聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
パラッツォ教国軍がはっきりと敵にまわることが、これでわかった。となれば容赦はしない。
イズヴァルトはオクタヴィアらに、イブキラッセンに拠るパラッツォ教兵には慈悲をかけるな、と告げた。
「但し、ヘラどのは別でござる。騙されて炎の剣をぶんまわしてくるかと思われるが、うまくやり過ごしていただきたい」
わかったずら、とオクタヴィアが答えた。痺れ矢で黙らせればいいというわけだ。どうせ飛翔魔法を浸かって来るだろうから、撃って落ちたところを回収し、いくさが終わるまで大人しくしてもらおうと考えた。
対してホーデンエーネン軍は川べりで全軍を展開し終えていた。後は総攻撃の下知を待つだけだった。パオレッタが、こちらの初手について尋ねた。
「多分ゴーレムを壁にして、南から殺到してくるはずズラよ。それはわかるんだけど、どこまで待ってりゃいいズラか?」
ローラが答えた。城壁に取りつき、門破りの破城槌やはしごをかけ、城門を抜けて城壁にあがってもらってから、反撃をするのだと。
「そうなったら、敵側はなだれ込もうとするでしょう。その時に、南門の近くの坂道に、兵士達が殺到すると思われます」
「門の向こう側と壁の内側で待ち構える、ってわけズラな?」
「そうです。それと、攻める側にとっては南門の内側がまた問題のある箇所でして」
南門を通った先だが、街中で一番低いところになっていて坂道になっていた。
しかもすぐに道が左右横に別れ、正面は石垣で覆った塁があった。門から塁のてっぺんまでの高さは3メートルもあった。
街に来てから、そこの整備をしていたマリアがうなずいた。
「中に虎口を設けていたズラな。ミレイユさんが喜ぶような仕掛けズラよ」
「ホーデンエーネンの築城技術の粋を集めて築いた様な街らしいですから」
築城と籠城戦の達人であるミレイユは、北部諸侯の求めにより、ツルーガニスク守りの準備を指揮していた。今度の戦いには参加していなかった。
「というわけで、後は仕掛けてくるのを待つのみでござるよ。それまでは風呂に入るなり寝るなりして、鋭気を養っておくでござる」
そう告げてイズヴァルトは寝床に向かった。靴を脱いでベッドで寝っころがり、すやすやと眠ると甘いにおいを嗅いで目を覚ました。
目の前にローラの顔があった。薄暗い中で彼女の微笑みを見て、イズヴァルトはささやいた。
「おまんこはせぬでござるよ? 昼間、ヘラどのにこってりと搾り取られたゆえ、今夜は夢精しないで眠れるでござる」
「そうじゃありません。もう1つ、伝えたいことがあるのです」
この街の中を調査していた時、偶然見つけたものがあると伝えた。
「街の北側の厩舎から、外へと出る地下道があったのです」
「なんと!」
馬が首をかがめニンゲンが上体を伏せなければならぬ高さだが、馬が四頭並んで歩ける幅があった。
その秘密の抜け道は、北西にある森につながっている。抜け道の入り口は、草で覆って偽装を施されていた。
「騎兵がひそかに打って出る為に設けたのでしょう。秘密の搦め手というわけです」
前もって手に入れた城市の地図や、政庁や軍の施設にも、そこを記した図面は無かった。
「もしや、トーリどのやマイヤが知らぬうちに、ホーデンエーネンが造っていたのでござろうか?」
「かもしれません。けれども埋めたり崩したりせず、そのままにしていただきたい」
もしかしたら、自分が考えていた秘策に使えるかもしれないからだとローラは言った。
「策でござるか……ほうほう……ううむ。上手くいくものでござろうか?」
