聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ジューンショーン王が総指揮をはじめると、ホーデンエーネン軍の動きは活発になった。
兵士たちは惰眠を許されなくなった。酒に溺れ、女との性交にまどろんでいた日々が、任務と土木工事で汗水垂らすことに費やされるようになった。
傭兵も同じく。軍人や小領主を主とする騎士たちも同じくだ。兵士達よりも色事にかまけていた彼等に、国王は兵士等と一緒になって砦や防塁の資材を背に担ぎ、スコップを持つよう命じた。
そして近衛騎士団の者達は各地の建設現場に向かわせ、国王が配した厳重な監督官に睨まれながら、現場近くの砦や関所に飛ばされ、工事の指揮をとる事となった。
暖房が効いた暖かなナーガハーマの城市とは違い、砦は暖房魔法がきちんと配備されていなかった。
昔ながらの薪での暖炉こそあったが、掃除は殆どされておらず、油断をするとすぐに風邪をひいてしまう。
近衛騎士団のメンバーの中には、高齢の者も幾人かいた。老人たちは風邪どころか肺炎にまで悪化し、就いて5日で死んだ者も現れた。
工事が始まってから、近衛騎士団員らは我が身の境遇を嘆き悲しんだ。
悩む日々が続いていたとはいえ、ナーガハーマの屋敷や城は暖かく、酒もあれば美食にもありつけた。なおかつ、陰茎の欲求は口か膣か尻穴で毎日満たされていた。
しかし国王は厳命した。近衛騎士団員は皆、勝利の時まで酒と女と美食を断て。粗食で耐え忍べ。国王も禁欲と節制に徹しだしたから、文句を言っても反論されて押し込められるばかりであった。
二週間が過ぎた。
ヨーシヒデクスと共に、西の街道で建設中の、防衛陣地の視察に来ていた国王は、その出来栄えを見て喜んでいた。
ライナー=イナトミッテンフェルトが示したドクトリンの元で陣地は設計されていた。
急ごしらえではあるが、ヨコヤマヴァール側には土塁と空堀をしっかりと施し、外側は土を盛って銃眼を備えさせた。
対して反対側はがら空きだった。落とされた時にさっと退けるようにであった。代わりに周囲の砦や城に逃げ込めるよう、道を整備していた。この陣地の前面左右には、落としづらい塹壕や櫓を築いていた。
細かな縄張りについては、現地の地形に詳しい武将が決めさせていた。かしこまる工事監督役の近衛騎士団員を尻目に、国王は出来栄えを賞賛した。
「やればできるじゃないか! 何故今までこの様なものを築かなかった? 敵は万夫不当、1人で1万の軍勢に比するイズヴァルトだ。既存の城や砦だけでは防げなかっただろうに?」
近衛騎士団員は何も言えなかった。ただただ頭を下げて国王の目が逸れるのを待つだけだった。
【ギルバート=カツランダルク注:そうした防備は北部諸侯との戦いでいくつか設けられたが、ヨコヤマヴァールの周囲には置かれなかった。そうした防御施設の縄張りは、塁と土を盛っただけの単純な代物ばかりだった。ただ1人ヨーシヒデクスだけ、受け持った地域で守りの固い陣地を建てたそうである。】
呼びかけても、いつまでも答えてくれぬ近衛騎士団員に、ジューンショーンは苛立ちを覚えた。しかしこれ以上は尋ねる気にもなれなかった。
陣地の休憩小屋に入ると、ここまで連れて来てくれたサキュバスが労務で身体を休める男達にちんぽで構ってもらっているのを眺め、傍にいたケノービ=ソーローに尋ねた。
「後は対魔法の防備だな。そこだけが心もとない。サヌキスタンでのエルフの募集は進んでいるだろうか?」
亜人、特にエルフの手配について、ケノービは任務を仰せつかっていた。
「はい。先日募集をかけたばかりですが、既に50名ほど契約をしてくれております。サヌキスタン王にも宝物を贈って、もっと多くのエルフが集まる様に働きかけてみてはいかがでしょうか?」
「そうだね。ソゴプールだけじゃなくアワッヒドからも集めよう。カントニアのエルフほどの実力は無いようだが、いてくれたほうが助かる」
最低でも300人は雇いたい、と国王は希望を述べた。ケノービは自信たっぷりに笑った。
「ゾウズジャヤの『汚なエルフ』どもを併せれば、1000人は集めてみせましょう」
「大した余裕だね?」
「はい。サヌキスタンにはよく人を送っているおりますゆえ。なんなら、私の妾の1人がソゴプールのハーフエルフだと、この場で白状いたしましょう」
【ギルバート=カツランダルク注:ケノービ=ソーローはシマナミスタンのエルフ、特に、ソゴプール族やゾウズジャヤ族と深いパイプを持っていたそうである。】
ケノービの告白に、ジューンショーン王は腹を抱えて笑った。しかしナーガハーマから急使として現れたサキュバスからの報告で真顔になった。
「……エチウからの密使だと!」
サキュバスは教帝・オルランドゥの書状を持っていた。国王は封を開け、目を疑った。
「妃・ヘラと共に、3万の軍勢を引き連れて加勢しに参りました。北方諸侯らには停戦の声掛けをする為、と嘘をつきましたが、今のところは信用してくれているようです」
