聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「あふっ♡ ふうん……おひっ♡ そうくるかぁ〜んおおおんっ♡」
ベッドの上でうなずき、悶えていたのは褐色肌のサキュバスだった。モアナという名前で老学者・ギルバート=カツランダルクのパートナーだ。半ば女房でもある。
彼女は脚を大きく広げて腰をくねらせ、股肉の割れ目で棒状のなにかを咥えてくちゅくちゅと音を無らしながら、古くなって紙魚だらけの原稿を読んでいた。
「ほうほう、こうなったか……あひゅっ♡ はーっ♡ はーっ♡ おちんちん、また硬さが増してるわ♡」
「モアナ、そろそろおまんこをしながら私の古い原稿を読むのはやめてくれないか?」
モアナに跨られていたギルバート=カツランダルクが不満そうに言った。汗ばんだ彼の胸の上に、モアナが読み終えたものの1枚が乗っかって、新たな汗シミを作っていた。
「仕方ないでしょ、ギルバート? ワタシみたいなサキュバスは、おまんこをしながら読書や食事をするクセがあるんだから……ふうっ♡ ふうっ♡ うふうっ♡」
モアナは絶頂に達し、下腹にピンク色の淫紋を浮かび上がらせた。亀頭が膨らみを増し、下腹の中の快感にスパートがかかったからだ。
ギルバートは意地悪をしてさきっちょを意識し、血を集めるテクニックを仕掛けることができた。
「ふーっ♡ ところでアナタが20年前に書いた『聖王編』のラジオドラマのシナリオ、ワタシが知っているのと違うわね?」
モアナは最近の『聖王編』のサーガのシナリオとの相違点を並べたてた。
イズヴァルトはヘラとはこんなに仲良くなかったし、何より教団にはホーデンエーネンからの義勇軍というものが言及されなかった。
それと、ローラはもうちょっとブサイクで背が高かっただるま女。『どこかのだれかさん』にそっくり、ではなかった。
「あと、ラストも違うわ。アナタのは『オーミゲニア戦役』で終わっているわ」
今出回っているものは、イズヴァルトとローラがシマナミスタンに渡った後のことも描かれている。
そこでローラは流行り病にかかって死んだ、というのがホーデンエーネンの歴史書に書かれていた。最近の『聖王編』のラジオドラマなどは、そちらを準拠にしている。
「でもそれじゃ、きれいに終われないだろ? イズヴァルトは愛妻とともに、いつまでも仲良く旅ぐらしをして過ごしましたとさ、めでたしめでたし、というふうに持って行きたかったのだよ」
「けど、実際は流行り病で亡くなったというのもサーガの『創作』じゃない?」
「まあ、そりゃそうだけどね」
ギルバートは否定しなかった。女軍師ローラこと、マイヤ=カツランダルクはその後、流行り病で死んだわけではない。
ホーデンエーネン以外の国々の歴史書では、こう書かれている。
「イズヴァルトの妻マイヤはオーミゲニア戦役のおよそ1年後、何者かにさらわれて消息が途絶えた」
ヨーシデンの歴代領主の墓地には、ローラもとい、マイヤのものとされている墓はあるが、その中は空っぽだという。
そして30年近く後、イズヴァルトと縁深い『食人鬼の姫』と共に現れた。
「額に大きな傷をつけた『屍人形』。動きしゃべりこそしたが、『碩学姫』のかつての知性は無かった……だったか」
「そうよ。ワタシはそれはこの目で見たんだから。なーんか足りないコみたいな喋り方をしていたけれど」
生前の彼女は割と早口で、愛嬌たっぷりで腹黒さいっぱいの、古狸みたいに思える喋り方をしていたが、『屍人形』はまるでのんびりやのガキンチョみたいな喋り方をしていた。
「30才ぐらいの魔族の喋り方だったわ」
「ニンゲンでいうとどれぐらいかな?」
「6歳児ぐらいね。まあ、相方も同じぐらいの精神年齢っぽかったから、結構仲良かったように思えたけど」
なるほど。モアナが再び腰を動かしだすと、ギルバートはその中にたっぷりと注いでやった。
性交が終わるとモアナは清めのフェラをし始めた。太ももに大きな乳房をくっつけ、再戦を求めるような舐め方だった。
ギルバートはモアナの愛撫に身を委ね、目をつぶった。
それからこの原稿について思い出す。
(私が最初に書いていたのは……。)
モアナがさっきまで読んでいた原稿では無かった。
□ □ □ □ □
ギルバートが書いた『聖王編』のラジオドラマの原稿だが、20年前当時、なんだかんだで全部をそのまま通されたわけではなかった。
ナントブルグから来た、学術者勢力の物言いのせいだ。ギルバートが在籍しているトリシア大学にも圧力をかけて来た。モアナが読んだ原稿は、書き直したものだ。
その首魁・アネモネ=リットフェンテルトは第一稿に対してこのような注文をつけた。
