聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ガンガたちアプサラーの百姉妹にそう問いかけると、海面から水が吹きあがった。
それが人の形となり、肌が黒いシマナミスタン人の男となる。
優し気な顔立ちで背は高く横幅は広く、腹はでっぷりとしている。壮年の年頃のようだ。
そして股間にぶら下げているものは、とても大きい。玉も竿も。亀頭は丸出しだった。男のイズヴァルトが見てほれぼれする様な造形だ。
「そういうことでございますよ、イズヴァルトさん」
はじめまして、と男はぺこりと頭をさげる。腰は低いが圧倒的な大物感があった。
イズヴァルトとミツクニュモスはその場で膝をつけ、平伏した。エレナもそれに倣った。
父なる神マハーヴァラと、母なる神ヴァリシアナを拝む時は、必ずこのように拝めと言われて育ったから、自然とそのように身体が動いてしまうものなのだ。
「まあまあ、そこまでなさらなくてもよろしいのですよ。さあさあ、立ってお話を聞いてください」
マハーヴァラに促されてイズヴァルト達は立ち上がった。この様子をずっと立って見ていたクラウスと多くの子孫らは、この世界の主神に敬意を覚えなかった。
(この世界の神様ってでぶの親父じゃねえかよ? あんなんでよく統治ができるよな?)
(だらしねえ腹をしやがって。俺達の世界の神様は身体が引き締まっていてカッコよかったぞ?)
(ちんぽ丸出しだぜ。ガンガみたく性器しか使わねえ神かもしれねえな。こんなのが率いる軍なんて弱そうだな。)
もしかしたら『神殺し』ができるかもしれない、と考え始めた。女神たちが察し、彼等とマハーヴァラを隔てるように動く。
しかしリュカとその赤ん坊、それから、一団で一番最弱のリュックだけがマハーヴァラに畏怖していた。
あれが秘めている凄まじい力がわからないのか。母神と共に星の素をつくる力があるのだから、途方もないエネルギーを擁しているはずだ。歯向かったら最後、宇宙のかなたに吹き飛ばされるかもしれない。
「異界の神様でも神様よ。みんな、敬意を持ちなさい」
リュカが呼びかける。赤ん坊のヴァーンが父親をにらみつけた。それだけでクラウス達は闘志を収めた。
それを見たマハーヴァラが語り掛ける。これから赴いてもらう戦争の相手、アエーシュマについてだ。
「アエーシュマさんは私の弟。死神であり闇を統べる神と言われておりますが、元々は私と同じく、命をつくる神でもありました」
死神アエーシュマは元は、兄と同じく創世と繁栄の神だったという。
「しかし、増えるだけで減る事が無く、不死の存在となっていた宇宙の万物と生きる者達に、疑念を抱いたのです」
死なぬことは物の循環や発展を阻み、停滞に陥るのではないのか。淀んだ水だと生き物が棲み辛いように、この宇宙もそうなって、遂には滅んでしまうのではないのか。
「アエーシュマはそう思い、死を司る神となったのです。本当は『平穏』を望む心優しい神なのですが、優しい心よりも懸念を抱く理性が先に出てしまうのです」
ゆえに、アエーシュマはこの世界に、『寿命』という概念を生み出した。
その時からアエーシュマは、死神と呼ばれるものとなったのだ。
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アプサラーの姉妹たちの館に戻ってから、歓迎の宴となった。
山と並べたご馳走と、それを食いながら情欲を満たしてくれる姉妹たちと痴態を繰り広げる『ゆうしゃ』たちをよそに、イズヴァルトは1人、マハーヴァラが語ってくれたことを思い出し考えに耽っていた。
「マハーヴァラがまた勝てば、これからの1万年間も死と闇の時代になることでしょう。そうなれば今よりもっと悲しみが満ちた宇宙になりうるかもしれません」
戦争だけでない。大きな疫病や天災などが起こるだろう。
精霊人は持ちこたえるかもしれないが、オーガやニンゲンだと、大きく数を減らすかもしれない。国がまるごと滅びるような災厄が起こりうるだろう。
