※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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17 屍術

 暴れだしたセイン王に神聖術式、『異端諮問者(いたんしもんしゃ)の縛り縄』を仕掛けて動けなくさせると、カヅノ=セイジは懐から短刀を取り出した。

 

「これから見せるのは神聖術式の秘技の中の秘技だ。俺の前世の世界では、使用を禁じられていたものでもある」

 

 『禁術』とも呼ばれていた。そう言いながらセイジは王の背中に短刀の刃を押し当てた。

 

「『エジプト』の神官がその原型を編み出して、『イスラエル』に伝わったらしい。ユダヤの民という連中にだ。そいつらの宗教は、俺の前世で言うと、『原教』と呼ばれていた。新約聖書を経典とする『旧教』はその後。俺が属していた『救世主教派』は、『旧教』の正当な後継者だと付け加えておこう。そしてこの秘技は、『旧教』で神聖術式を研究していた、宣教師集団が原理を完成したものだ」

 

 短刀の先がセイン王の肌をえぐる。悲鳴があがった。しかしセインは身動きが取れなかった。『異端諮問者(いたんしもんしゃ)の縛り縄』は、ありとあらゆる関節の動きを封じていたからだ。

 

「俺達も原理では知っていたが前世では到底扱えなかった。なにせヒトが持つ魔力というものがあまりにも乏しかったからな。俺の前世の世界はそうだったらしい。そう聞いた」

 

 肌はえぐられたのではなかった。セイジは文字を刻んでいたのだ。まるで見たことがない楔文字のようである。

 

「これはヘブライ語の文字だ。『魂よ。お前が在るのは首ではない。心の臓だ。』そう刻んでいるんだよ」

 

 それがこの術式の手始めである。この句を身体に刻み込んだ後、術式を注ぎ込むのだ。

 

「ふうん。やったことがあるの?」

「無いな。だが、この現世ではとある男に『実演』してもらったことがある。お前が大好きな教主様のお父上サマだよ」

 

 この世界最高の魔道士だった人物であり、魔界の大淫婦クラリスとの間に、半魔族でもある不世出の傑物・コーザを生み出した、コージュ=ストーンマウントだ。

 

 同時に、カツランダルク王家本流たちの祖でもある。コージュはサキュバスの血を引く女王らに誘われ、彼女たちに跡継ぎを宿させた。トーリとマイヤは、コージュの血も引いていた。

 

「あの男はやってのけた。死の間際だった老人を、心臓の鼓動が止まってもなお、5年も生きながらえさせてやった。生ける屍としてな。俺達枢機卿でも可能な術だ、とも教えてくれた」

 

 5年。ヘラは残念でならなかった。同じ祖を持つこの王を、自分に『食児(しょくじ)』を授けてくれる人物として、ずっと傍に置きたかったのだ。

 

「そんな顔をするな。最低5年も遊んでいれば飽きるだろう……よし、刻み終わった。後は術式を注ぎ込むだけだ」

 

 短刀が肌から離れた。セイジはボロ布で血と脂を拭い、鞘に納めた。

 

 セインはすでに暴れるのをやめていた。背中は痛むがどうしようもない。とうとう観念していた。

 

「ホーデンエーネン王。痛いだろう? その痛みがお前の魂に天啓を与えてくれるのだ。そしてお前は生き続ける。『聖エリシャの反魂文字』の秘術でな」

 

 カヅノ=セイジは首にかけていた、磔にされた『預言者』の銀の像を手に取り、その陰茎に口付けた。

 

「……エイメン」

 

 セインの背に描かれた文字が輝き出した。それから彼は腰にかけた剣を抜き、セインの頭を掴んだ。

 

「肉体の死は、真の死ではない。安心しろ、セイン=ホーデンエーネン! お前はまだ生き続けるのだ。首無しでな!」

 

 セインが叫ぼうとする。しかし声は出せなかった。カヅノの手は早業だった。セイン=ホーデンエーネンの首が胴体から離れ、両方の切断面から血が滴り始めた。

 

