聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ヘラの幼い頃の話から始まります。
夜明け前。
冷え切ってしまった赤ん坊と『獄炎の凱歌』を抱え、北の方角へと飛び立った。
振り向けば、ツダサンチョーとマイヤとともに来た、魔竜の城・コンゴウアミダラデンの東側の塔の窓が見えた。
抱えていた子……つまりは乳児の遺体だが、ナンブロシア公子・ドミトリー=ナンブロシアとの間に生まれた男の子だった。
出産は、ゴブリンたちが調合した陣痛促進薬と、サキュバスたちがかけてくれた魔法で安産だった。無事に生まれ出て来るだろうと思いきや、現実は残酷だった。
(あかちゃん……公子さまとあたしとの、かわいいあかちゃん……。)
もう息をせぬ赤ん坊抱きかかえた母の名は、ヘラ=ウキトゥス。まだ12になるかならないかの歳だ。
赤ん坊には目玉が無かった。
頭の真ん中がくぼんでいて、鼻と耳も穴だけ空いただけで形作られいない。生きながらえる見込みが全く無い、奇形児だった。
この子を生む前、ヘラは幸せと希望に満ちていた。
世話焼きな魔族や亜人のおばさん達や、友達が励ましてくれた。自分の保護者となっていた司祭騎士団長も、あの手足が無い奥さんとともに我が子の様に慈しんでくれた。
セックスで楽しませてくれた『ゆうしゃ』達と、その恋人らもそうだった。彼らはみんな、子どもを持った経験があったから、いろいろとアドバイスをしてくれた。
出産の時には皆が立ち会ってくれた。そうして股から出た初めての赤ん坊をみんなが祝い、喜んでくれるはずだった。
けれども生まれた我が子にかけられたのは、嘆きと悲しみだけだった。口がうまくない『ゆうしゃ』の中には、「呪い」という言葉を漏らす者もいた。
そうして2日後に、この赤ん坊は亡くなった。
褐色エルフのおばさん……カイロネイアのオクタヴィアは、その死に涙をこぼして嗚咽した。
司祭騎士団長とその妻は、死体を抱えて泣きわめくヘラを抱きしめ、彼女が眠るまで寄り添った。
ヘラが死んだ我が子とともにコンゴウアミダラデンを去ったのは、その4日後だ。
部屋を抜け出し、埋葬された我が子の棺を墓穴から掘り出した。
アカサカチハヤの気候は寒いと思えるほど冷涼で、土も霜が降りるほどに冷たかったから、赤ん坊の腐敗はあまり進んでいなかった。
なぜそんなことをしたのか。自分でも見当がつかないまま、何も考えずに赤ん坊を抱きしめ、『獄炎の凱歌』を手に取って出ていった。
飛翔魔法で最大マッハ3まで飛べた彼女は、魔竜たちの版図をすぐに脱した。もう息をせぬ我が子を抱え、どこへ向かおうかと考えた。
(あかちゃんの父親の元へ行こうかな……。)
この子を、ナンブロシアの大公家の墓におさめてもらおう。
けれどもその前に、教主様のところに行きたいと思った。お墓にいれる前に、この赤ちゃんの来世の幸せを祈ってほしい。
(決めた。まずはコーザ様のところへ向かおう。)
そう思ってアカサカチハヤ地方を出て、ナーガハーマ地方を越え、ツルーガニスク地方の南部にさしかかったあたりだった。
疲労感が急に襲ってきた。腹が減った。いや、初めての出産で身体はがたがただった。身体の根っこの部分は、栄養剤と治癒魔法でも癒やされていなかった。
精神力が衰えてしまい、飛べなくなった。付近の森の中に着陸した彼女は、急な眠気に抗えず、冷たい叢の中で目を閉じた。
□ □ □ □ □
見ていたのは、小さい時の思い出だ。ヘラがまだ実の母親の胸に抱かれ、その乳しか口に含まなかった赤ん坊の頃の記憶だ。
長の一族の赤ん坊が、生まれ出てから1ヶ月目にあたると、村では祝いの宴が催されるしきたりがあった。
ヘラはこの集落の長の孫娘にあたる。母のマーサにとっては3番目の子ではあるが、長である彼女の祖父は、上2人の孫たちと同じく、彼女も祝おうと宴を催すことにした。
宴では、この郷の者たちにとっては、一番のごちそうがふるまわれることとなっていた。特に男たちに好まれるものだ。
「ヘラ、これからお前に見せてやろう」
彼女は母の手から離れ、祖父に抱きかかえられた。祖父は大きくて若々しい。もう70を過ぎており、皺と白髪はあったが、まるで青年のようだった。
祖父は1人の若い伴を連れて部屋を出た。ヘラが連れて行かれたのは、宴の一番のごちそうが置かれているという小屋だった。
扉の向こうからは、聞いたことがある人の気持ちよさげな声が聞こえていた。祖父の手によって扉が開かれると、彼女は思わず喜びの声を放ってしまった。