「そして私めに、あなた様がずっと肌身離さず持っているものをお貸しください」
ローラが頼んだのは、ヒッジランドのヴィクトリアの遺品である、首にかけるメダルだった。イーズモーの暗黒卿の家紋が刻まれていた。
「それを見せればきっと成るでしょう。このホーデンエーネンに来て、私めは誰かによく似ていると、しょっちゅう言われておりましたから」
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夜中。ようやくホーデンエーネン軍は動き出した。
兵士達のうち下級のまとめ役が、照明石で手元を照らし、楽隊が太鼓を叩いて士気をあげようとする。
南門までは障害物は無く、坂だった。イズヴァルトが来るまではこの辺りには土塁や柵が設けられ、城門に辿り着くまで、大まわりに蛇行した坂を登らなければならなかった。
だけどもこの度の戦いは、想定していたものよりもぐっと楽だ。城門に張り付くまでの陣地戦を繰り広げる必要が無かった。
もっとも、イズヴァルトが率いる3500では、それらの防塁を護るだけで手一杯だっただろうが。
「ああ楽だ! 上り坂はきついけどな!」
兵士達はその様なことを口々に言う。彼等を率いる近衛騎士団の者達もだ。
最前列にゴーレムたちを横にずらりと並べ、のそりのそりとした造魔たちの歩調にあわせ、坂を登る。皆が城市への一番乗りを望んでいた。
その総大将となっていたヨーシヒデクスは、この中にはいなかった。
彼は川べりに設けた焚火に当たり、曇天でまるで様子がつかめぬヨコヤマヴァールを仰いでいた。猪突猛進な猛将の気質なのに、陣頭指揮をとろうとしなかった。
彼は焚火で焼いた川魚の串を手に取り、それを頬張って様子を見ていた。もう1本を抜き取って、傍にいた国王の側近・ケノービ=スカルファッカーに手渡した。、
「果たして、天下無双の豪傑はどう出るかな?」
「そういう将軍閣下は、此度は部下に全てを任せるということですかな?」
「攻城戦の指揮は苦手でな。全てあいつらの裁量に任せる事にしているんだ」
「そうして城壁を落とした後、最後の一撃の為に飛び出てきたイズヴァルトと打ち合うおつもりでしょう?」
「やったとしてもほんの少しだけにしよう。その前に兵卒の鉄砲玉や矢があいつを討ち取ってくれれば大助かりだ」
あんな恐ろしい奴との一騎打ちなんて御免蒙りたい、とヨーシヒデクスは笑った。
「しかし、あそこにいるうちの『義弟殿』の」
ヨーシヒデクスが指さす向こうには、精強で知られる聖騎士団1000の参謀役、ライナー=イナトミッテンフェルトが馬に乗っていた。
「その右手前にいる護衛役の男となら、一騎打ちをやってもいい」
彼が示したのは、剛腕で知られる、ルートヴィッヒ=ベートーベンであった。
イズヴァルトに劣らぬ武勇ありと言われたこの男は、徒歩のまま、板金鎧に身を包み、大金棒を携えていた。
【ギルバート=カツランダルク注:ベートーベンだが、聖騎士団に在籍したままであれば、騎士団長になれた逸材だったと言われている。】
「ほほう。イズヴァルトに比肩する豪傑・ルートヴィッヒでございまするな?」
「そうだ。あいつとなら数十分とやり合える。但し、勝つのはあいつだ」
膂力は多少負けるが技巧では自分が上。但し歳で負けるだろうとヨーシヒデクスは笑った。『ひよこ』を12時間も鳴かせ続ける体力はあったが、それは屈強なベートーベンも同じだろう。
「随分と弱気ですな? 50も過ぎればもはや老人、とおっしゃりたいのですか?」
「そういうことだ。歳より若く見られるが、やはり老いているのだよ。俺の同い年の友人も何人か、病気で死んだしな」
ケノービはまだ若かったから、ヨーシヒデクスが言ったことが、ぴんと来なかった。
