※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第百十七回

 勢いよく突き出されたその切っ先が、背中に触れるか否かの時だった。

 

 イズヴァルトは斜めにすっと背をそらし振り返りざまに『氷雪の栄光』を背から引き抜き、下段からの薙ぎ払いを繰り出そうとする相手の蛇行した刀身に叩きつけようとした。

 

 だが、突如として相手の頭に光る輪っかのようなものが浮かび上がったと同時に、イズヴァルトは手前から起こった空気の圧で後ろによろけた。

 

「『アルキメデスの空気砲』でござるかッ!」

「……知っていたか」

 

 相手の姿が見えなくなった。ローラがすぐさま、今度は頭上だと叫んだ。イズヴァルトはめいいっぱい、指揮棒を振り上げた。金属同士がぶつかりあう、派手な音が広間に鳴り響いた。

 

「転移魔法でござるな!」

 

 また姿が消える。相手はイズヴァルトの間合いから離れたところで、剣を構えて立っていた。

 

「貴殿、神聖術式の使い手を御見受けする! まさか、『枢機卿』のご子息か何かでござるか!」

「ただのホーデンエーネン人だ! 謀反人イズヴァルト! ジューンショーン国王陛下の為に、その御首級を頂戴する!」

 

 覚悟、と叫んだと同時に、またも相手の姿が見えなくなった。神聖術式の探知ならイズヴァルトも可能だ。ローラもイズヴァルトから学んで、使えなくても感じる事は可能だった。

 

 しかし今度のは違った。強い空気圧で標的を弾き飛ばす『アルキメデスの空気砲』が、イズヴァルトの背後を襲った。今度のはもろに当たれば壁にまで弾き飛ばされる大きなものだった。

 

 イズヴァルトは前に押し出されながらも、ローラに身を伏せるよう告げて走り出した。

 

 姿を見せないその刺客は、見えないところでイズヴァルトの魔力を探知して、右や左や前や後ろに、次々と空気の魔法を放った。イズヴァルトはそのことごとくを、間一髪のところで避け続けた。

 

 魔法攻撃は延々と続く、走りまわりながらイズヴァルトは見えぬ相手に問いかけた。

 

「これが、そなたの戦い方というものでござるか!」

 

 なんと卑怯千万。戦士の風上にも置けぬ相手だ。

 

 しかし戦いとは非情極まりなく、詭道を用いても、勝てば官軍負ければ賊軍である。騙されるだけで対策を講じぬ者こそが悪いとイズヴァルトは心に銘じていた。

 

 だからこそ、相手を謗るのではなく、褒める心がこの男にはあった。

 

「まことあっぱれ! この策こそが殺しても殺し切れぬごきぶり武者と言われる拙者を、唯一亡き者にできる一番の手だとお思いでござったな!」

 

 必勝を期しての欺瞞と策略、まことにあっぱれ。

 

 だが相手は、最初の一撃で屠るべきであった。ローラを人質に取り、彼女の命と引き換えにイズヴァルトという男の首を差し出させる、という手も考えられた。

 

「だが甘い! 拙者が貴殿であれば、この城の隅から隅まで爆弾を仕掛け、巻き添え覚悟で城もろとも滅ぼすでござるよ! 『皆殺しオルランドゥ』の苛烈さと残虐さは、この程度のものでござったか!」

 

 魔法攻撃が止まった。あの刺客は階段の前で姿を現した。

 

「……気づいていたのか?」

 

 イズヴァルトはうなずいた。床に伏せたままのローラを指した。そこだけ空気砲の爪痕が無かった。

 

「貴殿が何を考え、何を思っているのか。エチウでどんな残虐ないくさものとなったのか、耳にしていないと思っていたでござるか?」

 

 その戦士、教帝オルランドゥは剣を構え直した。

 

「イズヴァルト、お前はここで死ね」

「そんなに拙者が憎いのでござるか?」

「違う! ホーデンエーネンの安寧の為だ! ホーデンエーネンの平和はエチウの平和にもつながるのだ! 僕はパラッツォ教国のあるじであり、護り手でもある!」

 

 そしてオルランドゥは言った。このうねるような剣こそ、『枢機卿』のうち1人、魔道兵装づくりを得意とする、ツシマ=シュウジが授けてくれた至高の1本。

 

「『うねうね剣マークⅡ』という名だ! 神聖術式により鍛え上げられた、ミスリルの装甲も貫く刃だ!」

 

 その形状に、イズヴァルトには見覚えがあった。エドワード=ルーカスが持っていた剣であった。同じく、『うねうね剣』という名前であった。

 

「ううむ……ツシマどのは、もっとかっちょいい名前をつけなかったのでござるか?」

「ポリシーに反するとか、わけのわからないことを言ってたよ!」

「うーむ。サイゴークにも似た剣がござったな。フランベルジュとかいっていたでござる。それと、シマナミスタンにも、そうした形状の刃があったでござる。ナーガという名称だったでござるよ」

 

 かっこいい刃物も大好きなイズヴァルトは、旅先で奇特な形状の武器を買って収集している、とオルランドゥに言った。

 

 生きるか死ぬかの戦いの時に、呑気なことを言われた教帝は、死ねと叫んで姿を消した。

 

 が、イズヴァルトは顔を動かさぬまま真上に指揮棒を振り上げた。それはオルランドゥの左手首に強く当たった。

 

「うがあっ!」

 

 オルランドゥは手首を抑えてうずくまった。彼の左手首は思い切りひんまがっていた。骨が砕かれ、力が入らなくなっていた。

 

「さっきと違って、魔力と闘気がだだ漏れでござったよ? これではローラどのに呼び掛けられる前にやれるでござる」

 

