聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
コショーショーはおもむろに近づいて来て、ヘラをじろじろと眺めた。
ヘラも見つめ返す。
同じぐらいの背丈で親近感を抱いたが、同時に嫌悪感もあった。
コショーショーの身体からは、可愛い顔と姿から想像できない、穢れた気配を漂わせていたからだ。
「イズヴァルトおとうさんとマイヤおかあさんのところに戻ろうとしたの?」
「だったら何?」
「やめたほうがいいわよ。とっくにバレているんだもん」
『人食い鬼』の血がとうとう発現して、常に身体中から生臭いにおいがまとわりついている、とコショーショーは言った。
「香水か何かでごまかそうとしても駄目だよ。ニンゲンは騙せるかもしれないけど、魔族や精霊人は嗅ぎ分けるからね」
「でも、あたしはちゃんと魔法の薬で……?」
「気配でわかるのよ。生臭くにおわなくたって漂う気や雰囲気で、もう普通の子じゃないのは丸わかりよ。残念だったね?」
コショーショーは、つい先日イズヴァルトとマイヤがこちらに立ち寄って、ヘラが変わったのが何故だかわかるかと自分に尋ねて来た、と彼女は言う。
「まさか……しゃべったの?」
ヘラは背中の『獄炎の凱歌』を抜いた。
おおこわ、と言ってコショーショーはくすくすと笑う。
「ヘラ。あなたって、本当に面白いね!」
「何が面白いの? あなたの言っていること、全然わからないんだけど?」
「とぼけちゃって。この世界の
ヘラは、『獄炎の凱歌』の力を引き出そうとするのを止めた。
前世でどのように生涯を終えたまでかは、まだ思い出せていなかったのだ。
「……アナタ、あたしの前世が見えるの?」
「うん!」
「見えたものを話してみて。別に暴れたりしないから」
「ふうん。わかったわ」
コショーショーは目を細めて語りだした。
□ □ □ □ □
ナヒーダという女の子がいた。
イラクという国のとある街の、裕福な家庭で生まれ育った娘だ。
しかし突如起きた戦争でアメリカという国の兵士に父と兄を殺され、彼女は親戚を頼って国を出た。
そこで彼女は、これから
歳が倍以上離れている男と、18回も結婚した。
幼い身体を預け、小さな股が裂かれる思いを繰り返し経験し、そして18人目の夫との初夜の行為で、盛んに乱暴された彼女は10歳にして二度と子供が産めない身体になった。
そして、アメリカという国との戦争が終わりかけていた頃、彼女は18人の夫とめあわせた人物に、こう命じられた。
「お前も聖戦に向かえ。父と兄、そして、18人の夫たちの命を奪った、悪魔の軍と戦うのだ」
つまりは自爆テロだ。
寡婦となり、二度と母親になれない身体となってびっこをひいて歩くようになった彼女は、故郷の街に連れて行かれた。
故郷はすでにアメリカが占拠していた。道の至る所でアメリカ軍の車が止まっていて、彼等はそこの近くに築いた駐屯地で滞在していた。
ナヒーダは自爆テロの作戦を練る人物の家に迎えられ、今後の作戦についてこう聞かされた。
「まずは、花売りを装ってアメリカ人に毎日話しかけろ。お前が若干の英語を使えるのは聞いているが、一切使うな」
ナヒーダは言われた通りにした。戦場で癒しを求めていたアメリカ兵らは、かわいい花売りが毎日来るのを楽しみにし、彼女に優しい声をかけて信じきるようになった。
1か月して、決行の日となった。
彼女は身体に遠隔操作の爆弾を小さな体に巻き付けられた。
ナヒーダはいつもの様に、アメリカ兵のもとに近づいた。
アメリカ兵も彼女が来るのを嬉しがって、自分達から彼女に近寄って来た。
そして彼女を中心となって輪が作られると、ナヒーダは己が信じる神に向けて、こうつぶやいた。
「神よ、栄光あれ」
