聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「……!!」
ヴァネロペは驚いていた。
かけたままだった『すかうたー』の数値が、あまりにも信じられない値を出していたからだ。
彼女は無事だった。コーザの淫気の力が解き放たれる前に、ツダサンチョーと他のサキュバス達と共に城市の外に逃げていたからだ。
「おい、ヴァネロペ?」
ツダサンチョーが尋ねる。見上ている城壁の、レンズに映っているのは誰の魔力量だ?
「……ごにょ」
『すかうたー』は2つ、数値をはじきだしていた。
1つは5000万。これは多分コーザだろう。
そしてもう1つは1500万である。これに匹敵するのはツダサンチョーの魔力量だ。
ではこれが、マイヤの物かどうかはまだわからない。他のエルフとは違う、妙な気配を放つイナンナのものかもしれない。
あれは一度こっそり測ってみたが、50万ほどしか無かったが、魔力量を抑えていたとも考えられる。
「……むむ」
数値ではなく、感覚で切り分けだした。
その魔法の気配は、明らかに魔族のものだった。
サキュバスのようなハーフリングのような。
となれば誰の魔力かはわかりだしてきた。
「……まさか、マイヤのか!」
何も言わずにヴァネロペはうなずいた。
カツランダルクの血はマイヤを、姉の『保険』として置いていたが、ただの予備ではなかった。
この世界を統べる力を持ったであろう傑物の『代わり』だ。
かの王家の遺伝は、それだけトーリに賭けていたということだ。
□ □ □ □ □
「ねえ、大丈夫、イズヴァルト?」
マイヤはイズヴァルトを抱き上げた。コーザは信じられない、という顔だった。
「だいじょうぶでござる……ちんちんのあたりが気持ちよい痺れかたをして、ジンジンとしているだけでござるお」
「くんくん……でも、せーえきの無駄撃ちはしてないみたいだね?」
「心配ご無用でござる。昨晩はそなたにしっぽりと抜かれたでござるからな……」
その痺れも失せていた。マイヤが近づき、抱き着いたあたりからだ。
イズヴァルトは起き上がると、興味深そうな目でマイヤを見るコーザに、『氷雪の栄光』を向けた。刻まれた文字が強く光り出し、1本の巨大な氷の剣を作り始めた。
コーザはマイヤを凝視するばかりだ。それと顔に戸惑いの色が浮かび上がっている。初めて見る顔だ。
「……マイヤをじろじろと見て、気持ちが悪いでござるな! おしゃぶりとおまんこを所望なされるなら頼むがよい!」
そうではない。コーザは抱き合って2人を見据える2人に答えた。
「……私の力が、通じなくなったからです」
「力? 貴殿が使ったのはそういうことでござるか!」
「イズヴァルトさん。どうやらマイヤさんが、貴方の『守り神』になられるようですよ?」
イズヴァルトはマイヤをかき抱きながら、氷の大剣を振るった。コーザはそれをかわすと待ったをかけた。
「こうしませんか? マイヤさんと貴方とで組んで戦う。2対1.けれども……」
コーザが念じる。イズヴァルトは前面から空気の圧の直撃を受け、マイヤから腕を離して倒れ込んだ。
また下半身に強烈な疼きと喜びが起こった。マイヤが駆けつけて抱き着くと、すぐに収まった。
「やはり、互いに身体を離してはならないようですね?」
「いいよ、それで。イズヴァルトと一緒に戦うから」
イズヴァルトはマイヤの申し出に耳を疑った。
それから、彼女の顔をじっと見る。彼女の左目の変貌に気づいた。
(魔王の一族の力を、呼び覚ましたのでござるか?)
