※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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記録:聖戦の勇者 ㉔ 『西へ』

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 後年、ジョーケイン王子と一緒に旅をしていた者によると、幽閉された彼はスカルファッカー兄弟の手の者に襲われた最中、4人の黒髪のサキュバスに助けられたそうだ。

 顔かたちがよく似た黒髪の4人は姉妹だった。

 上からナウシカ、クシャーナ、シータ、ドーラという名前だ。

 王子は各地を流浪していた最中、その4人に何度も世話になったという。

 しかし彼女達が誰と手を組んでいるのか、何を王子に求めていたのかについては、最期までわからなかったそうだ。

 

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 ホーデンエーネン王国暦、370年9月15日。イズヴァルトがイーガを訪れる5日前のことだ。

 

 幽閉された部屋で刺客に襲われたジョーケイン王子は、突如現れた4人のサキュバスによって救われてナントブルグから脱出した。

 

 そして転移魔法でたどり着いたのは、西にあるアジール河口の港町にある家だ。

 

 彼は刺客を一撃で両断したクシャーナの、まだ血が付いた剣を見つめていた。

 

「……すごい剣技だったね。どこの剣法だい?」

「魔界の流派よ。幼い頃学んでいたの」

 

 髪の色と同じ、黒い旅装をまとっていたクシャーナは、妹のシータから雑巾をもらった。それで剣に付着した血と脂を拭う。

 

 しかし彼女の手は返り血を浴びていた。それだけ勢いがある一刀だったのだ。

 

「僕は殺されそうになったというわけだ。王子なのにふがいないな」

「ふがいなくは無いわ。それよりも今は逃げて、頼れる国を探しましょう。そのぐらいなら手を貸すわ」

「そこまで面倒を見てくれるのか、君達は……」

 

 では、どこに逃げるべきかとジョーケインは考えた。

 

 アスカウやヨーシデンという選択肢を考えた。

 

(いや、良くないな。)

 

 自分を狙う勢力が、姉弟達に危害を加えてくるかもしれない。コリアンナ姉のアスカウは領地が小さい。ザーチャ兄やディーク兄のヨーシデンは、どう転ぶかわからない周辺の領主達に囲まれ過ぎている。

 

 ここは、オーミゲニアあるいはカントニアにいると思われる、イズヴァルトを頼るべきだろうか。

 

 あるいは、パラッツォ教国の帝となり、強大な権力と兵力を得た、オルフレッド兄さんのところに逃げ込むべきか。

 

「まずはどこに向かおうか。意見を聞きたい」

「この6年間イズヴァルトは行方不明、オルランドゥ帝はイナーヴァニアの街道整備にいそしんで、とても諸外国に手を貸せないと聞いているわ」

 

 そこへ、買い出しに戻って来た末妹のドーラが入って来た。姉妹の中では鼻が大きい。鼻の穴がよく目立つ造りをしていた。

 

「逃げる相談? だったらムーツあたりがいいんじゃない?」

「ムーツ? 僕にはその伝手が無いよ?」

「水夫からこんなこと聞いたの。ナンブロシアのドミトリー大公が、嫁入り前の妹の良い夫を探しているらしいって」

 

 そのドミトリーは、イズヴァルトの義理の弟にあたる人物だという。クノーへに嫁いだ姉が彼の娘を産んだからだ。

 

 血のつながりだけでなく、大公は大豪傑の頭を「いいこいいこ」と撫でる程仲がいいらしい。

 

「ドミトリー大公の義弟になっちゃえば、イズヴァルトを居場所を見つけてくれるんじゃない?」

「随分と回りくどいやり方をするな……」

「これ、イズヴァルトを見つける為だけの策じゃないわよ。ドミトリー大公の庇護を受けて、たくさんの護衛を得ようという策でもあるわけ」

 

 ドーラは言う。この場にいない姉のナウシカが、アジールの駐屯軍の様子を調べてくれている。

 

 その知らせによると武将らに、ジョーケイン王子密殺の指令が下り、街のあちらこちらで見張りが立っているという。

 

「ナントブルグからの依頼みたいよ。ハビキシュッテン公以下、アジール河周辺全域にもお達しが来ているみたい」

「ケノービ=ソーローめ……そこまで手を広げていたかッ!!」

 

