※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第百十八回 下

 ほぼ同じ頃に、城壁の内側でも戦いは始まっていた。

 

 城門を打ち破ったホーデンエーネン側だが、南門の先がどうなっているのかを存じていた。流石に、そのまま突っ込む真似はしなかった。

 

 ゴーレムを盾にして進み始めた。功を焦って抜け出る命知らずもいたが、そいつらが断末魔をあげるのを聞けば次第にいなくなった。

 

 ゴーレムは鉄砲の弾や矢を通さぬ、最強の盾とも言えたが、このヨコヤマヴァール攻めではそうもいかなかった。

 

 待ち構えていたトールキン達ドワーフの衆は、のそりのそりと歩くそいつらが坂をゆっくり上って来るのを見るや打ちかかった。

 

 彼やドワーフ達は、見てすぐにわかっていた。これらの土人形たちはエルフの本家本元や、パラッツォ教の『プラーグのヨッセル』と比べると遥かに格落ちの粗悪品だった。

 

 破砕魔法をかけた斧や槌で一突きすれば、すぐにがらがらと崩れた。ホーデンエーネン軍は新手を繰り出すが、まったくもって無駄な努力に等しかった。

 

「出来の悪い土くれ人形じゃのう!」

 

 トールキンはあざ笑うと、仲間のドワーフ達と共に、南門正面の塁から飛び降りて暴れはじめたクリスタに加勢した。

 

 サイゴーク最強と言われているドワーフと、エルフ族で指折りの膂力を持つクリスタの前に、混乱した兵士達は文字通り引きつぶされていった。

 

 城壁の上は攻略に失敗。城門の内側では一方的な劣勢。

 

 城攻めを指揮していた近衛騎士団の者達は、ようやく撤退を命じる角笛の音に従うことにした。一度退いてもう一度城門攻めをするのが良いだろうと口々に言った。

 

 かくして前線でも、撤退の合図の太鼓が鳴らされる。

 

 城壁から離れ、皆が坂を降りようとしたその時だった。

 

 イズヴァルトは『氷雪の栄光』を弓のように見立てて持っていた。それに魔法の弦が張られ、1本の氷の弓矢を番えてあった。

 

 氷の矢は城壁の向こうにある南天の月を向いていた。弦をはじいた。

 

 放たれた氷の矢は城壁を飛び越え、退こうとするホーデンエーネン軍に向かって落ちていく。

 

 すると、1本の矢は細かく分裂した後、霧散して巨大な冷気を生じさせた。一段と冷える夜空で凍て付く空気が生じ、白色の煙を立てた。

 

「おい、あれを見ろ!」

「なんだ? エルフの騙しの魔法かなにかか?」

 

 そうして生じた白い雲の様な何かから、ホーデンエーネンの兵士達の頭上に降り注いで来た。氷の矢だ。それも何千もの。

 

 矢は鉄砲の弾よりも速く、下り坂で密集した兵士達が集う地上へと降り注いでいった。兵士の鎖帷子や兜や盾を、いとも易々と貫いてしまった。

 

 穿たれた手足や首はもげ、雪に染まった坂は赤く染まった。そこかしこで深手に苦しむ悲鳴と、命の末期の叫びがあがった。

 

 イズヴァルトの氷の矢はその一射で、1000以上もの兵士や騎士の命を奪った。この中には近衛騎士団の武将も少なからずいた。

 

 この突然の斉射に、誰もが言葉を喪っていた。ただ一人、壊れた城門からトールキンだけは

 

「うおお……えげつない技じゃのう……」

 

 呆気に取られているホーデンエーネン軍に向け、またも氷の矢の雨が降り注いだ。今度は城壁南西側の兵士達がいけにえにされた。

 

 またも多くの兵士達がバタバタと倒れ、砕かれた腕や貫かれた胴体から、黒い血をこぼした。命を失いつつある身体は、はげしく痙攣を起こしてばたばたともがいていた。

 

「……つまらんのう。こんなのは合戦とは呼べん」

 