小さな体に巻き付けられた爆弾が発火し、彼女共々その場にいた者達は全員が砕け散った。
□ □ □ □ □
これが、ヘラの前世の最期であった。
コショーショーが語り終えると、ヘラはうつむいて、涙をこぼしながら言った。
「で、そのイラクはアメリカに勝ったの?」
「詳しくは知らないけど、負けた、と聞いているわ。国としてもボロボロになったって」
「……あたしがしたことは、何だったんだろう?」
「その理由を探しに、アナタはこの世界で生まれ変わったんだと思うわ」
それを見つけるべきだ、とコショーショーは言う。
しかし本当は、自爆行為を「ただの徒労よ」と内心では馬鹿にしていた。優しい言葉をかけたのは、ヘラの心を己のものにする為にだ。
「これからワタシの話すことを覚えてて。アナタは違う世界に生まれ変わったけれど、でも、ある方法をみつけだせば、前世の世界に行くことはできるの」
その方法とは、魔界の者が使う『扉』を用いずに異界へ渡る方法だ。
神の造りし世界というものには一種の作り損じ、プログラムでいうバグというものがある。
例えば一瞬で大陸を渡る術や、あらゆる魔法を無効にする術式などだ。
この世界には創造主の他に、そうした『裏技』をよく存じている人物がかつていたらしい、とコショーショーは言った。
「そんなことを知っている人がいたの? 本当に?」
「ええ、本当の話よ。そしてその人物は、こんなこともできたらしいの」
世界のバグ技の1つ。それも他の世界にも関わることを知っていた。もちろんその中に、異界への転移、というのもあった。
それを全て知っていたとされる人物が、この世界にはただ一人いた。その人物の名は、遠い魔界でも知れ渡っていたからだ。
「この世界の歴史で最大の魔道士と言われた、コージュ=ストーンマウントがその人だと言われているの」
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ヘラは出て行った。コージュ=ストーンマウントが知っていた秘術について、調べる為にだ。
ヘラが立ち去るとコショーショーは、違う部屋にいたイナリーレンを呼んだ。狐の獣人の部下は、シマエナガ型の魔族の、フェルンとゼンゼを肩に乗せて現れた。
「動き出したわ、『おもちゃ』が」
「話を伺っておりましたが、なんて人が悪い。イズヴァルト様とマイヤ様は、こちらには来られませんでしたが?」
「ふふん。騙されるやつが悪いのよ」
呆れ顔のイナリーレンにコショーショーは、今すぐヨーシデンに行け、と命じた。
「何をしに行けばよろしいのですか?」
「ヘラの役に立つ本を探してくるのよ。マイヤの蔵書がある書物庫になら、あいつの前世の未来から来た奴が書いた本が何冊かあるはず。それを探して写本しなさい」
そういうことならフェルンとゼンゼが大いに役に立つはず。彼女達は魔界では、古文書の複写の仕事についていたからだ。
コショーショーが笑うと、フェルンがちゅぴ、と鳴いて口を開いた。
「わかりました。10日のうちに見つけて複製をお渡しいたしましょう」
「そういうことよ。じゃあイナリーレン、フェルン、ゼンゼ、さっさと向かいなさい。あと、ヨーシデンに入る時はニンゲンに化けるのよ。ヨーシデンに獣人とシマエナガが入って来たら、それこそ噂になっちゃうから。計画がおじゃんになってしまうわ」
イナリーレンたちは頭を下げると、すっと消えた。
コショーショーはテーブルにあった魔界のコーラのボトルとポテトチップスの袋を掴み、ソファーに寝そべる。
(ふふ。これから楽しいことになりそうね!)
悪事を巡らす彼女は、あくまで見物客だ。
この世界でこれから起こりうることを、遠く離れた外野席で楽ませてもらおうと思い、袋を開けた。