その災害だが、イズヴァルトがいる星だけではない。この宇宙の、この星の人々と同等か、それに近い星の民も、死神による大きな災厄により悲しみに包まれるかもしれない。
(そんなに重い、戦いでござったか……。)
イズヴァルトは姉たちとは違い、『ゆうしゃ』達との情交に加わらぬクマウリに聞いてみた。
「しかし何故、他の星からはこのいくさに加わる武人を集めなかったのでござるか?」
「集めて無かったのではありません。イズヴァルト様の星に比べ、人々があまりにも非力だったからです」
そもそもがこの宇宙には、知的生命体がいる星はあまりにも少ない。せいぜいが両手で数えるほど。
そしてイズヴァルトがいる惑星以外の知的生命体は、今やっと石器時代に入ったようなものばかりだ。
「寿命は短くせいぜいが20年か30年。腕っぷしもイズヴァルト様の世界の普通の人の、半分以下です。それと、魔法を全く扱えません」
「そんなに非力でござるか……」
「はい。わたくしの兄弟姉妹や、サイカノマゴイチ様の御家来が後見しておりますが、イズヴァルト様の星における第一文明時代に向かうまでは、おおよそ1億年以上かかるようです」
そこへエレナとミツクニュモスが顔を出して来た。第一文明時代とはいつぐらい前の話なのか教えてくれないか?
「……この星で言うと、ちょうど精霊たちが精霊人という存在を生み出した頃、魔法を使う者の始まりの時代です」
今からで言えば4億年ほど前だ。精霊人の魔力に触れた哺乳類動物が進化し始め、オーガ族の原型を作り出したのが第二文明時代である。それが1億年前。
「それからは細かく、第三文明時代とか第四文明時代と区分けされていきますけれど……」
「ふーん。じゃあクマウリちゃん。あたしらが今生きている時代って、神様が言うところの何番目の文明時代なの?」
「おおよそ、第二十といったところでしょう……どこかからかニンゲンという存在が現れてから、多くの興亡が起きましたから」
文明期の区分けは、精霊人やオーガ族よりも寿命が短い、『ニンゲン』という種族が突如現れてから細かくなったようだ。
「まったく、あの『異界人』達が来てから、ものごとが急激に変わりましたから」
「異界の人かい? 俺やイズヴァルトさんのご先祖が?」
「はい。全てはエチウのオーガ達が『導きの龍』と結託し、いろいろな世界から『ニンゲン族』を連れて来たのです」
その伝説については、イズヴァルトやミツクニュモスは知っている。ムーツ大陸のオーガ達の伝承で、ちらっと聞いたことがあったからだ。
それでも1万年かそこらの話だろうと、イズヴァルトとミツクニュモスはクマウリに言った。しかし彼女は違う、と答えた。
「もっと大昔です。10万、いいえ、100万年前からですよ」
「そんなにでござるか!」
「はい。『導きの龍』には異界を自由に行き来する力と、時間を遡行する力があったと聞き及んでおりますが、100万年以上前からエチウのオーガ達の頼みを聞き入れていたのです」
そうして100万年近くの間、異界からニンゲンが続々と入り込んで来たという。その開拓先でも戦争や病気が起こり、沢山の人が死んだり国が滅んでいった。
そのとばっちりを受け、エチウ諸島のオーガ達は著しく数を減らした、とイズヴァルト達は聞いたことがある。しかしだ。
「エチウのオーガですが、そんなにとばっちりを喰らっておりませんでした。ゴブリン達の薬や、身体が強いエルフはドワーフ達が盾になったりしてくれましたから。ですが……」
クマウリの正確な記憶によれば5万年前。
ほんの一晩、一瞬で、全諸島にいる数千万が死に絶え、エチウのオーガの文明は滅んだ。どんな方法でかわからぬ災厄が起こったそうだ。
「生き残りもわずかですがおりましたが、1年もしないうちに皆亡くなりました。街も村も跡形もなく消し去られて……これがエチウのオーガ達の滅びの真相です」
その頃はマハーヴァラお父様が勝利していた周期だったのにとつぶやいて、クマウリはうつむいた。