聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ホーデンエーネン軍が、白い煙をあげて動き出した。
イズヴァルトはそれを見ていた。パラッツォ教国軍の印象強さに惑わされず、この立ち位置では挟み撃ちの様相を呈しているのをわかっていたのだ。
「拙者に続け。まずはホーデンエーネン軍の意気を挫くでござる!」
集まりだしたゴーレムと、『六枚銅貨部隊』に馬首を向けた。彼の傍にドワーフのトールキンとエルフのクリスタがつく。一軍は錐の陣形をとって突っ込んだ。
まずはゴーレムの一団だ。イズヴァルトとトールキンは、生み出されたばかりのそいつらに打ちかかった。
ゴーレムは出来上がれば、並みの刃では通らぬ堅い身体となるのだが、この時はいささか造るのが遅かった。造った者達が並み以下の魔道士でもあったのだが。
クリスタや他のドワーフ達も続き、土人形の防衛線を突破すると六枚銅貨部隊に目を付けた。
それを見たヨーシヒデクスが、右手の采配を持ち上げる。垢と汗と精液のにおいを濃く放つ狂兵達に、彼等の指揮官が怒号を放つ。
「死ぬのは今だ!
重武装で身を包む、野獣たちの咆哮が起こった。
指揮棒を高く掲げ突っ込んできたイズヴァルトを、いや、クリスタに血走った目を向けた。
彼等の性欲を余さず抱き止められそうな、豊満で濃艶な褐色肌のエルフの女に、性本能を刺激させられてしまったのだ。
「違う! そっちじゃない! イズヴァルトを狙え!」
指揮官は声を張り上げたが、彼等は聞く耳を持たなかった。
よだれを垂らし、鎧の下の勃起から滴りを奔らせてクリスタばかりに殺到する。
「こいつら、サカり狂っておるずら!」
「クリスタ、ただの女じゃないことを見せてやれ!」
「激しいおまんこをしてくれそうなやつらだけど、仕方ねえずらっ!」
クリスタはハルバードを握りしめ直し、迎撃する。
六枚銅貨部隊の1人1人は、彼女が興奮するほどに強かった。
けれども誰一人として脚を引っ張り、地面に引き倒して馬乗りにできる者はいなかった。
クリスタとぶつかり合うたび、隊士の腕や首がまとっていた甲ごと刎ね飛ばされた。
クリスタの顔や鎧は返り血を浴び、真っ赤に染まる。
過酷な訓練を施し、麻薬で理性を麻痺させて残虐さを伸ばした、人のかたちをした獣であってもカントニアで一、二を争うと言われている女豪傑を己のものとするのは、叶わなかったのである。
彼女が振るう刃だが、腕や首を斬り飛ばさなくても、確実に相手に致命傷を与えていた。人体の急所を確実に壊していた。
医術を得意とする者ができうる、人の殺し方を為していた。
「むう! クリスタどのは、治すのも命を奪うのも得意でござるな!」
「手加減できんくらいの手ごわい敵ってことじゃよ! イズヴァルト、クリスタばかりに手を汚させてはならん! 男がすたるというもんじゃ!」
悪鬼と成れ。死神と化せ。
イズヴァルトらはクリスタに加勢し、六枚銅貨の隊士たちを次々と次の生への旅立ちを手伝ってやった。
彼等のことごとくが、恨みがましい死に顔で逝った。
クリスタの豊満な肢体を、精の蔵が枯れ果てるまで蹂躙できぬ無念がそうさせたのだ。
「う……う……うむ……ッ!」
みるみると数が減る『六枚銅貨部隊』の隊士たちを見て、指揮官は苦し気にうめいた。
南天騎士団が擁する『本家本元』を越えるべく、彼等よりも厳しく鍛え、ホーデンエーネン内でかなう相手はいないとまで恐れられた、精強無比な狂戦士らをいとも容易く討たれたことが信じられなかったのだ。
やはり、亜人との差は埋められぬか。
己の人生を否定された気がした。
しかしヨーシヒデクスの、非情な決断を聞いて馬首を返した。
「鉄砲隊! 弓隊! 撃って撃って撃ちまくれ!」
味方撃ち。虎の子を巻き添えにしてでも勝とうという気であった。
しかし彼等はすっかり忘れていた。
イズヴァルトが率いていた騎馬隊には、エルフの衆も多く混じっていたことに。
