聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ホーデンエーネン王国暦358年の3月。
旅先のイナーヴァニア北部の砂浜で、ヘラの股から黄色い水が大量にこぼれ出た。
破水だった。ヘラは着ていた服の裾をあげてしゃがみ込んだ。彼女の陰裂は大きく伸び、捻り出す準備を始めていた。
下腹に強い衝撃が断続的に起こっていた。しかしニンゲンでいう陣痛ではない。
「うあっ♥ うああああっ♥」
途方もない快楽だった。下腹から全身に伝わってくる。意識が飛びそうなぐらいに強烈だった。
「でそう♥ 出ちゃいそう♥ あかちゃん、うまれちゃう……♥」
金色の細い陰毛がところどころに生え始めている女陰が、もっと大きく伸びた。口がぱっくりと開いた。赤ん坊の頭のようなものが出だしていた。
ヘラは1人で産まなくてはならなかった。流氷ばかりが見える海が見える砂浜には、誰もいなかったのだ。
「んん……♥ んんん……♥」
彼女の下腹に入っていたものは、べたついた羊水をまとわせた産道を、ゆっくりと舐めまわしながら外に出た。その時の快感が強すぎたのか、しばらくヘラは気を失った。
目覚ると砂の上で、へその緒と胎盤も捻り出されているのを見た。
(赤ちゃんは?)
その先にいた。しかし人の形をしていなかった。球体の肉塊で、泣きもしなければ生きてもいなかった。
この子も駄目だった。
公子との子とのことを思い出し、海からの寒風の様に悲しみが吹きこんで来た。しかし強い空腹感がそれをさえぎった。
まずは胎盤を鷲掴みにし、口に入れた。血の匂いが濃厚で、生のレバーを食べているようだった。しかし美味に感じられた。
それを喰らい終えると更に食欲が増した。湯気が消え、冷めきっている丸い肉塊を掴む。
持っていた『獄炎の凱歌』で中を割いた。奇妙なことに骨も臓器もできておらず、肉と脂肪、血だけが詰まっていた。
それを焼いて食べきった頃、またも便意とともに激しい情欲に突き動かされた。狂った様にクリトリスをこすり、排便をしながら流氷を見続けた。
(食べたい。またこれを食べたい……。)
そう思うと力が湧いて来る。彼女の身体は自己修復を始めていた。撓んだ腹がみるみるうちに元通りになり、陰裂からの出血が止まっていた。眠気も起こらず、すぐにでも歩ける気がした。
□ □ □ □ □
ヘラは帰国してから、すぐにどこかへと出かけることが多くなった。教主やエレクトラが、彼女をカナザワースの総本山で見かけることも、あまり無かった。
「ヘラさんは、どうされたのでしょうか?」
大礼拝所にいたコーザは、小さなヴィクトリアを抱いて付き従っていたエレクトラに尋ねた。
「1か月前に出て行ったきり、ここへは戻って来ておりません。赤ちゃんをお腹に入れていた様子でしたが……」
「わかりませんねぇ。まあでも、あの年頃の嬢ちゃんにはよくあることじゃないんでしょうかね?」
エレクトラは呑気な様子だった。ヘラはもう12歳だ。多感なお年頃である。
彼女もその歳には実家を離れ、カントニアのエルフの里を巡って、魔法の修行にいそしんでいた。外の世界を満喫していたのだ。
「かわいい子には旅をさせろ、という言うじゃありませんか。わたくしもあの子の母親なら、海外で思い切り羽根を伸ばしなさいな、と言いますよ」
「ですがヘラさんは、次の教団の当主となるお方です。これからいろいろと大事なことを学んでいかなければなりません」
コーザは自らが師となって、教典や問答を集めた書の講義をしたいと考えていた。つまりはパラッツォ教の教義の深奥を伝えるわけだ。
それと、教祖・コージュ=ストーンマウントの話についても詳しく教えてやりたかった。父が遺した数々の事物も、見せてやりたかった。これこそが教義の核となるものである。
パラッツォ教の出発点が、それだった。亡き父が、前世で思い知った絶望こそが、『神の宮殿』の教典を記し、教団を築いたのだ。
「しかし、赤ちゃんを死なせたばっかりのあの子に、早く立ち直れというのは酷な話じゃございませんかね?」
「かもしれませんが、私はゴール族のみなさんの、素晴らしい強靭さをあの子に見出しております。そう簡単にへこたれることは無いでしょう」
エレクトラがむずかるヴィクトリアの背を撫でる。コーザが腕を広げると、幼子はその分厚い胸元に飛び込んだ。
「おやおや? まだねんねの嬢ちゃんも垂らし込んじゃうんですかい?」」
「この娘に『聖根』を教えて差し上げるのは、あと2年は必要かと思います。しかし御父上様に似て大柄なのに、とても可愛らしい子ですね?」
教主の首に頬をつけ、甘える我が娘を見て、エレクトラは微笑んだ。甘えるだけではない。脚を開いて、お尻をもぞもぞと動かしている。教主のにおいを嗅いで発情し、股をこすっていたのだ。
