※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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07 ゴール族の原初について

 『ゴール族に関する言い伝え』 

 

 手に取ったその本を開いてみる。ペラペラとめくってみた。

 

 本はサイゴークの共通言語で書かれていた。ヘラでもかろうじて読めるぐらいだ。

 

「ヘラ、何を見つけたのです?」

 

 通路の向こう側からタカミがのぞき込んでいた。思い切ってヘラは聞いてみた。

 

「これ、本当のことが書いてあるかわかる?」

 

 やって来たタカミはその本を手渡され、1ページずつめくっていった。終わりまであと4分の1で、彼はヘラに返した。

 

「これを読んで何を知りたいのです?」

「自分がどんな種族なのか、よく知りたいだけなんだけどな?」

「……『アクィナスの複写機』、貴方はイプセンから教えてもらいましたか?」

 

 『アクィナスの複写機』。神聖術式の一種だ。自分の目でみたものをそっくりそのまま、頭の中に記憶することができる。最大で300ページの書籍を20冊ほどだ。

 

 但し、記憶の持続に差がある。3日から、長くても20日だ。しかし、映像術式を込めた水晶や宝石といったものがあれば、10年も20年も保持することが可能だ。

 

「その術式、知っているよ? それと保管するものはいつも持ってるし」

 

 ヘラは首にかけていた飾りをつまんだ。十字架に磔にされた全裸の『よげんしゃ』の銀像だ。

 

「イプセンが言っていたよ。これは映像水晶の代わりになるって」

 

 この首飾りには、いくつもの神聖術式が仕込んであった。映像記録術式もそのうちの1つだ。

 

 『アクィナスの複写機』を用いれば、何ともなさそうな銀像に、おおよそ10冊分の情報を記録することが可能だった。

 

「しかし、ゴール族の血が薄くなっている貴方には、あまり役に立たないものかと思われますが」

「自分のルーツを知りたくなることって、あるよね?」

「それもそうですね」

 

 ヘラはその本を持って机に向かった。

 

 『アクィナスの複写機』の術式の最初の言葉を小声で唱えると、頭の上に淡い色合いの、赤色の輪っかが浮かび上がった。神聖術式を使うと出て来るものだ。

 

 ヘラはいくつかの神聖術式を習得していた。『枢機卿』の見立てでは、ゴール族の血が邪魔をして、大技を使うことはできないとされているが、『アクィナスの複写機』ぐらいは十分に使いこなすことができた。

 

 彼女は1ページをまじまじと見ると、次の1ページの文章を端まで追う。それを300回ほど繰り返すと本を閉じ、首にかけていた『よげんしゃ』の磔像を手に取り、その男根に口づけた。

 

「エイメン……」

 

 その言葉をつぶやくと同時に、頭の中に入っていた本のページの映像が彼女の身体の中の魔力体に複写され、銀の像に吸い込まれる。

 

 銀の像が少しだけ、赤く光った。複写物が入った魔力が収められた証拠だ。ヘラは指で違う術式の印を切り、銀の像を陰になっているところに向けた。光が照らされ、さっき見た本のページが映し出されていた。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 一番読みたかった箇所の冒頭には、こう書かれていた。

 

「ゴール族の女は人食い鬼としての性質を持ち合わせていない、とされている」

 

 しかし、の後にこのような続きが書かれていた。

 

「ごく一部だが、ゴールの力に目覚める者もいる。魔族との混血児だ。あるいは、強大な力を持つ魔族を祖に持つ者も。魔族の強力な力が、悪霊の子孫とされるゴール族の血と反応するのだろう」

 

 ご丁寧なことに聞き取り調査のデータも記載されていた。実際に人食い鬼化した女ゴール30人を集め、回答してもらったようだ。

 

「あなたの片親かご先祖様は、魔族のかたですか?」

 

 はい、が92パーセントでわからないが8パーセント。いいえに至っては0パーセントだ。

 

 魔族が親か先祖にいると、女ゴールも鬼化するという完全なデータであった。ちなみにこの本の著者もゴール族の者である。

 

