ははは。ナーガハーマの者達は元気なことですな。こんな寒い雪空の下でも、子づくりに熱心なようです」
「色街が他の街より大人しい、と聞いてはいたが、これほどお盛んだったら理由がわかるよ」
それからパラッツォ教徒が多く住む街区に入った。こちらでは公然と交合をする男女の姿が見えた。女の背をを家屋の壁に押し付け、脚を抱えて法悦に耽る男たちの姿があった。
もっと目を見張ったのは、年若すぎる妊婦を何度も見たことだ。生理が始まって間もないどころか、始まってさえいないのではないかという年頃の娘が、大きな腹を抱えてよちよちと歩いていた。
「あの子、10歳にもなっていないように見えるけど、大丈夫なのかな?」
「問題ないらしいですよ。パラッツォ教徒の娘で産褥で死ぬ者はいないそうです。『甘露』やゴブリンの陣痛薬、あるいはサキュバスの愛液で痛みのほとんど無いお産ができるそうです」
「フレッダちゃんとは違うんだね。彼女は出産の時、おっきなちんちんでおまんこをずっぷりやられている感じがしたと言っていたよ?」
国王の妻フレッダは母と同じく、13の歳で初産を迎えたが、とんでもなく順調な安産だった。
その女性器は子をひねり出す時に思い切りよく広がり、大した流血も為さずに子をひねり出した。
出産した翌朝にはもう、王のちんぽを欲しがっていた。元のサイズに縮んだおまんこは、盛んに蜜を垂らしてぬらぬらと濡れていたそうである。
パラッツォ教徒の街区までは、国王の機嫌は落ち着いていた。しかし旧市街地を取り巻く兵士街に入ると、途端に苛立ち始めた。
酒に溺れ、武装を外した格好で外で女を抱く兵士達の姿ばかりがあった。
汚物やゴミが白い雪の上のあちこちに落ち、貴族のものに見える外観のこの馬車を見ても、敬礼どころか見向きもせず、ただただ自分の身の回りしか見ていなかった。
「……なにをやっているのだ、近衛騎士団は?」
憤りを覚えたまま国王はクニトモッツェン城に入った。城門の奥で待っていた騎士団の要職らと会うと開口一番、寝不足でたるみがちな顔をしていた彼等を叱り飛ばした。
「勇ましいことを言っていたお前たちの結果が、この体たらくかッ!」
武将らは全員が、驚き、びびっていた。
文弱に過ぎると言われていたジューンショーン王が、聞いたことも無い声で怒ったからである。
「ひいいっ……!」
「余の声がそんなに珍しいか、イチノモトッツェン公! ところでヨーシヒデクスの姿はどうした? 『ひよこ』の股をほじくってて務めを忘れたか?」
ナーガハーマにいる近衛騎士団の中で、ヨーシヒデクスだけは国王にとっては別格だった。猪武者の気は強いが、武将としての器と声望は一番だったからである。
その問いと共にヨーシヒデクスが、2人の『ひよこ』を引き連れて物陰から現れた。
「はははッ、私めの名を呼ばれましたかな?」
「お散歩の最中だったか、ヒラジマッシモ?」
「左様で。おまんこばかりでは、この娘どもの教育にはよくありませんからな?」
そう言ってヨーシヒデクスは、自分の腰までの背丈の2人の頭を撫でた。金髪の童女らは彼にしがみついてはにかんでいた。
「随分と可愛い子犬たちじゃないか? さては、パラッツォ教徒からふんだくったな?」
「ははは、人聞きが悪いことをおっしゃいまするな! この娘達はちゃんと、ナントブルグから呼んだ拙者めのちんぽの世話役でございまするぞ!」
さっきまで自分の竿と玉をしゃぶらせ、股のすじの味を堪能していた美童らの頭をくしゃくしゃと撫でた。
恥ずかしそうに笑う娘達を一瞥した後、ジューンショーン王は『いとこ』に命じた。
「軍紀が乱れている。良い指揮官や参謀が欲しい」
「と、なりますと、義理の弟に頼む他ございますまい」
「そうだよ。まず欲しいのは参謀だ」
ヨーシヒデクスの義弟。
ナガオカッツェにいる、元聖騎士団副団長のライナー=イナトミッテンフェルトのことであった。
数々の戦争に参加し、多くの作戦を立案、実行してきたホーデンエーネン一の知将を、ここに呼べと国王は言った。
「余からはもう1人の参謀として、近衛騎士団のケノービ=ソーローを呼び寄せる」
「では、指揮官は?」
「本気を出した君と、もう1人がいれば充分だ」
兄が本人を前に痛罵するほどだった叔父とは違い、その庶長子に武将としての才があることを国王は知っていた。
「シマモトッセン公殿を呼び戻せばよろしいですかな? もっとも、イズヴァルトを見て牙が折れ、使い物にはならないでしょうが?」
「ナントブルグから聖騎士団団長を呼ぶ」
聖騎士団長ロンメル。ライナーを副将とし、いくつもの戦いで活躍した古豪であった。
「聖騎士団員もナーガハーマにいるだろう。1000人ほど配置しているはずだ。まさか、イズヴァルトに全員葬られてもういないだろうな?」
「聖騎士団にはずっと、ナーガハーマの防備を任せておりますぞ? クボーニコフが残してくれた軍勢も残っております。オーガの海賊どもも生き残りは温存しております」
パラッツォ教徒の女をあてがい、ちんぽでの憂さ晴らしばかりをやらせている。イズヴァルトの名前を聞いてビビっている様子も告げた。