 彼を弾劾し、国王に幽閉させたのは、執政の座についていたケノービ=ソーローだった。

 

 幽閉の理由はもちろん、『妹』のトリーネ姫との姦通し、孕ませたことである。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 半月経っても王子は行方知れずだった。致し方なし。イズヴァルトはオリガとウーゴ王子に会いにシマーヅへ向かうことにした。

 

 旅は一旦シマナミスタン北部に寄港してから、遠回りとなるがスーエイニアとスオニアに寄る。

 

 スーエイニアでは『ぷるぷる水産』を運営している触手姫に会いに。マハラ総本山で尼僧としての生活を送っているマレーナの顔を見に行くのだ。

 

 この船旅にはオットーとローザマイヤが加わることとなった。船を動かすのはモナファン海賊団だ。

 

 セイン王のタンゴバルド海戦で敵前逃亡し、反逆者の汚名を着せられたモナファン海賊団の生き残りは、イーガに亡命し、海軍に編入されていた。

 

 その当主・カイル=グリーヴァスと妻のクリスティーナが船団の指揮をとる。2人ともだいぶ顔に陰がさしていた。ハーフエルフのカイルは美女に見えし、クリスティーナは子供を10人も産んだと思えぬほどちっちゃくて可愛かったが。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 船団が出航した。

 

 船の物見台でイズヴァルトは、ホーデンエーネン側の岸を見続けるカイルに尋ねた。

 

「……上の娘さんたちは、まだ消息がわからぬでござるのか?」

「それを聞くんですか?」

 

 クリスティーナがこの場にいないのを確かめると、カイルは念話で答えた。

 

「僕もクリスちゃんも、とっくに諦めてます。こんな話を聞きましたから」

 

 ホーデンエーネンにいる友人から、上の三姉妹が追討軍に捕まった後、散々に凌辱を加えられた後に処刑されたと知らされた。

 

「幼い子を……惨いことでござる」

「それと、あの国の悪趣味な連中に今も弄ばれているかもしれない、と聞いてもいます」

 

 ホーデンエーネンでは今、貴族連中にこんなひそかな遊びが流行っていると聞く。

 

 貧しい家の若い娘や童女を税金のカタで我が物とし、散々遊び尽くしてから殺すという。

 

 それだけでは終わらない。遺体を剥製にし、飾って鑑賞するというのだ。そういう技術を学ぶ死体加工師がこの10年、ヨーシデンやサカーイに生まれているという。

 

「色々調べました。マルティン陛下によれば、イーガの『禁書図書館』でも、ひときわ悍ましい本に書かれている技術が伝わっているようだと……」

「まさか、マイヤの書棚でござるか?」

 

 彼女はヨーシデンの自分の書庫に、イーガの『禁書図書館』から見つけた面白い本の複製版を、ごまんと並べていた。

 

 その中にはどうも、世に出してはいけないものも含まれているそうである。イズヴァルトは彼女本人から聞いていた。

 

「アドルフのクソヤローがどんな本を読んで性格がおかしくなったか、知りたかったからね!」

 

 それがよろしくない本を置いた理由だったが、それだけじゃないだろうとイズヴァルトは思っていた。

 

 あの可愛い『おしゃぶり姫』は四肢を斬り取られた後、人類の暗い歴史の方にも目を向けるようになっていた。時折、ぞっとするような怖い目つきもしていた。

 

 その時は多分、辛いことを思い出していたからだろう。明るく振舞ってちんちんちゅーちゅーとうんちぶりぶりをし続けていたけど、マイヤは恨みというものを抱いていた。

 

(……あんな身体にされただけではござらぬだろう。拙者も子供が殺されたら、何をしてもやりきれぬでござるよ……。)

 

 航海を共にする、カイルとクリスティーナも、この世に恨みを抱いているというわけだ。

 

 こればかりは自分ではどうにもできない、とイズヴァルトは諦めた。自分には慰める資格が無い。

 

 何故なら彼自身こそ戦争で、人の親や子を数えきれないほど殺し続けてきた、戦鬼であり殺人鬼でもあったからだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 途中でシマナミスタン西部のクルシマーヴァラに寄港した後、船は2カ月してスーエイニアに着いた。

 