 トールキンはぼやき、それからこう嘆じた。

 

「小僧どもだけがやっておる石合戦に、大人の投石使いが攻めかかって皆殺しにしようとしているもんじゃ!」

 

 この戦いには、戦士としての意義は見いだせないし誉れももたらさない。

 

 だが、戦争とは効率的な殺し方を編み出し、できるだけ無傷で終わらせることを求めているものだとわかっていた彼は、これ以上、この戦いで不満を漏らすことは無かった。

 

 ドワーフの豪勇の批判をよそに、氷の矢がまたもやホーデンエーネンの兵士達の頭上に降り注がれた。

 

 これまで驚きで凍て付き、動いていなかった彼等の本能と思考はようやく、死の恐怖というものを感じ出した。

 

 城攻めに加わった全員が、悲鳴をあげながら長い坂を駆け降り始めた。

 

 その中には運悪くつんのめり、背後の者らと絡みこみ、長い坂を転がり落ちる者が現れた。恨みごとと悲鳴と命乞いの声がそこかしこにあふれていた。

 

「これが、『ゆうしゃ』の戦いというものかのう、クリスタ?」

「だいたいそんなもんざあな。おらたちもニンゲンの敵兵とかを、かわいそうだとおもいながらも散々にボコしてばっかだから、これに文句を言うのはできねえずらよ?」

 

 やはり戦いは、ちんちんとおまんこで決闘するほうが良い、とつぶやいて、クリスタは深い溜息をついた。

 

 追撃はやまなかった。城壁のオクタヴィアはヴォルフ=ラングレンと共に、逃げる敵軍の武将らしい者に狙い定めて撃ちだした。

 

 指揮官クラスの者はできるだけ、確実に仕留めたい。特に近衛騎士団の所属者だ。彼等の命を刈り取って、北部諸侯や民の恨みをできるだけ晴らしてやるのだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 一方、イブキラッセン城で治療中の教帝オルランドゥは、タッカテオッキに飛ばした斥候から報告を受けていた。

 

 ホーデンエーネン軍、南側城壁の攻略に失敗。

 

 彼は激怒した。

 

「仕掛けるのが早すぎるぞ! ヨーシヒデクス様は何であいつらを出させたんだ?」

「それが、

「近衛騎士団の重鎮たちが、パラッツォ教国軍がいるだけで敵に心理的圧迫を与えるから、付け入る隙が生じるだろうなどと……」

「尚武の国の貴族たちは、戦い方というものを知らないのかッ!」

 

 治療を終えても痛む左手首を抑えながら、オルランドゥ帝は出陣すると告げた。ヘラが『獄炎の凱歌』を携えて、彼の傍についた。

 

「出るにしても陣頭に立つのは、やめたほうがいいよ?」

「その代わり、先陣をきってくれ。お願いだ」

 

 『獄炎の凱歌』があれば、イズヴァルトを倒せるだろう。ヘラには、イズヴァルトが突然襲い掛かってやられそうになったと教えてある。信じているように思えた。

 

「やっぱりやりたくない。司祭騎士団長さんと争うの、やめようよ?」

「ほんの少しだけでいいんだ。一緒に戦おう?」

 

 教帝は痛む左腕をヘラに差し出した。彼女はそれを握って応えた。教帝に従うことに決めたのだ。

 

 かくしてオルランドゥ率いる、3万のパラッツォ教国軍は動き出した。作戦はこうだった。

 

 教帝がイズヴァルトに野戦を挑み、誘い出す。教帝はヘラと共にイズヴァルトを見つけ出し、これを撃つ。

 

 しかし、飛翔魔法が使える者全員には、秘密の命令も伝えていた。爆弾を持たせ、野戦の開幕一番でイズヴァルト達の軍に落とすというのがそれだ。

 

 出陣。教帝は痛む左手首で手綱を引き、3万弱の軍勢と共に総攻撃に出た。

 

 目指すは南門。そしてイズヴァルトの首である。

 