「もう1つ考えられる要素として、亜人の血が混じると発現するのではないのか、ということも考えられるが、残念ながら精霊人種は、悪霊を祖とするゴール族と交わろうとしない。精霊人のハーフあるいはクォーターなら、子を為すこともあるそうだが、基本的には戒められている」

 

 悪い精霊の末裔とは、なかなかつながりたくないのが精霊人種だ。ただしオーガは若干違うようだ。この本ではオーガ族のことを『原人種』と称していた。

 

「オーガ族は精霊人の枠から除外する。彼等はこの星のもともとの『ニンゲン』にあたるとされる者達である」

 

という注釈が、巻末に載っていた。

 

 では悪い精霊とはなんなのだろうか。ヘラはそこが気になっていた。ゴール族は悪霊の末裔、とおぼろげには聞いていたが、詳しくは知らなかった。本にはこう書かれていた。

 

「ゴール族の祖たる『悪霊』とは、ニンゲンの悪意や絶望が、この世界の魔の素と結びついて生じた、新たな精霊と言い伝えられている。いわば、人工の精霊とも言えるだろう」

 

 その『悪霊』は、『現人種』たるオーガ族や、精霊人種だけがいた頃は存在しなかった。

 

 だが、ある時から地上に現れるようになった、全く別の『ニンゲン』が現れてから、『悪霊』と呼ばれる精霊が生まれ出たという。

 

 その存在は、三万年ほど前からだ。

 

 『ニンゲン』については、遠い昔に滅びたエチウのオーガ達が書き残した文献に記されていたと本には書かれている。

 

「『導きの龍』が異界に行き、滅ぼされんとされる人々をこの世界に連れて来た。そうして連れて来られた『ニンゲン』達の間からは、この世界は『約束された地』とか、『シャンバラ』、『ヴィンランド』または、『ニライカナイ』などと呼ばれていた。彼等が元居た世界は、この世界よりも遥かに過酷で、残酷だったようだ」

 

 緑と肥えた土に溢れ、魔法が使え、心優しい精霊の末裔たちがいる世界がここだ。オーガ達も親身になって、入植者(ニンゲン)達を助けたという。

 

 そこで入植者(ニンゲン)達は村と田畑を作り、町を造り、そして国家や階級を創った。恵み豊かな世界もまた、時折過酷さを見せたからだ。

 

 人口の増加は疫病を招いた。天候の不順やその土地の土や水にあわない農業は、不作を引き起こした。

 

 都市や国家の発展と、それにちなんで増大した貧富の差は、人々の闘争本能を引き起こし、果ての無い争いの原因となった。

 

 それから魔法力の個人差、というものがあった。入植者(ニンゲン)達の魔法力は一律ではなかった。まちまちだった。

 

 その差異が入植者(ニンゲン)達の社会に、新たなテクノクラートを産んだ。それが『魔道師』だ。

 

 『魔道師』は新たな魔法を作り出し、魔法科学技術を産んだ。これらを用いた彼等はしばしば、ニンゲン社会の支配者となった。例えばカントニアの古代ムサシノ帝国が、魔師たちによる国だった。

 

 そうした構造の変化や貧富の差は、貧しい者や才の無い者に恨みを抱かせた。下剋上への野心。あるいは、社会の破壊そのものを望む破滅願望に。

 

 そういった負の感情はいつしか、この世界に満ちる魔の力と結びつき、新たな精霊を生み出した。

 

「そうして生まれた『悪霊』達の中に、意志を持ち、人のかたちを得たものがあった」

 

 では何に?

 

 どんな形に変貌したのだ?

 

「その姿はとても美しく、豊かな乳と尻を持つ女となった。ハリティアと名乗り、人を襲い、喰らい続けた。食糧としたニンゲンの男と交わり、世界各地に500人以上もの、恐るべきゴールの戦士となる子を産んだという」

 

 ゴールの祖と呼ばれる存在は、男のかたちをしていなかったのだ。

 

 元始、『人食いの鬼』は『女』だった。

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