「ふっ♡ ふう~んっ♡」
興奮して可愛い喘ぎ声を出すヴィクトリアに、教主とエレクトラは苦笑した。
この童女は常日頃、お付きの教典の巫女にパラッツォ教徒としての性教育を受けていた。まだ幼い女膣でも、舐められると立派に快感をもたらすことを知っているのだ。
「はふ……♡」
ヴィクトリアが大人しくなった。しかし幸せそうな顔をして、教主の首すじのにおいを嗅ぎ続ける。
コーザはヴィクトリアを愛おしく感じた。それからヘラのことをまた、気にしだした。
彼女にも、こういう頃があった。養女にしてから1年経ったところで大病をしたので、看病にかかりきりになった事もある。
(あの時はイーガからの、あまりよろしくない製法の薬で、一命をとりとめましたが……。)
あの薬を飲ませてから、ヘラの身体から、サキュバスの様な気配が出始めた。その薬が何が原料となったのかも、とうに調べ終えていた。
そして去年の暮れ、コンゴウアミダラデンから来た使者に、行方を知れずになる前のヘラの様子を詳しく聞いた。
マイヤにとても懐いていたそうだ。相手もまた、ヘラのことを実の娘や妹のように可愛がっていたらしい。
(いわばヘラさんは、イズヴァルトさんとマイヤさんの娘さん、でもあるのでしょうね……。)
ヴィクトリアをあやしながら、コーザはエレクトラの顔を覗き込む。それから念話を。
「もしもヘラさんに何かあった時、誰を次の候補にあげれば良いと思われますか?
「自信をもって推薦したしますよ。ローラ=ラダトゥム=セアックとかいう、正体不明の女軍師は、いかがでしょう?」
「トーリさんでなければ、貴方はカツランダルクの家の支持者なのですね?」
エレクトラは笑みを浮かべた。傍目から見たら意地が悪そうに見えるものだった。
けれども彼女は本気で、このように思っていた。
(あのお嬢さんならパラッツォ教を、それこそ1000年も2000年も存続させる教団に仕上げられるでしょう。『先祖返り』も行えるはずでしょうし。カリスマってのは何も、男の専売特許じゃございませんからねえ。)
愛くるしさと人懐っこさと、その阿呆な振舞いの奥にある知性を武器にして、教団の者達の心を掴み取れるだろうとエレクトラは思っていた。
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ヘラのことは放任しろ、と口で言っていたエレクトラだが、彼女の身の回りを密かに探っていた。
彼女の行動範囲であろう、パラッツォ教の版図の各地の司祭騎士や教典の巫女に密書を送り、どこでヘラを目撃したのかを調べていたのだ。
エチウに戻ってからの『一人旅』の行く先の情報も、いくつか聞いていた。ノトゼタシア島とアサークラント島、それと、イナーヴァニアだ。
ノトゼタシアは、温泉が多く湧いているから保養の為に行ったのだろう。しかし最近は近づくのが面倒くさい。沿岸部をクボーニコフの海賊が占拠し、勝手に集落を作り始めていた。
アサークラントは、ヘラの肉親らが移り住んでいる。彼女の母のマーサは健在だ。現地のパラッツォ教徒と『法悦』に励み、毎年子を産んでいた。
ヘラの祖母や兄や姉、ゴール族の実の父と祖父も元気にしていた。あのゴール達は新天地で安楽な生活を続け、すっかり牙を抜かれている様子だった。
しかしヘラは、肉親たちに会えなかった。彼等は山奥の辺鄙なところに住まわされていたからだ。
イナーヴァニアのゴール族が、教主候補となった彼女に勇気づけられ、陰謀をたくらむ恐れもあったから、なおのこと居場所を秘密にされていた。
もう1つのイナーヴァニアは、飛び回るのに十分面白いからだろう。今のところはそういう考え方しかできなかった。
聞いた話によると、亡命したヤマナウラス家の嫡男が、ヘラのことをひどく好いているそうだが、今はスオニアとハリマーヌを行ったり来たりしているらしい。会う事は無さそうだ。
あと、彼女が訪れたところでは今のところ、人さらいの話はあがっていない。エレクトラが各地の領主に密書を送っている、ホーデンエーネン北部とは大違いである。
(まあ、ゴールの血が目覚めなけりゃ、あたしとしては別にいいんですがねぇ。)
とはいえ、保険はかけておいたほうが良いだろう。机に広げた羊皮紙に書き込み終えると、エレクトラは側付きの司祭騎士を呼びつけた。
「エチゴニアに出張中のエドワードさんに、今さっき書くものを送り届けてもらえませんかね?」
書いたのは、ある人物について、ヒッジランドの武将として見定めて欲しいと書かれていた。
クボーニコフと交戦中のパラッツォ教を助ける為の義勇軍に入り、ナオエニアを経由してエチゴニアに入ったトーリの息子、オルフレッド=カツランダルクの人物評を書いて送って欲しい、という内容だった。