「とはいえ、奇襲ぐらいは仕掛けて来るだろうな。いや、どうだろう。俺がイズヴァルトならナーガハーマに乗り込んで、ありったけ家や兵糧を焼いてまわるだろう」
「……よく見てください。とうとう城門に張り付いたようですよ?」
ホーデンエーネン軍は全く抵抗も受けず、城壁の下にまでたどり着くことができた。
長梯子がかけられ、ゴーレムが城門に体当たりを繰り出していた。それでも城側の抵抗は起こらなかった。
ライナーがつぶやいた。
「……おかしいぞ」
ヨーシヒデクスが聞きつけて寄って来た。
「弟殿。罠か?」
「火を見るよりも明らかでしょう。早めに撤収の角笛を吹いてください」
ヨーシヒデクスはすぐに伝令を飛ばした。
角笛の低く長い音が鳴り、伝令の軽騎兵が駆けだして通信魔道士が前線に命令を送る。
しかしその命令に、攻め手の者達は従わなかった。城門がこじ開けられ、はしごに足をかけていた一番先頭の者が、城壁の上に到達していたからだ。
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イズヴァルト達の反撃が始まったのは、この時だった。
まずは城壁の上から。
裏手にある階段から下の階に隠れていたオクタヴィアらは、ミョーゲチャコフのゲオルギー公子らが率いるムーツの精鋭たちと共に飛び出していった。
ホーデンエーネン兵たちは、彼女等がなりを潜めて待っていたことなど想像もしていなかった。
武勇は格段の差があった。ホーデンエーネンの者達は少し打ち合った後に、ばっさりと斬り伏せられていった。
その中にも猛者はいた。近衛騎士団の下部組織、轟天爆裂超獣騎士団のゴッソ=ガルンデンがその人だ。
「うおらあああっ!!!」
隠れた豪傑として名が知られていたその男は、亜人でも手こずる膂力と技の持ち主だった。
傭兵あがりの小さな村の領主で、自分に歯向かったとある集落の男衆全員をうち殺し、美醜問わず女全員を手籠めにして、男衆の子を惨殺し、自分の子を産ませたというエピソードがあった。
ゴッソ=ガルンデンは、轟天爆裂超獣騎士団においては最強の切り込み隊長として名をはせていた。この戦いでも彼は戦史に名を残した。
彼は得意の大棍棒で、かちあった女エルフの1人を城壁の外に弾きとばした。
相手が回転して上手く着地すると、「なんて美麗な!」とほめ、是非にも自分の子を産ませたいとうそぶいた。
「見れば美しいエルフばかりではないか! 俺専用のちんぽずりずり穴ばかりだ! がっははは、あの程度がエルフの実力であれば俺の勝ちだ! 全員俺の子を産ませてやるぞ!」
だが、その豪傑然とした偉そうな態度に、強い殺意を抱く者がいた。ミョーゲチャコフのゲオルギー公子であった。
「うっせええええなああッ!」
湾曲した騎兵剣を持った小兵が飛び掛かって来たのを見て、ゴッソ=ガルンデンはにやにやと笑った。死にたがりがまた出たか。
「来いよ異人! 栄光の勝利とエルフ種付けショーの前座でお前の身体を真っ二つにしてくれる!
「黙れっぺや! 首いただくのはこっちだべ!」
ゴッソは舌なめずりをしながら棍棒を構えた。
しかしゲオルギーの動きが俄然素早くなって、目で追えなくなった。
「……なに?」
ゴッソは右足に深い激痛を覚えると同時に横に倒れ込んだ。彼の右の脛はゲオルギー公子のサーベルの一閃で、きれいに断たれていた。
このいくさでガルンデンは、ミョーゲチャコフの歴史に名を残した。ゲオルギー公子が挙げた首の1つしてである。
城壁の上はたちまち、籠城側に取り返された。尚も梯子から登ってくる者には油をかけて火矢をお見舞いし、かけられていた梯子を次々と落としていった。