「……カヅノ枢機卿、うまくいったの?」

「傷口など治癒術式でなんとかなる」

 

 セイジは銀の像にもう一度口づけした。セインの胴体のほうの血が止まった。切断面にかさぶたが生まれた。

 

 それから陰茎が、ぴくり、ぴくりと動き出した。彼は王の首を掴んで立ち上がると、首無しのセインにかけた術式を解いてやった。

 

 セイン王の胴体はヘラにしがみつき、勃起してカウパー液をこぼすペニスを乳房におしつけ、擦り始めた。

 

「うふふ♥ 王様のハートはもう、あたしのものらしいわね♥」

「言い忘れていた。頭を切り離された身体は、本能が理性を勝るそうだ」

 

 ヘラが寝転がって脚を開いた。王の身体が勃起を彼女の膣に押し込んだ。ヘラは嬌声をあげる。

 

「あふっ♥ あふっ♥ 腰使いも変わってないよ♥」

「何年持つかはわからんが、そいつを自由に使っていい。お前の好きなようにしたらいい。魂こそまだ身体の中にあるが、意のままに操ることだってできる。お前がこいつに信頼されているならばな?」

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 カヅノはセイン王の首を桶に入れ、その中に塩を注ぎ込んだ。魔法を使えば塩漬けしなくとも首は腐らないが、これは在る種の儀礼的プロトコルだ。しきたりは一応、守らねばならない。

 

 彼が向かったのは、サイゴークにあるクボーニコフ海軍のアジトである。サイゴークとムーツの間にある海域のとある島がそれであった。

 

 タンゴバルドにダダをこね、ホーデンエーネンの港湾を襲撃する水軍を停泊させたのも、この基地にいる総督だった。

 

 大小あわせて8つの島があり、その中で一番大きな島に総督の館がある。総督は60絡みのクボーニコフ人で、塩っ辛いものばかり食べるのか顔が赤らんでいてむくんでいた。

 

「お前らムーツの水賊どもが欲しがったみやげを持ってきた。セイン王の首だ」

 

 カヅノは首桶を、テーブルの上に投げ置いた。こんなゴミなど興味もない、という様子である。クボーニコフの総督らは蓋を開けて確かめた。

 

「おいわたしや。確かにセイン王様の首級だべ。おいわたしや……おいわたしや……」

「フン。お前らが欲しがっていたものだろう? もっとも、欲しかったのはタカスヴィ=ヒヤマウスキ王だけか。あいつにはタンゴバルドの勝利を事前に伝えてやったが、首を見せればきっと大喜びだろう」

 

 ホーデンエーネンはタンゴバルドの敗戦と、国王の遭難を諸外国には公表していなかった。必死でひた隠しにしていた。

 

 しかしカヅノは、タンゴバルド海戦での大敗とモナファン海賊団をめぐる国内のごたごたを、クボーニコフ王に伝えていた。

 

 彼は狙っていた。クボーニコフが揺らぐホーデンエーネンに矛先を変え、血で血を洗う大抗争が起こるのをだ。

 

 そうなればホーデンエーネンは弱体化するだろう。クボーニコフは占領地を増やしても、海を隔てたところにある領地を運営するのに、たいへん手間取るはずだ。

 

(そうなれば、北ホーデンエーネンはパラッツォ教国がいただくというわけだ。でもそうなったら今度はパラッツォ教団が、ホーデンエーネンと仲違いをするハメに陥る。ふふふふふ。)

 

 コーザは頭を抱えることになる。あの男は1人で世界を制する力があるのに、つまらぬこだわりで用いようとしない。そのせいで世界は争いが終わらないだろう。

 

(フン。この世界の救世主として生まれたくせに、情けないな、コーザ=ストーンマウント!)

 

 カヅノ=セイジは野望があって陰謀を張り巡らせているわけではない。

 

 自分より大きな存在に対して、ただただ叛きたいから謀ってるだけである。今のところは。

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