※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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05 エドワード=ルーカス

 パラッツォ教の傭兵隊長であるエドワード=ルーカスは、ここ最近、傭兵仲間の亜人達と共に、『山岳部』なる同好会を作って、近場の山に登る毎日を送っていた。

 

 今日も朝早くから起き、同好の仲間達とともに近くの山に登った。

 

「わはははは! いやあ爽快爽快! ハルヒアトゥントゥリ山地は、まことに登り甲斐がある山に恵まれているのだなあ!」

「ったく、山のてっぺんに着いたぐらいで、やかましいったらありゃしないね、アンタは」

 

 そう言ったのは、ハーフリングのマリベーラだ。彼女はハルヒアトゥントゥリの盆地にある『本山』を眺め、煙草をすぱーっ、とやっていた。

 

「ははは、マリベーラ殿! こんな美味い空気が沢山吸えるのに、毒煙をぷかぷかとやっているのは、不粋にも程があるというものですぞ!」

「へっ、聞いてらんないよ。アタイは暇がありゃこいつを吸うのさ」

 

 マリベーラは『本山』から周囲に視線を移した。『山岳部』の仲間達が氷のようになった雪の上で、干し肉をかじったり、小便を放っていた。

 

 マリベーラを含め、ほとんどが背嚢を持っていない。中には素足でサンダル履きだったり、腰布と半袖の服という者もいる。

 

 この山だが、おおよそ2000メートル近くほどの高さがあった。並みのニンゲンなら登山用の重装備をする必要があるぐらいだ。

 

 しかし彼等は麓から、軽装備で登り切ってしまった。かくいうエドワードもである。彼はピッケルと縄以外、持っていなかった。

 

 それでも山登りは、一番登り慣れているマリベーラに負けないぐらいタフだった。岩場をすいすいとよじ登った。出発してから3時間で、この頂上である。

 

「いやあしかし、ヒッジランドの山々に比べたら、エチゴニアのはいささか低い気がしますなあ!」

「ドワーフの血を引いているアンタなら、この倍の高い山でも楽勝だろうよ?」

「ははは! お褒め頂き光栄の限り! ところでミナッカミニアの山々は如何ですかな?」

 

 あれはやめとけ。吸い殻を投げ捨てて新たな煙草に火をつけながらマリベーラは言った。万年雪山で険しさは半端ではない。

 

「登るんだったら、ムーツ大陸の脊梁山脈がいいよ。まあでも、夏の登山にしておきなよ? 冬は凍え死んじまうだろうからね」

「それは残念。ミナッカミニアの山々を制覇したかったのに」

 

 マリベーラが立ち上がった。そろそろ本山に戻る頃だ。経典の巫女達と一緒に甘いものを食べて、午後を過ごすことにしよう。

 

「で、しばらくはアンタとはお別れするよ。また島を出る」

 

 姉のキファニアに顔を見せに来い、と呼ばれたからだ。それと、去年の暮れに果たした大仕事をやってから、しばらくは戦場から身を退きたい。

 

「クボーニコフの王様をやっちまったからね。少しは自分をいたわりたいのさ」

「それは残念。これから始まる海賊狩りに、手を貸していただきたかったのですが?」

「あのザコどもなら、アンタでも十分やれるだろうよ。それじゃ、お先に戻ってるよ」

 

 マリベーラは崖から飛び降りた。しかし着地して急斜面を駆け降りる。まるでヤギや鹿のようだ。

 

 エドワードもしばらくして、腹が減ったと言い出した仲間らと共に頂上を出て行った。マリベーラのようには行かなかったが、駆け足と跳躍で険しい山を降りる。

 

 『山岳部』の亜人達とエドワードは、こうした山登りをほぼ毎日続けていた。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 本山に戻ったら、エレクトラからの手紙を届いたので開いてみた。内容は義勇軍としてハルヒアトゥントゥリに入った、オルフレッド=カツランダルクに対する評価を聞かせて欲しい、というものだ。

 

 何故このようなものを寄越したのだろう。そう思いながら、先月行われたエチゴニア決戦でのオルフレッドの活躍を思い出し、短い返書を書いた。

 

「武勇抜群。騎士として、勇士として、ホーデンエーネン武者の名に恥じぬ。申し分無き猛者」

 