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守りを固め続けているヨコヤマヴァールに、北部諸侯からの援軍が入って来た。
ドワーフのトールキンをはじめとする亜人ばかりの義勇軍であった。おおよそ500。彼等は糧秣や弾薬を背負ってやって来た。
イズヴァルトは頼れるドワーフ族の友との再会を喜んだが、いの一番に思い切り殴り飛ばされた。
「どういうことじゃ! いつものお前さんなら、とっくのとうに北部の衆に手を貸していただろうに!」
トールキンの傍らにいたクリスタと、狙撃手のヴォルフ=ラングレンもイズヴァルトを睨んでいた。
右頬に大きな青あざをつくり、口もとについた血を指で拭いながら、イズヴァルトは立ち上がった。
「機をうかがっていたのでござる」
「なんと! そんなもんを気にしておったのか! 何のためじゃ!」
だいぶ多くの者が死んだ、とトールキンは嘆いた。下々の者は当然のこと、戦友や名のある戦士も。
北部諸侯もそうだった。何名かが討たれ、城攻めでは家族が自害した。若い妻や姫は凌辱された挙句、首を刎ねられることもしばしばあった。
トールキンは怒りを抑えきれなかった。またイズヴァルトを殴ろうとする。それをオクタヴィアとイナンナが止めた。
ローラがやって来て事の経緯を説明した。イズヴァルトが北部諸侯の為に剣を取ることを止め、今の今までなりを潜めさせたのは、彼の名を大いにあげることだと伝えた。
「……なるほど。お前さんの策じゃな?」
「はい。でございますから、殴るのはイズヴァルトさんではなく、私をお殴りください」
「おなごを殴ることなんぞ、儂にはできんわい!」
トールキンはその場で胡坐をかいて座り込んだ。
「だがな、これでは儂の腹の虫がおさまらん!」
クリスタに一瞥した。
「……しかたねえずら。おらがローラさんを殴らせてもらうずらよ。ちょびっとばっかしいてえけど、あとで治癒魔法を使うから許して欲しいずら」
「いえいえ、思い切りで構いませんよ?」
自分は既に『先祖返り』しかかっており、肉体は魔族並みの耐久力を得つつある。
運動神経も良くなって、股の割れ目や尻で白刃取りができれば、鉄砲の弾をまんこや尻穴で受けて動きを止められる、と語った。
「ほうずらか、イナンナ先生? オクタヴィアさん?」
「嬢ちゃんの言う通りズラ。けっこーしぶといやつだから、おもいっきしぶん殴ってもええズラよ?」
それを聞いたイズヴァルトが慌てた。止めようとして立ち上がった。
しかしクリスタの拳の方が早かった。
腹に直撃を受けたローラが吹っ飛ばされ、背後にある建物の壁に叩きつけられた。
壁の漆喰が割れ、頭から血を流していたが意識はあった。すぐに頭を持ち上げ、これで良いか、とクリスタに尋ねた。
「それはトールキンに尋ねて欲しいずらよ……どうずら?」
「このくらいにしておこう。さて、嬢ちゃん。こっちに来て今後の作戦を話してくれんかのう?」
ローラはうなずいた。イズヴァルトに担ぎ上げてもらった後、トールキンらに今後の作戦を語った。
「ホーデンエーネン王は我々を包囲しようと各街道を封鎖し、補給路を断っております」
「んなことわかるわい。で、それをどう打開する? ナーガハーマに攻め込んで、近衛騎士団っちゅうもんを皆殺しにすればええんかのう?」
「……そうなったらホーデンエーネンと全面戦争になります。ナントブルグを攻め落とすまで終われません。それじゃあイズヴァルトさんは『ゆうしゃ』ではなく、悪の大王にされてしまいます」
もう一度、挑発の為の一戦を繰り広げ、相手をヨコヤマヴァールに攻め込ませるつもりだ、とローラは言った。
「誘い戦でわざと負け、包囲ではなく強硬策に出たところを叩くのです。ホーデンエーネン軍は国王のもとで指揮を替え、今は王国最強の聖騎士団の団長を大将に据え置いております」
どんな豪傑の武も、戦争を知る名将の采配にはかなわない。
相手にそう思わせて誘い込めれば、イズヴァルトの本当の恐ろしさを馳走できるはずだ、とローラは述べた。
「ううむ。それができたら世話ないのう。ヴォルフ、どう思う?」
「俺に訊いてもいい助言は聞けませんよ。ですが、その策は多分無理でしょうね」
戦上手ならばなおさら、誘い込みの策を警戒するだろうと射手はつぶやいた。
となれば、どうしたものか。
ローラはクリスタに治療してもらいながら考えこんだ。
いつまで経っても答えないのにこらえられなくなったオクタヴィアが、国王を捕らえて人質にするなどというとんでもない策を言い出したところで、サキュバスのエルザらと共に斥候に出ていたパオレッタが戻って急報を告げた。
「砦工事をしているホーデンエーネンの奴ら、次々と仕事場を引き払ってナーガハーマに戻りだしたズラ!」
イズヴァルトとローラが驚き、周囲の者が互いの顔を見合った。
さて、ホーデンエーネン軍の不可解な行動は、一体何が原因だったのか?
その続きについてはまた、次回にて。