射手たちが弓矢や鉄砲を構えた直後、轟音が鳴り火炎が舞った。ところどころで悲鳴があがった。
エルフ達が得意の『爆炎弓箭』を、密集して飛び道具を構えていた射手達に見舞ったのだ。
更に炎と爆風よりも確実に死をもたらす紫の雷が、いくつも放たれて兵士達を爆殺した。
備えが崩れた。それにイズヴァルトは追い打ちをかける。
指揮棒で印を切り、馬首から先の地面に地割れを起こした。2メートルほどの幅のそれに幾人もの兵士が飲み込まれた。
地割れの周囲にいた者達もまた、身体に強い圧を受けてその場で倒れ突っ伏した。『覇王の剣』から学んだ重圧の魔法だった。
ホーデンエーネン軍の備えが崩れると、イズヴァルトは我先にと切り込んでいった。騎士達が迎撃し、馬上戦が始まった。
彼の持つ指揮棒はこの世のものだと思えなかった。美しく輝く得体の知れぬ材質で、決してこぼれる事の無い高密度。
それに強く打たれた盾や鎧はひしゃげ、武器は激しく折れた。叩かれれば確実に骨は折れ、内臓と脳髄は容易く潰された。
最初の騎兵部隊を一瞬で蹴散らし、続いての騎士達を再起できぬほどまで叩きのめすと、備えを崩したホーデンエーネン軍の本隊に襲い掛かった。
まるで虐殺だった。『氷雪の栄光』の秘めた力を使わずとも、イズヴァルトはその指揮棒だけで恐怖を振りまけた。
彼の『連れ』たちも負けてはいない。クリスタが、トールキンが、ホージュリア妃やゲオルギー公子らはホーデンエーネン軍の『肉』を削った。
尚武の国の猛者達であったホーデネーネンの武者達は、彼等にはまるでかなわなかった。何故ならこのたびの敵というのは、当代一の豪傑ばかりであったからだ。
全軍に、いよいよ恐慌が兆し始めていた。
ヨーシヒデクスはケノービに下がれと言った後、鞘から剣を抜いた。
「臆するな! 俺達にはハチマンウーサの加護がある!」
イズヴァルトとこの前の決着を、と意気込んだその時だった。
長らく様子を見ていたパラッツォ教国軍が、こちらに向かって猛進していたのである。
イズヴァルトはその動きを、後方で物見をしていたウォルターから知らされて馬首を返した。
それからホーデンエーネン軍に顔を向け、こう叫んだ。
「よく覚えておられよ! これが『ゆうしゃ』というものの武でござる!」
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ああもホーデンエーネン軍に肉薄されてしまっては、飛翔魔法が使える者達に命じることなどオルランドゥにはできなかった。
だからこそ彼は、ヘラ以外の彼等はヨコヤマヴァールに向かわせることにし、自らは残りの者達と共に白兵戦を挑む事にした。
イズヴァルト目がけて突進する最中、空高く浮かんでいたヘラからこんな知らせを聞いた。
「教帝さま、ホーデンエーネン軍の一部が北の方に向かってたよ!」
「そんなものに構うなッ! 僕らはホーデンエーネン軍を助けるんだッ!」
意気込み過ぎていたオルランドゥは、いつの間にか陣頭に立ってしまっていた。
そしてイズヴァルトが率いる一団に襲い掛かる。最初にぶつかった相手は当人ではなく、ヒッジランドのウォルター達の一隊だった。
「我こそが教帝!」
ウォルターに向かって叫び、斬りかかるとひらりとかわされた。
「あんたがかい! 親子喧嘩はやめにして、国に戻ったほうがいいぜ!」
「戯れごとを言うなッ、下郎!」
再び襲い掛かった。『うねうね剣』の切っ先が馬上のウォルターの左胸を狙っていた。
しかし彼は上体を後ろに反らして、腰をぐるりとまわして馬から素早く降りた。
「
「得意な戦い方でやるだけさ!」
そう言うとウォルターは膝を曲げ、天高くとびあがった。驚異的な跳躍力にオルランドゥは唖然とした。
だが、いささか不自然に過ぎる程、空の上にあった。これが飛翔魔法を用いたものだと気づいて身構えた。
呪文を唱え、空を飛ぶ相手に『アルキメデスの空気砲』をぶつけ、叩き落そうと目論む。
「……くっ!」