自分をかわいがってくれている、祖父のまだ嫁入り前の娘がいたからだ。11歳になったばかりだが、胸を出しておっぱいを吸わせようとしてくれた。乳は出なかったが。
それと、祖父は母の母、つまり、ヘラの祖母を妻に迎えていた。その間に、8歳の叔父と4歳の叔母がいた。祖母は祖父の35歳年下で、母に負けないぐらいに美しい人だった。
「あーっ♡ もっと♡ もっとぉ♡」
叔母は何一つまとわぬ姿で、目を虚ろにしてせがんでいた。仰向けになって激しく揺れ、よがり声をあげていた。
彼女の腰は大きく太った男の手に掴まれていた。頭と首に花輪をかけた、見たことが無い男だった。
ぶくぶくと太ったその男は、口からよだれを垂らしながら叔母の腰を抱え、激しく腰を振って膣の奥をえぐっていた。
「おおっ! おっ! おおっ!」
吠え続け、白痴がかった表情で腰を動かす男と、身動ぎをして悦に浸る叔母の周りには、裸になったまま倒れ、心地良さげに腹を上下しながら股から精液をこぼす、祖父の嫁入り前の娘たちが寝転んでいた。
「ヘラ。あの男はな、お前を祝うために連れて来られた贄じゃ」
娘との交合の後、祖父自らの手で命を奪う。そして殺したあの男は、宴の一番のごちそうとして並ぶことになるという。
「しかし恐れるでない。あの者は、イナーヴァニアの法を犯した罪人。死罪となったのじゃ。この国ではな、死罪となった者は、我らミマカサルのゴールの里に送られるのじゃ」
そうして食人族の、一番の馳走となる。だが、戦いで命を奪った相手とは違う。そのまま殺して食べるという、残酷なことはしない。
連れてこられた罪人は、処刑の日が来るまでこの小屋に入れ、たくさんの食物を与えて太らせ、嫁入り前の娘たちをこうしてあてがう。
娘たちをあてがう時には、催淫の薬と精力をきわめて激しくさせる薬を飲ませる。眠る時と食う時とひねる時以外、交合にばかり明け暮れさせる為だ。
祭りが無い時期の者は3週間。ヘラの月祝いの時にはおおよそ1ヶ月だ。
あてがった娘の中には、罪人の子を孕む者も出てくる。だからといって、この村の者は間引いたりはしない。村の子として育てることにしていた。
「なぜなら、我らは死の神、アエーシュマ様の末裔じゃ。死も肯定すれば生も肯定する。生まれ出る命を生まれる前に間引くのは、アエーシュマ様の心に沿わぬ」
死は、この世界と自然が与えてくれるだろう。しかしゴールは嫌な役目も押し付けられた。
「我らゴールは、この地上に『ニンゲン』と呼ばれる者たちが現れ、地上を埋め尽くさんと増え始めた時に、アエーシュマ様よりつかわされたのじゃ」
その理由はこうだ、と祖父は物心つかぬヘラに語った。
「ニンゲンという種族はのう、この世界、つまりは、マハーヴァラ様の創生の奇蹟には無い生き物。いにしえからの伝えでは、『導きの龍』により異界から連れてこられた者達らしいのじゃ」
その『異邦人』たちは死にやすかったけれども、ある時期、地上を埋め尽くさんとするほど増えて栄えた。元からこの世界のこの星に住んでいた、オーガ族や精霊人を脅かす程に。
だからといってオーガや精霊人たちは、彼らを害することはしなかった。増えるままに任せた。そうなると、ある種の
だからこそ、アエーシュマはゴールという『天敵』をニンゲンたちの中に放り込んだ。捕食者は始めの頃、猛威をふるった。
けれども、やり過ぎて
「……そして今に至るというわけじゃ。我らゴールは、控えめであれ、と心に決めて生きておる」
とはいえ、人食いの快楽には抗えない。そして今は、罪人を食う処刑者、という立場にあるのだ。
ヘラは祖父の話を耳にしながら、太った『贄』の顔を見つめていた。
「うおっ! おおっ! おおおうっ!」
『贄』がのけぞり、大きく腹を震わせていた。掻き抱いていたヘラの幼い叔母の子宮の中に、大量の精を放ちこんだのだ。
「これで終わりじゃな。ヘラ、見ておきなさい。これから行うのが、ゴールと呼ばれる者が果たす役割じゃ」
祖父は従っていた若者にヘラを預けると、娘の腰を抱えたまま、射精の余韻にひたる罪人の後ろに回り込んだ。
「アエーシュマ様、今から、この者の魂を御許へと遣わしまする」
腰に
「ゴールの長より願いまする。この者に、良き来世をお与えくだされ!」
一閃して、血を吹き出しながら男の首が転がった。撒き散る血は祖父の娘たちに降り注いだ。彼女達は満面の笑みを浮かべながら面を上げた。
顔にかかった金臭く生臭い緋色の液体を、彼女達は美味しそうに舐め、そしてすすり込んでいた。
その様をまだ乳児だったヘラは楽しそうにはしゃいでいた。
何故か、愉快でたまらないと感じてしまったからだ。