 東側の城壁でイブキラッセンを見張っていたマリアが念話魔法でイズヴァルトに告げた。

 

「パラッツォの連中、とうとう出てきやがったズラ!」

「オルフレッドどの、やはり立ちふさがる気でござるか……」

 

 イズヴァルトも騎乗し、ゲオルギー公子やホージュリア妃が率いる荒馬乗りらの部隊を含めた2000の騎馬隊と共に南の門を出た。

 

 カントニアやムーツから連れてきた馬たちは、足場の悪い坂道を難なく駆け降りていった。キンキ大陸の馬とは違い、彼等の大陸の馬たちは脚が太く腰が強い。

 

 逃げたホーデンエーネン軍は備えを直し、構えていたが、出てきたイズヴァルト達を襲おうとしなかった。

 

 パラッツォ教軍の攻撃が始まったら、加勢せよと総大将のヨーシヒデクスが命じていたからだ。これを拒む者は既に近衛騎士団の中にはいなかった。

 

 イズヴァルトの恐ろしい魔法に同僚を殺され、すっかり意気を挫かれていたからだ。

 

「動くな。パラッツォ教軍がやって来るまで決して動くなよ?」

 

 ヨーシヒデクスは送った伝令や、念話魔法で全軍に呼び掛け続けた。彼とて、一度に1000や2000の兵がバタバタと斃れたのを目にして、この合戦が物理での殴り合いでは無くなったのを悟っていたのだ。

 

 待つイズヴァルトと動かぬヨーシヒデクス。

 

 両軍の間で沈黙が続く。

 

 北東からは大軍が起こす地鳴りが聞こえだした。

 

「もうそろそろか……」

 

 地鳴りはタッカテオッキの流れの音に劣らぬ大きさにまでなったその時、聖騎士団のエルヴィン団長と彼の義弟が近づいてきた。

 

「どうした、エルヴィン団長、ライナー殿?」

 

 ライナーは姿が見えだしたパラッツォ教軍を指さした。

 

「聖騎士団はパラッツォ教軍が突撃を開始した時、ここを離れることに致します」

「ほほう。どんな作戦を思いついた?」

「そうですな……敵を欺くにはまず味方から。その様な格言があることをご存じでしょうか?」

「ははッ、そりゃいい答えだ! 流石は親父殿が、かわいい娘2人を嫁がせてまで見込んだ男だな!」

 

 ヨーシヒデクスはこれ以上は問いたださなかった。行ってこい。それだけだった。

 

 パラッツォ教国軍はついに、戦場にて全軍の姿を晒した。各部隊が各々の軍旗を掲げ、がなり立てるように教典の一節を唱え始めた。

 

「剣によって生きる者は、剣によってその生を終える」

「輪廻の理はその者の次の生も、剣で生きて死す者にさせるだろう」

「なれど嘆くなかれ。剣をとり、勇ましく振う者の魂は、戦士の道に導かれるのだ」

「ゆえに戦士よ、己に問え」

「私欲で手に取り、振う者はその剣を捨てよ」

「その剣を振るう、時と場こそ重んじよ」

「そして今こそ、剣をとり、次の輪廻に導かれる時と心せよ!」

 

 唱え終えると、その中心にいた教帝が、右手に持っていた『うねうね剣』を天高く掲げてこう告げた。

 

「神は言った! 我らこそが神の代理! 正義そのものだと!」

 

 進め。オルランドゥの号令と共に動き出した。

 

 イズヴァルトも冷気をまといだした『氷雪の栄光』を振りかざし、巨大な氷の大剣とした。

 

 パラッツォ教軍がいよいよ間近にと来たその時、ヨーシヒデクスは副将らに命じた。

 

「ゴーレム部隊と『六枚銅貨部隊』を先手にして、イズヴァルトにぶつけろ。最強の盾と矛を出してオルフレッド殿を勝利を酒で酔わせてやれ」

 

 かくしてイズヴァルトは東にオルランドゥ、南にホーデンエーネンの軍勢と激突する。

 

 果たして、この決戦の行方は如何に?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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