 20年近く前に訪れたトクボンの城は、あいもかわらずぼろっちい。なんでもこの20年、経済発展政策で金を使い過ぎて城の補修には手が回らないそうだ。

 

 兵士の鎧は木の板をつなぎ合わせたしょぼいもの。城のメイドや召使いは給料が安くて暇でやってられないので、城に比べて潤っている港の繁華街で副業にご熱心、という体たらくだ。

 

「そういうわけで最近の国王ちゃんご一家は、わたちの別邸で過ごしているわけなんでち!」

 

 可愛い幼児用エプロンと服を身に着けた触手姫は、目の前の『てっちり』や『ふぐさし』といったご馳走をも者も者と食べているイズヴァルト達に、自慢たっぷりにそう言った。

 

 触手姫こと水魔のブランカ。

 

 魔界でも最強クラスと言われる水魔族の姫だ。

 

 水色で半透明のボディで普通の魔族とは違う。髪を生やしたような頭で、人のかたちをしていて顔もあるが、目ん玉は無い。口はしゃべるたびに動いていたが、歯は無かった。

 

 要するに人型のスライムだ。しかしどろっとしているのではなくぷるんとしている。ちゃんと人のかたちを保ち続けている。気を緩めるとどろどろとはならない。

 

「別邸とは……どこにござるか?」

「えっへん! トクボン郊外の高級住宅街で、いっちばん大きなお屋敷でちよ!」

 

 それを聞いてミツクニュモスが驚いた。水魔ブランカが、スーエイニアで一番の大金持ちになったということを言っているのだ。

 

 彼女の『ぷるぷる水産』は、それだけ儲かっているということだろう。

 

 殺人フグの毒を触手で無毒化した、『てっちり』や『ふぐさし』は勿論のこと、最も毒が多いと言われている肝の刺身やひれを炙った『ひれ酒』があるが、どれもとんでもない美味だ。

 

 彼女はこのフグの販路を、周辺国にも広げていた。特にスオニアは大きなお客さんである。小さい国だが、マハラ教団の総本山や、南サイゴーク最大の港湾・アカマガ=ナガトラルタルを擁している金満国でもある。

 

 そしてブランカはちょくちょく、マハラの総本山に遊びに行っていた。

 

 マイヤの『義理の妹』であるマレーネがいたからだ。

 

「丁度良かったし、あたちも一緒にマハラ本山に行くでち」

 

 そう言って彼女もついていくという事になり、その前にこのフグ養殖場にある彼女の家で、おいしいご馳走を頂いているというわけだ。

 

 そうして食事をいただきながら、6年前に失踪して行方知れずだったマイヤが、とうの昔に亡くなっていて、今では前世の世界にいるらしい、と触手姫に語ったわけであるが。

 

「まあしかしでちね。イズヴァルトちん。異界への扉はおいそれと、あなたの為には開いてくれないでちよ?」

 

 魔界を経由しないと行きたい時代からずれる可能性が高い。場合によってはマイヤが死んだ後の時代に行ってしまうかもしれない。

 

 但し、一旦魔界を経由するとそうはならないらしい。その方法をとるには、魔王に認められて名誉魔族か、大貴族レベルの魔族の眷属になるかしかないのだが。

 

「やでち。イズヴァルトちんをあたちの眷属なんかにしたくないでち」

「どうしてでござる? 拙者は貴殿の契約者だった、マイヤの夫でござるよ?」

「だって、あたちを魔界に戻したがる魔竜ちんの側に、片足を突っ込んでいるからでちよ」

 

 ブランカはちょくちょく魔竜から逃げていた。言うとおり捕まると魔界に強制送還されるからだ。彼女はこの世界の滞在期間をとっくに過ぎていたのに、今も居座っていた。ビザが切れたようなものである。

 

「……だめでござるか。ぐすん」

 

 イズヴァルトは悲嘆に打ちひしがれる子猫の様な目つきでブランカを見つめた。

 

「……段々と、マイヤちんに似て来たでちね?」

「だめなものはやっぱり……だめでござるか?」

「しつこいでち。魔竜ちんにたのめでち」

 

 ブランカは硬く拒んだ。厳しかった。

 

 自分の契約者を救えなかったヤツに、そこまでしてやる義理は無いからだ。

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