これなら頼みにしてもいいと思った。それと、マイヤが常に傍にいてくれたら安心する。イズヴァルトは彼女の為に剣をふるうことこそが生きる喜びだった。
「イズヴァルト、いいよね?」
断る理由が無い。イズヴァルトはマイヤを抱き上げると、悦楽に悶えながらも2人に呼び掛けていたオクタヴィアのところに行った。
「嬢ちゃんの縛り紐代わりずら」
オクタヴィアは肩に羽織っていたマントをイズヴァルトに手渡した。エルフの里で織った、魔力が籠った丈夫な布でできているマントだ。
「……かたじけないでござる」
「さあ、行ってとっちめてやれ。あのサキュバスのできぞこないに、おまんたちの格のほうが上だと見せつけてやるずらよ?」
励まされたイズヴァルトはマイヤの義手義足を外して背負い、マントで縛り付けた。
彼女の重さなど屁ではない。いつまでも包まれたくなる甘い香と可愛い息遣いを聞けば、むしろ身体が軽くなる。
生きるのも一緒。死ぬときも一緒でありたい。
そう願いながらイズヴァルトは歩み、コーザに呼びかける。
「ここからはお互い、派手に参りましょう。ここは狭くてよろしくありません」
そう語った瞬間、イズヴァルトとマイヤは突然目の前の景色が変わったことに驚く。
見渡せば北の方にヨコヤマヴァール城の崩れかかった南門と、いまだ数多くの死体が放置されている坂があった。
いや、雪原はところどころに血と死肉の染みがついていた。すでに凍って嫌なにおいを放たぬが、ここが戦場であったこと、これからまた戦場になることをはっきりと伝えてくれている。
イズヴァルトは『氷雪の栄光』を握りしめる。冷気が集まり、氷の大剣が造られた。
コーザは『姫竜の牙』を鞘から抜いた。それだけで戦場に強い風が起こった。ヘラの半分の力しか引き出せぬと言っていたのに、威圧に十分な力があった。
イズヴァルトとマイヤにとっては、決戦の総仕上げ。
コーザにとっては輪廻の理に向かう魂たちへの旅路の前のはなむけに、この世で最強の魔王と勇者の戦いをご覧じてもらう『祭礼』だ。
「さて、私から参りましょう」
コーザが動いた。早い。いや、姿が一瞬消えて間近に現れたという見え方だ。
姿を見せた時、イズヴァルトの氷の刃とかちあっていた。氷の刃は砕くこともひび割れることも無かった。
コーザの姿がまた消えた。イズヴァルトは気配で相手の刃の向かってくるところを察し、一撃、一撃とコーザの斬撃をそれで受け止めた。
氷の大剣は大きさの割に、加護の力でそれほど重くない。イズヴァルトは指揮棒を操るがごとくくるりと回したり振ることができた。
しかしこれを受けた者は、その大きさ相応の重みというものを喰らう。圧倒的な質量と密度を誇る氷である、コーザは腕を痛めるに違いない。
「やりますね。エチウやムーツでオーガの戦士達とやりあったというのは、貴方の才をを各段に高めたようです」
「海賊はそれほどでもござらん。むしろ手ごわいのはクノーヘのオーガどのらでござった」
姿がまた消えた。頭上にコーザの気配。姫竜の牙の刃の魔力が集まるところを殴りつける。コーザがそれをひらりといなして刀身に斬撃を加えた。
氷の大剣は真っ二つに折れた。切り離された半分がまわりながら宙を舞う。
「だが、もっと恐ろしいのは魔界の剣豪、ヤギウセッシウサイどのでござるよ?」
答えた瞬間、折れた半分は冷気に変った。3本の長いつららが造られ、猛スピードでコーザに襲い掛かった。
「その棒は、手ごわい武器ですね!」
コーザが念じる。つららが飛んで来る方角に、殻の様な光の盾が現れた。枢機卿が彼に伝えた『神聖術式』の1つ、『アイギスの神盾』だ。
それにあたりつららが砕けた。砕けた後にイズヴァルトが脱兎の故ごとく駆け抜ける。氷のかたまりが魔法の盾より広がると、それを構えるコーザに向けて飛び掛かった。
「二段構えならず三段構えとは! 増々恐ろしいものですね!」
イズヴァルトの指揮棒がまとった氷は、必ず相手を殺すまでは止まらない。執念深い魔法の力だ。
しかしコーザはそれをわざと受けた。彼の肉に食い込もうとした鋭利な氷の破片は、彼の皮膚に当たったところで霧散した。イズヴァルトが折れた氷の剣を元通りにして身構え直す。
「魔力殺しの術式でござるか!」
「そのようなものは用いておりません。私の身体が備わっている、魔法抵抗力のおかげです」
「……魔法じゃだめかもしれないよ、イズヴァルト?」
わかっている。魔法合戦ではコーザには絶対に敵わない。だが、物理での戦いならなんとかなるはずだ。
一撃を加える為に相手の構えを崩す。その為に彼は魔法を使った。
背負っているマイヤの声やぬくもりを強く意識し、念じる。宙に浮かんでいるコーザの真下から火炎が起こった。神聖術式のうち1つだ。
(『シディムの炎』であれば、そなたは耐えられるのでござるか?!)
瞬時に1本の大きな火柱があがった。悪徳と奢侈に溺れる街を人々ごと滅ぼしたという、火葬の炎だ。
それが一気に天高くまであがったのは、瞬時のことだった。殺せはしないだろうが、コーザの魔法抵抗力でもひとたまりないだろうとイズヴァルトは思った。
『氷雪の栄光』を横一文字に構えながら、背を丸めて駆けだす。コーザの魔力はまだ炎の中だった。姫竜の牙も。やるなら今だ。
それに向けて渾身の一撃を振るった。
しかしその時、イズヴァルトは真横からの強烈な気配を感じて身をよじった。
氷の防壁が現れ、情け容赦なく飛んで来る無数の空気の弾を防ごうとする。
(気づかれたか!)
心の中でそう叫んだ瞬間、炎の中にいたはずのコーザが目の前にいた。シディムの火柱も消えていた。
「『神聖術式』はまずい手ですよ? 私が一番察知しやすい術式です」
コーザは右手に持っていた姫竜の牙を高く掲げた。
瞬時、竜巻が起こってイズヴァルトとマイヤはそれに飲み込まれたのである。