オルランドゥは右肩に強い痛みを覚えた。青いミスリルの刀子が彼の肩甲を貫き、食い込んでいた。ウォルターが隠し持っていた投げ刀子だった。
「ただの剣士じゃなかったか?」
「ただの傭兵さ! 刀子投げだって構わずやるさ! イズヴァルトさんの師匠の師匠みたいなもんだ!」
ウォルターが剣を構え、急降下する。そこにヘラが割り込んだ。彼が持っていた剣と激しくかち合った。
「教帝さまは討たせないよ!」
「嬢ちゃんがヘラかい?」
「そうよ!」
「だったら、分が悪い!」
ウォルターはいきなり後方に飛んだ。ヨコヤマヴァールの南門へ降り立った。
それからすぐに城壁から1本の矢が放たれ、ヘラの右太腿に突き刺さった。
「……ぐっ!」
痛みと共に力が抜け、全身にしびれを覚えた。魔力を集めて活性化させることができなくなった。
矢を放ったのはオクタヴィアだ。彼女は痺れと魔封じの力を鏃に込めた。
狙い撃たれたヘラはたちまち落下したが、真下にいたオルランドゥに受け止められた。
「教帝さん、ごめん」
オルランドゥは部下の1人にヘラを預け、イブキラッセンへ下がらせた。飛翔魔法が使える者達にも、戻れと命じた。
「なぜです? 勝利には我らが必要だとおっしゃっておりましたのに?」
「エルフの矢を甘く見過ぎた。君達は急いで下がれ」
使い手たちが空を飛び、城へ向かうと教帝は再び速度をはやめた。
パラッツォ教軍が接近すると、イズヴァルトはオルランドゥに呼び掛けた。
「やはり来たでござるか!」
「もちろんだ! 決着をつけるぞ、イズヴァルト!」
イズヴァルトが大きくうなずく。2人はぶつかりあった。
オルランドゥは『うねうね剣』を片手で、激しく振り回す。しかし負傷して力が出せなかった。イズヴァルトはよけては叩いて防ぎ、相手の息があがるのを待った。
オルランドゥの腕の振りの勢いが弱まった。イズヴァルトは指揮棒で手綱を引いていた彼の左腕を叩いた。
卑怯だ、というオルフレッドの声を聞くなり、ここは戦場だと答え、体当たりをかまし、拳で彼の横っ面を殴った。
「うおっ!」
あまりの痛さにオルランドゥはよろめいた。その腰にイズヴァルトはすかさず一撃を入れる。
教帝は馬から落ちてしまった。パラッツォ教軍の者達がそれを助けようとするが、クリスタが駆けつけて教帝の背にハルバードの槍先を向けたので、立ち止まってしまった。
「戯れはここまででござる! 動いたら教帝の命は無いと思え!」
教帝を人質に取られてしまえば、パラッツォ教国軍は負けたも同然だった。
ホーデンエーネン軍も同じく。同盟相手のトップを盾に取られては、手も足も出せない。ヨーシヒデクスは全軍に「待機!」と号令した。
イズヴァルトはオルランドゥに目を向け、彼の顔を見た。悔しそうな顔で涙を流していた。
「くそっ……くそ……ッ!!」
「諦めよ。貴殿の命までは取らぬでござる。但し、ヨコヤマヴァールに入っていただく」
「これで勝ったと思うな、イズヴァルト……」
「やれやれ、ねちっこいでござるな。その性分はご婦人がたのおまんこを気持ちよくさせる為にお使い為されよ? おまんこならば、しつこくせめてくるのは大歓迎でござるからな」
「ばかに……しやがって……」
オルランドゥは冷たい地面に顔をつけ、泣き叫んだ。
これにて戦いは終わりだろう、と誰もが思ったその時、どこかからか香しい風が吹く。
爽やかな、それと同時にひどく淫気と劣情を催す薫りだった。
その出元はどこだろうと、あたりを見回したイズヴァルト達は、いつの間にか間近にいたその者の姿を目にし、驚愕した。
「ごきげんよう、司祭騎士団長イズヴァルトさん」
白い法衣に身を包んだ、背が高くたくましい体格の大男であった。
「貴殿は……いつの間にここへ……?」
その男こそ、パラッツォ教の教主、コーザ=ストーンマウントであった。
博愛と救世の聖王とも、淫祠邪教の集団を率いるエチウの魔王とも呼ばれるこの男が、戦場に出向いたその真意とは?
その続きについてはまた、次回にて。