「カツランダルク家について深く語るな。『おしゃぶり』で下剋上したような恥知らずの女を、イズヴァルトと並ぶ英傑などと賞するのは許さない」
ギルバートがもとにした原典・『聖王のサーガ』では、マイヤときっちり表記していた。ゆえに、民間伝承の1つにあった、ローラという『謎の女軍師』という設定をとらざるを得なかった。
とはいえ、改訂稿にはローラはマイヤだと匂わせる描写をこっそりと入れていた。そちらにはお咎めの声は出なかった。思いの外、検閲は雑だった。
ただ、最終話に関して、アネモネは直接ギルバートのところに赴いて意見したいと言い出してきた。
「これ以上何を変えろというんだい? まさか、オーミゲニアの戦いでイズヴァルトが負けたことに変えろと言うんじゃないのか?」
約束の日、アネモネはトリシア大学にあるギルバートの研究室にやって来た。
アネモネはブスではなかった。むしろ美人の範疇の女だ。若い頃は『男をとっかえひっかえした古都の穴モテクイーン』と言えるほどだ。
ただし、化粧が濃くて色合いがカラフル過ぎる。顔のお絵かきのセンスが乏しい。服も露出が多く、まるで売春婦みたいだった。
「とうとう来たか……学者と思えない格好だな?」
「うっさい。貴方の女たらしぶりも古都じゃ有名よ。ヨーシデンのインキュバス、ってつけられているじゃない?」
実際、ギルバートは恋多き男だ。プロの楽師の面もあり、イーガやヨーシデンの小劇場で、ギターを弾くことがよくあった。
そういう男は自然と女のファンがつく。彼は純潔を重んじていないから、そういう女たちとよく寝ていた。30代のこの当時は、浮気癖に嫌気がさした妻と離婚したばかりだった。
「お互いのスケベぶりの話をしに来たんじゃない。はい、これ」
彼女は『聖王編』のラジオドラマの第一稿の写しをつきだした。イズヴァルトとローラが、ナントブルグから旅立つところの場面だ。
「最後の場面、ここでよくない?」
「は?」
「そっちのほうがいい、って言いたいの。ヒロインが死んで終り、というのは、聴取者は求めていないわ」
ギルバートはヨーシデンとシマナミスタンの旅で6話分の原稿を書いていた。それを全部削れ、と言ってきたのだ。
「だが、ラジオ局には104週ぶんのプログラムで……」
「6週ぐらい削っていいわよ。臨時番組を立てさせりゃいいもの」
ラジオ局には学術協会が話をつけるから、心配しなくてもいい。
「あと、聖騎士団がヨコヤマヴァールに侵入したところの話。ローラは実はマイヤでした、というのは削っといて」
「……古都のお偉い方は、そっちが気に食わないのか?」
「そうよ。マイヤは奢侈と専横が過ぎて人々の反感を喰らい、最期は強姦目的で盗賊にさらわれてそれっきり、で通したいのよ」
ナントブルグだけでない。ナガオカッツェやフジイデールといった、諸公国でもそうされていた。
マイヤの本当の歴史を伝えているのは、ホーデンエーネン連邦ではヨーシデンだけだ。
しかしそれも、外からの絶え間ない圧力で変わりつつある。カツランダルク一族はホーデンエーネンの歴史で、一番の闇であったからだ。
「そんなに『古王国』が怖いのか? トーリやマイヤの子孫は、このヨーシデンか外国にしかいないのに?」
「ナントブルグ南北を領した大公家が生き残っていれば、こうはならなかったのだろうけど。でも、これが時代の趨勢ってものよ。貴方もアップデートしなさい? さもなきゃ、イーガに戻ったら?」
言いたいことはそれだけだ、とアネモネは告げた後、バッグから1冊の古い書物を取り出した。
「……それは?」
「『ミツクニュモスの記録書』よ」
イズヴァルトの友で長きに渡って旅をしてきた、ミツクニュモス=ミートパトロスが記した、イズヴァルトの旅の裏側を記録したものだ。
遠い昔に紛失した、と言われている書物だった。写しも無かった。
彼はこれを、ジューンショーン王に献上したという言い伝えが残されていたが、これを見るのは初めてだった。
「ジューンショーン王の書物庫にあったの。日記は世に出回っているけど、この本には、それには無いものが書かれているわ」
「これを、私に?」
「この本なら貴方に提供してもいいって、学会は認めてくれた。貴方にあげるわ。どうせナントブルグの学者は使わないもの」
但しこの中身をラジオドラマに使うな、ヨーシデン以外では公表するなと告げ、アネモネは去っていった。
ギルバートは『ミツクニュモスの記録書』をぱらぱらとめくりはじめた。イズヴァルトから彼がいろいろと聞いたことをまとめた内容だった。
この書は、ヨコヤマヴァールの戦いの、決着がついた直後から始まっていた。