 それだけである。それ以上でもそれ以下でもなかった。イズヴァルトの隠し子という噂を聞いていたが、あの聖騎士と比べて光るものがあまりない様に思えた。

 

 今現在のオルフレッドは、ますます興味を持てなかった。枢機卿らの『幼い少女に見えるツノつきの娘達』との、いちゃこらセックスに浸る毎日を送ってばかりと聞いている。

 

 まあ無理もない。彼女達は可愛らしく素直だ。それと子供に見える体つきなのに、おっぱいがとても大きい。あれを吸い立てるのに夢中になるのは、男としてよくわかる。

 

 だが、父と比べていささか面白味に欠ける。戦い方も好意を持てない。捕虜を取らず必ずなで斬りにする。苛烈が過ぎる。

 

(イズヴァルト殿のように、騎士の誉を重んじる勇者と想像したが、戦い方がまるで違う。内心で苦手に感じていることを、才があるばかりにやらされている者のようだ。見ていて心苦しい。)

 

 そうした個人の感想を書くつもりは無かった。しかし思い直してもう一筆を加えた。枢機卿らに愛されている。司祭騎士団長のご子息は、なかなかに人に愛されるようだ、と。

 

「こんなところか。おい、君!」

 

 部屋の扉の前であくびをしていた兵士に呼び掛けた。この手紙を、カナザワース島への定期便で送ってくれ。

 

「総本山にいる副司祭騎士団長あてにだ。定期便でいい。そんなに大事なことを書いていないからな」

「わかりました……エレクトラ様と次にお会いになられるのは、いつ頃で?」

 

 この兵士はエドワードの手下でもある。エレクトラと逢瀬を重ねていることも知っていた。

 

 エドワードはわははは、と高笑いしてこう告げた。

 

「来年ぐらいかもな! 俺はしばらく、エチゴニア島に滞在しようと考えている!」

 

 まだ未知数の、オルフレッドの力量を見てやろうと考えていたからだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 『我が子』を喰らう悪癖に、ヘラはまたも手をつけることとなった。

 

 今度は3カ月後だ。ホーデンエーネン王国暦358年の7月。旅先のイーズモーで、彼女は新たな『ごちそう』を産んだ。

 

 今度の子の父親は、司祭騎士のうちの誰かだった。 出産と『実食』の後でカナザワースに帰ってから1週間に何人かが、うだるような情欲の相手をしてくれた。

 

 人の気配がない場所で、大きくなった腹から子と胎盤をひねり出し、呼吸も脈動もしていなかったそれを喰らいながら彼女は悩んだ。

 

(なぜ……だめになったあかちゃんが生まれたの?)

 

 しかも今度は3カ月だ。これが流産というものか、と思った彼女は、またカナザワースに戻って知り合い達から聞いた。球状の胎児が出る事などあり得ない、と流産の経験がある者達は答えた。

 

「流れちゃった赤ちゃんは、ぐじゅぐじゅになって出るか死体として出るかのどちらかなのよ」

 

 しかしある女が、興味深いことを教えてくれた。

 

「丸い塊だなんて、まるでゴール族の妙な伝説みたいね?」

 

 その伝説とは、こういうものだった。

 

 人食い鬼の血に目覚めることが無い女ゴールだが、まれに男の様な性質を顕現させる者がいるという。

 

 そうした女は五体無事の、生きた赤ん坊が産めなくなる代わりに、肉塊の様な死んだ赤ん坊を産むそうだ。

 

 それを女ゴールは喰らって、自分の力を高めるという。食えば食うほどに強くなる。妊娠と出産の感覚が段々と早まるのだという。

 

「サイゴークじゃ、こうも言い伝えられているわ。そうして子供を食い続けた女ゴールが、最強の戦士になるって。我が子を喰らい続ける代わりに、究極の存在に変貌するそうなのよ」

 

(……なにそれ。詳しく知りたい!)

 

 誰から聞いたのかとヘラは尋ねた。その女は教えた。

 

「タカミ=ジュン枢機卿よ。あの人、ヨーシデンにある『おしゃぶり姫』の図書館に、よく入り浸っているそうなの。そこに置いてある本から知ったと、教えてくれたわ」

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