「オーガのツノというものは、案外と折れやすいのだな?」
「いやいや、イズヴァルトはクボーニコフでも、『大活躍』をしていたそうですぞ? 武勇とご自慢のでかちんぽ共々、ムーツでは既に有名人らしいですな!」
「カントニアのエルフに続き、ムーツのオーガの女も孕ませ穴にしたわけか! 侮れぬな、司祭騎士団長イズヴァルト!」
それからすぐにヨーシヒデクスは動いた。国王を連れてきたサキュバスはまた仕事をするハメとなった。
5日ののちに聖騎士団長と元副団長、それから、ケノービ=ソーローとライナーの側近のルートヴィッヒ=ベートーベンが国王と拝謁することとなった。
ケノービは実に不本意そうな面持ちだった。国王は彼を叱り飛ばした後にライナーに目を向けた。彼は実に幸せそうな顔だった。後ろに控えていたサキュバスたちと、楽しい旅ができたからである。
【ギルバート=カツランダルク注:ライナー=イナトミッテンフェルトはニンゲンの女よりも魔族や亜人の女を好んだという。特にサキュバスを大いに好んだという。ナガオカッツェ家の縁者となる30代後半まで独身だったのは、サキュバス狂いが昂じたからとも言われている。】
「イナトミッテンフェルト、長旅ごくろうだった」
「はッ!」
50を過ぎたライナーは若々しく、未だ壮年の様な風貌だった。
対して親友のロンメルは頭がはげあがり、ぐっと老け込んでしまっていた。
「早速だがケノービ共々に策を聞きたい。わが軍はどう動くべきか?」
ケノービが先に答えた。
市内で徴兵を行い、武装を整えさせた後に決戦を挑むべし。
「ナーガハーマには6万以上の成人男子がおります。これをあわせれば総勢10万近く。鉄壁のヨコヤマヴァールでも力押しで落とせましょう」
ライナーは違った。ヨコヤマヴァールを包囲して、兵糧攻めに徹するべし。
「イズヴァルトは慎重な男ですが、案外と短気なところがございます。義兄上と戦ったのがまさにそれで、あの男はこちらを激怒させ、城攻めに引き込むつもりでいたのでございましょう」
「なるほど。高台のヨコヤマヴァール攻めとなれば、騎兵は思うように動かないし、市街戦となれば鉄砲も思う様な効果はあがらない……それがイズヴァルトの狙いか?」
「ローラとかいう軍師の狙い、かもしれません」
ナーガハーマとは違い、ヨコヤマヴァールの街中のつくりはとても複雑だった。
各地区の多くは必ず土を盛った土台の上に建てられ、路は掘り返して低くしていた。それらが曲輪や堀のかわりの様になっていた。
【ギルバート=カツランダルク注:この街割りを考え、改良したのがセインの愛妾であるトーリだった。彼女はいろんな軍記物を読んで築城を学んだそうである。】
「市街戦こそがイズヴァルト……もとい、ローラという軍師の狙いかと。それを避けるのです。ヨコヤマヴァール攻略は、兵糧攻めか火攻めしか取れません」
あるいは、外国から亜人の魔道士を多数呼び寄せるか、長距離射程型の投石砲をずらりと並べ、市内にぶち込むか。
「投石砲や新たな傭兵は時間がかかる……その時間稼ぎに包囲というわけだな?」
その通りです、とライナーが答えた。ケノービがこう言ってきた。
「それでは余計に軍費がかさみますが?」
金をかけたくなければ、単純に餓え殺しだけをすればいい、とイナトミッテンフェルトは返した。
「各街道を封鎖すればよいのですよ。要所に砦と柵を設け、塹壕で取り囲むのです。ついでに砦の前後左右には伏兵を置くための備えを施し、固めておきましょう」
「それだと戦費がかさむのでは? ここは短期決戦で……」
「街道を封鎖すれば、北部諸侯からの援軍や物資を止めるのですよ?」
「ですがイナトミッテンフェルト殿。我々も知らぬ抜け道が必ずあるはずです。それをすり抜けて物資が届いたらどうするのです?」
しつこく食い下がるケノービに、ライナーはこう言い切った。
「少しぐらいは与えてやればいいのです。でも包囲を続ければイズヴァルトはしびれを切らし、市街戦ではなく野戦に持ち込むでしょう」
そして出たところを叩く。そうでなければ干上がらせるか、魔道や飛び道具でのヨコヤマヴァール攻めだ。
国王は決めた。
「ライナーの策をとろう。さてソーロー公、貴殿には行政家としての才を見せてもらう」
ケノービに、ヨコヤマヴァールにつながる各街道の封鎖の為の備えの工事の監督を命じた。
「関所づくりには、アネガウ側の外郭城壁の労働者をまわしてよい。必要であれば市内から新たに募れ。ナーガハーマにある王家の蔵から持ち出して良い」
「御意」
「だが、他の近衛騎士団員の真似はするな。資材や人夫は適正な値で集めよ。できなければ政治家としての資質が疑われるぞ?」
ケノービは眉間にしわを寄せながら頭を下げた。
かくしてジューンショーン王の命のもと、ヨコヤマヴァール包囲の準備が着々と行われるわけであるが果たして、ジューンショーン王とライナーの目論見通りに事は動くのであろうか?
その続きについてはまた、次回にて。