 そう言うと、イズヴァルトは指揮棒を強く握りしめた。

 

 周囲に冷たい空気が集まり、たちまち2メートル近くもある、氷の刃が造られた。

 

「さて、そなたの腕前であれば片手でも拙者を斬れよう。貫けよう。立ち上がって仕掛けてみよ」

「……そうしてみせるさ!」

「この次は、これでばっさりとやるから覚悟致せ」

 

 氷の刀身が妖しく輝く。

 

 なまくらな大段平と思いきや、刃はカミソリのように鋭利だった。

 

「腕や脚の1本ぐらいはいただく。だが枢機卿どのらが近くにいらっしゃればつなぎ合わせられるでござろう。神聖術式のは内臓が潰れても元通りにできるらしいでござるよ?」

「だとしても、3カ月は寝たきりだろう。しかも枢機卿はここにはいない」

 

 教帝は立ち上がった。それから「襲われた!」と高々と叫んだ。

 

「イズヴァルトに襲われた! 余を助けろ! 早くしろ!」

「なッ……!」

「往生際が悪いにもほどがありますぞ! これがパラッツォ教の国の護り手のすることですか!」

 

 ローラが激昂して罵りだすと、オルランドゥはこう言い切った。

 

「護らなくちゃならないから、こうするんだよ!」

 

 玄関の扉が開いた。兵士達が続々と飛び込み、イズヴァルトとローラに向けて銃を構えた。

 

 教帝は自分に構わず撃て、と命じた。彼等の様子に一切の戸惑いが無く、銃口の狙いを自分達に定めていたのを見て、イズヴァルトは元から仕組まれていたと察した。

 

「ならば、『氷雪の栄光』の秘めし力を、ホーデンエーネンの衆の前に各々がたにご披露致す!」

 

 引き金に力が籠められると同時に、彼等の目の前に凄まじい冷気が漂い、分厚い氷の壁をつくった。まばたきするぐらいの時間で、あっという間にであった。

 

「……それが『覇王の剣』の代わりか、イズヴァルト!」

「『獄炎の凱歌』もじきに返していただく! 貴殿にではなく、ヘラどの会って話を付けさせてもらう!」

「馬鹿を言え! ヘラは僕と一蓮托生だ! 共謀したのだ!」

 

 イズヴァルトとローラは耳を疑った。惑わす為の悪い嘘だ。そうに違いない。

 

「どこまでも堕ちたな、オルフレッド! ルッソどのとトーリどのに申し訳ないと思わぬのか!」

「実父は貴様だ! いくさと首級を好むお前の汚い血こそが僕をゆがめたのだ!

 

 オルランドゥはゆっくりと立ち上がった。片手で『うねうね剣』を構え、イズヴァルトに突きつけた。

 

「ルッソ父さんが本当の父親だったら、この手を血で染めなかったのだ!」

「ではいずれ、その腐った性根を叩きのめしてくれよう! それでは後日、いくさ場にて死合おうぞ!」

 

 そう告げるとイズヴァルトは、ローラを担ぎ上げて指揮棒を振った。

 

 分厚い氷の盾が強い勢いで城の壁に滑り出し、扉から逃げ遅れた者達を圧殺して霧散した。

 

 イズヴァルトは外に出ると、襲い掛かって来たパラッツォ教国の者達と切り結び合った。

 

 振う指揮棒が作った氷の剣は、斬っては砕け、また白い冷気が漂うとすぐに新たな刃を造り、脂や血でなまくらになることなく、数多くの兵士の肉と骨を切り裂いた。

 

 イズヴァルトはローラをうまく護りつつ、多くの兵士や指揮官を骸にしながら山を降りた。

 

 それでもパラッツォ教国軍は、しつこく食い下がった。山を下りてからも追撃の騎兵を差し向けた。

 

 だがそれらもイズヴァルトの前では虫けら同然。ことごとくが馬もろとも斬り伏せられ、雪原を赤く染めた。

 

 そしてイズヴァルト達が崖の前に立つと、城壁で様子をうかがっていたサキュバスのオーラフによってすくいあげられた。

 

 流石に城壁の近くまでは追手も来なかった。

 

 その夜、治癒魔道士に左手の治療を受けながら、イブキラッセンの山で死に、負傷した者達の数を聞いて教帝は頭を抱えた。

 

「500以上も死んだと? 負傷者に至っては2000以上か?」

 

 報告を受けた後、彼はつぶやいた。

 

「しくじった。甘く見過ぎていた、本当のあいつを……」

 

 その時になって、ヘラはオルランドゥの元にやってきた。彼女はずっと、深い眠りについていた。

 

 彼女は教帝を探していた時、彼の手の者によって眠り薬が入った飲み物を寄越されたからだ。

 

 広間に並べられた死者たちに、信じられぬものを見たとヘラはつぶやいた。

 

「どうして……こんなことになったの? 誰がやったの?」

「イズヴァルトさ。あいつはね、僕を殺そうとしたんだ。でも、できなかった」

 

 理由はパラッツォ教軍の軍勢を手元に置き、決戦の時に用いる為であると教帝は言った。

 

 ヘラの耳には疑わしく聞こえたが、教帝が右腕を広げ、彼女を抱きすくめると疑念を払ってしまった。

 

「こんなことになるとは思わなかったよ、ヘラ」

「じゃあ、これからどうするの? 私に、何をしてほしいの?」

 

 一緒に戦ってくれ、とオルランドゥは答えた。

 

「『獄炎の凱歌』で彼等の仇を討ってくれ。もうイズヴァルトは君が知っている人間ではなくなっているんだ」

 

 教帝はそう説いて、この娘を決戦の先陣に送ろうとするがさて、事は彼の思惑通りになるのであろうか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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